「契約書なんて、とりあえず保管しておけば大丈夫でしょ?」
そんな風に思っていませんか? 実は、契約書管理を怠ると、思わぬトラブルに巻き込まれる可能性があります。
契約内容を忘れてしまい、取引先との間で認識の違いが生じてしまう
契約違反を犯していることに気づかず、損害賠償を請求されてしまう
契約書を紛失してしまい、重要な証拠を失ってしまう
税務調査で契約書を提示できず、追徴課税を受ける
こんな事態は、絶対に避けたいですよね?実は、契約書管理は、法律で定められた「義務」でもあります。
例えば、会社法では、株式会社は重要な書類を10年間保管する義務があり、法人税法では、税務に関する書類を7年間保管する義務があります。
これらの法律に違反すると、上記のリスクに加えて罰金などが科される可能性も…。でも、難しく考える必要はありません。
この記事では、契約書管理の基礎知識から具体的な方法、電子契約の活用まで、分かりやすく解説します
このページの目次
契約書の保管期間は、法律によって厳格に定められています。保管期間を遵守しない場合、罰則が科される可能性もあるため、注意が必要です。
契約書の保管期間に関わる主な法律は、以下の3つです。
会社法
株式会社の組織や運営に関する基本的なルールを定めた法律です。定款や株主総会議事録、取締役会議事録など、会社の重要な書類は10年間の保管が義務付けられています。
法人税法
法人の所得に対する税金を課すための法律です。帳簿や領収書、請求書など、税務に関する書類は7年間の保管が義務付けられています。
電子帳簿保存法
電子計算機で作成した国税関係帳簿書類の保存方法を定めた法律です。電子取引のデータを保存する場合、一定の要件を満たせば紙の書類と同じ期間保管することができます。
契約書の種類と保管期間一覧表
契約書の種類によって保管期間は異なります。主な契約書の種類と保管期間は以下の通りです。
契約書の種類 | 保管期間 | 根拠となる法律 |
売買契約書 |
5 |
民法第522条 |
請負契約書 |
5 |
民法第656条 |
賃貸借契約書 |
5 |
民法第617条 |
金銭消費貸借契約書 |
5 |
民法第515条 |
商業帳簿、決算関係書類 |
10 |
商法第46条 |
定款、株主総会議事録、取締役会議事録 |
10 |
会社法第120条、第130条、第331条 |
従業員の給与台帳、源泉徴収簿など |
7 |
法人税法第132条、所得税法第231条 |
売上に関する請求書、領収書など |
7 |
消費税法第30条 |
固定資産の取得に関する契約書、領収書など |
7 |
法人税法施行令第68条 |
契約期間が1年未満の契約書(請負契約書、業務委託契約書など) |
3 |
電子帳簿保存法第10条第1項第1号 |
※上記は一例です。契約書の種類や内容によっては、保管期間が異なる場合があります。
保管期間が過ぎた契約書の取り扱い
保管期間が過ぎた契約書は、シュレッダーにかけるなどして、適切に破棄してください。
ただし、個人情報が含まれている場合は、個人情報保護法に基づき、以下のいずれかの方法で廃棄する必要があります。
個人情報保護法では、個人情報の漏えいリスクを低減するために、適切な方法で廃棄することが求められています。
溶解処理
契約書を溶かして、情報を完全に復元できないようにする処理方法です。専門業者に依頼するのが一般的です。
焼却処理
契約書を焼却して、情報を完全に消滅させる処理方法です。個人情報が含まれる契約書を焼却する場合は、専門業者に依頼するか、自治体のルールに従って行う必要があります。
シュレッダー処理
契約書を細かく裁断して、情報を復元困難にする処理方法です。個人情報が含まれる契約書をシュレッダー処理する場合は、クロスカットなどのより細断能力の高いシュレッダーを使用することが推奨されます。
書類溶解は郵便局へ郵送する形でも依頼することができます。↑
以上の方法からコストと必要性を鑑みて適切な廃棄方法を選択し、個人情報の漏えいを防ぐようにしましょう。
契約書の保管期間に関する注意点
契約書はただ保管すればよいというだけのものではなく、保管中や保管の前後にもいくつか注意点があります。
保管期間は、契約が終了した日から起算されます。契約期間が定められていない契約の場合は、契約が履行された日から起算されます。
電子契約の場合、電子帳簿保存法の要件を満たしていれば、電子データで保管できます。電子署名やタイムスタンプを活用することで改ざん防止にも役立ちます。
税務調査が入った場合、保管期間が過ぎていても契約書を提示する必要があります。税務調査は7年前まで遡って行われる可能性があるため、少なくとも7年間は保管しておくことが推奨されます。
