社会人であれば一度は聞いたことがあるであろう「時間外労働」。
時間外労働は定められた時間の範囲を超えて労働した場合の時間を指しますが、近年、労働基準法が改正され、時間外労働に関するルールが大きく変更されました。
そこで今回は、時間外労働について理解を深めていただくため、時間外労働の種類や法改正前後におけるポイント、さらには時間外労働を命じる場合の注意点など詳しく解説していきます。
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時間外労働といえば、労働時間の範囲を超えて働くことで、「残業」といったイメージが強いかと思います。
確かに時間外労働も残業のうちですので間違いではありませんが、厳密にいうと、時間外労働は原則として「法定労働時間」を超えて働いた時間のことを指します。
昔から日本人は勤勉でよく働くと言われていますが、その一方で、日本人は「働きすぎ」だとも言われています。ではなぜ、日本人は働きすぎだと言われているのでしょうか。
その要因としてあるのが、時間外労働の圧倒的多さです。日本人は遅くまで働くことを美化しがちで、それを「頑張っている」と高く評価する傾向にあります。
また、「上司が残業しているのに、先に帰ることなんてできない」このような心理が働き、残業せざるを得ない状況に陥るケースも多々あります。
過剰な時間外労働は、過労やストレスなど従業員の心身の健康障害リスクが高まるほか、業務に対する意識レベルの低下や人手不足に陥る原因にも繋がります。
こうした長時間労働におけるあらゆるリスクを軽減するため、2019年4月より労働基準法が改正され、時間外労働に関するルールが大きく変更されたのです。
法定労働時間・所定労働時間、それぞれよく似ている言葉であるため非常に混在してしまいがちですが、この2つはそれぞれ意味が異なります。
なお、この2つの違いは時間外労働を知るうえで非常に重要となるため、ここでしっかりと覚えておくようにしてください。
前述のとおり、時間外労働というのは法定労働時間を超えて働くことをいいます。
法定労働時間とは、国が法律によって定めた労働時間における上限規制のことで、法定労働時間は原則として「1日8時間・1週間40時間」休日に関しても、原則として毎週1日、4週間を通じて4日以上を与えなければならないと定められています。
要するに、労働時間は1日に8時間、または1週間に40時間を超えないよう徹底するようにしてください。ということです。
そのため、会社独自に定めた終業時間を超えていたとしても、法定労働時間の範囲内であれば法的に問題はありません。
ちなみに、労働時間が法定時間外労働(1日8時間・1週間40時間)を超えた場合、割増賃金の支払いが義務づけられています。
所定労働時間とは企業が定めた就労時間のことをいい、法定労働時間(1日8時間・1週間40時間)の範囲内であれば、企業側が自由に設定することができます。
たとえば、「効率良く従業員に働いてもらいたいので、うちの会社は9時~17時まで、うち休憩1時間を挟んで、1日7時間の勤務にしよう」これが、所定労働時間です。
なお、所定労働時間は就業規則や雇用契約書で定める必要があります。
このように、労働時間には労働基準法によって定められている法定労働時間と、企業それぞれが就業規則によって定める所定労働時間の2種類があります。
この2つは非常に混同しやすいので、それぞれ違いを正しく理解しておきましょう。
近年では働き方改革などの影響もあり、従業員における勤務形態も多様化してきています。
そのため、時間外労働の計算もそれぞれ勤務形態に合わせて算出を行う必要があるなど、残業代の計算が難しくなる場合があります。
定時勤務は始業時刻と終業時刻とが決まっている、いわゆる一般的な勤務形態をいいます。
たとえば、所定労働時間が午前9時から午後5時まで、うち休憩が1時間の会社で21時まで労働するとします。
この場合、9時~17時までの実働7時間は所定労働時間、以降17時~18時までは法定時間内残業、さらに18時から21時までは法定時間外労働となります。
1日の労働時間が8時間を超えた場合は法定時間外労働となるため、割増賃金の支払いが義務付けられています。なお割増賃金は、1時間あたりの賃金×1.25の割増率です。
みなし残業とは、あらかじめ一定時間分の時間外労働を行ったものとみなし、毎月決まった残業代を支払う制度のことをいいます。
そのため、実際に残業したがどうかは関係なく、給料の中に残業代もすでに含まれているということになります。
みなし残業制度を導入している大半の企業は、就業規則や雇用契約書に「給料30万円のうち、45時間分の固定残業代5万円を含む」などと記載しています。
