経営者必読!M&Aによる企業買収の流れ。成功と失敗を徹底解説

経営者必読!M&Aによる企業買収の流れ。成功と失敗を徹底解説

記事更新日: 2018/10/08

監修: 前川英麿

自分の会社のM&Aについてしっかりと考えたことのある経営者は、実は少ないです。事業の推進のために日々頭を悩ませている経営者にとって、その事業や会社の売却を考える機会が少ないのは当然ともいえます。

しかし、経営者はM&Aでのエグジットも視野に入れながら経営をすべきです。会社の経営においても、ある程度出口を見据え、そこから逆算していく考え方をもつことが重要です。

会社の出口としての一つの選択肢がM&Aでのエグジットです。M&Aを検討している企業の経営者の方に向けて、成功のための基礎知識やその流れ、M&Aを実際に進める上で注意すべき点を丁寧に解説します。

このページの目次

M&Aとは

M&A(エムアンドエー)は英語の Mergers and Acquisitions の略です。Mergers が合併で、Acquisitions が買収です。よってM&Aとは、複数の企業を一つの企業に統合すること(合併)や、企業が他の企業の株式や事業を買い取ること(買収)をいいます。

M&Aの目的

M&Aにおいては、売る側である譲渡企業と、買う側の譲受け企業の2つの立場があります。基本的には双方に目的があるからこそM&Aが成立します。お互いの目的を把握しておくことは、よりよいM&Aを実現させるために必要不可欠です。

譲渡側(売手)の目的

後継者がいないなどの事業承継問題を抱えている場合、その解決策としてM&Aが選ばれる場合があります。そのほかに、創業者利潤の獲得、事業の選択と集中、企業再生等が譲渡側の目的として挙げられます。

日本ではまだまだ会社を売るというと良くないイメージを持つ人もいるかも知れませんが、頑張って育てた会社を売って対価を得ることは、正当な行為でありけっして悪いことではありません。

他には、経営者の「他のことをしたい」「次にいきたい」といった感情もM&Aの理由として考えられます。そうはいっても会社を売却したあとの生活が想像できず、心配になる面もあるかもしれませんが、売却後に晴れ晴れとした気持ちで新たなことに臨む人が多いのが実情です。

譲受け側(買手)の目的

既存事業の規模の拡大、新規事業の獲得、人材や技術の確保などを、自社の努力で行うより迅速に実現することが譲受け側の目的です。

売り手のメリット・デメリット

譲渡側(売り手)のメリット

M&Aの目的が事業承継である場合、最大のメリットは、後継者問題が解決し、事業を継続できることで、社員の雇用を維持できる点です。

また創業者は、株式を売却した対価と、会社へ貸し付けていたお金の回収、役員退職金により金銭的な利潤を得ることができます。創業者が会社の連帯債務者になっている場合、個人保証から解放されるという点も重要なポイントです。今まで肩の上にのっていた荷が下ります。

企業再生を目的としたM&Aの場合だと、スポンサーが見つかり、追加で出資を受けることで信用が回復し、企業再生をよりスムーズに行えるようになります。

譲渡側(売り手)のデメリット

キーマン条項(ロックアップ)など、条件によっては経営者の今後の経済活動が制限される可能性があります。

キーマン条項とは、被買収企業のキーマン(基本的にはCEO)が2〜3年間、企業に残ることを定めるもの。ロックアップとも呼ばれます。買い手側のためにあるもので、キーマンが抜けたことで買収後に事業が回らなくなることを防ぐことが狙いです。

売り手側の経営者、つまりロックアップをかけられる側からすれば、ロックアップ期間は会社をやめることができないため、かなり自由が失われる条項です。

M&A後に会社を離れるつもりであれば、今後の自分の進路に支障がないように交渉を進める必要があります。

また売り手のデメリットとしては心理的な負担も挙げられます。自分が作り育ててきた会社がなくなってしまうというのは、決して嬉しいことではありませんよね。

 

