契約書は、適切に管理しなければ業務の遅延や法的リスクを招きかねません。
近年では、リモートワークの普及やコンプライアンス意識の高まりに伴い、従来の管理体制では、対応が困難になりつつあります。
本記事では、契約書管理における主な課題を整理し、効率化を実現する具体的な方法を解説します。
このページの目次
まずは、契約書管理の重要性を改めて確認し、契約書管理を怠った場合に起こりうる具体的なリスクについて解説します。
管理体制を整え、リスクを最小限に抑えるためのポイントを押さえましょう。
契約書管理は、主に「リスクマネジメント」と「業務の効率化」の観点から重要といえます。
契約書には、多くの機密情報が含まれ、契約相手との円滑な取引を実現するための大切な文書です。
契約書の管理が不十分なままでは、契約の内容が外部に漏れてしまったり、契約を更新する時期を見落としてしまったりと、企業にとって重大なリスクとなりえます。
また、契約書は、会社法や法人税法により保存期間が定められており、契約締結後も適切な管理が必要です。
取引先との契約内容を確認する場面は、日々の業務でもよくあることです。
契約書管理が適切に行われていれば、契約書をスムーズに探し出せ、契約業務の大幅な効率化につながります。
近年、リモートワークの普及やコンプライアンスの強化が進む中、これまでの契約書管理の方法では、業務の効率化やセキュリティの確保が難しくなっています。
契約書が適切に管理されていないと、リモートワークの場合、契約内容を確認するためだけに出社しなければならないといった非効率な状況が生じる可能性があります。
また、紙の契約書や手作業での管理は、紛失や盗難のリスクが高まるだけでなく、権限のない社員が重要な契約内容を閲覧してしまう危険もあります。
このような課題を解決するためには、契約書の管理を効率化し、安全かつスムーズに業務を進められる仕組みを整えることが重要です。
ここでは、契約書管理の不備によって起こりうるリスクについて解説します。
リスクを未然に防ぐためにも、契約書管理の課題を把握し、適切な管理体制を整えましょう。
契約書が適切に管理されていないと、契約の更新漏れや契約不履行が発生し、取引先から損害賠償を請求されるリスクもあります。
また、紛争や事故が生じた際には、契約書が重要な証拠となります。
もし契約書が見つからなかったり、内容をすぐに確認できなかったりすると、訴訟や交渉で不利な立場に立たされることになりかねません。
さらに、契約書は、会社法や法人税法、電子帳簿保存法などの法令によって、一定期間の保管が義務付けられています。
これらの法令を遵守せず、契約書を紛失したり、法定期間よりも早く破棄したりすると、行政指導や罰則の対象となることもあります。行政指導や罰則を受ける可能性があります。
契約書の数が増えるにつれて、書類の整理や保管、管理台帳の更新作業に多くの時間とコストがかかるようになります。
特に紙ベースで契約書を管理している場合、大量の書類を保管するスペースの確保も必要です。
また、手作業での管理は、紛失や記入ミスといったヒューマンエラーが発生しやすく、管理担当者の負担を増大させます。
契約書の紛失や誤った管理が発覚すれば、取引先や顧客から「管理体制がずさんな企業」と判断され、取引の継続にも影響を与える可能性があります。
また、企業のブランド価値や市場での評価にも悪影響を及ぼしかねません。
契約書は、企業にとって重要な文書であるにもかかわらず、管理が煩雑になり、業務効率を低下させる要因となっています。
ここでは、契約書管理において特に解決すべき4つの課題について解説します。
契約書が適切に整理・分類されていないと、必要な書類を探すだけで時間がかかり、業務の非効率化を招きます。
また、電子データで管理していても、フォルダの整理が不十分だったり、統一されたファイル名のルールが決められていなかったりすると、検索性が低下し、必要な契約書を見つけるまでに時間を要してしまいます。
契約書は、取引の内容確認や監査、法的対応などの場面で頻繁に参照されるため、スムーズに検索できる環境を整えることが重要です。
契約ごとに異なる全ての更新期限を人力で管理するのは非常に難しく、対応漏れのリスクが高まります。
もし更新期限を見落としてしまうと、契約の自動更新や取引の停止、損害賠償の発生といった問題につながる可能性があります。
一方で、更新が必要な契約を期限内に更新しなかった場合、取引先が他社と契約を結んでしまうかもしれません。
また、資材の購入契約などでは、更新期限を過ぎると取引先と再交渉が必要となり、希望する条件で契約を結べなくなる可能性もあります。
こうしたリスクは、契約期日の適切な管理で未然に防ぐことが可能です。
契約書の管理を一部の担当者や部署に依存していると、情報共有がスムーズに行えず、業務の遅延や意思決定の遅れにつながります。
