毎年行われる年末調整ですが、従業員一人ひとり必要な書類や記入を要する項目が異なるため、時間と労力がかかります。
控除申請をすることで所得税額の減額が可能となるため、正確さはもちろん、従業員数が多ければスムーズに手続きを進めることも求められます。
また、毎年のように税制改正がなされるため、その都度、改正内容を把握しなければなりません。しっかりと正確に、そしてスムーズに年末調整の手続きを進めるには、どのようにすればよいのでしょうか。
今回は、年末調整の手続きについて、電子化の概要や手続きの進め方、おすすめの年末調整システムについて詳しく紹介します。
このページの目次
年末調整とは、会社の従業員や公務員などといった給与所得者が、毎月の給与から差し引かれていた1年分の所得税を年末に調整する手続きのことをいいます。
本来所得税は、1年間の所得に応じて金額が決まりますが、給与所得者は、あらかじめ概算の所得税を差し引いた分の給与を受け取っているのです。
そのため、年末に実際の所得税額との差額を調整し、その過不足分について還付または追加徴収しているのです。
年末調整は、勤務先に「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出している従業員で、「1年を通じて勤務している人」「年の途中で就職し、年末まで勤務している人」が対象となります。
ただし、勤務先に「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出していても、「年収が2,000万円を超える人」「災害減免法の規定で、所得税の支払い猶予や還付を受けた人」「2ヵ所以上から給与をもらっている人」などは、年末調整の対象にはなりません。そのため、確定申告をする必要があります。
年末調整のキホンについて詳しく知りたい方は下記記事を参考にしてください
2018年度の税制改正によって、2020年分の年末調整から、手続きの電子化に向けた施策が実施されることになりました。
これまでは、「生命保険料控除」「地震保険料控除」「住宅借入金等特別控除」に関する控除証明書等については、保険会社や金融機関等から書面で提供されていましたが、2020年からはこれらの控除証明書等が電子データで提供されるようになりました。
国税庁のホームページに掲載されている年末調整控除申告書作成用ソフトウェアをダウンロードし、受領した控除証明書等の電子データをインポートすることで、控除対象保険料等が自動計算されるのです。
そのため、従業員による保険料の集計や申告書への記載の手続きが不要となり、計算ミスや訂正の必要も無くなります。また、事務担当者による控除申告書等のチェックや入力作業も不要となり、事務が簡素化できるというメリットにもつながります。
年末調整手続の電子化の概要や手続きなど、詳細については国税庁のホームページに掲載されているので、参考にしてください。
(参考)国税庁「年末調整手続の電子化に向けた取組について(令和2年分以降)
年末調整の事務作業は、担当者にとって大きな負担となります。取り扱いする書類が多く、控除申告書等に記載された金額を一つひとつチェックするのも大変な作業です。
年末調整は、毎年11月頃から行い、翌年1月下旬までかかるため、効率良く進める必要があります。ここでは、年末調整の手続きとそのステップについて詳しく説明します。
11月に入ってから、年末調整の対象となる従業員に対して申告書類等を配布し、必要事項を記入した後、控除証明書等を添付して提出してもらいます。
記入漏れや計算ミスなどをチェックし、訂正の必要があれば差し戻して、なるべく早めに回収するようにしてください。
従業員の控除申告に必要な書類は、次のとおりになります。
給与所得者が、扶養する家族に対する所得税・住民税の扶養控除等を受けるために作成します。
扶養家族、障害者・寡婦(寡夫)・ひとり親・勤労学生、16歳未満の扶養家族などについて記載しますが、控除対象のものがなくても、ない旨を証明するために提出が必要となります。そのため、給与所得者全員が作成し、提出する必要があります。
給与所得者が、基礎控除、配偶者(特別)控除、所得金額調整控除を受ける場合に作成します。
2020年分から、従来の配偶者控除等申告書に基礎控除と所得金額調整控除の欄が追加されて、3つ同時に申告するものとなりました。
年末調整を受ける場合、基礎控除申告書の提出が必要となります。所得が2,500万円以下(給与収入だけであれば2,695万円以下)であれば、記入が必要です。
