世界人口の約半分、35億人以上が観戦するといわれるサッカーワールドカップ。
多くの人の目にとまる大会であるがゆえ、そのスポンサー企業にも注目が集まります。
この記事では、2022年カタールW杯の気になるスポンサー事情を徹底解説。
VISAやコカ・コーラなどの世界企業だけでなく中国企業が存在感を増す背景や、日本企業がついに0社になった理由も調査しました。
また、巨額のスポンサー料事情や、スポンサーと勝利国にまつわる都市伝説もご紹介していきますので、ぜひご覧ください。
このページの目次
FIFA(国際サッカー連盟)の主催で4年に1回開催されるサッカーワールドカップ。
その運営には巨額の費用が必要となり、またその広告効果も絶大なため、毎大会、多くのスポンサー企業がつきます。
スポンサー料は一体どのくらいなのでしょうか?
と、過去大会の総額はいずれも1,800億円規模でした。
1社ごとのスポンサー料は、後述するスポンサーの種類にもよりますが、年間5億円~50億円程です。
また、スポンサーは通常複数年契約となるため、その3倍、4倍の金額が準備できないと、ワールドカップスポンサーにはなれません。
前大会のFIFAの総収入の概略をグラフで見てみると、次のとおりです。
スポンサー料は、全体の収入の31.2%を占める第二の収益の柱です。
入場料やFIFAの負担金などはほんのわずかであり、スポンサー料と放映権収入によって大会が支えられていることがわかります。
全ての試合やイベントで広告を出す権利のある「FIFAパートナー」という最上位のスポンサーは、1業種1社しか契約できない点も大きな特徴です。
例えば、adidasが契約している間は、NIKEは契約できないので、競合他社に対して圧倒的な存在感を見せつけることができます。
そのため、スポンサー料がさらに高額となり、その座には熾烈な争いがあるのです。
ワールドカップのスポンサーは、その契約形態により3つの種類があります。
それぞれ契約金額と、スポンサーになったらできることが異なり、名前を連ねる企業も変わってくるので、それぞれの特徴をみてみましょう。
「FIFAパートナー」は、スポンサーの中でも最上位のランクにあたるスポンサーです。
ワールドカップだけでなく、FIFAが主催する全ての試合で広告を出すことができ、FIFAロゴの使用権が8年間(二大会分)もらえるほか、周辺ビジネスの権利も与えられます。
6枠~7枠のみ、また、1業種1社しか契約できない、狭き厳選されたパートナーです。
それでは、2022年W杯のFIFAパートナー企業をみてみましょう。
画像出典元:アディダス公式HP
アディダスは、サッカー強豪国ドイツのスポーツメーカーで、1970年からFIFAに協賛している歴史の長いスポンサーです。
FIFAパートナーとしての直近の契約は2014年~2030年まで結ばれています。
スポーツメーカーの特権を活かして、周辺ビジネスでも広く協賛を進めており、試合公式球やW杯関連グッズの販売なども手掛けています。
コカ・コーラも、アディダス同様、1974年から協賛を続けるアメリカの長期スポンサーです。
その影響力は大きく、大会期間中、選手たちがピッチ周辺で他社製品を飲むのはご法度とのこと。
ロシア杯の際には、クロアチア代表が同社製品「パワーエイド」ではなく、「レッドブル」を飲んだことで制裁金の支払いを命じられたこともあるそうです。
大連万達グループ(ワンダ・グループ)は、通称、万達集団と呼ばれる、中国の巨大複合企業です。
同族経営で、その創業者である王健林はブルームバーグので2016年富豪ランキングでアジア一位にもなりました。
商業、文化、IT、金融の四大企業を傘下に持ち、その他、不動産、映画、スポーツにも事業を展開しており、その財力を元に、すでに2030年までの長期スポンサー契約を締結しています。
画像出典元:Hyundai Motor Group公式HP
現代自動車グループは、韓国の財閥系自動車メーカーで、2014年から2022年のカタール大会までスポンサー契約を結んでいます。
そのグループ規模は大きく、それぞれ韓国国内第一位、二位の現代自動車(Hyundai Motor Company)、起亜自動車(Kia Corporation)や自動車部品、物流、IT、など多数の事業を展開。
また、スポーツマーケティングにも盛んで、Kリーグ、韓国野球、バスケットボールなどのチームも後援しています。
カタール航空(Qatar Airways)はカタールの国営航空会社です。
2022年のカタール杯の開催にあわせてスポンサー契約を結んだ企業の1社です。
実は国際的に人気のある航空会社で、イギリスの格付け会社の「世界で最も素晴らしい航空会社」では2021年に6度めの1位を獲得しています。
カタールエナジー(QatarEnergy)は、世界3位の規模を誇るカタールの国営石油会社です。
カタール航空と同様、こちらも今回のカタール杯に向けてスポンサーとなった企業ですが、どちらも国営企業であることが特徴的です。
