アーンアウトとは、M&Aの対価を「あらかじめ決めた条件が達成した場合に、追加で支払う」取り決めのことを指します。
売り手・買い手の希望額に差がある場合や、リスク分散の交渉に効果的な条項です。
特に、将来予測に不確定要素が多いスタートアップのM&Aにおいて、今後活用が増すと予想されていますが、条件をしっかり詰めないと「アーンアウト条項で損する」ことにもなりかねません。
本記事では、私個人がM&Aコンサルの現場で実際に触れた経験をベースに、アーンアウトの目的・メリット、失敗事例や注意点などを解説していきます。
このページの目次
アーンアウト条項とは、M&Aの完了後一定の期間(通常 1年〜3年)において、売却した事業・会社が特定の目標を達成した場合に、追加の対価を支払うことを定めるものです。
この達成条件の目標は、売り手・買い手が双方合意のうえで定めます。
目標には、売上高・営業利益・新規顧客獲得数・既存継続率などの指標がよく用いられます。
例えば「1年後に売上高5%成長できたら追加で2億円」という条項で、10億円で売却したとします。
この場合、まずM&A完了時に10億円を受け取り、さらに売上の目標を達成した場合、追加の2億円を受け取ることができます。
目標達成しなかった場合は、追加の支払いは「0円」です。ただし、達成率に応じて傾斜をつけて支払われるケースもあります。
アーンアウトの最大の目的は、売り手・買い手の双方が納得できるよう最終的な買収価格に幅をもたせることです。
M&Aの買収価格は、その事業や会社の将来業績の予想を踏まえて決定されます。
しかし将来業績は不確定なものであり、現状を知り尽くし期待感を持っている売り手側と、すべてを把握しきれていない買い手側の間で、将来業績の予想で乖離が生じることも少なくありません。
そういった問題を解決できるのが、アーンアウトです。
実際の将来の業績に基づいて最終的な買収価格が決まるため、将来の業績予想が双方で食い違う場合でも、M&Aの合意につなげることができます。
松尾のポイント解説
そもそもまず、想定以上に「価値はつきづらい」ということを理解しておく必要があります。将来の事業計画も重要ですが、直近の財務状況から判断されるケースも多いため、売り手側経営者が見積もるほどの価格はつかないことが多いです。アーンアウトはそのギャップを埋める有効な手段といえるでしょう。
このアーンアウトはスタートアップが係わるM&Aと相性が良く、また「スタートアップM&A減税」の成長要件の後押しも受け、今後国内で活用が増えると予測されています。
理由①:希望価格に差が生まれがちだから
スタートアップM&Aの場合、買い手の企業はスタートアップの将来性を固く保守的に見積もるため、バリュエーション(企業価値評価)の額に買い手と売り手で大きな差が生まれがちです。
そのため、アーンアウト条項を用いて、保守的な予想を上回る部分については目標達成時に追加で支払う形にすることで、目線相違の解消に繋げるケースが活用されるのです。
理由②:創業者のモチベーション維持に繋がるから
スタートアップでは、その会社の成長の根幹を創業者個人の力に依存しているケースが多いため、M&A後も創業者がその企業に一定期間残ることを契約条件とされるケースがよくあります。
このことは創業者の意欲の低下に繋がりがちですが、追加の支払いが受けられる、アーンアウトの目標があれば、さらなる成長のモチベーションに繋げることができます。
理由③:「スタートアップM&A減税」とセットで考えると得だから
令和5年度の税制改革で、全株式の50%超を取得するM&Aにも減税措置が追加され(いわゆる「スタートアップM&A減税」)、買い手側の企業にとって、より積極的なM&Aが行いやすくなりました。
ただしこれには、M&A後5年以内に成長要件(経済産業省HP)を満たす必要があります。
そこで、アーンアウトとセットにして事業成長を促し、減税分を売り主にも還元できるよう計画すればグループ全体の利益に繋げられるため、より一層利用ケースが増えると想定されるのです。
松尾のポイント解説
実際の現場の実感として、アーンアウトの相談が増えている一方、「そもそもアーンアウトについて詳しくない」や「知っていても条項を詰めきれていない」といった課題が浮き彫りになっていると感じます。目標に営業利益が設定されるケースが多いですが、売り手と買い手でコストについての共通の認識が持てていなかったり、税務リスクが把握できていなかったりと、譲渡後に両者が想定した目的を達成できず、不幸になるケースもあります。
様々な落とし穴があるので注意が必要ではありますが、スタートアップのM&Aが増えていく中で、アーンアウトは売り手にも買い手にもメリットが多い有効な手段です。