なお、このように書かれていていても、残業が45時間を超えた場合は追加で残業代を別途支給しなければなりません。
フレックスタイム制とは、一定期間(清算期間)において総労働時間を定め、その範囲内で従業員自ら日々の始業時刻と終業時刻を自由に決定し、働くことができる制度をいいます。
フレックスタイム制における労働時間の計算は、あくまで清算期間を基準とするため、労働が法定労働時間「1日8時間・週40時間」を超えたとしても時間外労働にはなりません。
ただし、フレックスタイム制には清算期間における法定労働時間の総枠が定められていますので、清算期間において実際の労働時間が法定労働時間の総枠を超えた場合、超過した分に関して残業代の支払いが発生します。
下記の図表は、清算期間を1ヶ月とした場合の法定労働時間の総枠です。
(※)特例措置対象事業場の場合
特別措置対象事業者とは、常時10人未満の労働者を使用する商業、映画・演劇業(映画の製作の事業を除く)、保健衛生業、 接客娯楽業のことです。
フレックスタイム制は、働く時間を従業員自ら自由に決めることができるため、効率的に働けますが、その一方で実労働時間の管理が難しいといったケースもあります。
特に、残業時間に関しては曖昧になってしまうケースも多々ありますので注意も必要です。
事業所によっては繁忙期と閑散期がある程度はっきり決まっている場合があります。
繁忙期は法定労働時間を超えた労働をしてもらう。閑散期には法定労働時間を下回る労働に抑える。
変形時間労働制とは、それぞれ時期に合わせて月単位や年単位で労働時間を調整することができる勤務時間制度のことをいいます。
変形時間外労働制の場合、忙しい時期は遅くまで働かなければなりませんが、忙しくない時期には早く帰ることができるので、従業員はメリハリをつけて働くことができます。
そのため、繁閑の差が大きい企業や、365日稼働していてシフト制の企業などに多く導入されています。
ただ、変形時間労働制だと1日9時間、10時間労働したとしても時間外労働にならなかったり、シフト制などで労働時間が一定ではなかったり、時間外の計算も複雑になりがちです。
要は、月単位や年単位で定められている法定労働時間を超えればすべて時間外労働になる。ということをしっかりと覚えておけば良いでしょう。
裁量労働制とは、何時までに出勤して何時まで働くといった制限がなく、時間に縛られることなく自由に働くことができる労働形態です。
裁量労働制では「1日○○時間労働したこととする」といったように、みなし労働時間をあらかじめ設定します。
つまり、みなし労働時間が1日8時間と定めていた場合、実際に働いた時間が10時間であろうと15時間であろうと、実労働時間に関係なく労働時間は8時間とみなされます。
このように、裁量労働制においては基本的に「時間外労働(残業)」という概念がないため、場合によっては不当な長時間労働を強いられるといったケースも見られます。
裁量労働制の場合、基本的に残業代は発生しませんが、残業時間の上限が無いというわけではありません。
労働基準法では、月間45時間・年間360時間と上限が定められています。
また、深夜労働や休日出勤といった場合には、それぞれ割増賃金の支払いが必要となり、深夜労働は基礎賃金×1.5、休日出勤については基礎賃金×1.25の支払いがそれぞれ必要となります。
年俸制と聞くとプロ野球選手やプロサッカー選手など、プロのスポーツ選手をイメージされる方も多いかと思いますが、近年では一般企業でも年俸制を採用しているケースも増えてきています。
ちなみに、「年俸制だと残業代が一切支払われない」と、一般的によく言われることが多いですが、年俸制であっても残業代は支払われます。
確かにプロ野球選手などスポーツ選手は残業代は発生しません。それは、あくまで個人事業主として契約しているためです。
一般企業のように、「使用者と労働者」といった雇用関係が成り立っている場合は、年俸制であっても一般的な法定労働時間が適用されます。
つまり、年棒制であっても使用者と労働者の雇用関係が成り立っていれば、1日8時間・週40時間といった法定労働時間を超えた時点で残業代を支払う義務が発生するというわけです。
もちろん、深夜労働や休日出勤も同様です。
「管理職になると残業代が出ない」こうしたことは一般的によく言われています。
確かに労働基準法でも「管理監督者には残業代を支払う必要がない」といった旨が定められていますので、「管理職になると残業代が出ない」という考えも、あらかた間違えではありません。
ただし、すべての管理職に対して残業代が発生しないというわけではありません。ここで重要となるのが、労働基準法でいうところの「管理監督者」に該当するかどうかです。
