TOP > SaaS > 人事 > 採用強化 > 【事例あり】アルムナイ採用とは?需要が増えた理由や導入時の注意点を解説します
一度退職した社員を採用する「アルムナイ採用」が増えています。
社風や仕事を理解しているため、まったくの部外者を採用するより多くのメリットが期待できます。
反面、既存社員の不満や情報漏洩などデメリットにも注意が必要です。
本記事ではアルムナイ採用の概要や活用のコツ、導入事例などを紹介します。
このページの目次
アルムナイ採用とは、一度退職した社員を再雇用する採用手法で、近年導入する企業が増加しています。
「アルムナイ(alumni)」は、卒業生や同窓生を意味する言葉で、企業にとっては退職者や元社員のことを指します。
なぜアルムナイ採用が増えているのか、アルムナイ採用と似ているものや違いについて解説します。
アルムナイ採用を行う企業が増えているのは、主に以下の2つの理由によります。
帝国データバンクの調査(※)では、2024年に正社員が不足していると感じている企業が51.0%、非正社員不足については28.8%にのぼり、過去最高に迫る勢いです。
特にコロナ禍を機に人手不足感は年々増加しており、この傾向は今後も続くと予測されます。
出典:帝国データバンク/人手不足に対する企業の動向調査(2024年7月)
そこで人手不足を補う手段として、アルムナイ採用が注目されているのです。
アルムナイは自社の仕事や文化をよく理解しており、一から研修する必要がないため企業にとっては即戦力としての魅力があります。
※参考:正社員不足を感じている企業は51.0%、高止まり傾向続く~ 業種別トップは「情報サービス」、ITエンジニア不足が深刻 ~
アルムナイ採用サービスの比較記事をこちらを参考にしてください。
アルムナイ採用に似た言葉に、「カムバック採用」「ジョブリターン制度」「出戻り制度」「再雇用」などがあります。
この中で「カムバック採用」は、アルムナイ採用と同様の意味合いを持ちますが、それ以外についてはアルムナイ採用とは意味が異なるので、違いについて解説していきましょう。
「ジョブリターン制度(復職制度)」「出戻り制度」とは、結婚や出産、病気や介護などやむを得ない事情で退職した社員の職場復帰を可能にする制度です。
自主的に退職をした背景を持つアルムナイ採用と違い、辞めたいわけではないが退職を選ばざるを得なかった場合がこちらに該当します。
ジョブリターン制度や出戻り制度を利用する場合、退職事由となった育児や介護などの状況が解消されていることが前提となります。
再雇用は定年退職した社員を再び雇用する制度です。
少子化により人手不足が進む中で、自社の仕事に精通しているベテラン社員を嘱託という形で雇用します。
報酬面に関しては、責任の程度に見合った範囲で現役の時より給与を減額して雇えるため、企業にとってはメリットがあります。
また再雇用される従業員にとっても、定年後にも一定の収入が得られるというメリットがあります。
アルムナイ採用のメリットは、以下の5点です。
アルムナイ採用は元社員が対象のため、仕事のノウハウや文化をよく理解しているというメリットがあります。
臨機応変の対応時などには、企業に根付くやり方で機転を効かせなければならないことや、その企業や業界ならではのルールやノウハウが必要となってくる場合もあるでしょう。
元々働いていた社員であれば、過去の経験により対応の方法がわかっているため、仕事がスムーズに遂行でき、また、採用後のミスマッチも起こりにくくなります。
社風や就業規則、社内事情に通じているとチームや部署に溶け込みやすく、調和のとれたパフォーマンスも期待できます。
アルムナイ採用では、再度入社した社員を一から人材育成するリソースやコストが省けます。
もちろんブランクが長ければ、ある程度の研修やスキルのアップデートは必要かもしれません。
しかし、全く関係がなかった外部の人材をゼロから教育するよりは、育成にかかる時間も工数も抑えられます。
また、退職した人材が対象であるため、求人広告費が抑えられ採用コストも削減可能となります。
アルムナイは、即戦力としても大いに期待できます。
アルムナイ人材には、一度入社しているという実績があるため、ポジティブな退職理由であればミスマッチなどの懸念がありません。
また、配置ミスなどの人材活用における問題なども起こりにくいでしょう。
