一定のタイミングや企業の業績によって支払われる「賞与」ですが、毎月の給与と同じく賞与額から社会保険料が天引きされます。
実際にどの程度社会保険料がかかるのかは、企業にとっても社員にとっても重要なポイントでしょう。
今回は賞与について詳しく確認しながら、賞与にかかる社会保険料の計算方法を解説していきます。
人事・労務担当者が把握しておきたい「賞与を支払う際のポイント」も紹介しているのでぜひ本記事を参考にしてみてください。
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日本では夏や冬に支給されることが多い賞与ですが、普段の給与と賞与の明確な違いはご存じでしょうか?
賞与の支給は企業によって定められた規定によって異なりますが、なぜ社会保険料も控除されてしまうのか、疑問に思う方もいるでしょう。
ここでは給与と賞与の違いについて詳しく確認しながら、賞与にかかる社会保険料の計算方法について解説していきます。
給与は毎月支給される「基本給・役職手当・通勤手当・残業手当」など、各手当をまとめた毎月の労働対価を指します。
一方賞与は、労働基準法によって次のように定められています。
法第二四条関係
賞与とは、定期又は臨時に、原則として労働者の勤務成績に応じて支給されるものであつて、その支給額が予め確定されてゐないものを云ふこと。定期的に支給され、且その支給額が確定してゐるものは、名称の如何にかゝはらず、これを賞与とはみなさないこと。
引用:厚生労働省|労働基準法の施行に関する件
臨時かつ支給額が決まっていない賞与は、法律上支給義務はありません。
一般的な企業では夏や冬など年に1~2回支給する場合が多く、業績によって決算賞与など支給するケースもあるでしょう。
賞与の範囲は労働基準法とは別に、厚生年金保険法や健康保険法においても定められています。
標準賞与額を決める場合にそのもととなる賞与は、賃金、給料、俸給、手当、賞与、その他いかなる名称であるかを問わず、被保険者が労働の対償として受けるもののうち年3回以下の支給のものをいいます。なお、年4回以上支給されるものは、標準報酬月額の対象となります。また、労働の対償とみなされない結婚祝金等は対象外です。
引用:全国健康保険協会 協会けんぽ|賞与の範囲より
一般的な金銭の支給以外に自社製品などを特別に現物支給する場合も、賞与にあたります。
また臨時で支給される結婚祝い金や災害見舞金は労働の対価ではないため、賞与にはあたりません。
賞与にかかる社会保険料を算出する際には、標準賞与額を算出しなければなりません。
毎月の給与計算では「標準報酬月額」に所定の保険料率を乗じて算出されますが、賞与の場合は「標準賞与額」に保険料率を乗じて算出します。
標準賞与額とは、賞与の支給総額から千円未満を切り捨てた金額のことです。
例えば総支給賞与額が458,535円の場合、458,000円が標準賞与額となります。また支給1回につき150万を上限に定められていて、同じ月に2回に分けて支給する場合も合算されます。
給与と賞与にかかる、社会保険料の算出方法の違いを簡単にまとめると以下の通りです。
給与計算=「標準報酬月額」×保険料率
賞与計算=「標準賞与額」×保険料率
法律上、毎月の給与と同じく賞与にも社会保険料の控除が定められています。
賞与にかかる社会保険にはいくつかの種類があり、さらに企業と従業員で一部負担が異なる部分があります。
ここで賞与にかかる社会保険の種類と負担率について、確認していきましょう。
画像出典元:全国健康保険協会(東京支部)|令和3年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表
健康保険料は、標準賞与額に健康保険料率を乗じて算出されます。保険料の負担は、企業と従業員の労使折半になっています。
健康保険料=標準賞与額×9.84%×1/2
介護保険料は、介護保険第2号被保険者である40歳~64歳までの従業員が納める社会保険料です。
該当する従業員は健康保険料に介護保険料率1.8%が上乗せされ、賞与から控除されます。負担率は健康保険料同様に、労使折半です。
介護保険料=標準賞与額×1.8%×1/2
厚生年金保険料は、標準賞与額に一律18.3%を乗じて算出されます。厚生年金保険料の負担率も労使折半です。
厚生年金保険料=標準賞与額×18.3%×1/2
子ども・子育て手当拠出金は企業のみが負担する社会保険料です。
従業員の年齢や扶養家族の有無に関わらず、一律0.36%の拠出金率がかかります。
子ども・子育て手当拠出金=従業員の標準賞与額×0.36%
雇用保険料は他の社会保険料とは異なり、実際に支給する賞与額に所定の保険料率を乗じて算出します。
企業と従業員で異なる負担率や、業種によって保険料率が分かれていることも他の社会保険料とは異なるポイントでしょう。
画像出典元:厚生労働省|令和2年度雇用保険料率について
一般的な企業の雇用保険料算出方法は以下の通りです。
雇用保険料(従業員):支給賞与額×0.3%