配偶者がいる人を対象とする配偶者控除等申告書では、給与所得者本人の年収が1,000万円以下(給与収入のみなら1,195万円以下)、配偶者の年収が133万円以下(給与収入のみなら201.6万円未満)であれば、控除申告ができます。
配偶者の所得に応じて「配偶者控除」「配偶者特別控除」のいずれかの控除を受けること可能です。
所得金額調整控除申告書とは、年収が850万円超1,000万円以下の人で、本人または家族が特別障害者である場合や、23歳未満の子どもを扶養しているという場合、特別障害者や子どもに関して記載する書類です。
給与所得者が、生命保険料・介護医療保険料・個人年金保険料・地震保険料・社会保険料・小規模企業共済等掛金控除の申告をする場合に作成するものです。
年末調整の時期が近づくと、各保険会社から控除証明書が届くので、その証明書を基に控除額を計算して記入し、控除証明書を添付の上申告します。
記入項目は「生命保険料控除」「地震保険料控除」「社会保険料控除」「小規模企業共済等掛金控除」の4つになります。
住宅ローンなどを利用して新築住宅を購入する、リフォームを行うなどした場合、一定の要件を満たせば、住宅ローンの年末残高の1%に当たる金額について、最大40万円まで控除されます。
本来、この控除申請は確定申告で行いますが、給与所得者の場合、2年目からは年末調整で対応可能となります。年末調整で控除申請をする際に、作成を要する書類です。
従業員から控除申告の書類を回収したら、次は年末調整のための計算を行います。
1月から12月の1年間に従業員に支払った給与総額と、既に徴収した源泉徴収税の総額を計算します。まだ12月分の給与やボーナスが未払いでも、支払いが確定していれば年末調整が可能です。
途中入社した従業員が、同じ年に前の職場から給与をもらっていればその給与も年末調整できるため、その従業員には前の職場の源泉徴収票を提出させてください。
次に、課税給与所得金額を計算します。まず、給与総額から金額に応じた給与所得控除額を差し引いて、給与所得控除後の給与等の金額を算出します。
そして、「給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書」に記載された「基礎控除額」「配偶者控除額(または配偶者特別控除額)」「扶養控除額」「障碍者等の控除額」と、「給与所得者の保険料控除申告書」に記載された「生命保険料」「社会保険料」「地震保険料」「小規模企業共済等掛金」の控除額の合計金額を算出し、給与所得控除後の給与等の金額から差し引きます。
ここで算出されたものが課税給与所得金額となり、1,000円未満は切り捨てとします。
続いて、年調所得税額を計算します。先に計算した課税給与金額を基に、国税庁が提供する「所得税の速算表」から所得税額を出します。
(参考)国税庁「所得税の速算表」
住宅ローンの支払いがなければ、この所得税額が年調所得税額となります。住宅ローン控除申請を行う場合は、所得税額から住宅借入金等特別控除額を差し引いた金額が年調所得税額になります。
最後に、年調年税額を計算します。この金額を基に所得税の過不足金を算出し、還付または徴収するのです。
年調所得税額に102.1%をかけた金額が年調年税額であり、先に計算した源泉徴収税総額より少なければ差額分を還付、多い時は差額分を徴収することになります。
年末調整によって過不足金の計算が済んだら、源泉徴収税を納付し、法定調書を作成・提出しなければなりません。
源泉徴収税の納付期限は、毎年1月10日までです。それまでに、従業員の年末調整の状況を記載した「所得税徴収高計算書」を作成し、源泉徴収税の納付とともに税務署に提出する必要があります。
年末調整によって従業員への過不足金還付・徴収が終わった後に、法定調書を作成して、各機関へ提出しなければなりません。
作成を要するものは、従業員への給与総額・所得控除額・源泉徴収額などを記載した「源泉徴収票」、報酬・料金・契約金・賞金や不動産使用料などの「支払調書」、源泉徴収票や支払調書などを基に集計した「法定調書合計表」、住民税の算出に利用される「給与支払報告書」です。
年末調整は従業員一人ずつ行う必要があるため、書面で提出されたものを全てチェックするには、相当な時間と労力が必要となります。
国による年末調整の電子化に向けた取組が進む中、このタイミングで年末調整システムを導入すれば、事務作業の効率化につながり、人件費の削減も可能となります。
ここでは、厳選した年末調整システムを詳しく紹介します。ぜひ導入の参考にしてみてください。
画像出典元:「オフィスステーション年末調整」公式HP
「オフィスステーション 年末調整」は、従業員全員の年末調整の状況を自動で数値化してくれる年末調整ツールです。