手続きやスキームなどに面倒さやリスクを感じてしまう場合は、コンサルタントに相談するなどしながら進めてみましょう。
売り手は、条件達成さえすれば、一括払いで資金を得るよりも、結果的に総額としてより多くの資金を得られる可能性が高いです。
なぜかというと、M&Aの交渉で、買い手側により高く業績を見積もるように説得することは非常に困難なため、一括払いの場合は堅実な価格に落ち着いてしまいがちだからです。
その場合、買い手側の業績予想よりも高い目標を定めてアーンアウト条項を結び、実際に達成すれば、堅実な価格よりも上積みされた対価を受け取ることができます。
特にベンチャーやスタートアップでは、そもそものM&Aの成約率を高める効果があるともいえます。
買い手側の企業も、許容可能なリスクには限界があるので、アーンアウトという実際の業績が伸びなかった場合のリスク回避策があれば、早期に交渉が合意しやすくなります。
買収後、想定した計画やシナジー効果どおりに将来業績を達成できるとは限りませんし、簿外債務や見えない人間関係のリスクなどが見つかることもあります。
アーンアウトを用いれば、それらの理由により業績が思うほど伸びなかったときの払いすぎを防ぐことができ、買い手側にとってリスクヘッジになります。
また、M&Aに際して銀行融資などを利用する場合、一括で多額の資金を融資してもらうより、リスク分散して二度に分けたほうが審査に通りやすくなる効果もあるでしょう。
キーマン条項(ロックアップ)などにより、売り手側の経営者がそのまま一定期間残る場合、モチベーションを下げてしまうことが少なくありません。
アーンアウト条項を結べば、業績の向上が買収価格の上昇につながるため、売り手側の経営者にとってのインセンティブになりモチベーションの低下を防ぐことができます。
こういった観点から、アーンアウトには、買い手側のリテンション(引き留め)施策としての効果もあるといえます。
まず、業績の達成度によって受け取れる額が大きく左右される点が大きなデメリットです。
受取れるはずの対価が手に入らない場合、その後の事業運営や、従業員のモチベーションの低下に繋がることもあります。
買収時にもらえる金額とアーンアウト分のバランスをしっかり考え、アーンアウト分にあまり過大な比重をもたせないよう交渉しましょう。
松尾のポイント解説
達成が困難なストレッチしすぎた目標で、安易に合意しないように注意が必要です。設定した目標を達成するための具体的な手段の目論見がついているかどうか、をシビアに検討しましょう。
アーンアウトで定めた追加の対価が受け取れるのは、将来実績が出てからになるので、当然ながらM&Aが完了した時点で受け取る対価は少なくなります。
売却を検討した際に目標としていたまとまった資金を得ることができないため、計画していた投資や新規事業の立ち上げに影響が出てしまう場合もあります。
売り手の業績が大幅に達成した場合には、当初の想定よりも高い対価を追加で払うことになる可能性があります。
アーンアウトの条件には、「条件達成の場合には、最終利益の1/3」などと業績連動するものもあるため、大きく上ブレした場合には更に想定外の支払いが必要となることもあるでしょう。
ただし、その場合には企業価値も大きく向上したということになるので、買い手企業はその分のメリットを享受できる側面もあるといえます。
アーンアウトは、買い手企業にとっては未知のリスクに備えて支払いを抑えることができる安心な方策です。
一方で、売り手企業は、買収後の数年間ずっと「達成すべき目標」に追われて、自由な企業運営がしづらい心理状態となるともいえます。
目先の目標にとらわれて本来のポテンシャルを潰してしまうことにもなりかねず、せっかくM&Aで傘下に入ったのに、新たなシナジーや技術協力が促されなくなっしまわないか注意すべきでしょう。
一括払いで話がまとまる場合に比べ、期間や条件など契約内容が複雑になるため、両社にとって交渉にかかる手間や負担が増える点は、念頭に置いておきましょう。
また、買い手企業がIFRSを適用している場合、公正価値評価にかかる事務負担・コストも増えることとなります。
松尾のポイント解説
売り手と買い手の2社間だけで交渉・手続きをしていると話がまとまらずに時間が無駄になってしまうこともあるので、外部のコンサルタントなどの力を借りるのも一手でしょう。日本国内でのスタートアップのアーンアウトの事例はまだ増え始めたばかりなので、経験のあるコンサルタントに頼みましょう。
それでは、実際のアーンアウトの現場では、どんな失敗事例が多いのでしょうか。
「失敗した!」「損した!」の一番大きな原因は、アーンアウトの達成条件の内容によるものです。
<条件で明確にすべきポイント>
●どの指標で判断する?