特に、リモートワークが普及している現在では、必要な契約書がすぐに参照できないと、業務の進行が滞る可能性があります。
また、契約書をデータ化していても、フォルダ管理が適切に行われていなかったり、アクセス権限の設定が不十分だったりすると、必要な情報にすぐにアクセスできず、業務効率が低下します。
業務の遅延を防ぎ、迅速な意思決定を可能にするには、契約書の共有体制を整え、関係者が適切にアクセスできる仕組みの導入が必要です。
契約書には機密性の高い情報が含まれるため、適切なセキュリティ対策が求められます。
しかし、アクセス制限が適切に設定されていないと、取引に関係のない社員が契約書を閲覧できてしまい、意図せず機密情報が漏れる危険性があります。
適切なセキュリティ対策には、以下のような施策が有効です。
ここからは、契約書管理を効率化する方法を具体的に説明します。
まずは、自社の現状を分析して、課題をハッキリさせましょう。
たとえば、契約書を探す際に時間や手間がかかっているなら、検索しやすい状態に整えなければなりません。
複数の部署で契約書を管理している場合は、紛失や盗難リスクを減らすために一元管理することが望ましいです。
契約書管理を効率化するための具体的な分類手法は、以下の6種類です。
分類法 | 詳細 |
名称別 | 契約書の名称(例:○○物産人事部雇用契約書)で分類 |
取引先別 | 取引先の会社名や個人名(例:○○物産)で分類 |
日付別 | 契約締結日や契約期間(例:2024年6月分)で分類 |
種類別 | 種類(例:秘密保持契約、業務委託契約、売買契約)で分類 |
プロジェクト別 | プロジェクト名や案件名(例:○○開発計画、○○案件関連取引)で分類 |
部署別 | 契約を締結した部署や担当者(例:営業部)ごとに分類 |
契約書の種類や数に応じて、管理・検索しやすい分類方法を選びましょう。
次は効率的にファイリングする方法を、紙媒体と電子化した場合とに分けて説明します。
・紙媒体
紙の契約書を管理する場合、大分類と小分類の二段階に分ける方法があります。
たとえば「2024年6月分」というボックス(大分類)を作成し、そこにクリアファイルに入れた個別の契約書「2024年6月1日締結・雇用契約書」(小分類)を入れると管理しやすいです。
各契約書には整理番号(「20240601A」など)を記載したラベルを貼り、探しやすくしておきましょう。
・電子化
紙の契約書を電子化する場合は、スキャナー等をつかってPDF化し、Google ドライブ、OneDrive、iCloudなどのクラウドストレージに保管します。
その際に、生成した「電子署名」や「タイムスタンプ」をPDF化した契約書に埋め込んで相手方に送り、相手方も電子署名とタイムスタンプを生成して契約書に埋め込めば完了です。
少し手間がかかりますが、契約書管理システムを利用すると、これらの作業が簡単に行えます。
将来的には電子契約が主流になると考えられるので、この機会に紙媒体の契約書と電子契約を一元管理できるシステムを導入するのも良いでしょう。
次は、解決方法の選定です。
「検索しやすい状態に整える必要がある」という課題なら、前章で紹介したファイリング手法をつかって整理することが解決策になります。
課題が「一元管理する」の場合は、一ヶ所に契約書を集めて内容を確認し、Excel等をつかって契約内容を一覧表(基本台帳)にまとめないといけません。
これらを手作業で行うと大変ですが、システムを導入すれば、簡単に検索しやすい状態に整えることができ、基本台帳は契約書をアップロードするだけで自動作成できます。
契約書管理の効率化には、契約書管理システムの導入が効果的です。
契約書管理システムでは、契約書の作成・管理・検索・更新までをスムーズに行え、手作業によるミスや業務負担を大幅に軽減できます。
また、契約更新の期限が近づくと自動で知らせてくれるリマインダー機能があり、更新漏れや契約終了によるトラブルを防ぐことが可能です。
さらに、アクセス権限を管理し、契約書の閲覧・編集を特定のユーザーにだけ許可できるので、機密事項の漏えいや第三者に悪用されるリスクも低減できます。
万が一、データが消失した際には、自動バックアップ機能が備わっているため安心です。
次は実際に契約書管理を効率化した場合に、どれほどのコスト削減効果があるのかをみていきましょう。
三井ホーム株式会社では、毎月数百件の契約を電子化することで郵送にかかるコスト、現地までの交通費、高速道路料金、ガソリン代、駐車場代を削減しました。
契約の合意から締結にかかる期間が5日から約1.5日に短縮されたので、業務効率も大幅に上昇。
テレワーク中の社員でも契約書にまつわる業務が行えるようになり、従業員の働きやすさにも貢献しました。