日本のコスモエネルギーグループとも協力関係にあり、1997年からカタール沖での石油鉱区の利権の譲渡を受けています。
Visaは、アメリカに本社のある、グローバルな決済ブランド運営企業です。
FIFAスポンサーになったのは2007年からで、現在、2022年までの契約が公表されています。
ブランドロゴを試合で掲出するだけでなく、関係金融機関では、FIFAワールドカップカタール2022 公式記念コインの販売なども行っています。
「ワールドカップスポンサー」は、FIFAパートナーに次ぐランクの契約スポンサーです。
ワールドカップに直接かかわる権利がもらえるほか、FIFAロゴの使用権は4年間許可されます。
スポンサー枠は最大8枠ありますが、大会によって契約される企業数は異なります。
それでは、2022年W杯のワールドカップスポンサーにおける注目企業を見てみましょう。
クリプト・ドットコム(Crypto.com)は、仮想通貨の取引所や決済サービスなどを運営するシンガポールの企業です。
元々スポーツ領域との提携に積極的で、F1やセリエA、プロバスケやアイスホッケーチームのスポンサーも務めています。
今後、スタジアムの内外で同社の認知度を高める施策を実施するだけでなく、ユーザーへの観戦チャンスの提供も視野に入れているようです。
Vivo(ヴィーヴォ、ビボ)は、中国の新興スマートフォンメーカーです。
2021年の中国国内スマホ出荷数においてシェア22%でトップを獲得し、世界スマホ市場でも5位の位置につけています。
公式スポンサーとしての契約だけでなく、公式スマートフォンの権利も獲得しているので、FIFA 関係者が大会中に使用するスマホを独占契約することができます。
画像出典元:蒙牛乳業HP
蒙牛乳業(China Mengniu Dairy Company)は、中国第一位の乳製品を製造する国有企業です。
乳製品メーカーがFIFAと契約することを意外と感じる方もいるかもしれませんが、実は前回ロシア大会からスポンサーとなっています。
その際の協業が成功したため、同社を国際的な乳業リーダーに更に発展させるべく契約を更新したと発表されています。
「リージョナルサポーター」は、第三のランクにあたるスポンサー契約です。
ヨーロッパ・北米・南米・中東・アジアの5つの地域において、それぞれ1~4社ほどが契約します。
その地域におけるチケットの配分優先権がもらえたり、広告権が与えられることが主な特徴です。
それでは、2022年W杯のリージョナルサポーターの注目企業を見てみましょう。
画像出典元:algorand.com 公式HP
アルゴランド(Algorand)は、米国MIT発のブロックチェーン開発企業です。
ブロックチェーンとは、データの改ざんがされにくいとされるデータ処理技術の一種です。
元々は仮想通貨ビットコイン用の技術として開発されましたが、他分野への応用も期待される技術で、現在、2,000以上のグローバル企業や政府などに採用されています。
同社はこの提携により、FIFA公式のウォレットソリューションを提供する予定とのことです。
ヌーバンク(Nubank)は、ブラジル発のデジタルバンク運営企業です。
南米発の企業でありながら、2021年12月にニューヨーク証券取引所でIPOを果たし大注目を浴びました。
その後もデジタルバンクの中で、世界1、2位の時価総額を誇っています。
また、世界の投資王バフェット氏が同社へ巨額投資を行っていることでも話題になっているようです。
2014年、2018年、2022年のスポンサー企業がどのように変化したかを見てみましょう。
2014年には最上位のスポンサーにいた日本のSONYは消え、年々中国企業の数が増大しています。
また、2018年には、後述するFIFAの不祥事問題への不信感から、ジョンソン・エンド・ジョンソンやカストロールなどの大企業がスポンサーから相次いで撤退した点も大きな変化といえるでしょう。
なぜ、中国企業がワールドカップのスポンサーで存在感を増しているのでしょうか。
また、日本のスポーツへのスポンサー投資は、現在どのような状況になっているのかを、さらに詳しく解説していきます。
FIFAへの不信感からの米・欧州企業の撤退と、中国の経済的な成長により、スポンサーの顔ぶれは大きく変化しました。
2022年現在、なんと、FIFAパートナーとワールドカップパートナー全14社のうち、中国企業と、韓国、インド、シンガポールのアジア企業で7社を占めています。
ワールドカップは、中国企業なくして開催できない大会となっているのが実情なのです。
実は、中国の習近平国家主席は、大のサッカーファンであることが知られています。
そのため、サッカー振興にも莫大な投資を行っており、W杯への出場とW杯の開催国となるなどの目標を2050年までに達成すると宣言しているそうです。
W杯への出場は、まだ2002年の1度のみの中国ですが、国家的なバックアップにより、今後力をつけてくるのかもしれません。
また、折しも、次回のW杯の開催は、初の3ヵ国開催(アメリカ・カナダ・メキシコ)となるなど、チャンスの幅が広がっているので、中国やアジア新興国での開催実現もそう遠くないのかもしれません。
