売却側からみてM&Aで必要になる費用のほとんどは、M&Aアドバイザーへの報酬と税金です。
M&A専門のアドバイザリーや仲介業者に支払う報酬は、着手金や企業価値算定にかかる費用などがありますが、最も大きなウェイトを占めるのが成功報酬です。その成功報酬額の算定で、多く用いられるのが「レーマン方式」です。
この記事では、レーマン方式の報酬の計算方法を解説します。またレーマン方式に関わる注意点も紹介します。
このページの目次
レーマン方式とは、M&A専門のアドバイザリー会社や仲介会社において一般的に使われている成功報酬の体系です。
取引金額(移動した資産の価格など)に応じて報酬料率を定めています。
レーマン方式では、取引金額等と決められた料率から成功報酬額を算出します。以下に実際の料率の例を示します。
レーマン方式の料率の例
このように、取引金額が上がれば上がるほど、料率が下がるのがレーマン方式です。
注意してほしいのが、例えば取引金額が20億円の場合、取引金額全体に料率3%をかけるわけではないこと。少しややこしいので、これから詳しく解説します。
上の図のように、5億円以下の部分には対応する料率5%を、5億円超〜10億円以下の部分には対応する料率4%をかけます。これらの合計が最終的な成功報酬額になります。
今回の取引金額20億円の場合では、成功報酬額が7,500万円となりました。
レーマン方式では何に料率をかけているか、に留意する必要があります。移動総資産(株価+負債総額)に手数料率をかけるのか、株価譲渡対価のみにかけるのかでも最終的な成功報酬額が大きく変わってくるからです。
下の図はM&A Capital Partnersが作成したものですが、移動総資産ベースか、株式価額ベースで算出するかで、最終的な成功報酬額に大きな差が出ることが分かります。
画像出典元:M&A Capital Partners
M&Aアドバイザリー会社によっては、最低手数料を設定している会社があります。取引金額が小さい場合には割高になってしまうので注意が必要です。
例えば M&Aキャピタルパートナーズでは、最低手数料が2,500万円(税別)に設定されています。この場合、取引金額が5億円未満の場合は割高です。
最低手数料はM&Aアドバイザリー会社のホームページから確認することも難しいので、実際に取引を行う前に担当者にきちんと確認をとっておくようにしましょう。
以下の画像は、M&AキャピタルパートナーズのHPのキャプション画像ですが、下限報酬額についての記述は画像下部に小さく記述があるのみで、非常に気づきにくくなっています。
画像出典元:M&A Capital Partners
M&Aアドバイザリーの中には、レーマン方式ではなく「逆レーマン方式」を採用している会社があります。これはレーマン方式とどう違うのでしょうか?
実はレーマン方式には弱点があり、それを補うのが逆レーマン方式なのです。
レーマン方式では取引金額が大きくなるのにしたがい、手数料率が下がります。そのためM&Aアドバイザーからすると、より高く会社売却を行おうというモチベーションが働きづらいのです。
一方の逆レーマン方式では、取引金額が大きくなるのに合わせて料率も高くなります。これにより、より高い金額で会社を売却しようというモチベーションが、M&Aアドバイザーに働きやすくなります。
逆レーマン方式は、売り手側の立場に寄り添った料金体系だといえます。
M&Aアドバイザーに払う費用のほとんどは成功報酬ですが、それ以外にもかかる費用としては以下のものが挙げられます。
これらの相場や実態について解説していきます。
相談料は、一番最初にM&Aアドバイザーに相談するときにかかる費用です。これは一般的に無料です。
M&Aアドバイザリーも、できるだけ多くの売り手企業と出会いたいため、敷居を低くするために無料にしているのです。
相談をふまえ、M&Aアドバイザーと契約を結び、実際にM&A取引に向け動き出す際にかかる費用です。無料の会社も有料の会社もあります。
有料の場合の相場は50~200万円と、成功報酬に比べれば小さなものですが、M&Aの結果に関わらず負担を強いられるものですので注意が必要です。
例えば、日本M&Aセンターでは着手金100~300万円を払う必要があります。
買い手企業と基本合意契約を結んだ際に、この中間報酬が必要となるM&Aアドバイザリーがいくつかあります。
基本合意契約は、買い手企業が一つに絞られ、おおかたの取引条件が定まった段階で結びます。このあと、デューデリジェンスなどを経て最終合意に至ります。
ここでM&Aアドバイザーの立場に立つと、もし最終合意に至る前にM&Aが破談になってしまった場合、成功報酬が一銭も得られず、これまでの努力が水の泡です。そんなリスクをヘッジするためにあるのが中間報酬です。
中間報酬として成功報酬額10%程度をあらかじめ受け取ることで、最悪M&Aが破談になっても、いくぶんかの報酬を手にすることができます。
一方で売り手企業の経営者の立場に立てば、M&Aが破談になったにも関わらず、数百万円の報酬を支払わなければならない可能性があります。中間報酬があるかどうかも要確認項目です。
ここまでで、算出方法として同じレーマン方式を採用していても、料率や何に料率をかけているかで成功報酬額が大きく異なってくることが分かりました。
しかし、これらを踏まえて、一番安くすむM&Aアドバイザーを選択するのは果たして得策といえるのでしょうか。
結論として、それはおすすめしません。
M&Aにおいては、アドバイザーによっても売却額が大きく変わります。その変動幅に比べれば、アドバイザーへの成果報酬額の違いは小さなものです。報酬の多寡でアドバイザーを選ぶのではなく、できるだけ優秀で信用できるアドバイザーを選び、より良い条件でのM&Aを目指しましょう。
もちろん成功報酬額もM&Aアドバイザリーを選ぶための重要なファクターであるのは変わりませんので、レーマン方式を正しく理解しておくことはけっして無駄ではありません。
以下の記事では、M&Aアドバイザーの選び方についてより詳しく解説しています。
レーマン方式は、取引金額等と決められた料率から成功報酬額を算出する方法です。何に料率をかけているかで成功報酬額が大きく異なってくることに要注意です。
レーマン方式を正しく理解しておくことは重要ですが、M&Aアドバイザー選びにおいて、成功報酬額はあくまで判断要素の一つにすぎないことは覚えておきましょう。
画像出典元:Pexels
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