年末が近づくと、勤務先から年末調整の書類を作成して提出するよう求められます。
この書類によって、給与所得控除や配偶者控除、保険料控除といった所得税の控除申告を行い、税金の過不足金を調整して、従業員に還付・追加徴収しているのです。
年末調整は企業にとっても従業員にとっても必要な手続きです。正確に、そしてスムーズに手続きを進めるためには、手順や書類の作成方法などをしっかり把握しておく必要があります。
2020年にはいくつか大きな改正があるため、その内容も理解しておかなければなりません。
今回は、年末調整について、2020年の改正点も含めて、手続きの進め方や必要書類のほか、おすすめの年末調整システムについても紹介します。
このページの目次
年末調整とは、会社の従業員や公務員などの給与所得者が1年間に支払う所得税と、実際に支払った給与やボーナスから控除した所得税額を比較して、その過不足を調整することです。
年末に1年間の所得が確定してから実際の所得税を算出し、既に徴収した所得税額との差額について、12月または翌年の1月の給与の際に追加徴収、還付しています。
毎月の給与から徴収されている所得税額は、あくまで概算です。おおよその所得税額を12ヵ月で割って徴収しているのです。
年間の給与額に変更がなければ問題はないですが、給与額の変更だけでなく、扶養家族の変動などが発生すると所得税額が変わってしまいます。
給与天引きされていない生命保険料の支払いがあると、所得税控除が可能となります。
そのような理由から、実際に支払うべき所得税との間に過不足金が発生することがあり、その過不足金を追加徴収、還付するため、年末調整の手続きをしているのです。
年末調整の対象となるのは、勤務先に「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出している従業員で、「1年を通じて勤務している人」「年の途中で就職し、年末まで勤務している人」です。
ただし、勤務先に「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出していても、「年間の給与収入が2,000万円を超える人」「災害減免法の規定で、その年の給与に対する源泉徴収についての徴収猶予や還付を受けた人」「2ヵ所以上から給与をもらっている人」などは、年末調整の対象にはなりません。
そのため、確定申告の必要があります。
2020年分の年末調整から、大きく変更される点があります。ここでは、そのポイントについて詳しく紹介します。
2020年分から基礎控除と給与所得控除が見直されることになりました。
基礎控除は、一律38万円から、適用要件が設定されて最大48万円に引き上げられます。給与所得控除は、一律10万円の引き下げとなります。
今回の税制改正による年末調整では、基礎控除と給与所得控除の見直し分を相殺して控除額を算出するため、増税となる人はあまりいません。しかし、給与所得控除の上限が年収1,000万円から850万円に引き下げられたので、年収850万円を超える人は増税となってしまいます。
今回の税制改正によって、子育てや介護の必要がある世帯での負担が増えないようにするため、「所得金額調整控除」が新設されました。
年収850万円を超える場合で、「本人が特別障害者である」「23歳未満の扶養家族がいる」「特別障害者である同一生計配偶者または扶養家族がいる」場合、控除が適用されます。
今回あらたに「ひとり親控除」という項目が新設されました。
昨年までは、未婚のひとり親の場合は、寡婦(寡夫)控除が適用されませんでした。しかし2020年からは、年収が500万円以下の未婚のひとり親で、同一生計の子供がいる場合は35万円の控除が受けられるようになったのです。
ただし、2020年分の年末調整の申告書には「ひとり親」欄が設けられていないため、申告の際には注意が必要です。
新設の控除や控除額の見直しに伴い、申告様式が変更されました。
これまでの「配偶者控除等申告書」が「基礎控除・配偶者控除等・所得金額調整控除」の申告書となり、3つの控除が1枚で申告できるようになったのです。
そのため、2020年から年末調整を受ける際には、全員がこの申告書を提出しなければなりません。
(参考)国税庁「年末調整がよくわかるページ・昨年から変わった点」
実際、年末調整ではどのような作業が行われているのでしょうか。ここでは、年末調整の作業手順について詳しくご説明します。
まず、1月から12月の1年間に従業員に支払った給与やボーナスの総額と、既に源泉徴収した徴収税額の総額を計算します。
仮に未払いであっても、支払いが確定している給与については、年末調整することができます。
また、途中入社した従業員のうち、同じ年に前の職場からの給与所得がある場合には、その給与についても年末調整の対象となります。