従業員は「変更あり・なし」で回答するだけで済み、変更がなければ余計な入力を行う必要がないため、簡単に申請ができます。
もし変更があった場合には差分データが自動表示されるため、人事担当者も効率的にチェックできるのも、嬉しいポイントです。
・申告の手続きが簡単
・催促メール一括送信
・変更の差分データの自動表示機能
・セキュリティ専門部隊が24時間365日監視
・専門家によるサポート
初期費用が110,000円(税込)、製品利用料が5,000名まで従業員1人あたり550円(税込)です。
従業員が5,000人を超える場合は、「さらにお得になる割引をご用意」と公式ホームページに記載*されていますので、お問い合わせをおすすめします。
(*2022年3月時点)
なお、 従業員数が20名以下の場合、年額利用料一律11,000円(税込)です。
画像出典元:「マネーフォワード クラウド年末調整」公式HP
マネーフォワード クラウド年末調整は、web上での書類配布、入力・回収・進捗確認・差戻、提出(e-Tax、eLTAX 連携による電子手続)に対応しており、従業員も労務担当者も煩雑になりがちで面倒な年末調整業務が、Web上でかんたんに行うことが可能です。
また既存の給与計算ソフトはそのままに、年末調整部分だけクラウド化(電子化)することもでき、大変便利なサービスです。
<年末調整機能の詳細>
・従業員情報登録
・年末調整計算の対象者を一元管理
・従業員情報の更新状況を一元管理
・年末調整計算の進捗状況を一元管理
・年末調整の精算月を選択可能
・給与等総額の自動集計
・各種控除額の自動計算
・年末調整の自動計算
・給与所得者の扶養控除等(異動)申告書出力
・給与所得者の保険料控除申告書出力
・源泉徴収簿出力
【スモールビジネス(小規模法人向け)】
年額プラン:2,980円/月
月額プラン:3,980円/月
【ビジネス(中規模法人向け)】
年額プラン:4,980円/月
月額プラン:5,980円/月
詳細は以下の資料をダウンロードしてご確認ください。
サービス
31人〜50人
勤怠データを取り込んで自動計算してくれる
勤怠データを取り込んで自動計算してくれるところが便利です。以前使っていた給与計算ツールでは手入力のうえに、取り込む時間もかかっていて、精密な自動計算もなく、チェックが大変でしたが、導入後はそのような手間がいらないので助かっています。
その他
31人〜50人
システムが重く価格も高いので要検討を
システムが重い。システムで出来ることは多いが、勤怠システムとのAPI連携やHRシステムとの従業員データ連携等が前提となっている部分もあり、少しハードルが高い。
画像出典元:「ジョブカン労務HR」公式HP
労務担当者300人の声を活かして作られた、ジョブカン労務HR。
年末調整はクリックするだけで必要な書類を自動作成でき、クラウド上でまとめて処理できます。
無料お試し期間中からサポートが充実しており、システム導入時の有料初期設定サポートもあります。
・手続きの自動化・効率化
・従業員情報一元管理
・セキュリティ
・初期費用:0円
・月額費用:400円/1名
500名を超える大規模企業で利用の場合や、詳細については以下の資料をダウンロードしてご確認ください。
サービス/外食/レジャー
51人〜100人
打刻漏れを防げる仕様になっている
勤務管理や経費管理をしてくれるので、「誰が何日出勤して何時間働いた」などが、とても見やすくわかりやすい。打刻方法が色々あったので、打刻漏れを防げる点が一番良かった。打刻漏れを教えてくれる機能も付いていた。経費精算もしてくれるので助かっていた。
派遣会社
51人〜100人
外国人従業員の手続きがスムーズではない
社会保険の加入などの手続きをオンラインで申請できますが、外国人の対応ができませんでした。自分で書類を持って年金事務所に加入手続きを申請しないといけなかったので、それはすごく不便だと思いました。
毎年のように年末調整に関連する法改正が行われるため、その都度、改正内容に則した対応が必要となります。
従業員ごとに記載箇所や内容が異なるため、年末要請の控除の新設や見直しによって申告書類の作成方法が変更されると、余計に時間と労力がかかってしまいます。
年末調整の手続きを効率良くスムーズに進めるためには、早めに対応することです。
事務作業を効率化させるには、年末調整システムの導入もおすすめです。
日頃から年末調整に関する法改正などをチェックしながら、準備を進めておきましょう。
画像出典元:Pixabay
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