参考:オーナーからは「投函作業が無くなり楽になった」と好評の声。契約締結までのリードタイムを3.5日分短縮し、契約業務のスピードアップに成功
株式会社アースフードでは、契約書管理システムを導入したことで意図しない契約継続がなくなりました。
更新期日の3ヶ月前にアラートを設定し、期限切れをなくすだけでなく、余裕をもって対応できたからです。
契約書を探す作業には30分〜40分かかることもあり、印刷する場合は合計1時間もかかっていましたが、システム導入後は1分で完了。
少なくても月に20件は契約書に関する問い合わせがあるので、月間で約20時間分、年間だと約250時間分を節約できました。
参考:検索機能で年間約250時間の工数削減 シンプルなUIで現場浸透も簡単に
株式会社ジャパネットホールディングスでは、システムをつかって紙の契約書と電子契約の一元管理を行ったことで、契約書情報の登録作業が1件当たり10分から3分に短縮されました。
月に200件ほど登録しているので、7分×200件=1400分=毎月約24時間分の行程が削減されたということ。
締結済みの契約書検索も簡単に行えるようになり、他部門からの契約書に関する問い合わせが年間150件から半分ほどに減り、担当社員が本来の業務に集中しやすくなりました。
参考:年間150件あった問い合わせが半減 AI精度の高さに信頼を寄せる
契約書管理システムを利用する場合は、自社の課題を解決できるサービスを選ばないといけません。
ここでは、システムの必須機能と選定ポイントを押さえておきましょう。
どの企業でも必要なのは、契約書の「検索機能」と「リマインダー機能」です。
どちらの機能も大半のシステムに搭載されていますが、検索のしやすさやリマインドの方法は様々なので比較しましょう。
また、過去に、誰が・いつ・どのような変更を行ったのかが記録できる「バージョン管理機能」も、法的な効力のある契約書では必須の機能です。
さらに、契約書の閲覧・編集ができる人を制限する「アクセス権限機能」も搭載しているシステムが多いものの、対応には差があるので、必ず事前に確認しましょう。
契約書管理システムを導入する際は、3つのポイントを重視することが重要です。
システムの導入には費用がかかりますが、たくさんの機能があるほどコストも高くなります。
自社に必要な機能を見極めて、できる限り運用コストを抑えられるシステムを選べると理想的です。
また、月額費用のほかに初期費用がかかるシステムもあるので、トータルでかかるコストを計算しましょう。
使いやすさも大事なポイントで、とくに担当者がITツールに不慣れな場合は直感的に操作できるシステムにしないと使いこなせないかもしれません。
無料トライアルがあるシステムなら、実際に操作を体験できるので安心です。
また、システムの導入に慣れていない場合は、手厚いサポート体制があるとスムーズに導入できます。
契約書の管理はコンプライアンスに関わることなので、法令違反を防ぐためにも、疑問点をすぐに質問・解決できるシステムを選びましょう。
契約書には機密情報が含まれるため、セキュリティ対策が万全なシステムを選びましょう。
たとえば、契約書を保管する場所が、Google cloudやAWSなどの大手企業も利用するクラウドなら一定のセキュリティ基準が担保されています。
しかし、知名度の低いクラウドの場合は、データの暗号化やアクセス制限、バックアップ体制などを確認しないといけません。
また、情報セキュリティ責任者が設置されているシステムであれば、万が一のトラブルにも迅速に対応してもらえるため、より安心して利用できます。
契約書管理システムには、クラウド型とオンプレミス型があります。
クラウド型 | オンプレミス型 |
インターネット経由でサービスを利用する | 自社のサーバーにシステムを構築する |
提供されている機能しかつかえない | 自社独自にカスタマイズできる |
初期費用が安い | 初期費用が高い(数十万~数百万) |
月額費用がかかる | 月額費用がかからない |
専門的なスキルがなくても管理できる | 管理するために専門スキルのある人材が必要 |
すぐに利用開始できる | 利用開始までに数ヶ月かかる |
手軽に利用できるのがクラウド型で、本格的に契約書管理をシステム化したい場合はオンプレミス型が向いています。
契約書管理の効率化は、企業の成長とコンプライアンス強化に欠かせない取り組みです。
近年、紙媒体での契約から電子契約へと移行が加速しており、企業には今後を見据えた戦略的な対応が求められます。
契約書管理システムを導入すれば、 検索性の向上・契約期限の管理・セキュリティ強化などが実現でき、業務負担を大幅に軽減することが可能です。
適切なツールと運用方法を用いて、社員が重要度の高い業務に集中できる環境を構築しましょう。
画像出典元:O-DAN