5G New Business Award、次世代通信技術“5G”が可能とする未来のビジネスとは?

5G New Business Award、次世代通信技術“5G”が可能とする未来のビジネスとは?

記事更新日: 2024/03/12

執筆: 編集部

Reversible World 2021の最終セッションとして、第5世代移動通信方式“5G”を活用した新たなソリューションを手掛ける起業家によるピッチイベント「5G New Business Award」が開催された。

プレゼンターには、早稲田大学ビジネススクールの教授である入山章栄氏、アワードを企画したTIS ビジネスイノベーションユニットの水船慎介氏が登壇した。

なお、「ITで、社会の願いを叶えよう」というキャッチコピーのCMでもお馴染みのTISは、1971年に創業して今年創立50周年を迎えるIT企業。

その中で水船氏は新規事業企画コンサルティングを手掛け、近年は東京都による5G技術を中核としたスタートアップ支援事業「5G技術活用型開発等促進事業」をはじめ、5Gを活用した新たなビジネスの創出、特に決済、ロボティクス、エネルギー、ヘルスケアなどの分野に力を入れて取り組んでいる。

5G時代のグローバル競争で日本は勝ち上がれるのか

入山氏はセッションの前提として、高速、低遅延、同時多接続性という特徴を持つ5Gについて「現在、まさに基地局整備を進めている段階で、世の中で一般的に利用できるようになるのは2023年、そして大阪万博が開催される2025年には様々な新しい体験が生まれるだろう」と5Gの現在状況について整理。

その上で「これから新たなデジタル競争が始まる。これまではネット上のバーチャルな空間が中心の競争で、GAFAなどの台頭により日本は敗北したと言える。しかし、これからはあらゆるモノがネットに繋がる。人や動植物もネットに繋がる。その中で、リアルなモノづくりが得意な日本には勝ち筋があるのではないか」と今後の可能性を示した。

「今までのモノづくりの良さを活かしながら、古い部分は否定して、デジタルの要素を取り入れて新しいモノづくりに挑戦していく必要がある。流通業や医療分野などでも、5Gを活用してリアルな産業の強みを高い効率性を実現できる5Gとデジタルで改革する必要がある。VR、AR、MRといった分野、エッジコンピューティングや量子コンピューティングの発展も期待できる」と入山氏。

その上で、日本のスタートアップにも世界で活躍するチャンスが多く存在しているとまとめた。

こうした入山氏の意見に対しては、水船氏も「4Gが普及した際にはスマートフォンの普及によりGAFAをはじめとする海外の企業が台頭し、日本企業は負けたと言えるかもしれない。しかし、5Gの時代になれば改めて世界に挑戦できるのではないか」と賛同した。

5G New Business Awardで披露された起業家たちによる新たなビジネスの可能性

それでは、起業家たちはこれから世の中に普及していく5Gを活用して、どのようなビジネスの可能性を見出しているのだろうか。

「5G New Business Award」に登壇した3社のスタートアップ企業によるピッチ対決に目を向けてみよう。

Synamon(シナモン)

武井勇樹氏

同社は、VR、AR、MRといったXRの分野で主にビジネス用途のプロダクト開発を手掛ける企業。

中核製品であるビジネス向けVRサービス「NEUTRANS(ニュートランス)」は、バーチャル空間を複数の人で共有しながら新規事業の創出などを実現するというもので、遠隔地にいる人によるコラボレーションや、セミナー・発表会などオンラインイベントの開催、バーチャルな職業訓練・研修など様々なユースケースで利用が可能だ。

現在、通信業、保険会社、コンサルティング業、製造業、製薬会社などで大手企業に導入されており、例えば大手損害保険企業においては、事故車両の査定技術を磨くバーチャル研修に、この製品が利用されているのだという。

また、XR分野で新規事業を創出したい大手企業に技術支援、コンサルティングなどのパートナーシップも展開しているのだそうだ。

登壇した同社の武井勇樹氏は、VRと5Gによる可能性として「VRと大容量データを組み合わせることによる新しい体験の創出、安定した通信環境による優れたユーザー体験の提供、XR関連技術の進化による次世代競争力の強化が期待できる」と語り、同社もXRを活用した新しいソリューションの創出に意欲を見せた。

