自分の会社のM&Aについてしっかりと考えたことのある経営者は、実は少ないです。しかし、経営者はM&Aでのエグジットも視野に入れながら経営をすべきです。
今回は、M&Aを検討している経営者の方に向けてM&Aによる企業買収の流れ、M&Aを成功に導くために注意すべき点を丁寧に解説します。
このページの目次
M&Aは英語の Mergers and Acquisitions の略です。Mergers が合併で、Acquisitions が買収です。
よってM&Aとは、複数の企業を一つの企業に統合すること(合併)や、企業が他の企業の株式や事業を買い取ること(買収)をいいます。
M&Aには色々なスキームがありますが、今回は買い手企業が売り手企業を買収するという一般的なケースについて、その流れを紹介していきます。
会社を売却する側の実際の流れを解説していきます。
M&Aに要する期間は一般的に3〜12ヶ月ですが、すべての流れはM&Aアドバイザーが細かくやる事を教えてくれるので、思っている以上に楽に進みます。
確認すべき項目もアドバイザーが噛み砕いてくれるので、どうやって検討するか悩まなくて良い形でスムーズに進みます。
なお、ここでいうM&Aアドバイザーとは、M&Aにおけるすべての業務をサポートしてくれるスペシャリストだと理解してください。M&A専門のコンサルタントともいえます。
実際のM&Aの交渉のさまざまな局面でサポートしてくれるM&Aアドバイザーは不可欠の存在です。これについては、このあとにより詳しく解説します。
M&Aアドバイザーが助けてくれるとはいえ、実際のM&Aの流れをあらかじめイメージしておくことは重要です。
では実際の流れをみていきましょう。
事前準備として特にすべきことはありません。
M&Aにあたって考えるべき事項は、M&Aアドバイザーがかみくだいて質問してくれます。
よって、良いM&Aアドバイザーを探すことがまず最初にすべきことになります。
例えてしまうと、M&Aアドバイザリーは不動産屋さんと似たようなものです。実際に行ってみることで、自分の要望や現状を知ることができます。まずは気軽に相談してみると良いでしょう。
M&Aで売手と買手の間に入るアドバイザーを選びましょう。
アドバイザーを選ぶ上で、最も重要なのはそのアドバイザーが信頼できるかどうかです。そのため、知り合いづてに紹介してもらうのが望ましいです。
アドバイザーが知り合いのつてでは見つからない場合は、ネットで探し、比較検討して選ぶことになります。この際にいくつか注意点があります。
比較の際にやってはいけないのは、フィー(コンサル料)で比較してM&Aアドバイザーを決めること。
M&Aにおいては、アドバイザーによっても買収価格が大きく変わります。
その変動幅に比べれば、アドバイザーへの成果報酬額の違いは小さなものです。
できるだけ優秀で信用できるアドバイザーを選び、より良い買収条件でのM&Aを目指しましょう。
またアドバイザーを決める際にもう一つ気をつけてほしいのが、早めにM&Aアドバイザーを1つに絞らないということ。
アドバイザーによって、提案できる買い手候補は異なります。
選択肢を広げ、より良い条件を得るためにも、トップ面談くらいまでは複数のアドバイザーと交渉を並行して進めることをおすすめします。
なお、このあとに紹介するDD(デューデリジェンス)を始めるあたりからは、買い手との独占交渉契約を結ぶことが多いので、自然とM&Aアドバイザーも1社に絞られることになります。
M&Aアドバイザーの選び方は、以下の記事でより詳しく解説しているので、ぜひ参考にしてください。
買い手候補へのアプローチの前に、ノンネームシートを作成します。ノンネームシートとは、匿名の企業概要です。
匿名なのは秘密保持のためです。買い手企業がまだ検討するかわからないので、会社が特定されないように社名を伏せます。
実際には、簡単なヒアリングを踏まえて、アドバイザーが作成してくれます。
通常 A4用紙 1枚に「業務内容」「地域」「社員数」「売上高」「譲渡理由」「特徴」などを記入する形式です。
取引先に近い企業に提示するときには、特定されないように伏せる情報を増やすなど、柔軟に内容を決めることができます。
ノンネームシートフォームの例
出典元:幻冬舎ゴールドオンライン
買い手候補となる企業をリストアップし、その中から実際にアプローチする企業を数社に絞込み、ノンネームシートにより匿名で打診します。
買い手候補が興味を持ち、より詳細な情報を知りたいとなったら、会社名や財務状況などの重要な情報を開示する前に、秘密保持契約を結びます。情報漏えいを防ぐためです。