この場合、途中入社した従業員に対して、前の職場での源泉徴収票の提出を求める必要があります。
先に計算した給与所得の総額から、その金額に応じた給与所得控除額を算出して差し引くことで、給与所得控除後の金額を計算します。
給与所得控除とは、給与所得者にとっての経費の意味合いを持つもので、給与総額から一定額を差し引くことができるものです。
(参考)国税庁「令和2年分の年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表」
正確に各種所得控除額を計算するためには、従業員から次の書類等の提出を求める必要があります。
これらの書類を基に、所得控除額を計算します。
従業員の各種所得控除額が計算できたら、給与所得控除後の金額から各種所得控除額を差し引きます。
この算出金額は課税給与所得金額であり、1,000円未満は切り捨てます。課税給与所得金額を基に、国税庁が提供する「所得税の速算表」から所得税額を計算することになります。
(参考)国税庁「所得税の速算表」
住宅ローンを支払っている場合、1年目は確定申告が必要ですが、2年目以降は年末調整での控除が可能です。
4で算出した所得税額から、住宅ローン控除額を差し引くことで、年調所得税額が算出されます。
年末調整で過不足金の還付・徴収をするためには、年調年税額を計算する必要があります。この年調年税額は、5で算出した年調所得税額に102.1%をかけることで算出できます。
算出された年調年税額が、1で算出した源泉徴収税の総額より少なければ差額分を還付、多い場合は差額分を徴収することになります。
源泉徴収税の納付は、毎年1月10日までとなっています。そのためには、所得税徴収高計算書の作成が必要になります。
この書類は、従業員の年末調整を反映させた上で作成し、源泉徴収税の納付とともに、税務署に提出しなければなりません。
年末調整の結果、還付金の調整が確認されれば、その差額分は1月10日までに支払う源泉徴収税で調整されることになります。
年末調整を行い、従業員への過不足金還付・徴収が終わった後、次の3つの書類を作成し、各機関に提出する必要があります。
年末調整の手続きをする場合、申告書を作成する必要がありますが、その際には控除のために必要な証明書などを準備して、必要事項を記入しなければなりません。
ここでは、年末調整の手続きに必要な3つの書類について説明します。
この書類は、給与所得者が扶養する家族について、所得税・住民税の扶養控除等を受けるために作成するものです。
扶養家族、障害者・寡婦(寡夫)・ひとり親・勤労学生、16歳未満の扶養家族などについて記載します。
控除対象のものがなくても、ない旨を証明するために提出が必要となります。そのため、給与所得者全員が作成し、提出する必要があります。
出典:国税庁「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」
詳しい記載方法については、国税庁「令和2年分 給与所得者の扶養控除等申告書の記載例」を参考にしてみてください。
この書類は、給与所得者が基礎控除、配偶者(特別)控除、所得金額調整控除を受ける場合に作成するものです。
令和2年分から、従来の配偶者控除等申告書に、基礎控除と所得金額調整控除の欄が追加されて、3つの申告書が一枚にまとめられました。
基礎控除申告書は、年末調整を受ける人全員が提出しなければなりません。所得が2,500万円以下(給与収入だけであれば2,695万円以下)であれば、記入が必要です。
配偶者控除等申告書は、配偶者がいる人が対象となり、給与所得者本人の所得が1,000万円以下(給与収入のみなら1,195万円以下)、配偶者の所得が133万円以下(給与収入のみなら201.6万円未満)であれば、控除申告ができます。
また、配偶者の所得に応じて「配偶者控除」「配偶者特別控除」のいずれかの控除を受けることができます。
所得金額調整控除申告書は、年収が850万円超1,000万円以下の人が、給与所得者本人や家族が特別障害者である、23歳未満の子どもを扶養しているという場合に、特別障害者や子どもに関して記載するものです。
出典:国税庁「給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額控除申告書」
詳しい記載方法については、国税庁「令和2年分 給与所得者の基礎控除申告書・給与所得者の配偶者控除等申告書・所得金額調整控除申告書の記載例」を参考にしてみてください。
この書類は、生命保険料・介護医療保険料・個人年金保険料・地震保険料・社会保険料・小規模企業共済等掛金控除の申告をする場合に作成するものです。
年末調整の時期が近づくと、各保険会社から控除証明書が届くので、その証明書をを見ながら作成し、添付の上申告します。
