経理業務において「紙中心の作業に限界を感じている」「人手不足で月末や決算期の会計処理が大変」といった課題を抱えている企業は少なくありません。
こうした問題を解決する手段として、経理業務のDX化が近年注目されています。
専用ツールを導入し、経理業務のDX化を推進することで、業務効率の向上やコスト削減、属人化の解消が期待できます。
本記事では、経理業務DX化のメリットや進め方を、成功事例を交えて詳しく解説します。
このページの目次
経理業務のDX化とは、デジタル技術を活用して経理業務のプロセスを抜本的に変革することです。
ITツールを活用し、ペーパーレス化を促すことによって、経理業務にありがちな属人化や非効率的な手作業、データの散財といった問題が解消されます。
また、経営状況を可視化できるだけでなく、浮いたリソースをコア業務に集中させることで、企業全体の競争力を高める効果も期待できます。
経理業務のDX化は企業の成長にとって欠かせない取り組みです。
ここでは、DX化が必要とされる主な理由を4つ紹介します。
経理業務は、営業や開発といった収益に直結する「フロントオフィス部門」ではなく、利益創出に直結しない「バックオフィス部門」に属します。
そのため、最小限の人員でまかなっている例が一般的です。
また、経理業務は専門性が高く、少子化による慢性的な人手不足の影響で、担い手が減少している点も見過ごせません。
こうした課題を解決するために、経理業務のDX化による省人化が必要となります。
経理業務は、日々の入出金管理や経費精算から、月次・四半期・年次の決算、監査対応まで膨大です。
これらの業務は、企業の意思決定や社会的評価を左右するため、極めて高い正確性が求められます。
ところが紙ベースの手作業では、ヒューマンエラーのリスクが高まり、業務の効率も低下します。
そのため、業務の効率と精度を向上させる意味でも経理業務のDX化が重要です。
2022年1月に改正された電子帳簿保存法により、電子取引のデータは電子のまま保存することが義務付けられました。
これにより、仕訳表・総勘定元帳などの国税関係帳簿、貸借対照表・損益計算書などの決算関係書類、領収書・請求書の控えといった取引関係書類を電子化した場合、それらは電子帳簿保存やスキャナ保存の要件を満たして保存しなければなりません。
2024年1月1日から、一定の条件を満たす事業者については、猶予措置が適用されますが、全ての事業者に電子取引データの電子保存が義務化されています。
こうした法改正に対応するためにも、経理業務のDX化が求められます。
2023年10月からインボイス制度が導入され、仕入税額控除の適用要件が厳格化されました。
これにより、取引先が適格請求書発行事業者として登録されているかの確認や、請求書の形式が適正であるかのチェックが必要になりました。
これらを手作業した場合の負担は膨大になるため、経理業務DX化の重要性が高まっています。
経理業務のDX化を進めるメリットは、主に以下の6つです。
経理業務のDX化を進めると、日々の入力・転記・集計、給与計算、決算業務などが自動化できます。
これらを手作業で行った場合に比べて、大幅に時短効果があり、ヒューマンエラーも減ることから業務の効率化が進みます。
経理業務のDX化により、業務効率が向上し時間外労働の減少につながるため、人件費を抑えることができます。
また、経理業務では作業プロセスで紙を使用する機会が多く、DX化によってペーパーレス化が進むことで、用紙代や印刷代、郵送費などのコストも削減可能です。
さらに、書類の保管スペースが不要になり、余ったスペースの有効活用にもつながります。
経理業務は属人化しやすく、特定のベテラン社員が不在になると、業務の停滞やミスのリスクが高まります。
ITツールを使用すると、高いスキルや経験を要する仕訳・計算・転記といった経理業務の標準化が可能です。
特別なスキルや経験がなくとも、一定の研修を受ければ誰でも業務を遂行できるため、属人化解消につながります。
紙の生産には森林の伐採が伴い、廃棄や焼却によってCO2が排出されます。
経理業務のDX化によるペーパーレス化が進めば、これらを抑制できるため、環境負荷の軽減につながります。
持続可能な経営を実現するためにも、DX化は重要な取り組みのひとつです。
