所定労働時間と法定労働時間の違いは、「会社が決めた労働時間」と「労働基準法で定められた労働時間」です。
「それがいったい何?」と思うかもしれませんが、両者の違いは残業代の額面に影響します。
それぞれの意味を理解し、自分でも正確な残業代計算ができるようにしておきましょう。
本記事では、所定労働時間と法定労働時間の違い、さらには残業代や休日出勤手当の計算方法を具体例とともに紹介します。
このページの目次
労働時間とは、労働者が雇用者の監督下で労働に励まなければならない時間です。
出勤から退勤までの時間のうち、休憩時間を省いたものを指します。
同じ労働時間でも、「所定労働時間」「法定労働時間」ではそれぞれ意味が異なるのです。
両者の違いは残業代の計算にも深く関わるため、正しく理解しておきましょう。
所定労働時間とは、雇用者の自由裁量で定められる労働時間です。
自社の所定労働時間を知りたい場合は、就業規則や雇用契約書をチェックしてみましょう。
始業から終業までのトータル時間から休憩時間を差し引いた時間が、その会社の所定労働時間です。
たとえば、就業規則や雇用契約書に「朝10時始業・18時終業・休憩1時間」と明記されているなら、その企業の所定労働時間は7時間となります。
法律の範囲内であれば、企業は出退勤時間を何時に設定しても問題はありません。
法定労働時間とは、労働基準法が定める労働時間の上限です。
具体的には、「1日8時間」「1週間40時間」と定められています。
企業が所定労働時間を定めるときは、これを上回ってはならないのです。
法定労働時間の根拠となる「労働基準法第32条」では、以下のように明記されています。
労働基準法第32条
第1項 使用者は、労働者に、休憩時間を除き1週間について40時間を超えて労働させてはならない。
第2項 使用者は、1週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き1日について8時間を超えて、労働させてはならない。
参考:労働基準法 第4章 労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇|安全衛生情報センター
法定労働時間を超えて行われる業務は、「時間外労働」です。
労働者は雇用者に対し、別途割増手当を請求できます。
ただし、「特例事業」に該当する企業は、「1日8時間」「1週間44時間」を上限とすることが認められています。
特例事業とは、以下の条件を満たす事業です。
たとえば、条件を満たす飲食店や映画館・ゴルフ場などは、特別な申請をしなくても「1週間44時間」が適用されます。
企業の業種・業務内容によっては、所定労働時間をイレギュラーな形式で定めていることもあります。
残業の判断が難しい「裁量労働制」「変形労働時間制」について見ていきましょう。
裁量労働制とは、「みなし労働時間」に基づいて賃金が支払われる制度です。
たとえば「1日7時間」という雇用契約を結んだのであれば、実労働時間が5時間でも10時間でも関係ありません。
支給される賃金は、必ず7時間分となります。
裁量労働制のメリットは、労働者が時間的なしばりから解放される点です。
労働時間の裁量権を労働者に与えることで、労働者は時間を気にせずに集中して業務に取り組みやすくなります。
一方デメリットは、導入できる職種が「専門職」「企画職」に限定されるので、導入のハードルが高いことです。
たとえば労働時間を決定する際は、労使間協定の締結をはじめとして、以下のような手続きが必要となります。
みなし労働時間で働く裁量労働制には、残業という概念がありません。
社員が残業をしても、適用されるのは深夜手当と休日手当のみです。
変形労働時間制は、月単位・年単位・週単位のいずれかで自由に労働時間を設定できる制度です。
この制度のもとでは、法定労働時間を超えた設定も可能となります。
「繁忙期は集中してまとまった労働時間を確保しやすくなる」「閑散期は労働時間を短縮できる」といったメリットがあり、業務量に合わせたメリハリのある働き方が可能です。
変形労働時間制は、「1年単位の変形労働時間制」「1ヵ月単位の変形労働時間制」「1週間単位の変形労働時間制」の3種類です。
それぞれ、労働基準法で以下のように労働時間の上限が定められています。
