経営者必読!アーンアウト条項で損するとはどういうことか解説!

経営者必読!アーンアウト条項で損するとはどういうことか解説!

記事更新日: 2018/10/08

執筆: 宮嵜涼志

コインチェックのM&Aに盛り込まれたことで注目されたアーンアウト条項。アメリカではすでに常識ですが、日本でも広がりを見せています。

適正な売却価格をもたらすという点で、売り手にも買い手にもメリットがありますが、同時に注意点もあるアーンアウト条項。

「アーンアウト条項で損する」とはいったいどういうことか、ということも含め徹底解説します。経営者必読です!

アーンアウト条項とは?

アーンアウト条項とは、M&Aの完了後一定の期間(通常 1年〜3年)において、売却した事業・会社が特定の業績を達成した場合に、買い手企業が売り手企業に追加の対価を支払うことを定めるものです。

追加で対価を支払うときの評価の基準としては、純利益・売上高・EBITDAなどが用いられます。

例えば、「1年後に売上●円突破できた場合に追加で2億円」というアーンアウト条項付きで、10億円で売却したとします。

この場合、まずM&A完了時に10億円を受け取り、さらに売上の目標を達成した場合、追加の2億円を受け取ることができます。

アーンアウト条項の目的

アーンアウト条項の最大の目的は、売り手・買い手の双方が納得できるよう最終的な買収価格に幅をもたせることです。

M&Aの買収価格は、その事業や会社の将来業績の予想を踏まえて決定されます。しかし将来業績は不確定なものであり、現状を知り尽くした売り手側とすべてを把握しきれていない買い手側の間で、将来業績の予想で乖離が生じることも少なくありません。

そういった問題を解決できるのが、アーンアウト条項です。実際の将来の業績に基づいて最終的な買収価格を決まるため、将来の業績予想が双方で食い違う場合でも、M&Aの合意につなげることができます。

売り手のメリット・デメリット

メリット

アーンアウト条項の売り手側のメリットは、条件を達成すれば、多くの対価を手に入れられることです。

売り手側からすれば、買い手側の業績見積もりが低すぎると感じることがあるでしょう。しかし、買い手側に対してより高く業績を見積もるように説得することは非常に困難です。

そういった場合に、買い手側の業績予想よりも高い目標を定めてアーンアウト条項を結べば、実際に目標を達成した時に実績に見合った対価を受け取ることができます。

デメリット

デメリットは売却完了時に受け取る対価が少なくなることです。当然ながらアーンアウト条項で定めた追加の対価が受け取れるのは、将来実績が出てからになるので、M&Aが完了した時点で受け取る対価は少なくなります。

またアーンアウト条項を加えることで、契約内容がやや複雑になるため、交渉にかかる手間や負担が増えることもデメリットだといえます。

買い手のメリット・デメリット

メリット

買い手側の主なメリットとしては、M&A後に見込んでいた業績をあげられなかったときのリスクヘッジができること、そして買収事業・企業に残る経営者のモチベーションを維持できることの2つが挙げられます。

払い過ぎるリスクを減らせる

買収価格の決定に際して、その根拠とした将来業績を見積もり通りに達成できるとは限りません。アーンアウト条項では実際の業績に合った対価を支払うため、業績が思うほど伸びなかったときの払いすぎを防ぐことができ、買い手側にとってリスクヘッジになります。

売り手経営者のモチベーション維持

またキーマン条項(ロックアップ)などにより、売り手側の経営者がそのまま一定期間残る場合、モチベーションを下げてしまうことが少なくありません。

アーンアウト条項を結べば、業績の向上が買収価格の上昇につながるため、売り手側の経営者にとってのインセンティブになりモチベーションの低下を防ぐことができます。こういった観点から、アーンアウト条項には、買い手側のリテンション施策として側面もあるといえます。


これら2つのメリットに加え、M&A実施時に用意するキャッシュが少なくてすむというメリットもあります。

デメリット

売り手側と同様、アーンアウト条項を加えることで、契約内容がやや複雑になるため、交渉にかかる手間や負担が増えることがデメリットです。

経営者が知っておくべき注意点

実際にアーンアウト条項を結ぶ場合、売り手側の企業の経営者が把握しておくべき注意点を解説していきます。

買い手側による業績操作の可能性

アーンアウト条項において、何をもって追加の対価の支払いが発生するかを決めることは非常に重要です。

一般的には純利益や売上高などの業績を指標にすることはありますが、買い手側はそれらの業績をある程度操作することも可能だということに注意が必要です。なぜなら買い手側には、業績を少し抑えて対価の支払いを減らそうというインセンティブが働く可能性があるからです。

