人事管理は、企業にとって最大の経営資源である「人材」を適切に活かし、企業全体の組織力を高める上で欠かせません。
特に近年は、慢性的な人手不足や人材の流動化が顕著なため、適切な人事管理を行わなければ、従業員のモチベーション低下や離職につながるおそれがあります。
本記事では、人事管理の概要や目的、具体的な業務内容、さらに人事管理を効率的に進めるために有効なツールについて解説します。
このページの目次
人事管理とは、企業の組織力や競争力を高めることを目的に、従業員を効果的かつ戦略的に管理する取り組みです。
採用・育成・評価・配置といった要素が中心となり、従業員の能力やパフォーマンスの最大化が課題となります。
近年では、人手不足や人材の流動化、働き方の多様化などを背景に、人事管理の重要性が一層高まっている状況です。
給与や休暇などの労働条件や福利厚生は、職場を選択する上で重要な要素となります。
また、公平かつ納得感の強い評価制度や能力に見合った配置は、モチベーションアップにもつながるでしょう。
将来を見据えた育成環境の整備は、スキルアップやキャリア形成を後押しし、従業員の定着にも寄与します。
人事管理は、採用段階から入社後の活躍・定着までを支える仕組みとして、企業が積極的に整備すべき重要な要素といえます。
人事管理に似た言葉に「労務管理」や「人材管理」「タレントマネジメント」があります。
いずれも人事管理とは関連性が高いのですが、厳密には目的やニュアンスが異なります。
そこで、これらとの違いについて詳しく解説します。
労務管理は、給与計算や社会保険の手続き、勤怠管理や福利厚生、安全衛生管理など、労働法規や就業規則、コンプライアンスに準じて従業員が快適に労働できる環境の整備や労働条件の維持・改善を目的とします。
一方、人事管理は、採用・育成・評価・昇格といったパーソナルな側面から戦略的に管理するのが主目的になります。
つまり、労務管理は制度・環境面からの組織単位で管理する特徴があるのに対し、人事管理は、従業員一人ひとりの教育・マネジメント・モチベーションといった個人に焦点をあてた業務といえます。
人材管理とタレントマネジメントはほぼ同義で、自社の競争力を高めるために従業員の能力を積極的に開発・管理し、適材を適所に配置することに特化する業務です。
いわば「個の力をどう活かすか」に特化したアプローチであり、ターゲットとなる層や活用方法は企業ごとに異なります。
人事管理にも従業員の能力開発や適切な配置といった側面があるものの、組織としての規範や労働法に基づいた管理、従業員の権利保護といった意味合いが強くなります。
続いて人事管理の目的と役割、重要性について解説します。
人事管理の目的は、従業員一人ひとりの能力やパフォーマンスの最大化と組織力の強化です。
そのためには、自社にマッチした人材を採用し、戦力として育成したうえで、成果に応じた適切な評価を行い、やり甲斐のあるポジションを提供することが求められます。
これらを通じて従業員のモチベーションと定着を促し、組織の持続的成長を支えるのが人事管理の狙いです。
人事管理は、個々の従業員のスキルを高め、その力を最大限発揮できる環境や役割を整えることで、企業の成長と収益性を向上させる役割を担います。
こうした仕組みが機能すれば、優秀な人材が集まり、定着しやすくなる好循環が生まれます。
一方で、人事管理が不十分だと、従業員のモチベーションが下がるだけでなく、適正人材の採用が困難になったり、会社への不満や退職者が増加したりする恐れがあります。
このような事態を回避するには、人事管理システムの導入などによって、精度の高い管理体制を構築することが重要です。
人事管理の主な業務内容は、以下の6つが挙げられます。
新卒や中途入社など新たな人材を獲得するための一連の業務を指します。
具体的には「採用計画の策定→募集→選考→内定・入社までのフォロー」といったフローで進めていきます。各フローの詳細は以下の通りです。
フロー | 内容 |
採用計画の策定 | 採用時期・人数・条件・予算を定め、募集方法や面接プロセス、内定基準を明確にする |
募集 | 予算内で、求人媒体・人材マッチングサービス・自社採用サイト・DM・SNS・会社説明会・インターン・ヘッドハンティングなどによる募集活動を行う |
選考 | 応募者を対象に筆記試験・面接・試験採用などを行い、採用基準にしたがって選考する |
内定と入社までのフォロー | 内定者への通知と、入社までのイベントや研修を適宜開催し、途中辞退を出さないようにする |
従業員を企業の成長を支える戦力へと育てることも、人事管理における重要な役割の一つです。