買い手のメリット・デメリット

譲受け側(買い手)のメリット

M&Aによって、事業の規模拡大、新規事業の獲得を迅速にできることが譲受け側(買手)のメリットです。事業自体より、それと同時に獲得できる人材や技術といった経営資源を目的としたM&Aも多くあります。

譲受け側(買い手)のデメリット

譲受け側(買手)のデメリットとしては、当初想定していたようなシナジーが得られない場合、あるいは想定していなかった損害がある場合があります。想定外の損害は、M&A成立当初は認識していなかった債務(簿外債務)や、想定外の支出、人材の流出などが挙げられます。

”M&Aの70%は失敗している”と一般的に言われています。M&Aを成功させるためには、シナジーを最大限に、統合のためのコストを最小限にするための準備が重要です。

 

M&Aの手法

資本提携と業務提携の違い

企業の提携には、資本提携と業務提携がありますが、そのうちの資本提携が広い意味でM&Aと定義されています。業務提携には、生産提携や販売提携、技術提携などがあり、互いの利益のために特定の分野のみにおいてノウハウを共有して協力することを指します。

それに対して、資本提携では会社の株式や事業など、資本の移動を伴います。パートナー企業による経営への参画、財務面での支援などが期待できるため、業務提携単独での契約よりも強力な関係を築くことが可能です。

買収と合併の違い

広い意味でのM&Aは資本提携のことを指すと紹介しましたが、通常M&Aというと特に買収と合併のことを意味する場合が多いです。

買収と合併の最大の違いは、会社がなくなるかどうかです。合併には吸収合併と新設合併がありますが、どちらの場合も合併によって会社が 1つに統合されるので、会社の数は減ります。一方買収の場合は、買い手側の企業が売り手側の企業の支配力を得るだけですので、買われた企業自体は存続します。

買収にも様々な形がありますが、それらは「何を売るのか」「何を対価として受け取るのか」を考えることで、分かりやすく違いを捉えることができます。M&Aを成功させるためにも、目的にあった手法を用いましょう。

 

M&Aの流れ

売却側の実際の流れを解説していきます。

M&Aに要する期間は一般的に3〜12ヶ月ですが、すべての流れはM&Aアドバイザーが細かくやる事を教えてくれるので、思っている以上に楽に進みます。質問項目もアドバイザーが噛み砕いてくれるので、どうやって検討するか悩まなくて良い形でスムーズに進みます。

とはいえ、流れをあらかじめイメージしておくことは重要です。では実際の流れをみていきましょう。

M&Aの流れ

1. 事前の準備

事前準備として特にすべきことはありません。

着手金がかからないM&Aアドバイザリーも多くあります。M&Aにあたって考えるべき事項も、M&Aアドバイザーがかみくだいて質問してくれます。

例えてしまうと、M&Aアドバイザリーは不動産屋さんと似たようなものです。実際に行ってみることで、自分の要望や現状を知ることができます。まずは気軽に相談してみると良いでしょう。

2. アドバイザー選定

M&Aで売手と買手の間に入るアドバイザーを選びましょう。アドバイザーを選ぶ上で、最も重要なのはそのアドバイザーが信頼できるかどうかです。そのため、知り合いづてに紹介してもらうのが望ましいです。

アドバイザーが知り合いのつてでは見つからない場合は、ネットで探し、比較検討して選ぶことになります。その比較の際にやってはいけないのは、フィーで比較してアドバイザーを決めてしまうこと。M&Aにおいては、アドバイザーによっても買収価格が大きく変わります。その変動幅に比べれば、アドバイザーへの成果報酬額の違いは小さなものです。できるだけ優秀で信用できるアドバイザーを選び、より良い買収条件でのM&Aを目指しましょう。

またアドバイザーを決める際にもう一つ気をつけてほしいのが、早めにアドバイザーを1つに絞らない方が良い、ということ。アドバイザーによって持ってこれる買い手候補は異なります。選択肢を広げ、より良い条件を得るためにも、トップ面談くらいまでは複数のアドバイザーと交渉を並行して進めることをおすすめします。