1. 1年単位の変形労働時間制:1年あたり280日(対象労働日数)、1日の労働時間の上限は10時間かつ1週52時間、連続労働日数の上限は6日
2. 1ヵ月単位の変形労働時間制:1週間あたりの労働時間は40時間以内(特例に該当すれば44時間以内)
3. 1週間単位の変形労働時間制:1日の労働時間の上限は10時間以内かつ1週40時間以内
変形労働時間制も労使協定の締結や労働基準監督署への届出・就業規則の整備などが必要となります。
導入の手続きは煩雑なため、早めの準備をしておきましょう。
残業代や休日出勤の手当を算出する際は、法律で定められた割増率を適用しなければなりません。
残業・休日出勤を行った場合の割増賃金の計算方法について、具体的に見ていきましょう。
残業代は時間単位で算出するため、まずは以下の式で「1ヵ月あたりの平均所定労働時間」「1時間あたりの賃金」を算出する必要があります。
例として、以下の条件で働く社員の1時間あたりの平均賃金を出してみましょう。
まずは1ヵ月当たりの平均所定労働時間を算出します。
(365日-125日)×8時間÷12ヵ月=160時間
次に、基本給を平均所定労働時間で割って、1時間あたりの平均賃金を出します。
240,000円÷160時間=1,500円
この社員の1時間あたりの平均賃金は1,500円となります。
これをベースに、さまざまなケースの残業代を計算していきましょう。
残業が「1日8時間」「週40時間」の法定労働時間内に収まっている場合は、「法定内残業」となります。
この場合、割増率は適用されません。
残業代を算出する場合は、以下の式となります。
残業代=1時間あたりの平均賃金×実残業時間
たとえば、1時間あたりの平均賃金1,500円の社員が、1ヵ月で10時間の法定内残業をした場合はどうでしょう。
1,500円×10時間=15,000円
残業代は15,000円です。
法定時間を超えて残業した場合、25%の割増率が適用されます。
残業代=1時間あたりの平均賃金×1.25(割増率)×残業時間
たとえば、1時間あたりの平均賃金1,500円の社員が、1ヵ月で20時間の時間外労働を行った場合の残業代を計算してみましょう。
1,500円×1.25(割増率)×20時間=37,500円
このときの社員の残業代は、37,500円です。
午後10時から翌午前5時までの残業にはさらに25%の割増賃金が上乗せされ、割増率は50%となります。
深夜・早朝の残業代は、以下の計算式で算出しましょう。
残業代=1時間あたりの平均賃金×1.5(割増率)×残業時間
たとえば、1時間あたりの平均賃金1,500円の社員が9時間の深夜・早朝残業を行った場合、残業代は以下のようになります。
1,500円×1.5(割増率)×9時間=20,250円
深夜・早朝の残業代は20,250円です。
休日出勤の場合、条件によっては残業代が発生しないケースがあります。
休日の種類や労働時間などを厳密にチェックし、残業代を計算しましょう。
法定休日とは、労働者の権利として認められた休日です。
具体的には、週に1日以上、4週で4日以上の休日が定められています。
社員が法定休日に出勤した場合は「休日出勤」となり、休日手当の対象です。
通常の賃金に対し35%以上の割増率が適用されます。
たとえば、1時間あたりの平均賃金1,500円の社員が、法定休日に出勤して8時間労働した場合、残業代の計算は以下のとおりです。
1,500円×1.35(割増率)×8時間=16,200円
休日出勤手当は16,200円です。
法定外休日とは、法定休日にプラスして企業が独自に定める休日です。
たとえば週休2日制の企業の場合、1日は法定休日、もう1日は法定外休日として扱われます。
法定外休日に出勤した場合、1週間の労働時間が40時間以内(法定労働時間)に収まれば、割増率の適用はありません。
割増しなしの賃金計算で算出された賃金が加算されるのみです。
ただし法定外休日でも8時間以上働いた場合には、超えた部分に対し通常の残業と同様に25%の割増率が適用されます。
休日出勤の代わりに休日が与えられた場合、「前」か「後」かで休日手当の計算方法が異なります。
まず事前に振替が行われた場合は「振替休日」です。「休日の交換」と見なされるため、休日手当はありません。