経理業務のDX化推進により時間外労働が減ると、社員の多様な働き方が可能になります。
年次有給休暇や育休の取得、出社を遅くしたり、退社時間を早めたりといった調整もしやすくなります。
また、経理業務は、紙使用や書類への押印や承認が多く、セキュリティリスクもあることから、リモートワークは難しいと考えられてきました。
しかしITツールを導入すれば、クラウド上でセキュアな環境のもと経理業務が遂行できます。
電子署名を活用すると、オンラインでの申請・承認も可能になるため、場所や時間に縛られずに仕事ができるようになります。
経理業務のDX化によって、企業のキャッシュフローや財務状況をリアルタイムで把握できるようになります。
会計には、決算書など外部に公開する「財務会計」と、社内のみで経営向上や改善のために活用する「管理会計」があります。
DX化を進めることで、財務会計では資産や負債、資本の流れが把握でき、管理会計では原価計算や日々の資金繰り、予算管理などを日次・月次といった単位で可視化できます。
これにより、経営判断のスピードが向上し、より適切で迅速な意思決定が可能になります。
続いて、経理業務の中でDX化できるものを具体的に5つ紹介します。
帳票発行システムを活用すると、請求書発行業務をDX化できます。
アナログ対応の場合、請求書は取引先の要望に合わせて郵送やFAX、メールなどさまざまな手段で送付しなければなりません。
この方法では、作業に時間と手間がかかるだけでなく、用紙代や郵送費も必要になります。
一方、帳票発行システムを導入すれば、請求書の発行と送付、押印プロセスを自動化できます。
さらに取引先もオンラインで受け取り、そのまま保存できるため利便性が大幅に高まります。
受注や発注業務は、Excelなどの表計算ソフトで対応しているケースが多いです。
しかし、こうした業務は属人化しやすく、特定の社員でしか扱えなかったり、新たな担当者への引き継ぎが難しいといった課題が生じます。
加えて、表計算ソフトでは受発注と同時に発生する勘定科目の仕訳を直接的には行えず、手作業による追加プロセスが必要です。
その点、会計ソフトを活用すると、受発注と同時に勘定科目ごとの仕訳やその後の試算表、貸借対照表や損益計算書といった決算書類作成までが自動化できます。
経費は、社員が立て替えた費用を申請書に記入し、領収書とともに経理部門に提出するのが一般的です。
しかし、申請書の作成には時間と手間がかかるうえ、記入漏れや計算ミス、二重申請などのチェックや差し戻しが必要となり、社員にとっても経理担当者にとっても負担が大きいです。
このプロセスをDX化すると、オンライン申請や領収書等の自動読み取り・精算・保存が可能になります。
また、記入漏れや計算ミスの自動検出や承認フローの短縮により、業務の効率化が実現します。
さらに、会計ソフトと連携させると仕訳や決算書類作成までを自動化できます。
給与計算も、勤怠管理システムや人事労務システムなどと連携させることで、大幅に効率化が可能です。
給与計算は、社員ごとの勤怠情報や人事労務情報に基づく計算や、法改正・税制改正に対する正確かつ柔軟な対応が求められます。
給与計算システムを活用すれば、改正に即時対応でき、給与・賞与の計算や年末調整・法定長所・源泉徴収書の作成までを自動化できます。
決算書は以下のようなプロセスで作成します。
会計ソフトを使うと、各部署に分散された会計関連書類の収集のうえ、上記のような仕訳・転記、各種決算書類の作成までを自動化できます。
経理業務のDX化を推進するには、適切な手順を踏むことが重要です。
ここではその進め方や注意点を解説します。
まずは、現在の経理業務全体を可視化し、各フローを洗い出します。
そのうえで、以下のような観点でDX化によって解決すべき課題を明確にします。
課題解決につながるツールを選定しないと、コストや時間の無駄になってしまいます。
事前にしっかりと現状を把握し、必要な機能を見極めることが必要です。
経理業務は、生産管理、在庫管理、人事労務管理、勤怠管理など、多くの部門と連携して進める必要があります。
また、経費精算や請求書の発行・受け取り、支払いについては、社員や取引先、金融機関の理解も必要です。
そのため、DX化を進めるには、社内への周知を徹底し、取引先や金融機関にも丁寧な説明が求められます。