なお、このあとに紹介するDD(デューデリジェンス)を始めるあたりからは、買い手との独占交渉契約を結ぶことが多いので、自然とM&Aアドバイザーも1社に絞られることになります。

3. ノンネームシート(NN)作成

買い手候補へのアプローチの前に、ノンネームシートを作成します。ノンネームシートとは、匿名の企業概要です。匿名なのは秘密保持のためです。買い手企業がまだ検討するかわからないので、会社が特定されないように社名を伏せます。実際には、簡単なヒアリングを踏まえて、アドバイザーが作成してくれます。

通常A4用紙 1枚に「業務内容」「地域」「社員数」「売上高」「譲渡理由」「特徴」などが記入する形式です。取引先に近い企業に提示するときには、特定されないように伏せる情報を増やすなど、柔軟に内容を決めることができます。

ノンネームシートフォームの例

出典元:幻冬舎ゴールドオンライン

4. 買い手候補選定・匿名での打診

買い手候補となる企業をリストアップし、その中から実際にアプローチする企業を数社に絞込み、ノンネームシートにより匿名で打診します。買い手企業の選び方は、のちほど紹介します。

5. 秘密保持契約(NDA)締結

買い手候補が興味を持ち、より詳細な情報を知りたいとなったら、会社名や財務状況などの重要な情報を開示する前に、秘密保持契約を結びます。情報漏えいを防ぐためです。

6. IM提示

秘密保持契約を結んだら、IM(Information Memorandum:インフォメーション・メモランダム)と呼ばれる企業の詳細情報を買い手企業に提示します。

7. トップ面談

売り手企業・買い手企業の双方が具体的にM&Aを進めたいという意思が確認できたら、トップ同士の面談を行います。

トップ面談ではざっくばらんにお互いの意見交換を行います。最近の売上の変動の要因や業績見通しの根拠などが買い手側のトップからズバズバと聞かれる他、経営者の今後の進路希望などについても話します。

ここで、買収を行うかどうかがほぼ決まるので、非常に重要なフェーズです。

8. 意向表明書

トップ面談を踏まえて、買い手企業がM&Aを希望する場合、意向表明書といわれる買収方法、買収価額などの提案条件が書かれた資料を買い手側が提出します。複数の買い手候補がいる場合、意向表明書はどの買い手候補と交渉を進めていくかの判断材料にもなります。

9. 基本合意契約の締結

売り手と買い手の間で、おおまかな条件について同意がとれた段階で、基本合意契約を締結します。基本合意の内容は、買収の基本的な条件、独占交渉権やその交渉期間などです。この内容に基づいて、基本合意書を作成します。

独占交渉権を買い手企業が希望する理由は、この後のデューデリジェンス(DD)でお金がかかるからです。DDでお金をかけたにも関わず、他の買い手候補に買われてしまい、そのコストが無駄になってしまうことを防ぐのが目的です。

基本合意契約は、M&Aの実現に向けての中間合意と位置づけることができます。

10. デューデリジェンス(DD)実施

売り手企業の法務・財務などに関して専門家による監査を行います。提出されていた資料などの正確性の確認も行います。

DDでは売り手側の経営者に負担がかかることを覚えておきましょう。会社の細かい経営状況や取引先との契約内容など、様々な質問項目に対して回答する必要があります。

買い手企業は、専門家から提出されるデューデリジェンスのレポート結果を踏まえて、M&Aを実行するか、条件面の再交渉に入るか等の判断を行います。

11. 最終条件交渉

種々の監査結果をもとにして、基本合意契約の段階では漏れていた細かい条件を詰めていき、最終的な売却価格を決定します。

また、この段階からM&A後の経営統合を視野に入れて、売り手企業の経営者個人の進路などについての条件交渉が本格化します。売り手企業経営者に一定期間会社に残ってもらい、M&A後のスムーズな引継ぎに加え、経営者個人が持っているノウハウや技術などを伝えてもらうためにキーマン条項(ロックアップ)などを契約に盛り込む場合があります。