VRC

謝 英弟氏

同社は、リアルな実生活においる課題をデジタルによって解決するというミッションを掲げた企業で、人の姿をそのまま3次元デジタルデータ化してバーチャル空間に再現して様々なサービスに応用するという3Dデジタルサービスを手掛けている。

同社が手掛けた3Dボディーカメラは人の身体を立体的に撮影し、瞬時に実寸大の3Dのデジタルデータに変換するという。

そのデジタルデータを活用すれば、バーチャル空間で新たなエンターテインメントを生み出したり、

代表の謝 英弟氏によると、同社では高精度なアバターを生み出すだけでなく、それをセキュアな環境で管理し、利活用するところまでトータルソリューションとして提供することを強みにしているという。

例えば、同社が開発したアパレルのバーチャル試着ソリューションを活用すれば、衣類の大量廃棄が問題となっているアパレル業界の課題を解決し、サステナブルな社会の実現に貢献することも可能だ。

アパレルの購買体験をバーチャル化すれば、消費者によってはオンラインで買い物する前に着用した自分の姿を確認することができ、また販売事業者にとってはユーザー体験が向上することにより返品率を下げたり、よりニーズに沿った商品供給ができるようになる。5Gを活用してリアルな生活とバーチャル空間をリンクさせていきたい」(謝 英弟氏)。

Piezo Sonic(ピエゾ・ソニック)

多田興平氏

同社は、生活を支援するロボティクス技術の開発を目指している企業で、ロボットや医療機器などで活用できる高性能小型モーターの開発も手掛けている。

登壇した多田興平氏は、同社が実際に開発した搬送用自律移動ロボット「マイティ」を壇上で披露した。

このロボットは荷物などを搬送しながら環境モニタリングも同時に行うのが特徴で、移動中に倒れている人を発見した場合などは、その情報をセンターに転送するなどの動きが可能だという。

多田興平氏によると、同社が目指しているのはロボットの中でも移動・搬送を担う「下半身」の開発。

その上で、自律移動ロボットを活用した様々な非接触・非対面サービスの実現を構想しているのだという。

こうしたロボットが様々な情報をやりとりするためには安定した通信環境が必要となり、同社の自律移動ロボットと5Gが組み合わさることによって、搬送作業のロボット化による働き方改革、人とロボットが共存する街づくり、自動走行の実現による産業の高度化などが期待できるとしている。

ロボットを運用する上では、高精度の画像や三次元のデータを大量にやりとりする必要があり、そのためには4Gの通信環境では不可能なことが多い。またリアルタイム性や大量のロボットによる同時接続も5Gであれば実現できる。5Gを活用することで、他社のロボットにはない高い搬送能力、移動能力を活かして様々な可能性を実現したい」(多田興平氏)。

5G New Business AwardはPiezo Sonicが受賞

3社のプレゼンを受けて、入山氏と水船氏は「5G New Business Award」にPiezo Sonicを選定

同社は今後TISより、ローカル5G検証環境の無償提供や共同研究の実施など事業化に向けた様々な支援を受けていくという。

トロフィーを手にした多田興平氏は「受賞を本当に驚いている。これからも事業化に向けて頑張っていきたい」と喜びを語った。

また選定理由について入山氏は「3社とも受賞に値する素晴らしいプレゼンだった」としながら「Piezo SonicはTISによる支援が最も必要ではないかと判断した。SynamonもVRCも非常に優れたプロダクトを開発しており、高いポテンシャルがある。しかし、Piezo Sonicのロボットは実用化に向けてまだまだ実証実験、研究開発の環境を提供する必要がある。またIoTの時代にとって様々な機器を動かすモーターは必要不可欠な技術。Piezo Sonicにはロボット開発で得られた知見を活かしてモーターの進化も進めて、2つの側面から世界で活躍してほしい」と期待を寄せた。

授賞式の終了後には、入山氏、水船氏に加えてプレゼンした3社も登壇してトークセッションを展開。

各社のプレゼンを相互評価したほか、5Gが可能にする近未来のビジネスの可能性と今後に向けた課題などについて語り合った。

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