とくに取引先とはシステム上の連携が可能かどうかを綿密に確認することが不可欠です。
経理業務のDX化を推進するには、ITリテラシーの高い人材が必要になります。
どれだけ優れたシステムでも、導入直後は不明点が多く、想定外のエラーやトラブルが起きがちです。
また、効果を最大化するには、システムを適宜アップデートすることも重要です。
そのため、IT人材を新たに採用したり、社内で育成したりして、DX化が確実に定着するよう促す必要があります。
経理業務をDX化する目的の一つに、業務の標準化があります。
一部の社員しか対応できないシステムでは、DX化する意味が半減するからです。
そのため、ITツール導入時には誰もが理解できるマニュアルを策定し、属人化しない仕組みを構築することが重要です。
経理業務をDX化するために欠かせないツールを紹介します。
ツール名 | 概要 |
クラウド会計システム | オンライン上で、伝票の入力・仕訳から決算書類作成までを一気通貫で行え、経営分析もできます。クラウド型のため、法改正にも対応可能です。 |
ERP(Enterprise Resource Planning) | 会計のみならず、生産・購買・在庫・人事・営業など社内の基幹業務のDB(データベース)を統合して一元管理できます。既存システムとの連携や、特定分野に特化した運用も可能です。 |
RPAツール | 定型業務に限定されますが、ロボット(ソフト)を使ってDBからのデータダウンロード・データ入力・集計・請求書作成・経費確認・メール送信などが自動化できます。 |
ワークフローシステム | 経理処理や精算などの申請・承認・決裁をシステム上で完結できます。マルチデバイスから利用可能なため、リモートワークやノマドワークにも対応できます。 |
AI-OCR | 画像から文字を自動読み取り、紙の請求書やレシートをデータ化し、各種帳票を解析して必要なデータのみを抽出し仕訳できます。 |
実際に経理業務のDX化推進に成功した企業の事例を紹介します。
買い物アプリ「カウシェ」を運営する株式会社カウシェでは、経理業務を税理士にアウトソーシングしていました。
しかしこの方法では、経営分析や意思決定に必要な数字が把握しにくいため、経理だけでなく、人事労務や承認フローも含めたERPを導入。
とくに経費や請求書の事前申請と支払依頼をセットでできるようにすると、従業員が申請内容を自分でチェックするようになり、コスト意識が高まりました。
また、購買申請から承認までの時間は以前の3分の2に短縮されました。
さらに、月次カスタムレポートや、前年比較、年度跨ぎなど任意の切り口で活用可能な分析・レポートにより、経営アクションの策定・実行の効率がアップしています。
参考:フリー株式会社|株式会社カウシェ 3年後のバックオフィスから逆算してfreeeを導入!業務フローの再構築で従業員のコスト意識の改革に成功。
自動車・輸送機器の専門商社である株式会社ケーユーホールディングスでは、請求書や納品書を電子データで受け取れるシステムを導入して経理業務のDX化に成功しました。
同社では、取引先から届いた紙の納品書のデータを基幹システムに入力したり、請求書と突合せたりする作業に時間と手間がかかり、ヒューマンエラーによる記載ミスが多発するのが課題でした。
請求書と納品書の内容が一致しない場合は、再確認や修正を行わなければなりません。
そこで請求書と納品書を電子データで受け取れるようにすると、データの手動入力や確認作業がほぼ不要になり、担当者の作業負担が大幅に減少しました。
その結果、日々の作業時間が30〜1時間ほど、月間では10時間以上短縮できたケースがあります。
参考: 株式会社Oneplat|oneplatの導入で経理部門全体における業務フローの改善と、業務効率の向上を実現
経理業務をDX化すると、業務効率向上やコスト削減といったメリットに加え、経営状況の見える化により重要な意思決定に役立ちます。
経理業務をデジタル化する方法は複数あるので、事前によく調べたうえで自社にとって最適なサービスを導入することが大切です。
もし、紙中心の経理業務に限界を感じている場合や、人手不足を解消したい経営者の方は、経理のDX化を検討してみることをおすすめします。
画像出典元:photoAC、Pixabay