12. 最終契約・クロージング

ここまでの一連の作業が無事終了し、取締役会や株主総会での承認が得られた後、最終的な条件や内容を取り決めた最終契約書(株式譲渡契約書:SPAなど)を取り交わし、M&Aは基本的に完了です。

最終契約書は、弁護士が基本的に作成します。売り手側に立って作成してくれるわけではないので、契約内容は必ずしっかりと確認しましょう。

契約内容の確認を怠ると後々のトラブルにつながります。例えば、M&A成立後に経営者が把握してなかった決算の細かい数値のズレや、事業に関わる把握の違いが明らかになってトラブルになる場合があります。このような事態が発生しても、契約書の表現を「知りえる限りにおいて」としておけば、把握できていない事象においては責任を問われることはありません。このように、不測の事態に備えた契約内容にしておくことは、自己防衛のためにも必要です。

最終契約のあとには以下のような諸手続きが発生します。

  • 売り手側の経営者が個人的な目的で購入した資産(車や船など)の買い取り
  • 株券の引き渡し
  • 会社代表印の引き渡し
  • 対価の支払い

これらの諸手続きがあるため、実際には最終契約日からクロージング(経営権の移転の完了)までは一定期間があくのが普通です。ただし、契約日までにクロージングに必要な手続きがすべて終了している場合など、契約日と同時にクロージングを実施する場合もあります。

13. PMI

PMI(Post Merger Integration)とは、M&A完了後に行われる統合作業です。買い手企業にとって、M&Aの真価が問われるのはいよいよここからということになります。

必要な費用

売却側の費用

売却側からみてM&Aで必要になる主な費用は、M&Aアドバイザーへの報酬と税金です。

M&Aアドバイザーへの報酬は、着手金や企業価値算定にかかる費用などがありますが、最も大きなウェイトを占めるのが成功報酬です。成功報酬額の算定では、多くのM&Aアドバイザーで「レーマン方式」を採用しています。

レーマン方式では、取引金額等と決められた料率から成功報酬額を算出します。

レーマン方式の手数料率の例

以下にレーマン方式の実際の手数料率の例を示します。

レーマン方式の料率の例

このように、取引金額が上がれば上がるほど、料率が下がるのがレーマン方式です。

注意してほしいのが、例えば取引金額が20億円の場合、取引金額全体に料率3%をかけるわけではないこと。少しややこしいので、これから詳しく解説します。

【例】取引金額が20億円の場合

上の図のように、5億円以下の部分には対応する料率5%を、5億円超〜10億円以下の部分には対応する料率4%をかけます。これらの合計が最終的な成功報酬額になります。

今回の取引金額20億円の場合では、成功報酬額が7,500万円となりました。

この記事では、レーマン方式の報酬の計算方法を簡単に解説しましたが、以下の記事ではM&Aアドバイザリー会社の料金を比較する際の注意点なども解説しています。

 

税金はM&Aの手法で変わる

税金については、どのような手法でM&Aを行うかで、税率が変わってきます。例えば株式譲渡と事業譲渡で比較すると、一般的に株式譲渡が税制上有利です。

株式譲渡の場合、譲渡益は消費税の課税対象にならず、譲渡益に対して20%の税金(所得税15%・住民税5%)が課せられることとなります。それに対して事業譲渡では、譲渡益は消費税の課税対象になり、かつ法人税が課税されます。法人税の税率は場合によって異なりますが、40%を目安に考えればよいでしょう。

買収側の費用

売却側と同様にM&Aアドバイザーへの報酬がかかる他、デューデリジェンスにかかる費用等がかかります。

デューデリジェンスの費用は、対象となる事業(会社)の調査を行う外部の専門家(公認会計士・税理士・弁護士・不動産鑑定士等)への報酬です。対象会社の規模や調査範囲によって変動しますが、通常数十万円から数百万円の範囲内に落ち着きます。