最後のFIFAパートナーであったSONYが撤退し、ついに0社となってしまった日本のW杯スポンサーですが、かつては次のような企業も参加していました。
特に、2002年は日韓ワールドカップの年なので、参加企業が5社と多かったことも特徴的です。
しかしながら、2002年を堺に国内のW杯熱が下がってきたことも受け、企業数も年々減少しました。
なお、SONYは、2007年から2014年ブラジル大会までの長きに渡り契約をしていましたが、当時SONY本体の経営状況が思わしくなく、止む無く撤退に至ったともいわれています。
日本のスポーツスポンサー投資は下火になってしまった、と大きく悲観する必要はありません。
まず、日本の大企業は、この2021~2022年は、東京オリンピックのスポンサーとしての投資に集中していたという理由もあります。
また、日本人におけるサッカー以外の国際スポーツ大会の認知度が上がってきたため、投資先がワールドカップだけでなくてもよいという事情もあります。
例えばアサヒビールは、2023年のラグビーW杯フランス大会の最上位スポンサー契約をしたと発表しており、各社、日本企業が目立ちやすい領域を模索しているところなのかもしれません。
かつては、グローバル企業から潤沢な資金が自然と集まっていたワールドカップのスポンサーですが、その顔触れも変わり、内部・外部事情は年々変化しているようです。
この章では、W杯のスポンサー気になる事情・裏話などをご紹介していきます。
同じく4年に1度開催のオリンピックとワールドカップのスポンサーはどちらが安いのでしょうか。
もちろん、契約のレベルにもよりますが、実は、オリンピックスポンサーは年間15~25億円程度といわれており、ワールドカップのスポンサーの5~50億のレンジよりも若干安いのです。
しかしながら、オリンピックのスポンサー数は主要10社+ゴールドパートナー、オフィシャルパートナーなど、契約の種類が多いため、1社あたりの認知度はその分下がってしまいます。
それに対し、ワールドカップのスポンサー数は、FIFAパートナーであれば6社~7社と極めて少ないため、費用対効果の面でそちらを選ぶ企業もいるようです。
2022年カタールW杯の出場チームは当初32カ国の予定でしたが、2019年3月の理事会で48カ国に拡大可能だと認める動きがありました。
最終的には、32ヵ国に落ち着いたのですが、この前倒し戦略は、スポンサー収入を増やすためであったといわれています。
FIFAとしては、中国やアジア地域のスポンサー数は増えているものの、まだそれらの国が安定してW杯へ出場するサッカーレベルを保持できていないことが懸念事項なのです。
そのため、出場国数を拡大したり、次回2026年の開催を3都市同時開催にするなど、これまで縁のなかった国へもチャンスを増やそうと画策しているようです。
FIFAは収支報告書を外部に公開していますが、その中には、説明できない買収資金や賄賂にあたるものが含まれているとかねてより問題視されてきました。
また、金銭の流れにおけるマネーロンダリング疑惑を指摘する声もあったようです。
そしてついに、開催地投票における票の買収疑惑、テレビ放映権をめぐる贈収賄疑惑で逮捕者が出てしまったことで、FIFAに対する疑惑の目が一層強くなりました。
この事件の発覚により、FIFAのコンプライアンス委員会はガバナンス改革を行うと発表していますが、これらの汚職は一個人の行為ではなく、過去から積み重なった風習であるとの声もあり、体質改善には時間を要しそうです。
W杯には、「(FIFAパートナーである)アディダスと契約するチームが有利になる」という噂・都市伝説があるのをご存知でしょうか。
たしかに過去の優勝国をみると、ナイキ契約チームは2002年日韓W杯のブラジル以降、決勝に進むことがなかなかできていませんでした。
一方、アディダス契約チームは、2006年ドイツ杯の準優勝フランス、2010年南アフリカ杯の優勝スペイン、2014年のブラジル杯優勝ドイツ、準優勝アルゼンチンなど決勝に駒を進めるチームが多い印象があります。
また、アディダス契約チームは、1次リーグで別々の組に分散しやすいとも言われており、それは、リーグを満遍なく勝ち上がり、ロゴ掲出の機会を増やすためなのではないかとも噂されています。
なお、前回2018年の優勝国は、当時ナイキと契約していたフランスとなり、優勝国に関するジンクスは崩れてきたようですが、果たして2022年はどうなるのか行方が注目されます。
この記事では、ワールドカップのスポンサーに関する費用、資金の事情やその歴史などについて解説しました。
よく見る大企業だけでなく、新興国の企業が存在感を増していることに驚いた方も多いのではないでしょうか。
2022年大会は、試合だけでなく、スポンサー企業名などに注目してみるのも面白いかもしれません。
画像出典元:Unsplash、Pixabay
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