なぜ急成長するスタートアップは環境を選ぶのか~エコシステムビルダーだからこそ見える伸びる起業家たちの特徴~

なぜ急成長するスタートアップは環境を選ぶのか~エコシステムビルダーだからこそ見える伸びる起業家たちの特徴~

記事更新日: 2024/03/12

執筆: 編集部

近年、東京都区内の至るところで起業家が活躍する「ホットスポット」が生まれ、優れたスタートアップ企業が数多く輩出される新たなエコシステムが形成されつつある。

このセッションでは、こうした「ホットスポット」である起業家・スタートアップ企業の活動拠点を作り、新たなビジネスのアクセラレーションを支援しているキーマンが集い「スタートアップにとってのエコシステムの重要性」「成功するスタートアップの特徴」について語り合った。

登壇したのは、CIC Japan ディレクターの名倉 勝氏、Plug And Play JAPANのCMOである藤本あゆみ氏、東京建物 まちづくり推進部の渡部美和氏、三井不動産ベンチャー共創事業部の塩畑友悠氏。早稲田大学ビジネススクール教授の入山章栄氏がモデレータを務めた。

起業家・スタートアップ企業が巣立つために、拠点は何ができるのか

登壇した各社は、東京を中心に各地に起業家・スタートアップ企業の活動拠点としてコワーキングスペースやプライベートオフィス、アクセラレーションプログラムを展開。

場所を提供するだけでなく、起業家同士が交流してコミュニティを形成し、新たなシナジーを生み出せるよう様々なイベントやビジネスマッチングの機会を創出しているという特徴を持つ

例えば、東京建物は東京の八重洲、日本橋、京橋エリアから新たなイノベーションを創出することを目標に、インキュベーションオフィス「xBridge-Tokyo」を展開。

約3年で27社のスタートアップ企業が利用してベンチャーキャピタルによるメンタリングや事業ステージに応じたサポート、入居企業のコミュニティ形成などの支援を受け、半数以上が資金調達を成功させたのだという。

一方、三井不動産も「31VENTURES」というベンチャー共創事業を展開。

CVCとしてファンドを運用しているほか、日本橋を中心とした東京の東側エリアでスタートアップ拠点を展開して起業家・スタートアップ企業のコミュニティを生み出している。

また近年は、この東京の東側エリアでスタートアップ企業の成長と大手企業のイノベーションを同時に実現するエコシステムを生み出す「E.A.S.T.構想」に注力している。

まず語り合ったのは、それぞれの企業が展開する拠点・コミュニティで起業家・スタートアップ企業の成長を促すためにどのような施策を展開しているかという点。

各社の話題になったのは、支援を行う「期間」についてだ。

藤本あゆみ氏

日本だけでなく世界各国でアクセラレーションプログラムを展開するPlug And Play JAPANの藤本氏は「コロナ禍の影響により現在は新たな出会いを生み出すイベントの開催などは難しい。そこで、アクセラレーションを担当する弊社のマネージャーたちが各企業に綿密なメンタリングを行い、“どうすれば3か月という短時間で次のステップに向けた成果を出せるか”を一緒に考えている」と紹介。

名倉 勝氏

一方、CIC Japanの運営する拠点では、時間に縛ることはせずに大手企業と起業家・スタートアップ企業が同じコワーキングスペースに同居することで、協業・共創が生まれやすい物理的な環境を生み出しているという。

「私たちは協業・共創が短時間で簡単にできるとは思っていない。中長期的に協業・共創が生み出せる環境を提供している。拠点のファシリティに偶発的な出会い、コラボレーションが生み出せるような工夫を行っている」(名倉氏)。

また原則1年という期限を決めて拠点を提供している東京建物の「xBridge-Tokyo」では、「“1年で卒業する”という区切りを与えることで、創業期にスピード感をもって取り組んでほしいと考えている」と渡部氏。

また、拠点を運営する社員が不在なのも特徴で、利用する起業家・スタートアップ企業が自ら協力しながら拠点を管理することで、コミュニティの形成を促しているのだという。

塩畑友悠氏

そして、三井不動産の塩畑氏もは同社の支援も原則2年という区切りを設けているとした上で「出資先企業との協業は長期的な視点で支援している。半年、1年で結果が出なくても“もっとやろう”という心意気は全社的に持っている」と語る。

コミュニティの形成については「(xBridge-Tokyoのように)完全に任せるということはしていないが、社員が介在してサポートすることで、コミュニティ内のマッチングや課題解決を促している」とコメントした。