また取引成立後に必要になる費用として、買収側の企業は、取引成立後の借入金返済やのれん代の償却負担を考えなければなりません。

のれん代とは、対象事業(企業)が保有する純資産を上回る金額で買収した場合に発生するものです。場合によっては親会社の損益に大きな影響を与えるため、買収側としてはのれん代の計上額が妥当かをしっかりと検討する必要があります。また、M&Aの交渉をスムーズに進めるために、売却側ものれん代について正しく認識しておくことが必要です。

 

買い手企業の選び方3パターン

買い手の企業の選び方は、経営者の今後のスタンスによって3つのパターンに分けることができます。

1. 買い手企業のもとで働く場合

M&A後に買い手の企業の社員として働く場合、買い手企業の株式をM&Aの対価として受け取ることが多いです。このような場合、買い手企業とともに成長していけそうかが重視すべきポイントになります。

具体的には、買い手企業の将来性や自分がどのくらい買い手企業で評価されているか、用意されているポストなどが重要です。一方で、金額は二の次にしても良いといえます。

2. ロックアップ期間を経て、新しいことに取り組む場合

キーマン条項により、ロックアップ期間中は企業に残り買い手企業のもとで働き、その後自分で新しいことに取り組む場合です。この場合は、金額はある程度重要になります。それと同時に、ロックアップ期間に快適に働けそうか、ロックアップ期間の長さなどが判断要素になります。

3. すぐに新しいことに取り組む場合

まず最重要視すべきは対価の額です。すぐに企業を離れることになるため、社員の今後の処遇などについての条件をきちんと詰めておくことも重要になります。

売却側が失敗しないための注意点

M&Aの事例は、主に買い手側に立って評価されるため、売り手側の目線に立って語られることが大変少ないですが、本記事では売り手側の目線から紹介します。

売り手側にとっては、無事に適正価格で売却できた場合を成功だといえます。一方で失敗事例はいくつかのパターンに分けることができます。

  • 契約違反で損害賠償を求められる
  • ロックアップ期間が長すぎる
  • M&A成立前に社員にばれる
  • 優先株を出してしまったがために創業者利益がない
  • バリュエーションのつけ方が資金調達時と異なる

これらの失敗パターンを一つずつ解説していきます!

契約違反を問われる

M&A後に起こるトラブルのほとんどがこれです。

M&A成立後に、株式譲渡契約書(SPA)など最終契約書の内容に違反したとして損害賠償を買い手側から求められる場合があります。こういったトラブルのほとんどが表明保証条項をめぐるものです。

表明保証条項とは、売り手・買い手が相手方に対して、一定の事項が真実であり間違いがないことを表明し、表明したことを保証する条項です。基本的には買い手側のためにあるもので、売り手が開示した企業のリスク情報に間違いがないことを保証させることが目的です。もし表明保証条項に違反すると、売り手は損害賠償請求をされることになります。

M&Aにあたって買い手企業はしっかりデューデリジェンス(DD)を行いますが、期間も限られており、すべてのリスクを買い手側が把握することは不可能です。そのような把握しきれないリスクによって、買い手側が損害を受けることを防ぐのがこの表明保証条項なのです。

例えば、M&A成立後に売り手側の経営者も把握してなかった決算の細かい数値のズレなどが明らかになってトラブルになる場合があります。

このような事態が発生しても、契約書の表現を「知りえる限りにおいて」という形とり、自分が把握できていない事象においては責任追及を弱めておく必要があります。会社は個人ですべてを把握する事は難しいため、不測の事態に備えた契約内容にしておくことは、売り手側の自己防衛のためにも必要です。

ロックアップ期間が長すぎる

売り手側の経営者が売却後に新たなことに挑戦したいと考えている場合、キーマン条項によって定められた企業に残る期間(ロックアップ期間)が長すぎると、それが大きな足かせとなります。

売却時にはそのまま残って事業の成長に貢献したいと考えていた場合でも、ロックアップ期間中に考えが変わる可能性もあります。ロックアップ期間は2,3年程度に設定するのようにしましょう。

これはやや特殊な例ですが、クックパッドの穐田前社長が「人の感情は買えない」としてロックアップはつけないと明言している話は有名です。

M&A成立前に社員にばれる

M&Aが成立するまできちんと情報管理を行っていないと、風の噂でM&Aに向けて動いていることが社員の耳に入ってしまうかもしれません。

まだM&Aがうまくいくかまったく分からない段階で社員に知られてしまうことは、悲劇です。「社長は自分達が必死に働くこの会社を売って、社長だけ大金を得ようとしている」って飲みの場で散々言われるでしょう。

文句を言われてもM&Aがうまくまとまって、社長のロックアップが無ければ社員と一緒に働くことなく脱出できるので、まだましです。しかしM&Aはうまくいくとは限りません!!