契約書の保管期間は、法律によって厳格に定められています。
保管期間を遵守し、適切な方法で契約書を管理することで、コンプライアンスを遵守し、ビジネス上のリスクを回避することができます。
契約書の保管方法は、大きく分けて「紙媒体での保管」と「電子化での保管」の2種類があります。
それぞれの特徴と注意点を見ていきましょう。
紙媒体での保管:安心感と証拠能力の高さが魅力
メリット | デメリット |
特別な設備や知識は不要で、ファイルに綴じるだけで直感的に管理できる。 |
火災や水害、盗難などによって、紛失・破損するリスクがある。 |
紙の原本は、法律上の証拠能力が高いとされており、裁判などで有利に働く場合がある。 |
契約書が増えるほど、保管スペースが必要になる。 |
手元に物理的な書類があることで、安心感を得られる方も多いでしょう。 |
必要な契約書を探すのに時間がかかる場合がある。 |
紙媒体で保管する場合、保管場所のセキュリティ対策は必須です。鍵のかかるキャビネットや書庫に保管し、耐火・防水対策も講じましょう。
また、契約書の種類や取引先ごとに分類し、インデックスを付けて管理することで、検索性・閲覧性を高めることができます。
電子化での保管:省スペース化と検索性の向上が魅力
電子化での保管は、紙の契約書をスキャンしてPDF化する「電子化」と、最初から電子データで作成する「電子契約」の2つの方法があります。
メリット | デメリット |
紙媒体と比べて、保管スペースを大幅に削減できる。 |
電子データの原本性は、紙媒体に比べて証明が難しい場合があります。ただし、電子署名やタイムスタンプを活用することで、原本性を担保できます。 |
キーワード検索などで、必要な契約書を瞬時に探し出すことができる。 |
電子契約システムを導入する場合、初期費用や運用費用がかかります。 |
データをバックアップすることで、紛失・破損のリスクを低減でき、クラウドサービスを活用すれば、セキュリティ対策も強化できる。 |
|
電子化する場合、電子帳簿保存法の要件を満たす必要があります。また、不正アクセスやウイルス感染を防ぐためのセキュリティ対策も重要です。
どちらの保管方法を選ぶべき?
紙媒体での保管と電子化での保管、どちらを選ぶべきかは、企業の規模や業種、契約書の種類や量、予算などを考慮して総合的に判断する必要があります。
中小企業や個人事業主であれば、紙媒体での保管から始めるのが手軽かもしれません。一方、大企業や契約書が多い企業では、電子化することで管理効率が大幅に向上します。
ただ、一般的な傾向として最近は電子契約に切り替え、契約書の管理の大部分を電子契約で行う企業が増えています。
「電子契約って、本当に紙の契約書と同じように使えるの?」
近年、ペーパーレス化や業務効率化の流れを受けて、電子契約の導入を検討する企業が増えています。しかし、電子契約の法的有効性やセキュリティ面での不安から、導入に踏み切れない企業も多いのではないでしょうか。
そこで、本章では、電子契約の法的有効性やメリット・デメリット、導入時の注意点について詳しく解説します。
電子契約とは?
電子契約とは、契約書の作成から締結までを、電子データで行う契約方式です。紙の契約書のように印刷や押印、郵送などの手間が省けるため、業務効率化やコスト削減に繋がります。
また、インターネット環境があれば、いつでもどこでも契約手続きを進められるため、時間や場所の制約を受けずにビジネスを進めることができます。
電子契約の法的有効性
日本の法律では、契約は口頭でも成立するため、電子契約も基本的に有効です。
民法第522条2項では、「契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない」と規定されており、契約方式の自由が認められています。
ただし、一部の契約(不動産売買契約や保証契約など)では、書面での締結が義務付けられている場合があります。
以下に掲載したデジタル庁の公式サイトでも、電子契約の法的有効性について以下のように記載されています。
電子契約は、契約書を電磁的記録(電子データ)によって作成し、電子署名などを用いて締結する契約であり、契約の成立及び効力に関して、紙の契約書と異なる取扱いを受けるものではありません。
電子契約を有効にするためには、以下の2つの要件を満たす必要があります。
事者間の合意: 双方が電子契約で行うことに合意していること。
信頼性のある電子署名: 電子署名法に定められた要件を満たす電子署名を使用していること。
電子署名とタイムスタンプの重要性
電子署名とは、電子データに付与される印のようなもので、本人確認や改ざん検知の役割を果たします。電子署名には、実印のような効力を持つ「電子署名」と、認印のような効力を持つ「電子署名以外の措置」があります。