たとえば、会社が「課長」や「マネージャー」、「店長」などの肩書きを与えた場合、社内では管理職という立場になりますが、法律上での管理職(管理監督者)とは異なります。
労働基準法でいう管理監督者に該当するのは、以下の事項に基づき総合的に判断されます。
このように、重要な会議に出席したり、経営方針や従業員の採用や労働条件を決定したり、いずれも会社における重要な決定に関与するなど経営者と一体的な立場にあるかどうか。
また、出退勤についての決定権の保持や、給料や手当など管理職としてふさわしい待遇を受けているかどうかも判断基準となります。
上記の判断基準を満たしていなければ、たとえ課長や店長などいかにも管理職らしい肩書を持っていたとしても、管理監督者には該当しないため残業代が発生します。
企業によっては、一般従業員を課長などに昇進させ、あたかも管理監督者であるかのような説明をし、残業代を支払わないといったケースもあります。
このことを「名ばかり管理職」といい、名ばかり管理職は現在でも社会問題になっているほどです。
法律上の管理監督者に該当せず、単に「課長」や「リーダー」などの肩書だけを与えて残業代を支払わないのは労働基準法違反となります。
日本人は勤勉でよく働くと言われ、時間外労働(残業)に関しても、毎日当たり前のように行われている企業も少なくありません。
実際に時間外労働を伴う長時間労働は大きな社会問題ともなっており、厚生労働省でも長時間労働の削減を喫緊の課題とし、働き方の見直しに取り組んでいます。
前述のとおり、労働時間は原則として1日に8時間、1週間に40時間以内と定められており、休日に関しても毎週少なくとも1回、4週間を通じて4回以上与えることとしています。
しかし、企業によっては法定労働時間を超えて労働してもらわなければならないケースもあります。
万が一、従業員に時間外労働や休日労働を命じる場合は、労働基準法第36条に基づき、労使協定いわゆる36協定(サブロク協定)を締結し、所轄の労働基準監督署長へ提出することが義務付けられています。
なお、36協定では以下の内容を決める必要があります。
仮に36協定の届出をしないまま法定労働時間を超えて労働させることは労働基準法違反となり、違法行為が発生した場合は6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されるおそれがあるので注意が必要です。
前述のとおり、法定労働時間を超えて時間外労働を命じるには36協定を締結したのち、労働基準監督署へ36協定届(時間外・休日労働に関する協定届)を提出しなければなりません。
ただし、36協定を締結し労働基準監督署へ届出をしていれば、無制限に時間外労働を命じることができるというわけではありません。
36協定により無制限な労働を強いられてしまうことを抑制するため、時間外労働の上限を原則として「1ヶ月なら45時間・年間なら360時間」と決められています。
期間 | 1週間 | 2週間 | 4週間 | 1ヶ月 | 2ヶ月 | 3ヶ月 | 1年間 |
上限時間 | 15時間 | 27時間 | 43時間 | 45時間 | 81時間 | 120時間 | 360時間 |
しかし、特別な事情などで時間外労働の上限時間を超えた労働が必要となることも、職種や業種によって時には考えられます。
そのような場合「特別条項付き36協定」を結ぶことで対応することが可能です。
法定労時間を超える時間外労働に関しては、原則として「月45時間・年360時間」を限度時間としなければなりません。
しかし、職種や業種によっては一時的に繁忙となったり、緊急に対応しなければならない事案が発生したり、臨時的に限度時間を超えて時間外労働を行わなければならないケースもあります。
このように、臨時的かつ業務上やむを得ない特別な事情がある場合、「特別条項付き36協定」を結ぶことによって限度時間を延長することが可能となります。
ただし、特別条項付き36協定を結ぶには、以下の点に注意する必要があります。
特別条項付き36協定を結んだとはいえ、限度時間を超えた時間外労働が許されるのは「年に6回」まで。さらに1ヶ月60時間、1年420時間までと決められています。
特別条項は、あくまで繁忙期や緊急時に対応するための臨時的措置であると考えておくべきです。
前述のとおり、特別条項付き36協定は臨時的な特別な事情がある場合のみ利用が認められているものです。
そのため、特別条項を届出る際も時間外労働を行わせる理由をできる限り具体的に記載する必要があります。
なお、臨時的であると認められる事情とそうでない事情を、厚生労働省では下記のように定義しているので参考にすると良いでしょう。