創業・スタートアップを成功させるためにどのようなスピード感で支援を行い、またコミュニティの中からシナジーを生み出すために拠点、プログラムを運営する側がどのような距離感でコミュニティと向き合うかについては、各社の意見が大きく違うことが見えてきた。

コミュニティの自立性について、渡部氏は「コミュニティの中で重要なのは、ビジネスの成長に必要な情報を誰が持っているのかという情報。運営側が全てを把握していくのは難しく、交流の中で情報が共有されコミュニティが自走できるように促していくことは重要ではないか」と語る。

この点については塩畑氏も「フランクに話せる環境、交流が生まれる偶発性を生み出すことは重要」と賛同した。

コロナ禍においてリアルな活動拠点は“熱意を刺激し深い繋がりを生み出す場”に

ふたつめのテーマは「勢いのある起業家・スタートアップ企業に共通しているところ」だ。

活動拠点、コミュニティを運営する企業から見て、成功する、あるいは成功に向かって順調に走っている起業家・スタートアップ企業には、どのような特徴があるのだろうか。

名倉氏は“目的・ミッションを明確にして楽しんでいる人”、“人を巻き込む力がある人”、“グローバル市場を創業期から見ている人”という3つの特徴を提示。

藤本氏もこれに賛同して「“何を成し遂げたいか”という思いが強く“絶対に成し遂げる”という意思がある人は強い。そういう人たちは手段を選ばないので、私たちを“使い倒そう”としている」とコメントした。

また塩畑氏は行動力の現れとして“連絡をマメにしてくれる人”を特徴に挙げる。

例えば、人を紹介してほしい場面や課題を感じているときに運営者を頼ってくれることで、事業への本気度が見えてくるのだという。

この点については渡部氏も「xBridge-Tokyoでは入居時に必ず面談をしているが、パッションの強さ、オープンマインドのコミュニケーション能力、xBridge-Tokyoに対しても“もっとこうしたほうがいい”と意見を言えるような人は勢いを感じるし尊敬できる」と続けた。

4名に共通している“目標に対する思いの強さ”

これはスタートアップ拠点やアクセラレーションプログラムを通じて成長・変化するものなのか。

渡部美和氏

渡部氏は「多くの起業家と同じ空間にいることで刺激を受け、マインドが成長するということは多くあるのではないか」とコメント。

藤本氏も「モチベーションがより活性化するという人は多い。特にグローバルでのビジネスについては実際に(当事者の声に)触れないとわからないことも多い」と語り、他の先輩起業家などから“目指している世界”に触れることで刺激を受けることが多くの起業家でコミュニティを形成するメリットであると指摘する。

そして、名倉氏もコミュニティの中で生まれる交流などを通じてインスピレーションを受けられる点を評価し、塩畑氏は「起業家にとって環境は非常に重要。緊張感の中に身を置いたり、成功体験を共有して刺激を受けることができるのが、コミュニティに参加する大きなメリット」とまとめた。

セッションの最後に、急成長する起業家・スタートアップ企業にとって活動拠点を選ぶことの重要性について、4名がそれぞれの考えをまとめた。

特に現在は、コロナ禍の影響でリモートワークが拡大し、一部のベンチャー企業のなかには“オフィス不要論”も高まりつつある

藤本氏は「オンラインよりもオフラインのほうが交流が深まると実感している。その意味でオフラインの拠点が必要だ。しかし、グローバルではオンラインをどう使いこなしてビジネスをドライブするかが重要になってきている。両者をハイブリッドで活用してシナジーを最大化させるのがこれからの我々の課題ではないか」と指摘。

一方で塩畑氏は、同社の物件に入居する起業家・ベンチャー企業の声として「『自分たちの会社のポリシーや企業文化を育み、共有し、発信する拠点としてオフィスは絶対に必要だ』という声が多く寄せられている」と語り、渡部氏は「“弱い繋がり”と“深い繋がり”を使い分けることが重要ではないか。オンラインの浸透で“弱い繋がり”はたくさん生まれているが、イノベーションを生み出すための“深い繋がり”を生み出すにはその拠点を選ぶことが重要になる」とまとめた。

名倉氏は渡部氏の話を踏まえて「CIC Japanの特徴は効率の良さ。起業家・ベンチャー企業から大手企業まで同じフロアで活動しているので、様々な出会いを効率よく生み出すことができる」とコメントした上で「“深い繋がり”を生み出すリアルな場、コミュニティをどのように設計していくかが、拠点を運営する企業のこれからの課題になる」と締めくくった。

この記事に関連するラベル

最新の記事

ページトップへ