事業ポートフォリオとは、自社が行っている事業の経営状況をまとめたものです。
いくつかの事業を運営している場合、「集中的に経営資源を投入すべき事業」「撤退すべき事業」などの見極めが重要になってきます。
その際に役立つのが「事業ポートフォリオ」です。
当記事では、事業ポートフォリオの作り方と見直し方を誰でもわかるよう簡単に説明します。
メリットや成功事例も紹介するので、参考にしてください。
このページの目次
画像出典元:富士フイルム公式HP
事業ポートフォリオとは、上の円グラフのように企業が運営している複数の事業を一覧にしたものです。
利益をだしている事業の全体像がわかり、今後どの事業にどれくらい経営資源を投入するべきかの判断がしやすくなります。
事業ポートフォリオの作成で確認できるのは、事業ごとの収益性、安全性、成長性などです。
それぞれを比較すれば、今後の見通しが立てやすくなるでしょう。
事業ポートフォリオは、M&Aが行われる際に必ずといってよいほど登場します。
M&Aを成功させるためには、自社と相手企業の強みや課題などを把握しなければなりません。
その際に事業ポートフォリオがあれば必要な情報を得やすく、M&Aによる失敗を予防できます。
また、事業ポートフォリオを最適化する手段のひとつがM&Aです。
たとえば、自社に不足した部分を補うために他社と合併したり、他社を買収することで適切な事業運営が行えます。
M&Aによって企業が成長できていれば、事業ポートフォリオを最適化できているといえるのです。
後述する富士フイルムは、このM&Aによる事業の最適化で成功しています。
事業ポートフォリオを作成するメリットはこの3つです。
メリットを1つずつ説明します。
技術革新のスピードが加速しているため、消費者の好みもビジネスの仕方も急速に変化している時代です。
スピード社会で生き残るためにはビジネスチャンスを逃さないことが大切ですが、それは容易ではありません。
そうとう早い段階で経営判断をくださないと、時代の流れについていけないからです。
そのためには、自社の状況を俯瞰でき、どこに次のチャンスが潜んでいるか見つけられる事業ポートフォリオが役立ちます。
事業ポートフォリオのメリットは、自社が危機的状況になる前に対処できることです。
たとえば、改善を繰り返しても利益がでていない事業があったら、どこかで撤退を決断する必要があります。
売上が伸びていても目標に達していない場合は、成長性を判断基準にして継続するか撤退するか見極めなければなりません。
利益がわずかしかでていない事業でも、安定していて安全性が高いなら継続させたほうが良いこともあるでしょう。
様々な視点から経営状況を見つめ直せる事業ポートフォリオがあれば、判断が遅れて倒産する危険を減らせます。
事業ポートフォリオを作成すると、各事業ごとの売上高(パーセンテージ)を一覧でみられるので、財務状況を把握しやすいのもメリットです。
企業規模が大きくなるほど財務体質の強化が必要ですが、ついついおろそかになってしまうものです。
急な金融危機や社会情勢の変化が起こる可能性があるので、常日頃から備えておかなければなりません。
事業ポートフォリオを最適化する体制を整えることで、財務体質の良い企業に近づけます。
ここからは事業ポートフォリオの作成方法について解説します。
事業ポートフォリオを作成する場合は、自社の現状把握から始めます。
その際に使うのが、PPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)分析です。
PPMとは、1970年代にボストン・コンサルティング・グループ(BCG)が開発したフレームワークです。
PPMでは、市場成長率を縦軸、市場シェア率を横軸にして、事業を4つに分類します。
市場の成長が見込めず、シェア率も低い事業は「負け犬」になります。
「負け犬」は撤退する決断が迫られる事業です。
市場成長率が高くてもシェア率が低い事業は「問題児」、成長率もシェア率も高い事業は「花形」です。
「問題児」はシェア率を高めて「花形」に近づけることが目標になります。
「花形」は、このまま高いシェア率を保ちながら、市場成長率が落ち着いた頃に「金のなる木」になることを目指す事業です。
