過渡期にあると言える今のスタートアップ業界。とはいえ、リスクマネーを回避する風土のある日本はアメリカや中国と比べてベンチャー投資額はまだまだ圧倒的に少ない。
国内初の株式投資型クラウドファンディング「FUNDINNO」をはじめ多様化する資金調達方法の中でスタートアップ業界はどのように今後変化していくのか。
このセッションでは、「FUNDINNO」を運営する日本クラウドキャピタルCEOの柴原 祐喜氏、琉球アスティーダ代表の早川 周作氏、シニフィアン共同代表の朝倉 祐介氏にクラウドキャピタル経済アナリストの馬渕 磨理子氏が話を聞いた。
セッション冒頭では、日本のベンチャー投資額が海外と比べていかに少ないかを解説。
日本のベンチャー投資額は4〜5000億円程度で、成長しつつあるものの、この額は30〜40年前のアメリカのベンチャー投資額と同程度の水準であるとした。
また、日本ではそもそも起業意欲を持つ人の数もまだまだ圧倒的に少ない。
起業意欲を図るグローバルアントレプレナーシップモニターという調査で日本は50ヵ国中最下位である。
そのデータを受けて朝倉氏は自身が資金調達をした当時のことを振り返りながら日本のスタートアップ業界の現状について以下のように語った。
「とはいえ、過去10年において日本のベンチャー投資額・スタートアップの数が増えているのは事実です。私自身資金調達をした2010年当時、日本国内におけるベンチャー投資額というのがだいたい700億円前後だったと言われています。そういう意味で言うと、大体10年をかけて7倍の規模まできたと。私どもが運用しているTHE FUNDというファンドから出資してるSmartHRさんという会社が156億円という大規模の資金調達を先日なさったんですけど、こういった大型の資金調達ができるような懐の深さ土壌が徐々に整いつつある。これが今の日本の現状かなと思っています。」(朝倉氏)
セッションではこのような現状の背景として、「そもそも日本には起業をする土壌がない」ということが挙げられた。
柴原氏によるとシリコンバレーでの学生生活を振り返りながら、身近に起業する友人がいて、ロールモデルが身近に存在する環境が更に起業をする流れに繋がっていたという。
早川 周作氏
このような背景を踏まえ、「日本でスタートアップ業界の規模を更に大きくする上ではどうすれば良いか」というテーマに対し、多様化する資金調達に焦点を当てた。
早川氏は日本の現状について以下のように指摘する。
「リスクマネーがあまりにも許容されない文化が私はあると思っています。そういった意味でFUNDINNOさんがやっているような、小口であったとしてもベンチャーに対して投資ができる環境や、デットの借り入れに連帯保証人をつけなければいけないことの改正など、資金調達の多様性がますます加速する中で、リスクマネーをしっかりとベンチャーや立ち上げる人間にしっかりと循環する仕組みを作っていく必要があるのではないかと思っています。」(早川氏)
リスクマネーの循環という話を踏まえて、柴原氏はセカンダリーマーケットについて以下のように語った。
「日本においてはまだ非上場株のセカンダリーマーケットという土壌は整っていないと考えています。例えば昨今『ユニコーン企業を出しましょう』という活動はあるものの、IPO一択と言いますか、そこまでの時間が短くなってしまうとなかなかユニコーンというところを目指しにくくなるのかなと。もし一度イグジットができる場というのがあり、IPOするまでの期間を少し伸ばすことによって、IPOを可能にするということは一つ必要だと思っています。」(柴原氏)
朝倉 祐介氏
金融機関・投資家からお金を借り資金調達するデットファイナンスと、株式を発行するエクイティファイナンスではどちらが良いのか。
スタートアップとの相性について朝倉氏は以下のように語った。
「スタートアップというのは大前提としてハイリスクハイリターンな活動を行うものなので、基本的にはデッドファイナンスとの相性というのは実はよくないんですよね。まだ事業が成立するかどうかもわからないし本当にマネタイズできるかどうかも分からない。そうなるとデットというのは特定の期限に特定の利子をつけてちゃんとお戻しすることを約束する類の資金調達ですから、実はあまり相性が良くない。そういう意味で言いますとやはりスタートアップのファイナンスというのは基本的にエクイティファイナンスが中心になっていきます。」(朝倉氏)
多様化する資金調達方法を語る上で、議題は注目を集めている株式投資型クラウドファンディングへ。
実際にFUNDINOを利用しIPOを達成した早川氏は以下のように語った。
「本当に良い仕組みだと思っています。なぜかと言うと、今までだとVCやエンジェル投資家に情報が集中してそこにお金を出すニーズがありましたが、個別の皆様方を結果的に小口で上場してないのにもかかわらず集めることができるからです。株主になっていただいたら必然的に、例えば弊社であれば試合に来てくれる、もしくは飲食店を利用していただけるようなファン株主を増やしていくこと、つまりBtoCのマーケティングをしていくにあたって非常に有用な仕組みだと考えています。リスクマネーがしかるべきところに投資されて、そこでも企業様がファン株主と共にスケールをしていく、また、セカンダリーマーケットができてそこで売買が成立する。そういったリスクマネーをどんどん循環させる一つの入り口として非常に期待してますね」(早川氏)
エンジェル投資家やVC以外から非上場でも小口で資金を集めることができ、BtoCのマーケティングをする上でも、リスクマネーを循環させる上でも非常に有用だとした。
セッションの最後に今過渡期にあるスタートアップ業界をより盛り上げていくことについて、柴原氏は以下のように語った。
柴原 祐喜氏
「ベンチャー出資や非上場企業への出資はリスクが高いものであり、将来どういったリターンがあるかと言うと、キャピタルゲインだけってなってしまうかもしれないんですが、実は投資の楽しみってそういったことだけではなくて、株主自身がそこの会社に何か応援をしようというアクションを起こすだけで、一緒になってその会社を盛り上げることが可能な世界であると考えています。ですので、まだまだ小さい企業であるうちは、より株主として何ができるのかということを考えながら、一緒に企業を盛り上げていくという姿勢をとると、もしかしたらこの日本もよりベンチャー企業が盛り上がっていくのかなと思いました。」(柴原氏)
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