財務指標(売上高、営業利益、EBITDA、当期純利益など)なのか
非財務指標(ユーザー数、解約率、認可取得など)なのか
●誰が判断する?
経営陣の誰が達成/未達成を判断するのか、決定する会議体と出席者は誰か
●いつ判断する?
判断の時期、日付はいつか
●条件は?
買い手企業の技術協力や投資が前提条件?
市場変化などの変動要因はどう織り込むか?など
〇〇円を達成したら〇億円というだけでなく、上記のような条件の詳細を明確にしておきましょう。
それを曖昧にしてしまった結果、M&A後に内部・外部要因や予想外の事情によって計画がうまく進まなかった際に、売り手・買い手の意見がまとまらず、関係性が悪化してしまう例がよく見られます。
また、親会社の傘下に入ることで、移転賃料や親会社基準のガバナンスに合わせるための事務処理、外部コンサル費用など、売り手企業には想定外のコスト負担が増える場合もあります。
それらは営業利益を圧迫してきますので、アーンアウト条項達成判断の際にはどのコストを対象/対象外とするのかも事前に決めておくべきでしょう。
松尾のポイント解説
対策としては、「何をコストに含めるのか、また誰が負担をするのか」など、対象を明確にして、契約書に可能な限り反映すべきです。また、買い手企業による投資を前提として事業計画を作成した場合、約束通り「いくらをいつ、どのように投資してもらうか」についても契約書に入れるべきです。
買い手企業は、M&A後には想定以上の大がかりで忙しい作業があることを忘れてはいけません。
M&A後は現状維持からのスタートなどでは到底なく、新しい企業文化へのアジャストや、ガバナンス対応のために割く時間やコストで、自由な事業運営がしづらくなる可能性もあります。
目先の目標達成に集中する時間が思った以上に取れないフラストレーションを抱えてしまう経営者の悩みに触れることも多いです。
また、目標達成以外に、新規事業や開発など新しいことにも挑戦できる時間もあるだろうと目論んでいる経営者にとってはさらにつらい局面となります。
アーンアウトを行う場合には、これらの要因も勘案しながら現実的な目標値を立てましょう。
アーンアウト達成時に「追加で受取る対価にどれだけの税率がかかるか」も確認しておきましょう。
よくある失敗談としては、「M&A成立時の株式の売却対価は税率約20%なので、アーンアウト分の税率も20%だと思っていた」というものです。
しかしながら実は、アーンアウト分の所得区分は、
① 譲渡所得(税率約20%)、② 一時所得(税率最大45%)、③ 雑所得(税率最大55%)
の3区分に判断されうるといわれます。
M&Aクロージング時にアーンアウト金額が確定している場合のみ、例外的に①が認められるようですが、平成28年10月6日の大阪高裁の判決や、国税庁動向をまとめた税務通信などでは③の最大55%と判断される傾向が多いとされています。
なお、税率20%に抑えるための対策としては、下記の図のようにアーンアウト分を段階譲渡の形で契約する方法があります(段階的に株を譲渡しているため、税率約20%)。
ただし、買い手のデメリットとしてすぐに100%取得ができないため、交渉の工夫が必要です。
いずれにしても、20%と55%では、手元に残る金額に大きな差がありますので、自社の案件がどの区分と判断されるかは、必ず専門家に相談しながら進めるようにしましょう。
アーンアウトは、どちらかというと買い手側のリスクヘッジの側面が強く、買い手側有利に進みがちといわれます。
そんな中、売却を急ぐあまり、売り手企業が損を被ってしまわないよう、売り手側の企業の経営者が把握しておくべき注意点を解説していきます。