市場成長率は低いのにシェア率が高ければ「金のなる木」となり、安定した利益を出しやすいので今後も継続させる事業になります。
経営資源には限りがあるので、選択と集中が大切です。
たとえば、「花形」はライバルが多いので、他社に負けないよう投資しなければなりません。
「問題児」もシェア率を高めるために資金の投入が必要です。
反対に「金のなる木」は今後規模が縮小する恐れもあるので、これ以上資金を投入するよりも、コスト削減などをして利益率向上を目指します。
「金のなる木」で得た利益は「花形」や「問題児」にまわすと良いでしょう。
事業ポートフォリオを作成する際は、自社の主力事業(事業ドメイン)を決めましょう。
ここで使用するのは、以下の3つの軸で情報を整理するCFT分析です。
事業ドメインの設定では、ターゲットを明確にすることが大切です。
顧客の年齢、性別、好み、居住地などの属性を絞り込み、どこに住むどんな人に向けてサービスを提供するかをはっきりとさせます。
顧客軸は、お客様の求めているものを理解するために欠かせないとても重要な部分です。
「事業が顧客ニーズにマッチしているか?」「新規顧客を増やすためにはなにが必要か?」という課題の解決に役立ちます。
機能軸の指標は、自社商品が顧客に与える「価値」のことです。
顧客満足度の高い商品やサービスを提供すれば、予想していた以上の価値を感じてもらえ、リピーター獲得につながります。
または機能面を充実させ、価値を高めた高価格帯商品を販売することで、優良顧客を獲得できるでしょう。
技術軸は、自社の成長を促すためのイノベーション創出や新規事業を開拓することです。
競合他社に勝つためだけでなく、将来の主軸となる事業の立ち上げにも関係します。
事業ポートフォリオ作成では、自社の強みを必ずみつけましょう。
自社にしかない技術があったら、主力事業となる可能性がでてきます。
自社の強みは「コア・コンピタンス」とよばれていて、以下の5つの項目を使って判断します。
これらの条件を満たす技術ならコア・コンピタンスとして最適です。
コア・コンピタンスは、競合企業が簡単には真似できない独自の技術が望ましいです。
汎用性が高い技術は、他の分野でも事業を拡大できる可能性が高いので、コア・コンピタンスとして理想といえます。
他の物で代用できる技術をコア・コンピタンスにすると、唯一の価値をうみ出せません。
代用できない技術を選びましょう。
コア・コンピタンスに適しているのは、希少価値があると思われる斬新な技術です。
世間の人々から長く愛される技術をコア・コンピタンスにしないと、商品がヒットしてもすぐに需要がなくなります。
一過性のブームで終わらない商品をうみ出せる技術が最適です。
事業ポートフォリオの大原則として、企業理念とズレていないかも要チェックです。
事業ポートフォリオを作成する目的は、利益をあげたり事業規模を拡大することだけではありません。
長期的な視点でみた時に、自社が目指す姿に近づくためにも事業ポートフォリオが必要です。
最も大切な「企業のあり方」がブレると、顧客離れや企業イメージの悪化につながります。
企業理念に基づいた事業ポートフォリオになっているか必ず確認しましょう。
ここからは、事業ポートフォリオを最適化して有効活用する方法について説明します。
事業ポートフォリオは、定期的な見直しが必須です。
経済産業省のガイドラインでは、少なくとも年に1回、十分な時間をかけて見直すことが推奨されています。
事業ポートフォリオを最適化するためには、部門横断チームである「コーポレート組織」を準備すると良いでしょう。
コーポレート組織をつくるメリットは、部署ごとに立てた計画をまとめて管理したり業績を評価する役割が果たせることです。
「経営資源がバランス良く配分されているか?」「個々の事業戦略は全社レベルで適切な内容になっているか?」などがチェックできます。
事業ポートフォリオは常に見直しが必要です。
定期的に分析・評価を行って改善を繰り返しましょう。
その際に判断基準になるのは、この5点です。
1. 成長性が十分にある?
2. 収益性が十分にある?
3. リスクはどれくらい?
4. シナジーが見込める?
5. リスク分散できる?
