特定支出控除|会社員のスーツも経費申告できるのか?詳しく解説!

特定支出控除|会社員のスーツも経費申告できるのか?詳しく解説!

記事更新日: 2021/04/23

執筆: 浜田みか

仕事に必要な支出だけど、会社では経費として認められていないから自腹を切っている。そんな会社員は意外と多いのではないでしょうか。

たとえば、スーツ。取引先への交通費は会社が経費として負担してくれても、そこへ行くための衣服については自分で調達するのが当たり前になっていますよね。

とはいえ、スーツも複数着揃えるとなると手痛い出費です。

そんな会社員が知っておくと得する税知識が「特定支出控除」です。

今回は、会社から給与を受けているビジネスパーソンに向けて、特定支出控除の概要と対象範囲、控除を受けるための要件をわかりやすく詳しく解説していきます。

特定支出控除とは

特定支出控除と聞いても、どんな制度なのか、言葉からではイメージが湧きづらいですよね。

ここでは、特定支出控除とは何かについて説明するのはもちろん、そもそもの「特定支出」とは何かという基本部分から解説しています。

特定支出控除の概要

特定支出控除とは税法上の措置の一つで、簡単にいえば会社員が直接、国に経費申告できる制度のことです。「特定支出」とは、税法上で定められた特定の支出を指します。

通常、会社員は所属している会社が経費負担をするのが一般的です。そのため、会社員には必要経費に対する控除がありません。

個人事業主であれば、収入から必要経費を差し引くことによって所得を減らし、税負担を軽減することが可能です。

その一方で会社員の場合は、給与所得控除がありますから、基本的には必要経費に対する控除を必要としないと考えられているのです。

しかし、会社員も仕事をするうえで通勤にかかる交通費やスーツ代、取引先への接待や贈答による交際費など経費が発生します。

これらの費用は、たいてい会社が支給してくれますが、会社によっては個人負担するケースがあります。

この負担額が給与所得控除額の範囲で収まらない場合、完全に個人の負担で終わってしまいます。

それでは負担額が大きくなるほどに収入が減り、生活に支障が出てしまいかねません。

特定支出控除は、仕事をするうえで必要な経費を多く使ってしまった会社員を救済する措置のようなものなのです。

特定支出控除の対象範囲

特定支出控除が認められている項目と対象になる範囲は、次の通りです。

交通費は、公共交通機関の料金が対象です。ただし、グリーン車料金は含まれません。

マイカー通勤で高速を使って遠方の勤務先へ出勤している場合には、燃料費や高速代も必要経費としてみなされます。

転居費については、引っ越しでの梱包費用のほかに、転居先への家財運搬や運送料について別途発生している場合には、これらも含まれます。

また、転居に伴って一時的にホテルなどに宿泊する必要があった場合は、宿泊費用も転居費として計上できます。

さらに、引っ越し業者を利用して家財運搬する際に損害保険に加入した方は、その料金も含めることができます。

ただし、転居に伴って壁の塗り替えや貼り替えが発生し、その料金を負担しても、それらは引っ越し行為そのものに直接関係するわけではないため、対象範囲には含まれません。

業務上必須となる資格取得において自己負担した分は、特定支出控除の対象範囲です。

たとえば、自動車運転免許や特殊免許の取得、簿記などの一般的な資格から、資格取得者しか業務を営めない弁護士や公認会計士、医師、歯科医といった国家資格取得まで含まれます。

帰宅旅費に関しては上表に記した通りですが、特定支出控除の範囲として認められるのは、1ヵ月のうちに4往復以内の費用だけです。

なお、新幹線など高速鉄道におけるグリーン車の利用料や、飛行機による旅費でファーストクラス料金は含まれません。

図書費・衣服費・交際費の3項目は、「勤務必要経費」に括られます。3項目合計で65万円を上限に、特定支出控除の適用範囲として認められます。

会社員に着ていくスーツや、アパレル業で自社ブランドを自腹購入している人は、特定支出控除の衣服費に該当します。勤務必要経費として申告することができます。

ただし、会社で着用する衣服で私服が許されており、必ずしもスーツ着用の必要がない会社の場合は、必要経費と認められず、申告しても控除対象から外されるケースもあります。