記入項目は「生命保険料控除」「地震保険料控除」「社会保険料控除」「小規模企業共済等掛金控除」の4つになります。
生命保険料控除とは、生命保険や県民共済、勤務先の団体保険など、1年間で支払った保険料のうち一定額が控除されるものです。控除の種類は「一般の生命保険料控除」「介護医療保険料控除」「個人年金保険料控除」の3つあり、加入している保険がどの種類なのかは、保険会社から届く控除証明書に記載されているので、その証明書を基に作成することになります。
地震保険料控除は、地震保険特約付きの火災保険の加入者が対象で、1年間で支払った保険料のうち一定額を控除するものです。
地震保険料控除の対象となる保険料は、加入者本人や生計を同一にする配偶者、その他の親族が所有し、住宅として使用している建物と家財に対するもので、他人に貸している住宅や別荘などの保険料は対象となりません。
社会保険料控除は、健康保険料や介護保険料、厚生年金保険料などで、勤務先の給与などから天引きされる以外の社会保険料がある場合や、家族の社会保険料を支払っている場合に記入することになります。
小規模企業共済等掛金控除は、独立行政法人中小企業基金整備機構の共済の掛金、iDeCoなど確定拠出年金法上の企業型年金・個人型年金、心身障害者扶養共済制度の掛金の支払いをしている場合、記入することになります。
出典:国税庁「給与所得者の保険料控除申告書」
詳しい記載方法については、国税庁「令和2年分 給与所得者の保険料控除申告書の記載例」を参考にしてみてください。
年末調整に必要な書類一覧は下記記事を参考にしてください。
正しく年末調整をして、所得税などの税金控除をするには、いくつか注意しておくべきことがあります。ここでは、そのポイントについて説明します。
通常、給与所得者は、毎月の給与から源泉徴収された金額について年末調整で清算してしまえば、確定申告をする必要はありません。しかし、次のような場合であれば、確定申告をしなければなりません。
保険料の控除申請をするためには、保険会社から届く控除証明書が必要です。証明書の内容を基に控除申請書を作成することになりますし、提出の際には添付しなければなりません。
もし、控除証明書を紛失してしまった場合は、再発行を依頼してください。生命保険は生命保険会社、地震保険なら損害保険会社、国民年金保険であれば日本年金機構になります。
本来なら保険料の控除や配偶者控除の手続きができるのに、手続きを忘れてしまっていた場合は、どうすればよいのでしょうか。
もし、年末調整の手続きができなかったり、手続きを忘れていた控除分があれば、確定申告をすれば問題ありません。
また、控除申告書を提出したのに、配偶者や親族の所得金額が高くて控除できない、所得が低いから本当は控除が受けられるなど、年末調整のやり直しが必要な場合は、翌年の1月31日までなら手続きが可能です。それを過ぎてしまうと、確定申告をしなければなりません。
確定申告と聞くと戸惑ってしまうかもしれませんが、税理士や税務署などに問い合わせて手続きを進めてください。
従業員をたくさん抱えている企業や事業所だと、年末調整の処理に時間も手間もかかることが多いです。
従業員一人ひとり、給料の金額も違えば、家族構成や保険の契約状況等も異なるため、大変な作業になってしまいます。
正確に、そして労力をかけずに年末調整の作業を進めるには、年末調整システム(年末調整支援システム)の導入をおすすめします。システムを導入すれば、業務の効率化が可能となり、人件費の削減にもつながります。
ここでは、厳選した年末調整システム(年末調整支援システム)を詳しく紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。
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画像出典元:「マネーフォワード クラウド年末調整」公式HP
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画像出典元:「ジョブカン労務HR」公式HP
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控除の要件や申告書の記載方法について、何らかの変更があるため、確認作業にも時間がかかってしまいます。
2020年分でも、控除の要件が変わり、新しく設けられた項目や申請方法もあるため、より慎重に対応しなければなりません。
正確かつスムーズに事務処理をするためには、早めの対応が必要です。普段から年末調整に関する制度改正の情報等を確認しつつ、効率的に作業を進められるようにしておきましょう。
画像出典元:写真AC、Pixabay
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