アーンアウトの条件には、純利益や営業利益などを指標にすることが多いですが、買い手側はそれらの業績をある程度操作することも可能だということに注意が必要です。
なぜなら買い手側には、対価の支払いを減らそうという意向が働く可能性があるからです。
例えば、全社費用の按分などを多めにして利益を圧迫して、見かけ上の売り手側企業の利益を少なめに見せることもできます。
こういった事態を防ぐためには、アーンアウトの権利を侵害することを目的とする行為は一切行えない、といった内容を契約に盛り込むなどの対策を取りましょう。
松尾のポイント解説
財務指標だけではなく、事業を推進するうえで不可欠な一定の事象の発生(例:免許の取得等)を、アーンアウト条項に基づく支払い条件にすることも有効です。例えば、医薬品開発の事業の場合、新薬の認可取得をアーンアウトの条件とすることがあります。
アーンアウトは数年に渡る評価期間の契約なので、事情によっては、期間が終わる前に「再売却」したいといわれてしまう可能性もあります。
売り手側としては、条件達成に取り組んでいる最中に再売却されるのはデメリットなので、なるべくそれを回避する取り決めを設けたいところです。
具体的には、アーンアウト期間中に買い手側が対象事業を売却する場合は、買い手が売り手に対価を支払うなどの取り決めが必要でしょう。
アーンアウトの評価期間が長くなればなるほど、対象となる事業の業績と、M&A完了時の企業の価値との関連は弱まります。
また、市場変化や外的要因の影響を受けやすくなるので、達成/未達成の評価を公平に判断するのも難しくなるため、期間の長さには注意しましょう。
実際に相談を受ける案件の傾向からみても、一般的に、評価期間は1〜3年が適切でしょう。
松尾のポイント解説
スタートアップM&A減税の評価が「M&A後5年以内に成長要件を満たした場合」となったので、これにあわせて5年の期間を設けて、事業成長と減税のメリットを共に享受しようという案件も、今後増えてくるのではないかと思います。
アーンアウトを利用した際の会計処理についても、注意が必要です。
具体的には、日本基準と国際基準(IFRS)では「のれんの変動」に関する取扱いが異なります。
日本基準では、アーンアウトは「条件付取得対価」と呼ばれ、条件付取得対価は支払いが決まった段階で取得原価の修正として認識し、のれんを追加で計上するのがルールです。
つまり、アーンアウトの取得が確実になるまでは、のれん計上や会計処理を実施しないということです。
逆に、アーンアウトを達成できなかった場合には、会計処理は特に発生しません。
国際会計基準(IFRS)では、アーンアウトの見込み金額(のれん)を、M&A成立後(取得日)すぐに計上しなければなりません。
後日、アーンアウトが実際に成立した際には、当初計上したのれんの金額に変動はなく、のれんに減損が発生しない限り金額は変わりません。
また、アーンアウトが成立しなかった時には、アーンアウト分の支払いの必要がないので、その金額を収益として計上することになります。
つまり、 IFRSの場合は、最初に公正価値で全額を認識しなければならないので、アーンアウトの達成可能性を見極めたうえで、その金額の見立てが非常に重要になってきます。
価格の算出の仕方や交渉が難しそうな場合は、経験のある専門家などに相談するのも良いでしょう。
ここまでメリット・デメリット、注意しておくべき点などを述べた「アーンアウト」ですが、結局、アーンアウトをすることは損なのでしょうか?得なのでしょうか?