会社でカジュアルライクな私服が認められているケースで、通勤用にTシャツやジーンズといった私服を購入しても、それらが業務上必要な衣服とは認められません。

あくまでも、その着衣が業務上必要不可欠な場合においてのみ対象となりますので、注意してください。

いずれの項目も、給与を支払者(会社)による証明が必要です。

特定支出の控除額算出法

特定支出控除は、会社員の給与所得控除に必要経費を乗せて申告します。それには、自分の所得控除がどれくらいの金額になるかをまず把握しなければなりません。

自分の給与所得控除を知る

該当する給与所得控除額は、給与等の年間の収入額に応じて異なります。

給与等の収入金額 給与所得控除額
180万円以下 収入金額×40%(最低65万円)
180万円超え~360万円以下 収入金額×30%+18万円
360万円超え~660万円以下 収入金額×20%+54万円
660万円超え~1,000万円以下 収入金額×10%+120万円
1,000万円超え 220万円(上限)

 

特定支出の控除額算出法

自身に該当する給与所得控除額をもとにして、特定支出の控除額を算出します。特定支出控除で認められる金額は、次の算出式によって求めます。

特定支出控除額=その年の給与所得控除額×1/2

年収450万円の会社員の場合、給与所得控除額は144万円です。特定支出控除の対象金額になるボーダーラインは、144万円×1/2=72万円。

特定支出と認められるのは72万円を超えて自己負担した分であり、その差分が控除対象になります。

[例]特定支出で80万円を自己負担した場合

80万円-72万円=8万円・・・8万円が控除対象です。

 

特定支出控除の申告方法

特定支出控除額を算出してみて対象に当たる場合は、次の手順で申告の準備をしましょう。

1. 自己負担した経費の領収書を用意する

自己負担した経費の領収書、もしくはレシートを用意します。これらがないと、自腹で負担したことの証明ができません。

感熱紙を使ったレシートの場合、劣化して印字された文字が見えなくなることもあります。感熱紙のレシートや領収書を受け取ったときは、早いうちにコピーを取っておきましょう。

2. 会社から証明書と源泉徴収票を発行してもらう

特定支出控除の適用には、会社が「個人が自己負担した」ことがわかるように、その証明書の発行が必要です。この証明書がないと、申告をしても認めてもらえないからです。

また、特定支出控除額の申告には、確定申告も併せて行わなければなりません。会社員が確定申告を行う際には、源泉徴収票が要ります。

源泉徴収票は、その会社員が会社からどれくらいの給与等支給を受けているかの証明書でもあるからです。

よって、会社から受け取る必要がある書類は以下の通りです。

・該当する特定支出ごとの証明書

・源泉徴収票

特定支出の証明書は、それぞれの項目で国税庁によって様式が決められています。該当する特定支出ごとに証明書を用意しましょう。

会社に所定の書式が常備されていないこともあります。その場合は、国税庁のホームページから必要な書面をダウンロードしてください。

必要事項を記入後、会社で証明書欄に記入と捺印をしてもらってください。

>国税庁ホームページ 特定支出控除に関する書面のダウンロードはこちらから<

3. 特定支出の申告書を用意する

各証明書が揃ったら、それらをもとにして4枚組の申告書「給与所得者の特定支出に関する明細書」を作成していきます。

それぞれの項目ごとに内容や金額を記入します。残りのページでは、支出の内訳やさらなる詳細を記します。

4. 確定申告書を用意する

特定支出控除に関する書類が整ったら、併せて税務署に提出する申告書「所得税及び復興特別所得税の確定申告書A」を作成します。

確定申告用フォーマットも国税庁のホームページに用意されています。ダウンロードして、漏れのないように必要箇所を埋めていきます。

会社員の場合、源泉徴収票に書かれている内容を転記するだけですが、わかりにくい場合は税務署で確認しましょう。

漏れや過不足があると不受理になったり、正しく還付金が算定されず、損してしまうこともあります。

確定申告期間は税務署も繁忙期。尋ねるのは、申告期間が始まる前がベストです。聞けば、丁寧に教えてもらえます。

>国税庁ホームページ 確定申告に関する書面のダウンロードはこちらから<

5. 確定申告期間中に申告手続きする

特定支出控除の申告は、所得税の確定申告と同時に行います。申告期間に入ったら、なるべく早めに提出するようにしましょう。後になるほど、窓口が混み合います。

2019年1月~12月の収入に関する申告は以下の期間です。

2020年2月16日~3月15日

 

まとめ

特定支出控除は、意外に広い範囲で適用されています。ただ、知る人も少なく、適用対象になる人も少ないため、あまり知られていません。

ですが、会社員として勤めている間は、いつ対象になるかはわかりません。知識として知っておくことはとても大切です。

また、特定支出控除を含めて税制は、頻繁に変わります。その変更範囲が小さいときもあれば、2019年の消費税改正のように大きく変わることも。

こうした情報は、自分から積極的に知るようにアンテナを向けていなければ、看過してしまいがちです。

常にアンテナを張っておき、自分が利用できる制度がないか注視しておきましょう。

画像出典元:Unsplash、Pexels、Burst

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