電子契約を有効にするためには、「電子署名」を使用することが推奨されます。
また、タイムスタンプは、電子データがいつ作成されたのかを証明するもので、電子契約の有効性を高めるために重要な役割を果たします。
電子署名を用いた電子契約を行うメリットとデメリット
メリット | デメリット |
契約書の作成・締結・管理にかかる時間やコストを大幅に削減できる。 |
電子契約システムの導入費用や運用費用などの諸費用がかかる。 |
紙の使用量を削減し、環境負荷を低減。 |
不正アクセスやウイルス感染等、サイバーリスクがある。 |
電子データで保管するため、紛失・破損のリスクが小さい。 |
電子契約に関する法律知識を身につける必要がある。 |
電子契約の導入時の注意点
電子契約を導入する際には、以下の点に注意しましょう。特に紙での契約書管理から電子契約での管理に切り替える場合は、自社だけでなく取引先にも周知する必要があったりと、気を配る必要があります。
電子帳簿保存法の要件遵守
電子契約を保存する場合、電子帳簿保存法の要件を満たす必要があります。
セキュリティ対策
電子署名やタイムスタンプの利用、アクセス制限の設定など、セキュリティ対策を徹底しましょう。
社内体制の整備
電子契約の運用ルールを定め、担当者を明確にするなど、社内体制を整備しましょう。
取引先との合意
電子契約を導入する前に、取引先と十分に合意形成を行いましょう。
電子契約は、業務効率化やコスト削減に大きく貢献するツールであり、デジタル庁も電子契約の利用を推進している、法的にも有効性が認められている契約手段です。ただし、導入にあたっては、法的有効性やセキュリティ対策など、注意すべき点があります。
これらの注意点を押さえ、適切に導入することで、電子契約のメリットを最大限に活かすことができます。
契約書管理は、ただ保管するだけでは不十分です。契約書を適切に管理できなければ、様々なトラブルに発展する可能性があります。
本章では、契約書管理でよくある課題と、その解決策について解説します。
契約書管理のよくある課題
契約書の紛失・破損
紙媒体での保管の場合、火災や水害、盗難などによって契約書が紛失・破損するリスクがあります。また、電子データでも、誤って削除したり、システム障害によって消失したりする可能性があります。
契約書の期限切れ
契約書には有効期限が定められている場合があります。期限切れに気づかず、契約が失効してしまうと、権利行使ができなくなるなどの問題が発生する可能性があります。
契約書の内容把握の困難さ
契約書の内容が複雑で、必要な情報を見つけ出すのが難しい場合があります。特に、紙媒体で保管している場合は、膨大な量の契約書の中から目的のものを探し出すのは大変な作業です。
契約書の更新漏れ
契約期間が終了した後、契約を更新する必要がある場合、更新手続きを忘れてしまうことがあります。契約が更新されずに終了してしまうと、取引が継続できなくなるなどの問題が発生する可能性があります。
契約書管理の属人化
契約書管理の担当者が特定の社員に偏っている場合、その社員が退職したり異動したりすると、契約書管理が滞ってしまう可能性があります。
契約書管理の課題解決策
【電子契約システムの導入】 電子契約システムを導入することで、契約書の紛失・破損のリスクを低減できます。また、契約書の検索性も向上し、必要な情報をすぐに探し出すことができます。 |
【契約書管理ツールの活用】 契約書管理ツールを活用することで、契約書の期限管理や内容把握を効率化できます。契約書の有効期限が近づくとアラートで通知してくれる機能や、キーワード検索で必要な情報を見つけ出す機能などが便利です。 |
【クラウドサービスの利用】 クラウドサービスを利用することで、契約書の保管場所を確保する必要がなくなり、場所を選ばずに契約書にアクセスできます。また、データのバックアップ機能も備わっているため、紛失・破損のリスクも低減できます。 |
【契約書管理ルールの策定】 契約書管理のルールを明確に定め、全社員に周知徹底することで、契約書管理の属人化を防ぐことができます。 |
【定期的な契約書の見直し】 定期的に契約書を見直し、不要な契約書を破棄したり、更新が必要な契約書を更新したりすることで、契約書管理の効率化を図ることができます。 |
契約書管理は、企業のコンプライアンス遵守やリスク管理において重要な役割を果たします。契約書管理の課題を把握し、適切な解決策を講じることで、ビジネスを円滑に進めることができます。
電子契約システムや契約書管理ツール、クラウドサービスなどを活用し、効率的な契約書管理体制を構築しましょう。