一方、休日出勤後に代休が与えられた場合は、休日手当が支給されます。
代休が与えられたからといって「休日出勤した」という事実は変わらないためです。
休日に合わせて、法定外休日または法定休日の賃金に準じた残業代が支払われます。
休日に深夜勤務を行った場合、休日割増にプラスして深夜割増が適用されます。
「法定休日」「法定外休日」のどちらに該当するかで残業代が異なるため、要注意です。
法定休日に時間外労働・深夜勤務を行った場合の割増率は、以下のようになります。
休日出勤(法定休日)の残業代=1時間あたりの平均賃金×1.6(割増率)
割増率1.6とは、法定休日分の35%と深夜勤務分の25%を合わせたものです。
たとえば、1時間あたりの平均賃金1,500円の社員が法定休日に2時間の深夜勤務を行った場合、残業手当は以下のように計算できます。
1,500円×1.6(割増率)×2時間=4,800円
休日勤務の深夜勤務手当は4,800円です。
一方、法定外休日の残業は、休日割増が適用されません。
通常の残業と同様に、時間外労働割増と深夜割増のみが適用されます。
法定休日の残業代計算で気を付けたいのは、「日付が変わると法定休日ではなくなる」という点です。
法定休日は、午前0時まで。
したがって、休日手当と深夜手当の両方が加算されるのは、午後10時から午前0時までの2時間のみです。
たとえば1時間あたりの平均賃金1,500円の社員が、法定休日から所定労働日の午前3時にかけて残業を行った場合、午後10時から翌午前3時までの計算式は、以下のようになります。
(1,500円×1.6×2時間)+(1,500円×1.25×3時間)=10,425円
午前0時を過ぎると深夜手当のみの適用となるため、注意しましょう。
残業代や休日手当は、全ての「労働者」のための制度です。
パートやアルバイトが残業や休日出勤をすれば、社員と同様に割増料金が適用されます。
パートやアルバイトの残業代について見ていきましょう。
パートやアルバイトも等しく「労働者」に分類されるため、労働基準法によって保護されています。
正社員と同様に、労働基準法上の法定労働時間は1日8時間、週40時間です。
これを超えて労働する場合は、割増手当が支給されます。
万が一「アルバイトだから」「パートだから」と残業代や休日手当を支払わない会社があれば、それは違法です。
タイムカードなど勤務状態が分かるものを用意し、雇用者と交渉しましょう。
タイムカードがない・会社が見せてくれない場合は、日記やメモ、さらにはスマホの「今終わったよ!」などといったやり取りだけでも、十分な証拠になります。
「社員ではないから、残業代はない」などの言葉には惑わされないよう注意してください。
時給で給与をもらっている人は、時給に時間外労働の割増率・労働時間を掛けると残業代が計算できます。
1日8時間までは法定内残業です。
割増率を掛けるのは、8時間を超えた部分のみとなります。
たとえば時給1,000円・所定労働時間5時間の人が4時間残業した場合、計算式は以下のとおりです。
(1,000円×3時間)+(1,000円×1.25(割増率)×1時間)=4,250円
割増率が適用されるのは1時間分のみのため、残業代は4,250円となります。
日給で給与をもらっている人は、まず時給に換算しましょう。
計算式は以下のとおりです。
時給=日給÷労働時間
たとえば、日給7,000円で所定労働時間が7時間の場合は、「7,000÷7」で時給1,000円となります。
残業代を算出する際は、算出した時給に実労働時間や割増率を掛ければOKです。
所定労働時間と法定労働時間には、「会社が決めた労働時間」「労働基準法によって定められた労働時間」という違いがあります。
これらは残業代を算出するときのベースとなるため、きちんと理解しておきましょう。
また、パートやアルバイトでも「労働基準法の保護下にある」という点は正社員と変わりません。
法定労働時間を超えて働いた場合は正しい割増率を適用し、雇用形態にかかわらず適切な残業代を請求しましょう。
所定労働時間と法定労働時間を理解することで、損をしない働き方につながるはずです。
画像出典元:Unsplash、Pixabay
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