こういった事態を防ぐためには、売り手側のアーンアウトの権利を侵害することを目的とする行為は一切行えない、といった趣旨の規定をおくなどの対策が考えられます。

また財務指標ではなく、事業を推進する上で不可欠な一定の事実の発生を、アーンアウト条項に基づく支払いの条件にすることも有効です。例えば、医薬品開発の事業の場合、新薬の認可取得をアーンアウトの条件とすることがあります。

買い手側による売却の可能性

買い手側が、アーンアウト期間に買収した事業を別の企業に売却しようとした場合、アーンアウト条項がその妨げになってしまいます。なぜなら、事業の売却は売り手側のアーンアウト権利の侵害になるからです。

そのため、アーンアウト期間中に買い手側が対象事業を売却する可能性があるときは、買い手が売り手に対価を支払うことで、売り手のアーンアウトに関する権利を消滅させることができるオプションを用意するなどの、準備が必要となります。

アーンアウトの評価期間は重要

アーンアウトの評価期間が長くなればなるほど、対象となる事業の業績と、M&A完了時の企業の価値との関連は弱まります。M&Aが完了してから、10年後の業績に基づいて買収価格が変わるのはおかしい話だというのは、感覚的にも明らかです。

アーンアウト期間は適度に短く設定する必要があります。 1〜3年がアーンアウトの評価期間としては一般的です。

コインチェックの事例研究

出典元:コインチェック公式HP

コインチェックのアーンアウト条項の内容は、旧株主のセレスのIR情報をみると、以下のように書かれています。

株式売却額に追加して、コインチェック社の2019年3月期から2021年3月期の各事業年度の税引後当期純利益相当額の50%分から、訴訟費用等を差し引いた金額が、売却時の持ち分比率に応じてセレスに支払われる条項。(株式会社セレス IR情報より)

簡単にいってしまうと、2019~2021年の売却後3年間については、当期純利益の半分が旧株主に支払われるということです。

ただし「訴訟費用などを差し引いた額」という条件がついており、訴訟費用が莫大になるという買い手にとってのリスクをヘッジする内容となっています。

下の図から分かるように、株式売却額の36億円に対して、2018年3月期の営業利益が537億円ですので、まだまだ追加の支払い額が増える可能性があります。

2018年3月期のコインチェックの業績

出典元:マネックス2018年3月期決算説明資料

コインチェックはこれだけの利益を生んでいるため、買い手側からすれば魅力的であると同時に、NEMの不正流出問題もありリスクが高い案件でした。正式な認可を得ていない「みなし業者」であるため、金融庁の判断次第ではいつサービス停止に追い込まれてもおかしくない状況だったのです。

アーンアウト条項を採用することで、買い手側のマネックスはリスクヘッジできていますし、コインチェック側は今後3年間実績がでた場合にはそれに見合ったキャッシュを受け取ることができます。アーンアウト条項を上手く活用した事例といえるでしょう。

アーンアウト条項で損するとは?

アーンアウト条項は、M&A完了後の実際の業績にもとづいて、売却価格を変動させることで、M&Aを適正価格で行うためのものです。

適正価格で売却が行われるため、「アーンアウト条項で損する」ということは基本的にはありません。むしろアーンアウト条項なしで売却を行うことが、ギャンブルのようなものなのです。

予想不可能な将来業績を予想して、アーンアウト条項なしにその予想にもとづいて売却額を決めることは、よく考えればかなり不確実性が高いことだと分かるはずです。

そういった意味で、アーンアウト条項なしで賭けを行って、実際の価値より高く売り抜けて得をすることは可能です。アーンアウト条項ではそういったラッキーを掴むことはできませんが、お互いが損をしないためのものだということができます。それはコインチェックの事例からも分かるのではないでしょうか。

もちろん、アーンアウト条項の売却額の調整を正しく機能させるためには、今回紹介したような注意点に留意する必要があります。アーンアウト条項を上手く活用してリスクヘッジを行い、地に足がついたM&Aを行いたいものですね。


画像出典元:Pexels

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