そして、すでに社の内外において人間関係が構築できているため、既存社員にとっても新しい人間関係を一から築く必要がなくなり、業務の立ち上がりがスピーディーに行えます。
アルムナイを採用すると、自社とは異なる業界や企業で得た知見やスキルを自社で発揮してもらえる可能性があります。
一度退職し別の企業や起業した経験により、アルムナイ人材が得た新たな価値観やプロジェクトの進め方などは、これまで自社にはなかったスキル、ノウハウのモデルとして既存社員にも良い影響を与え、組織の活性化が期待できます。
アルムナイ人材は即戦力となり得るだけではなく、知見やノウハウ面において組織にとっても有益な影響が多く、変化する市場への対応力向上も期待できます。
アルムナイ採用を実施すると企業のイメージアップに貢献できます。
アルムナイ採用の活用が高まってきているとはいえ、一度自己都合で辞めた会社に復帰する例は頻繁にあるとはいえません。
一度辞めた組織に戻るには心理的なハードルも高く、再雇用する側・される側にとっても既存社員の理解や、退職事由の解決など乗り越えるべき問題も多くあるからです。
そういった問題を解決をした上で、アルムナイ採用が行われているという実績は、自社に元社員が働きたいと思えるほどの魅力があり、受け皿として環境が整っていることの証拠になります。
アルムナイ採用のデメリットは、以下の4点です。
デメリットも正しく理解して、アルムナイ採用導入の判断材料にしてみてください。
アルムナイで採用された元社員は、退職した気まずさや疎外感を抱く場合があります。
一度組織から離れているので、「かつての同僚からどう思われるだろう」「良好な人間関係を築けるだろうか」とさまざまな不安を感じるのも仕方ないでしょう。
こうした入社後の不安を解消するために、担当者をもうけてフォローしたり、既存社員との交流会を行ったりする必要があり、そのための時間やコスト、人的リソースをさく必要があります。
また、アルムナイ採用のターゲット確保のためにネットワークを構築したり、SNSで情報発信したりといったアルムナイ採用ならではの社内環境も整えなければなりません。
既存社員の中には、自己都合で辞めたにもかかわらず戻ってきたアルムナイに対して不満をもつケースもあります。
アルムナイ採用を実施したばかりに、不協和音が広がり職場の空気が悪くなると業務効率が落ち、業績悪化や社内環境に緊張が生じるリスクがあります。
こういった事態を避けるためには、アルムナイ採用の実施前に既存社員へしっかりと説明をし、理解を得るための対策が必要です。
アルムナイ採用が定着すると、「退職しても戻って来れる」と安易に捉えられると、既存社員の退職へのハードルが下がり、定着率が下がってしまう危険性があります。
離職率が上がってしまうと、企業イメージが下がるだけではなく、業務効率も落ち業績に影響が出かねません。
あくまでもアルムナイ採用は簡単に利用できる制度ではないことを既存社員へ周知し、対象となるには一定条件をクリアしないと対象とならないルールを設定しておくなどの対策が必要となります。
アルムナイ人材は、元社員といえども再雇用するまでは外部の人間です。
かつて一緒に働いていた感覚で自社の情報などを伝えてしまうと、情報漏洩につながるリスクがあります。
アルムナイ人材と交流を持つ際、入社するまでは「外部の人間」であることをしっかりと自覚してコミュニケーションを図るようにしてください。
アルムナイ採用を成功させるには、以下の5つのポイントが重要です。
アルムナイ採用では、ポジティブな理由やシチュエーションで退職した人物が対象になります。
起業やヘッドハンティング、キャリアアップ転職などがそれに該当します。
待遇や上司への不満、人間関係のトラブルといったネガティブな理由で辞めた社員は、再度入社したとしても、退職理由が根本的に解決できなければ再度離職してしまうリスクが高い可能性があります。
退職時に良好な人間関係や環境を保つことは、アルムナイ採用を実施する際に大変重要なポイントとなります。
既存社員にもアルムナイ採用に対する理解を促す必要があります。
人手不足や人材不足を補う手段として有効な手段であるという考えを共有するように努めます。
その上で以下の点に配慮すると、アルムナイ人材と既存社員との人間関係がより良いものになるでしょう。
既存社員の理解はすぐに得られるものではありませんが、根気強く丁寧に説明することが大切です。