秘密保持契約を結んだら、IM(Information Memorandum:インフォメーション・メモランダム)と呼ばれる企業の詳細情報を買い手企業に提示します。
売り手企業・買い手企業の双方が具体的にM&Aを進めたいという意思が確認できたら、トップ同士の面談を行います。
トップ面談ではざっくばらんにお互いの意見交換を行います。最近の売上の変動の要因や業績見通しの根拠などが買い手側のトップからズバズバと聞かれる他、経営者の今後の進路希望などについても話します。
ここで、買収を行うかどうかがほぼ決まるので、非常に重要なフェーズです。
トップ面談を踏まえて、買い手企業がM&Aを希望する場合、意向表明書といわれる買収方法、買収価額などの提案条件が書かれた資料を買い手側が提出します。
複数の買い手候補がいる場合、意向表明書はどの買い手候補と交渉を進めていくかの判断材料にもなります。
売り手と買い手の間で、おおまかな条件について同意がとれた段階で、基本合意契約を締結します。
基本合意の内容は、買収の基本的な条件、独占交渉権やその交渉期間などです。この内容に基づいて、基本合意書を作成します。
独占交渉権を買い手企業が希望する理由は、この後のデューデリジェンス(DD)でお金がかかるからです。デューデリジェンスでお金をかけたにも関わず、他の買い手候補に買われてしまい、そのコストが無駄になってしまうことを防ぐのが目的です。
基本合意契約は、M&Aの実現に向けての中間合意と位置づけることができます。
売り手企業の法務・財務などに関して専門家による監査(デューデリジェンス)を行います。提出されていた資料などの正確性の確認も行います。
デューデリジェンスでは売り手側の経営者に負担がかかることを覚えておきましょう。
会社の細かい経営状況や取引先との契約内容など、様々な質問項目に対して回答する必要があります。
買い手企業は、専門家から提出されるデューデリジェンスのレポート結果を踏まえて、M&Aを実行するか、条件面の再交渉に入るか等の判断を行います。
種々の監査結果をもとにして、基本合意契約の段階では漏れていた細かい条件を詰めていき、最終的な売却価格を決定します。
また、この段階からM&A後の経営統合を視野に入れて、売り手企業の経営者個人の進路などについての条件交渉が本格化します。
売り手企業経営者に一定期間会社に残ってもらい、M&A後のスムーズな引継ぎに加え、経営者個人が持っているノウハウや技術などを伝えてもらうためにキーマン条項(ロックアップ)などを契約に盛り込む場合があります。
ここまでの一連の作業が無事終了し、取締役会や株主総会での承認が得られた後、最終的な条件や内容を取り決めた最終契約書(株式譲渡契約書:SPAなど)を取り交わし、M&Aは基本的に完了です。
最終契約書は、弁護士が基本的に作成します。売り手側に立って作成してくれるわけではないので、契約内容は必ずしっかりと確認しましょう。
最終契約のあとには以下のような諸手続きが発生します。
これらの諸手続きがあるため、実際には最終契約日からクロージング(経営権の移転の完了)までは一定期間があくのが普通です。
PMI(Post Merger Integration)とは、M&A完了後に行われる統合作業です。買い手企業にとって、M&Aの真価が問われるのは、いよいよここからということになります。
M&Aの事例は、主に買い手側に立って評価されるため、売り手側の目線に立って語られることが大変少ないですが、本記事では売り手側からみた、失敗しないための注意点を紹介します。
売り手側にとっては、無事に適正価格で売却できた場合を成功だといえます。一方で失敗事例はいくつかのパターンに分けることができます。
これらの失敗パターンを一つずつ解説していきます。
M&A後に起こるトラブルのほとんどがこれです。
M&A成立後に、株式譲渡契約書(SPA)など最終契約書の内容に違反したとして損害賠償を買い手側から求められる場合があります。こういったトラブルのほとんどが表明保証条項をめぐるものです。
表明保証条項とは、売り手・買い手が相手方に対して、一定の事項が真実であり間違いがないことを表明し、表明したことを保証する条項です。
基本的には買い手側のためにあるもので、売り手が開示した企業のリスク情報に間違いがないことを保証させることが目的です。
もし表明保証条項に違反すると、売り手は損害賠償請求をされることになります。
M&Aにあたって買い手企業はしっかりデューデリジェンス(DD)を行いますが、期間も限られており、すべてのリスクを買い手側が把握することは不可能です。