新人・中堅・管理職など、ポジションやスキル、習熟度に応じて以下のような育成プログラムを実施します。
育成プログラムは、時代の変化や業界ニーズ、自社の中長期的な目標などを考慮した、実効性のある内容が求められます。
内容に魅力がなければ、従業員のモチベーションは上がらず、成果にもつながりません。
そのため講師となる優秀な人材の育成や確保も重要です。
とくにグローバル人材や幹部候補など、次世代を担う人材を育成するには、計画的かつ多面的なプログラムの提供が求められます。
適切な人事評価によって、従業員の能力やパフォーマンスを公平かつ正当的に評価するシステムの構築も欠かせません。
例えば、下記のような評価方法を取り入れて、基準をクリアした従業員には、それに見合ったポジションへの昇格や昇給など適切な処遇を与えることも大切です。
目標管理制度(MBO=Management By Objectives) | 社員の仕事の方向性を定め、目標を具体的に設定し、その達成度合いや会社への貢献度を評価する |
360度評価 | 上司だけでなく、同僚や部下、他部署の社員、取引先の担当者など複数の関係者の評価をもとに多面的に評価する |
バリュー評価 | 社員が企業の求めるバリュー(行動規範)に沿った仕事ができているかという基準で評価する |
コンピテンシー評価 | 社内で高い成果を上げている社員の行動特性(コンピテンシー)を評価基準としてモデル化する |
従業員の適性や実績、スキル、希望を総合的に考慮し、最適なポジションに配置することも人事管理の重要タスクです。
従業員や部署の数が多ければ、それに応じて配置パターンも増加します。
配置方法も、異動、昇格・降格、採用、解雇など、さまざまな種類があります。
時期やタイミングをよく考慮して、組織力を最大化できる配置の全体最適を追求することが強く求められます。
人事計画では、自社の目標や予定しているプロジェクトに応じて、必要な人員配置を検討・立案します。
現場や経営層のニーズを把握し、目標実現のために各部署に必要な人材要件と人員数を割り出したうえで、過不足があれば調整策を講じます。
人事計画が後手に回ると、組織全体のパフォーマンス低下を招きかねません。
近年では、AIの導入やDX推進、若手人材の不足や高齢による退職者の増加などにより、職場環境の変化や不確実性が高まっています。
こうした状況に対応するには、正確な人材需給予測に基づいた採用計画や適切な配置転換が不可欠です。
中長期的な視点での人事戦略が、組織としての持続的な成長を支えます。
モチベーション管理は、従業員のやる気や向上心を維持・促進させるための取り組みです。
具体的には、昇格や昇進、希望部署への異動、キャリア支援といった外発的手法と、定期的なミーティング、1対1面談、良い点を褒めるシステムなどにより仕事への意欲を増加させる内発的手法があります。
同じ手法が全員に当てはまるわけではないため、全社で横断的に取り組むのか、部署や従業員ごとに個別で働きかけるのかを、よく見極める必要があります。
人事管理を効率的に実施するために有効なツールを紹介します。
自社に合った方法と手順で実行すると明確な成果が期待できます。
Excelを使えば、初歩的な人事管理業務を手軽に行うことが可能です。
具体的には、以下のような項目で活用されています。
採用管理 | 説明会、面接の日程や進捗、採否の連絡状況などをリスト化して管理 |
勤怠管理 | 出退勤時刻・残業時間・年休の取得状況などを入力の上、トータルの時間や日数の自動計算も可能 |
給与明細の作成 | 給与データを入力することにより、所得税や社会保険料を自動計算できる |
評価管理 | 従業員ごとの目標・実績・評価をリスト化し、進捗状況や課題を可視化 |
スキルセットや希望するキャリアパス・研修履歴 | 取得済み資格や目標スキル、受講済みの研修や今後の希望などを管理 |
Excelならすでに導入済みの企業も多いので、人事管理にも抵抗なく活用できるでしょう。
人事管理システムは、従業員情報をはじめとした人事関連データを一元的に管理できるツールです。
Excelに比べて情報の蓄積や連携、分析といった面で高機能であり、より戦略的な人事管理が可能になります。
的確な人事管理を行うと、従業員を効率かつ適切に育成できるため、組織力や競争力が確実に強化されます。
さらに、魅力的な評価システムや労働環境を整備すれば、優秀人材の獲得や離職率低下にも効果があるでしょう。
人事管理を効率的に行うには、Excelや人事管理システムの活用が効果的です。
自社の状況に最適な方法を選択し、人事管理を充実させましょう。
画像出典元:photoAC、pixabay