アルムナイ採用を制度化するには、その対象となる退職者とのネットワークが欠かせません。
企業の中には、「チーフアルムナイオフィサー(CAO)」といって退職者とのネットワーク構築や情報交換を専門に行う役員をおいている例もあります。
アルムナイを「辞めてしまった人」ではなく、潜在的な自社のリソースと捉える発想です。
従来の考えでは「退職した人は関係がなくなる」というのが一般的で、退職者とのネットワークは退職と同時に立ち消えになるのが常識でした。
しかしアルムナイ採用で成果を出すには、「ポジティブに送り出し、対話を続ける」ことが非常に大切になります。
アルムナイ採用では、再雇用に際しての基準を以下のように明確に規定しておくことが重要です。
例のような基準を設け社内へ周知することを徹底し、既存社員へ「退職者なら誰でも再雇用するものではない」ことを理解してもらうことも大切です。
これは、安易な離職を防ぐことにもつながります。
待遇面も、既存社員との間で公平性を保つ必要があります。
アルムナイ人材の待遇によっては、既存社員の中で「勤続して社のために貢献してきたのに、一度辞めた人と同じ扱いをされるのはおかしい」という心理が生まれてしまう可能性もあるでしょう。
また、既存社員側の離職率が上がってしまう可能性も否定できないので、待遇面に関しては慎重に検討する必要があります。
一方給与以外の待遇面では、アルムナイ採用をより効果的に実施するために、リモートワークやフレックス制などキャリアプランやライフステージに合わせて柔軟な働き方を選択できるようにしておくことも重要です。
では実際に、アルムナイ採用の導入した事例を3つご紹介します。
東京都では、元東京都の職員を対象にアルムナイ採用を行っています。
過去に都で任用されていた職種と職級以下で、かつ1年以上在職していた経歴が必要となります。
人手不足が深刻な中、公務員においても優秀な人材を効率よく採用する手段として導入されており、事務職から専門職まで幅広く募集しています。
東京都の他に、経済産業省においてもアルムナイ採用を行い、復帰した職員に民間で得た知見を官の立場で積極活用しており、国や自治体の公的機関にもアルムナイ採用は広がりを見せています。
トヨタ自動車でも自己都合で退職した元社員を対象にアルムナイ採用を実施しています。
キャリアアップのために転職や通学をしたり、その他やむを得ない事情で退職したりした人に、社外での経験や学びを活かす機会を提供することを呼びかけています。
具体策として「アルムナイネットワーク」というアルムナイ同士や現役社員との交流を目的としたサイトを開設。
接点を広げてアルムナイ採用に繋げるために、アルムナイと現役社員が直接会っての懇談会も開催されています。
参考:TOYOTA アルムナイ採用
参考:トヨタ自動車が取り組む「アルムナイネットワーク」退職者との関係構築で人材の多様性を創出する
進学塾の「臨海セミナー」を運営する株式会社 臨海は、アルムナイ採用の導入にあたり「Rinkaiアルムナイ」を発足させています。
臨海の元職員と現職員だけが登録して利用できるコミュニティサービスで、このサービスを利用し継続的なコミュニケーションが取れる環境を整備しています。
また、臨海ではアルムナイ採用を前面に出すよりも、元職員を大切にし感謝で送り出す姿勢を発信しており、その結果が副次的にアルムナイ採用へとつながっています。
目先の成果にとらわれずアルムナイの立場を深く理解した採用モデルといえるでしょう。
参考:アルムナビ/臨海セミナーが退職者ネットワークを発足「“共育”できる、新たな居場所を作りたい」
転職市場が広がり、少子化で人手不足も進む中、今後もアルムナイ採用は増加していくと考えられます。
アルムナイ人材は、企業文化や仕事への理解があるため、即戦力としての活躍が期待でき、企業にとっては貴重な存在といえます。
アルムナイ採用を成功させるには、ポジティブな退職を増やしたり、アルムナイとのネットワークを構築したり、導入する環境から整備する必要があり、一朝一夕に活用できないのも事実です。
将来を見据えて、今からでもアルムナイ採用について検討してみてはいかがでしょうか。
画像出典元:Pixabay
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