成長性と収益性、リスクの程度にくわえ、異なる事業間に発生する相乗効果(シナジー)も考えて見直しをします。
たとえリスクがある事業だとしても、リスク分散できるなら、挑戦することで成長が見込める場合もあるでしょう。
事業ポートフォリオを最適化するためには、正しい意思決定を促す体制づくりも必要です。
決定権のある人が、独善的な考えで間違った判断をしないようガバナンスを整えましょう。
監視役がいれば、大きなトラブルを予防できます。
時にはリスクを冒してでも大胆な挑戦が必要ですが、不安が強いと一歩が踏み出せないものです。
経済産業省のガイドラインによると、以下のような経営者の声があがっています。
「自社グループ内では将来の成長が見込めないとしても、対象事業が赤字でない限り、売上げには貢献しているため(事業売却等を)決断しにくい」
こういったケースには、業績が向上した際のインセンティブを設けるなど、決定権をもつ人の行動を促す対策が効果的です。
事業ポートフォリオの担い手になるのは、社全体の財務を管理するCFOです。
経済産業省のガイドラインには以下のように定義づけられています。
CFOとは、本来、単なる経理・財務の部門長ということにとどまらず、
(1) 事業ポートフォリオを踏まえた事業リスクの評価・分析を行った上で、事業リスクに見合った最適な資本政策を立案・遂行するとともに、
(2) 企業財務の観点、つまり、いかに適切な資金の配分(投資)により将来キャッシュフローの最大化を図るかという観点から、CEOのパートナーとして、経営戦略の策定・実行に主体的に関与し、
(3) 企業財務の責任者として、投資家に対する説明責任を果たすことを職責とする役職である
参考:https://www.meti.go.jp/press/2020/07/20200731003/20200731003-1.pdf
欧米ではこれらの役割をCFOが担っていますが、日本企業では会計業務だけにとどまって経営には関与できていないCFOが多いようです。
事業ポートフォリオを有効活用したい場合は、CFOの役割を強化しましょう。
画像出典元:富士フイルム公式HP
事業ポートフォリオを活用した有名な成功事例が、富士フイルムの経営戦略です。
2000年の時点では、富士フイルムは写真事業が売上の約6割を占めていました。
しかし、その後デジタル化の普及により写真フィルム市場が急激に縮小し、化粧品市場と医薬品市場に新規参入したのです。
この時の迅速な判断により富士フイルムは生き残り、さらに成長を続けています。
どのようにして事業ポートフォリオを有効活用したのかを詳しく説明しましょう。
2010年の写真フィルム市場は、ピーク時の1割以下にまで減少しました。
そこで富士フイルムでは、過去に培った技術を見返して、応用できる分野を模索します。
技術を活用できることに加えて、今後も市場が拡大すると予測されたのが化粧品市場と医薬品市場です。
富士フイルムは2006年に化粧品市場に参入しました。
他にも、2001年には富士ゼロックスを連結子会社化して、2006年に富士フイルムホールディングスを設立しています。
2002年には、コンビニのコピー機から個人文書を取り出せる業界初のサービス提供を開始するなど、市場の変化に対応して企業再生に成功しました。
その後も、富士フイルムは積極的にM&Aを行いました。
2008年には富山化学工業を買収し、2010年には再生医療分野に参入。
2011年にはバイオCDMO(医薬品受託製造)事業にも参入しています。
この時も写真フィルム製造で培った技術をフル活用して事業を拡大したのです。
ドキュメントソリューションとしては、2009年に環境負荷削減のための「ApeosPort-IVシリーズ」の販売を開始。
ドキュメント共有支援サービス、在宅医療支援の患者情報統合システムなど、幅広い分野に事業を拡大しました。
2009年には世界初の3Dデジタルカメラの開発、2014年には世界初の4Kカメラ対応の放送用ズームレンズを販売しています。
ヘルスケア部門を収益の柱としながら、他分野でも活躍し続けているところが見習いたい点です。
2018年からの富士フイルムは、世の中に変化をもたらす企業になることを目標に掲げています。
特に力を入れているのが、バイオCDMO事業です。
アメリカのバイオジェン社の製造子会社を買収し、設備投資に力を入れています。
株式会社日立製作所の画像診断関連事業の買収、富士ゼロックスの完全子会社化など、成長に向けた取り組みを強化している点も注目したい部分です。
事業ポートフォリオを活用すれば、市場に大きな変化があっても富士フイルムのように事業を存続させることができます。
事業ポートフォリオは変化スピードの速い現代では重要な役割を果たします。
複数の事業を運営していると、バランスよく経営資源を分配するのは難しいものです。
今回紹介したフレームワークを使って事業を分析することで、自社の弱点や強みがみえてくるはずです。
ポートフォリオを作成した後は最適化し続けることで、時代の流れにそった事業展開の次の一手が明確になるでしょう。
画像出典元:O-DAN、写真AC
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