厚生労働省:「時間外労働の限度に関する基準」
大企業では2019年4月から、中小企業では2020年4月から、それぞれ時間外労働に関する上限規制が導入されているため、現在ではほとんどの企業(一部適用外の業務を除く)において、時間外労働の上限を超えて働くことはできません。
今回、労働基準法が改正され時間外労働の上限が規定されたのは、長時間労働を是正し、労働者のワークライフバランスを保って働けるようにすることを目的としたもので、各企業は改正された法律に合わせ、適切に対応しなければなりません。
そこで、労働基準法が改正された時間外労働の上限規制に関する理解を今一度深めるため、改正前と改正後のポイントを解説していきます。
改正前 |
出典:厚生労働省HP「時間外労働の上限規制」
改正後 |
出典:厚生労働省HP「時間外労働の上限規制」
労働基準法で定められている法定労働時間の上限は「1日8時間・週40時間」で、これは改正前も改正後も変更はありません。
また、時間外労働の上限に関しても「月45時間・年360時間」となり、臨時的な特別の事情がない限り、原則としてこの範囲を超えて労働することはできない、といった点も変更ありません。
改正前と改正後で大きく変更されたのは、法的強制力をもった罰則付きの時間外労働の上限規制です。
改正前では、時間外労働の上限(月45時間・年360時間)を超えたとしても罰則がなく行政指導のみ、さらに特別条項付き36協定を締結することで、上限に関係なく無制限に時間外労働を行わせることが可能な状態でした。
改正後では、これまで罰則による強制力がなかった時間外労働の上限が厳しく法律によって規定され、罰則付きの法的強制力をもったものになりました。
さらに、臨時的な特別な事情がある場合に関する上限も設けられ、いかなる場合でもその上限を超えることができなくなりました。
前項でも少し触れましたが、これまでの労働基準法では、特別条項付き36協定を締結さえすれば、時間外労働の限度時間を超えても労働させることが可能でした。
しかし法改正後には、たとえ特別条項付き36協定を締結した場合でも、超えてはいけない時間外労働の上限時間が設けられました。
なお、下記の事項は特別条項であっても必ず守らなければならないルールです。
従来では時間外労働の上限に対する基準は厚生労働大臣の告示によるもので、たとえ違反したとしても行政指導のみでした。
しかし、現在では時間外労働の上限が法律によって厳しく規定され、違反した場合は「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」が科されるおそれがあります。
改正前と改正後で大きく変化したポイントは、時間外労働の上限規制に法的強制力が加わったということです。
これまでお伝えしてきたとおり、2019年4月より労働基準法が改正され、時間外労働に関する上限規定が細かく規定されました。
また、違反した場合の罰則もこれまで以上に厳しいものとなり、企業においては時間外労働に対する考えを一層深め、適切に対応しながら確実な勤怠管理が求められます。
企業にとって、従業員の労働時間を正確に把握することは法律で定められた義務であり、適切な勤怠管理は従業員の健康を守るだけではなく、生産性の向上を図るための重要な業務の一環です。
近年では、働き方改革の推奨などによって働き方も多様化してきており、従業員の勤怠管理も非常に煩雑化しています。
そのため、法律を厳守し、正確かつ効率的に勤怠管理を行うには、やはり勤怠管理システムの存在は欠かせません。
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そうした背景などから2019年4月より労働基準法が改正され、時間外労働のルールが罰則付きの厳しいものへ大きく変わりました。
こうしたことから、企業では従業員の勤務状況の把握や法律に基づく適切な対応など、これまで以上に徹底した勤怠管理が求められます。
本来、時間外労働や休日労働というものは必要最低限にとどめるべきであり、可能な限り法定労働時間の範囲内で仕事が終わるよう労働環境を整えていくことが重要です。
いずれにせよ、長時間労働については日本における喫緊の課題とされています。
よって今後も労働に関する法律も変わっていくものだと予想されますが、まずは今回改正された労働基準法を正しく理解し、従業員が無理なく働きやすいと思える職場を目指していきましょう。
画像出典元:O-DAN / pixabay
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