結論としては、条件さえ間違わなければ「損をすることはない」ものと考えてよいと思います。
そもそもアーンアウトの存在は、M&A後の実際に業績にもとづいた適正価格で、最終の合計支払い金額を決めることなので、その点において売り手も買い手も、お互いが損するわけではありません。
むしろ、アーンアウトなしで売却を行うことが、ギャンブルのようなものなのです。
予想不可能な将来業績だけで一括払いの売却額を決めることは、よく考えればかなりのリスクがあるものだとわかるはずです。
もちろん、アーンアウトなしで、実際の価値より高く売り抜けて得をすることも可能ですが、説得と交渉、そしてその有利な条件で合意に至るのはかなり難しいです。
買い手にとっては、アーンアウトを使われると、そういったラッキーを掴むことはできませんが、今回紹介したような注意点に留意しながらお互いに上手にリスクヘッジを行い、地に足がついたM&Aを行うほうが得策といえるでしょう。
アーンアウト条項が実際に日本企業のM&Aで使われ始めたのは、2017年前後からで、米国に比べてまだ件数は少ないといわれています。
M&Aの契約条件は非開示であることも多いため、実数データはありませんが、近年、クロスボーダーのM&Aや、スタートアップのM&Aの交渉場面で相談を受けることが増えてきたと、M&Aコンサル企業各社からの説明でも触れられるようになってきました。
なお、近年の日本企業のM&Aでアーンアウト条項が使われた有名な事例は以下のとおりです。
売り手 | 買い手 | 実施時期 | 取引の概要 | アーンアウト条項の内容 |
3ミニッツ (インフルエンサーマーケティング) |
グリー (SaaS、SNSマーケティング) |
2017年2月 | ・現金を取得対価とした買収価格は43億円、のれん計上額は42億円。 | ・3年間の業績に応じ追加代金を支払う(内容は非開示) |
コインチェック (仮想通貨交換業者) |
マネックスグループ (オンライン証券) |
2018年4月 | ・当初の取得対価は、株式で36億円。 ・不正アクセスに関するリスク対応の最中であったことからアーンアウト条件を付記。 |
・3年間の業績に応じ、最終利益の1/2を上限支払う。 |
Quartz Media LLC (米国の経済メディア) |
ユーザベース (NewsPicks、INITIALなどを運営) |
2018年7月 | ・取得当初の対価は普通株式で約27億5,000万円と現金約55億円を支払い。 ・その後Quartz社の業績の達成具合にあわせて、最大約27億5,000万円と現金約11億円を支払うこととした。 |
・2018年12月期の売上高のうち諸条件を満たしたもの |
MEJ (化粧品・健康食品) |
ユーグレナ (バイオベンチャー) |
2019年6月 | 。MEJのCEOのコミットメントを高めるために株式交換方式で取引し、さらに業績条件付きのストックオプションを割り当てた。 ・取得対価である株式の時価は7億4,300万円、のれん計上額は5億7,800万円。 |
・ストックオプションの行使条件は、①2020年9月期または2021年9月期において、売上高20億円かつ営業利益1.2億円以上、② ①と同期もしくは2022年9月期において、売上高35億円かつ営業利益3.5億円以上の水準超過 |
その中でも、「リスクヘッジ策として、アーンアウト条項をうまく活用した例の代表」といわれる、コインチェックの買収に関して、その理由を更に詳しくみていきたいと思います。
出典元:コインチェック公式HP
コインチェックのアーンアウト条項の内容は、旧株主のセレスのIR情報をみると、以下のように書かれています。
株式売却額に追加して、コインチェック社の2019年3月期から2021年3月期の各事業年度の税引後当期純利益相当額の50%分から、訴訟費用等を差し引いた金額が、売却時の持ち分比率に応じてセレスに支払われる条項。(株式会社セレス IR情報より)
簡単にいってしまうと、2019~2021年の売却後3年間については、当期純利益の半分が旧株主に支払われるということです。
ただし「訴訟費用などを差し引いた額」という条件がついており、訴訟費用が莫大になるという買い手にとってのリスクをヘッジする内容となっています。
下の図から分かるように、株式売却額の36億円に対して、2018年3月期の営業利益が537億円ですので、まだまだ追加の支払い額が増える可能性があります。
2018年3月期のコインチェックの業績
出典元:マネックス2018年3月期決算説明資料
コインチェックはこれだけの利益を生んでいるため、買い手側からすれば魅力的であると同時に、NEMの不正流出問題もありリスクが高い案件でした。
正式な認可を得ていない「みなし業者」であるため、金融庁の判断次第ではいつサービス停止に追い込まれてもおかしくない状況だったのです。
アーンアウト条項を採用することで、買い手側のマネックスはリスクヘッジできていますし、コインチェック側は今後3年間実績がでた場合にはそれに見合ったキャッシュを受け取ることができます。アーンアウト条項を上手く活用した事例といえるでしょう。
この記事では、アーンアウト条項について、メリット・デメリット、注意点などを解説しました。
スタートアップM&A減税の追い風もあり、今後日本企業のM&A市場での活用がどんどん進むと予想されているアーンアウト。
条件をしっかり詰めて、注意点をよく理解しておけば、売り手・買い手双方にとって、リスクヘッジのメリットのある条件であることがおわかりいただけたかと思います。
M&Aを検討しているけれど、価格交渉が難しそう、希望する金額で売れなそうといったお悩みをお持ちの場合は、ぜひアーンアウトも視野に入れながら専門家に相談してみましょう。
画像出典元:Pexels、o-dan、PhotoAC
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