会社にとって「ヒト」は、資源です。その資源を管理・サポートしているのが人事部門。
労務は人事領域における業務の一つですが、同じ部門の人事と違いがわかりにくく、混同されがちです。
そこで今回は、労務をテーマに人事との違いを含め、仕事内容や求められるスキルや資格、労務に向いているのはどんな人なのかについて解説します。
これから就職活動を始める方はもちろん、人事部門に配属された新入社員の方の業務への理解度が上がるはずです。
このページの目次
人事と混同されやすい労務とは、どのようなものなのか。ここでは、労務の概要について解説しています。
労務は、企業の経営資源である『ヒト』の領域を対組織の観点でサポート・管理する業務です。従業員の働く環境を整えたり、労働生産効率を高めたりする役割があります。
労務の業務遂行において、労務費を無視して考えることはできません。
労務が労働環境の整備を監督する役割である以上、何かを製造生産する場合には、材料費のほかに労働力の人的コストがかかるからです。
労務費とは、製造生産に必要な人件費のことで、製造原価に当たります。
労務費についての詳細な解説は『労務費とは?人件費との違いや計算方法・内訳・労務費率をサクッと解説』をご覧ください。
労務が担う業務領域は、多岐にわたります。
1.労働契約の管理
2.就業規則の作成
3.勤怠管理
4.給与計算
5.社会保険の手続き
6.安全衛生管理
7.福利厚生管理・サポート
8.労働トラブルの対応
労務の業務は、従業員にとって働きやすい環境を整えるのが仕事ですから、人事部門の中でも従業員の労働に関わる領域に集約されます。
入社や退職にまつわる手続き全般も労務の仕事です。
入社をすれば、雇用契約書の作成に始まり、雇用保険・健康保険・厚生年金の資格取得手続き、給与振込口座の登録、出勤簿など法定三帳簿の整備などをおこないます。
退職では、保険や年金の資格喪失手続きや退職金の計算をおこない、退職証明書の発行などにも対応します。
入社や退職において発生した書類の管理も業務範囲に含まれます。
勤怠管理では、出退勤や時間外労働などはもちろん、有給取得状況の把握や管理をおこなうほか、勤怠の申告内容が実情と合致しているかの監督もおこないます。
給与計算では、基本給や諸手当、法定控除などの項目をそれぞれ計算して、支給額を算出します。煩雑な業務ですが、雇用契約や納税などに関わる重要な業務です。
健康保険をはじめ、厚生年金や雇用保険など各種保険への加入・資格喪失の手続きも労務の仕事です。
会社と雇用関係を結んでいる従業員は、これらの保険に加入します。
万が一、加入漏れなどがあると、事故やケガ、病気になった際に従業員が不利益を被ることになるため、こちらも重要な業務の一つといえます。
安全衛生とは、従業員の働く環境における安全性および健康の確保を意味します。
企業は、労働安全衛生法によって従業員の安全衛生管理をおこなわねばならないと定められています。その一つが、健康診断の実施です。
健康診断を実施するにあたっての手続き、診断結果の記録管理、従業員に対する結果の通知、保健指導、労働基準監督署への報告など諸々の作業は、労務が一手に担います。
また、近年では過労死やうつ病などのメンタルヘルス対策として、一部の企業に対して職場でのストレスチェック制度も義務化されています。
制度の導入や、産業医との面談などの環境整備も労務で対応します。
労務が対組織における従業員管理やサポートを担う業務だとすると、人事とはどこがどのように違うのか。
ここでは、労務と人事の違いについて、業務内容の視点で見ていきます。
労務と人事の業務内容の違いを見るには、対比表が役に立ちます。
上表を見ると、労務の業務は、雇用契約を交わした従業員の労働環境の整備や管理、サポートといった組織的な内容が主だったものであることがわかります。
一方、人事の業務は、採用や育成など対個人に集約されているのが見て取れます。これらのことから、労務と人事の業務の違いは、次のようにまとめることができるのです。
労務:対組織的な業務
人事:対個人的な業務
緻密で煩雑なものが多い労務の業務を正確におこなうためには、どんな資格やスキルが必要なのか。
ここでは、資格やスキルのほか、どんな人が向いているかについても解説します。
絶対的に必要なわけではありませんが、取得していれば労務の専門的知識を有している証になるのが、以下の資格です。
社会保険労務士と衛生管理者は、国家資格です。合格率は、社会保険労務士で約6~7%、衛生管理者で約44%(第一種の場合)と、社会保険労務士のほうが狭き門となっています。
社会保険労務士の資格を取得できれば、行政への申請書類の作成や申請代行、従業員との労働トラブルの解決手続きにおける代理などを外注せずとも社内でおこなえるようになります。
衛生管理者は、従業員が50名以上在籍している事業所で必ず1名はおかねばならないと労働基準法で定められている重要な役どころです。
試験内容も、衛生管理の関係法令や労働衛生が中心となっていますから、労務担当者が取得するにも不足はないでしょう。
労務管理士は、国家資格ではありませんが、労働基準法を中心にした試験内容となっており、社内で労務を担う人材が取得するには基本的資格として位置づけることができます。
労務で求められるのは、以下のスキルです。
労務に必要な専門的知識はもちろんですが、領域内のあらゆる業務に対する管理能力、それらを正確に対応できるオペレーション能力は必須です。
労務の業務は、会社と従業員の間に立つことも多いため、誠実にコミュニケーションが図れることも大切なスキルといえます。
さらには、従業員の個人情報を取り扱う業務でもあることから、秘密保持への意識も不可欠です。
労務業務に適性があるのは、次のような特徴を持つ人材です。
労務の仕事は事務仕事が中心とはいえ、書類作成や計算業務など細やかな作業がほとんどです。
それらを正確にコツコツと根気強くこなせる人でなければ、苦痛に感じるかもしれません。
ルーティンワークのような業務の中にも、従業員や会社と話し合う場面などもありますから、状況を冷静に分析・判断し、状況によって臨機応変に対応できる柔軟性が求められることもあります。
労働トラブルなどでは、相手の気持ちを考えて言葉を選びながら、伝えるべきことは伝えられる傾聴力や伝達力といったコミュニケーションスキルも必要です。
そして、何より労務の仕事は、法律に関わるものが中心ですから、法律を重んじる倫理観の持ち主であることは外せません。
労務は、人事と業務領域が近いために混同されがちですが、その内情は全く別のものです。
従業員の労働環境を整えるのが労務の役割であり、そのために法律や税といった専門的知識が必要です。
中小規模の企業では、労務担当者が人事業務と兼務しているケースも見られますから、労務管理システムに任せられるものは積極的に置き換えていくのがおすすめです。
画像出典元:Pixabay、Unsplash
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