うまくいかなかったら、社員と一緒にこれまで通り働いていかないといけないんです。

一度失った社員の信頼はなかなか取り戻せないですよね。M&Aの動きをしたことで組織はボロボロになってしまうんです。

このような悲劇を避けるためには、M&Aに関する情報管理には細心の注意を払う必要があります。慎重すぎるくらいがちょうどいいです。M&Aの情報を知っている社内の人間は最小限に留めるようにしましょう。

優先株を出してしまったがために創業者利益がない

投資家に対して優先株を発行しているがために、M&Aをしても創業者利益が少なくなってしまう場合があります。

企業をIPOをした場合は、優先株も強制的に普通株に転換されるため、優先株も普通株も同じ価値だと捉えることができます。

しかしM&Aによるエグジットの場合、残余財産の優先分配条項に従って、企業価値を株主間で分け合います。よって、M&Aによる対価を優先株をもった投資家が多く受け取り、普通株をもつ創業者の利益が少なくなるという現象が起こるのです。

優先株を発行している会社を売却する場合には、この点に注意して、M&Aによって自分が得られる利益がいくらなのかを正しく把握しましょう。

バリュエーションのつけ方が資金調達時と異なる

ここでの資金調達とは、株式発行による資金調達(エクイティファイナンス)のことです。株式発行により自己資金を調達するとき、特に創業初期において、そのバリュエーションはほぼ言い値のようなものです。だいたいの相場観にもとづく成長予想から、合意形成を行う場合が多いというのが実態です。売上がまだ出ていない場合も多々あるため、もちろんDCF法のような考え方もありません。

一方でM&Aにおいてバリュエーションをつけるときには、買収側がきちんと買収金額を回収できるかを定量的に評価する必要があります。実際の業績にもとづいて評価を行うため、資金調達時のバリュエーションよりも厳しく評価されることが多くなります。

具体的なM&A時のバリュエーションの付け方としては、営業利益額の3~5年分として計算する方法などがあります。このことからも分かるように、M&A時にはそもそも事業が黒字であることが、一般的な前提条件となっています。

このようにエクイティでの資金調達とM&Aでは、バリュエーションのロジックが異なります。このポイントを理解せず、資金調達時のバリエーションの感覚でM&Aに臨んでしまうと、買い手側の齟齬が生まれてしまうことになります。

 

M&A成功のために必要なこと

記事の最初でも述べましたが、最も大事なことはまずM&Aを選択肢として捉えることです。

M&Aアドバイザーに相談する前に特別な準備は必要ありません。気楽に最初の1歩目を踏み出してみましょう。結局うまく行かない場合もあるかもしれません。しかし、それも大きな学びとなります。自分の会社に対する経営者の認識と、外からの評価のギャップが明らかになり、今後必要なことがよりはっきりするからです。M&Aについて考えることは、自分の会社を客観的にみることに繋がるのです。

監修者プロフィール

前川英麿

プロトスター株式会社代表取締役CEO。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、ベンチャーキャピタルのエヌ・アイ・エフSMBCベンチャーズ(現大和企業投資)に入社。その後、常駐の経営再建支援に特化したフロンティア・ターンアラウンドに入社。15年2月よりスローガン株式会社に参画し投資事業責任者として、Slogan COENT LLPを設立。16年11月に起業家支援インフラを創るべく当社を設立。その他、経済産業省 先進的IoTプロジェクト選考会議 審査委員・支援機関代表等。

画像出典元:Pexels

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