そのような把握しきれないリスクによって、買い手側が損害を受けることを防ぐのがこの表明保証条項なのです。
例えば、M&A成立後に売り手側の経営者も把握してなかった決算の細かい数値のズレなどが明らかになってトラブルになる場合があります。
このような事態が発生しても、契約書の表現を「知りえる限りにおいて」という形とり、自分が把握できていない事象においては責任追及を弱めておく必要があります。
会社は個人ですべてを把握する事は難しいため、不測の事態に備えた契約内容にしておくことは、売り手側の自己防衛のためにも必要です。
売り手側の経営者が売却後に新たなことに挑戦したいと考えている場合、キーマン条項によって定められた企業に残る期間(ロックアップ期間)が長すぎると、それが大きな足かせとなります。
売却時にはそのまま残って事業の成長に貢献したいと考えていた場合でも、ロックアップ期間中に考えが変わる可能性もあります。
ロックアップ期間は2~3年程度に設定するようにしましょう。
M&Aが成立するまできちんと情報管理を行っていないと、風の噂でM&Aに向けて動いていることが社員の耳に入ってしまうかもしれません。
まだM&Aがうまくいくかまったく分からない段階で、社員に知られてしまうことは悲劇です。
「社長は自分達が必死に働くこの会社を売って、社長だけ大金を得ようとしている」って飲みの場で散々言われるでしょう。
文句を言われてもM&Aがうまくまとまって、社長のロックアップが無ければ社員と一緒に働くことなく脱出できるので、まだましです。しかしM&Aはうまくいくとは限りません!
うまくいかなかったら、社員と一緒にこれまで通り働いていかないといけないんです。
一度失った社員の信頼はなかなか取り戻せないですよね。M&Aの動きをしたことで組織はボロボロになってしまうんです。
このような悲劇を避けるためには、M&Aに関する情報管理には細心の注意を払う必要があります。慎重すぎるくらいがちょうどいいです。
M&Aの情報を知っている社内の人間は最小限に留めるようにしましょう。
投資家に対して優先株を発行しているがために、M&Aをしても創業者利益が少なくなってしまう場合があります。
企業をIPOをした場合は、優先株も強制的に普通株に転換されるため、優先株も普通株も同じ価値だと捉えることができます。
しかしM&Aによるエグジットの場合、残余財産の優先分配条項に従って、企業価値を株主間で分け合います。よって、M&Aによる対価を優先株をもった投資家が多く受け取り、普通株をもつ創業者の利益が少なくなるという現象が起こるのです。
優先株を発行している会社を売却する場合には、この点に注意して、M&Aによって自分が得られる利益がいくらなのかを正しく把握しましょう。
ここでの資金調達とは、株式発行による資金調達(エクイティファイナンス)のことです。
株式発行により自己資金を調達するとき、特に創業初期において、そのバリュエーションはほぼ言い値のようなものです。だいたいの相場観にもとづく成長予想から、合意形成を行う場合が多いというのが実態です。
売上がまだ出ていない場合も多々あるため、もちろんDCF法のような考え方もありません。
一方でM&Aにおいてバリュエーションをつけるときには、買収側がきちんと買収金額を回収できるかを定量的に評価する必要があります。実際の業績にもとづいて評価を行うため、資金調達時のバリュエーションよりも厳しく評価されることが多くなります。
具体的なM&A時のバリュエーションの付け方としては、営業利益額の3~5年分として計算する方法などがあります。このことからも分かるように、M&A時にはそもそも事業が黒字であることが、一般的な前提条件となっています。
このようにエクイティでの資金調達とM&Aでは、バリュエーションのロジックが異なります。
このポイントを理解せず、資金調達時のバリエーションの感覚でM&Aに臨んでしまうと、買い手側の齟齬が生まれてしまうことになります。
記事の最初でも述べましたが、最も大事なことはまずM&Aを選択肢として捉えることです。
M&Aアドバイザーに相談する前に特別な準備は必要ありません。気楽に最初の1歩目を踏み出してみましょう。
結局うまく行かない場合もあるかもしれません。しかし、それも大きな学びとなります。自分の会社に対する経営者の認識と、外からの評価のギャップが明らかになり、今後必要なことがよりはっきりするからです。
監修者プロフィール
前川英麿
画像出典元:Pexels
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