雇用保険料(企 業):支給賞与額×0.6%
画像出典元:厚生労働省|労災保険率表
労災保険料も、実際に支払った賞与額に労災保険率を乗じて算出します。
労災保険率は業種によって事業の危険性が異なるため、0.25%~8.8%と細かく細分化されています。詳しくは厚生労働省で労災保険率表を確認してみましょう。
また労災保険料は企業が全額負担となり、従業員の賞与からは控除されません。
労災保険料=支給賞与額×業種によって定められた労災保険率
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賞与を支給する際、社会保険料の計算以外にも重要な事務処理が多くあります。処理が漏れてしまうと催告状や延滞料が発生してしまうケースも。
ここでしっかりと必要な手続き、注意点について確認しておきましょう。
賞与を支給する際に特に重要な処理は次の3つです。
一つずつ確認していきましょう。
賞与を支給する際の明細書の発行は、法律上義務付けられているわけではありません。
しかし支給する賞与から社会保険料を控除する場合は、以下の通り従業員への通知義務があります。
健康保険法第167条第3項:事業主は、前二項の規定によって保険料を控除したときは、保険料の控除に関する計算書を作成し、その控除額を被保険者に通知しなければならない。
引用元:厚生労働省|健康保険法
厚生年金保険法第84条第3項:事業主は、前二項の規定によつて保険料を控除したときは、保険料の控除に関する計算書を作成し、その控除額を被保険者に通知しなければならない。
引用元:厚生労働省|厚生年金保険法
従業員へ控除した各社会保険料を通知するため、多くの企業では賞与を支給する際も明細書の発行が一般的となっています。
賞与を支給した際は、「被保険者賞与支払届」および「被保険者賞与支払届総括表」を管轄の年金事務所または事務センターへ提出しなければなりません。
また健康保険組合に加入している場合は、健康保険組合にも提出が必要です。
提出期限は賞与を支給して5日以内とされていて、提出を忘れてしまうと催告状が届くので忘れずに提出しましょう。
年金事務所や健康保険組合へ事前に賞与支払予定月を登録しておけば、賞与支給の前月に賞与支払届が郵送されてくるのでぜひ活用してみてください。
賞与にかかる社会保険料は毎月の社会保険料と合わせて、翌月末日までに納付する必要があります。
賞与支払届の提出漏れによって申告が送れると、遅延理由の報告書提出や延滞料の支払いが発生する場合もあるので注意しましょう。
賞与支払届けを提出する際に、注意しなければならない点がいくつかあります。ここで人事・労務担当者として押さえておきたい注意点をご紹介します。
賞与支払届に印字されている従業員へ賞与を支払わなかった場合、賞与支払届へ支給額などの記入は必要ありません。
しかし被保険者賞与支払届総括表は、賞与支給の有無を記載する必要があるため、支給していない場合も提出が必要です。
登録されている賞与支払予定月の翌月までに届出を出さなければ、催告状が送付されてしまうため注意しましょう。
中途入社など資格取得月に支給された賞与には社会保険料がかかりますが、資格喪失月に支給された場合は徴収されません。
しかし退職者の資格喪失日は原則退職日の翌日となるため、月末日に退職した従業員に対しては、社会保険料がかかります。
社会保険料がかかっていない場合でも、賞与を支給した場合は賞与支払届の提出は必要です。
→資格喪失月が7月のため、社会保険料はかかりません。(賞与支払届の提出は必要)
→資格喪失月が8月のため、社会保険料がかかります。
産前産後休業や育児休業など社会保険料免除期間に賞与が支払われた場合、原則社会保険料は徴収されません。
しかし標準賞与額として年度の累計額に含めるよう定められているため、社会保険料はかからなくても賞与支払届の提出は必要です。
賞与にかかる社会保険料を算出するためには、毎年のように行なわれる法改正や保険料率についても正しく理解しなければなりません。
また賞与支払届を提出するために、わざわざ年金事務所に出向くのも多忙な担当者にとって負担が大きいでしょう。
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ここではおすすめの労務管理システムをいくつかピックアップし、特徴をまとめました。ぜひ比較検討して、自社にぴったりの労務管理システムを導入してみてください。
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名目 | 費用 |
登録料 | 110,000円(税込) |
従業員ひとりあたりの月額利用料 | 440円(税込) |
ユーザー数 | 無制限 |
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(コンサルティング:従業員50人以下)
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