1つの企業の経営戦略にも階層的に異なる全体戦略、事業戦略、機能戦略の3つの種類があります。
また、経営戦略の柱を競争戦略と捉えたときの、価格戦略、差別化戦略、集中戦略という種類もあります。
この記事では、これらの経営戦略の違いとそれぞれの役割、目的を分りやすく解説しています。経営戦略とはどういうものかを知りたい人はぜひ参考にしてください。
このページの目次
経営戦略とは企業の目的(理念)を実現するための行動プログラムです。
企業にはかならず「発展」と「存続」という使命があり、「ヒト・モノ・カネ」という有限の資産(与えられた条件)があります。
企業を発展、存続させるために「ヒト・モノ・カネ」をいかに配分・運用するかを決めるのが経営戦略です。
「戦略」という言葉が示すように。経営戦略の本質的なファクターに「競争相手」があります。経営戦略はつねに競争企業との関係において決定されなけれはなりません。
また、革新的な新技術の登場など、企業を取り巻く「環境、時代の変化」も経営戦略を立てる上で重要なファクターになります。
このように、経営戦略とは、環境の変化の中で競争相手に打ち勝って、企業の発展と存続を実現するための「ヒト・モノ・カネ」の最適化プログラムです。
1つの企業にも、全体戦略、事業戦略、機能戦略という3つのレベルの経営戦略があります。この3つはどのように違い、お互いにどのような関係にあるのでしょうか。
全体戦略とは、事業の撤退や新規参入も含めたトップ判断のための行動プログラムです。
例えば、製造販売事業と仕入販売事業を行なう企業では、「今後は製造販売事業を縮小し、仕入販売事業にカネとヒトを集中する」という戦略は全体戦略になります。
業績不振の製造販売事業の責任者が設備投資が必要だと思っても、勝手に金融機関に融資を申し込むわけにはいきません。
資金調達はかならず全体戦略に基づいて行なわれなければならないからです。
このように、事業ドメイン(事業領域)の決定、経営資源(ヒト・モノ・カネ)の配分、資金の調達を方向づけるのが全体戦略です。
全体戦略は、会社の将来を展望する戦略なので「成長戦略」ともいわれます。
事業戦略とは、企業の特定の事業部門において当面の競争相手に勝つための戦略です。
例えば、カップ麺の開発・製造部門でシェア2位の商品を生産する企業が、競争企業のシェア1位商品に追いつき、追い越すために立てるのが事業戦略です。
具体的には、1位商品の分析(味・価格・販売方法)と自社製品の比較、市場(顧客)の嗜好の変化の動向などの分析を行なって、改善プログラムを立案します。
事業戦略は主としてライバルとの関係を念頭に作られる戦略なので「競争戦略」ともいわれます。
また、技術革新などで市場全体が縮小した事業では、全体戦略の下で、新製品の開発(新事業への進出)が事業戦略になることがあります。
オリンパスは、デジカメ・スマホカメラの普及で市場全体が縮小したフィルムカメラから、もちまえの光学技術を生かした内視鏡などの医学機器の開発・販売に転身して成功しました。
後に述べるように、事業戦略はつねに全体戦略との関係で立案・実行されます。
機能戦略とは、事業戦略を実行するための現場レベルのヒト・モノの活用戦略です。
例えば、「受注から納品までの工期を短縮して競争企業より優位に立つ」という事業戦略を実現するために、工場部門で生産機械の改良、生産工程の見直し、オペレーターの技能向上などの課題を分析し、改善策を立てる機能戦略が必要です。
また、工期短縮の見通しがついたら、営業部門ではそれを顧客に周知する戦略が必要になります。
このように1つの事業の各部門(機能)が、事業戦略の具体的な遂行のために立てるのが機能戦略です。
全体戦略、事業戦略、機能戦略は、全体としてみるとピラミッドのような上下の階層構造を形成しています。
頂点にあるのが全体戦略で、それを各事業ごとに具体化するのが事業戦略、さらに事業戦略を企画・製造・販売などの各機能の現場で形にするのが機能戦略です。
経営戦略は、策定プロセスにおいても、優先順位においても、基本的にはトップダウンの行動プログラムです。
全体戦略なしに事業戦略は立てられず、事業戦略なしに機能戦略は立てられません。
また、全体戦略に逆らう事業戦略はあり得ず、事業戦略と矛盾する機能戦略もあり得ません。
しかし、全体戦略はモーゼの十戒のように神から啓示されるものでも、経営者の頭に突然ひらめくものでもありません。
経営戦略の策定は、どのようなフレームワークを使うにしても、まず現状分析から始まることからも分るように、現場の各事業、各機能からの情報が血液のようにトップに流入していなくては、全体戦略は立てられません。
現実には、経営戦略(=全体戦略)と称するものが単なるトップの願望や現場への押しつけにすぎない場合もありますが、それでは有効な事業戦略・機能戦略を立てることができません。
組織の指揮系統がトップダウンである以上経営戦略もトップダウンですが、実際には現場の劇的な「カイゼン」や発見が全体戦略を方向づけてしまうこともあります。
「全社員が経営者の眼を持て」という言葉は、言い換えると、生きた経営戦略にはトップダウンとボトムアップの両方が必要だということになります。
会社組織に当てはめるなら、3つの戦略の責任者は
となります。(役職名は企業の規模などによって異なります)
しかし、各戦略の遂行責任者はこの通りだとしても、戦略の決定権はすべて社長(経営者)に集約されます。
すくなくとも事業戦略、機能戦略では1つ上の責任者に決定権が帰属します。
これは組織の命令系統から考えて当然のことですが、実際上も戦略の策定にあたっては、各機能を俯瞰的に見て調整する「上からの視線」が必要だからです。
経営者も現場の工作機械の前に立つような中小企業、あるいは起業したばかりの小さな会社では、ことあらためて経営戦略を全体戦略、事業戦略、機能戦略に分けて考える必要はありません。
しかし、ピラミッドならぬ平屋建てや二階建ての中小企業でも、成長戦略(全体戦略)としての経営戦略もあれば、競争戦略(事業戦略)としての企業戦略もあります。
経営戦略をどの角度から見るかによって、全体戦略ということもできるし、事業戦略、機能戦略ということもできます。
経営戦略を階層的にとらえる全体戦略、事業戦略、機能戦略の他に、「競合的存在」である企業の戦略を競争面でとらえる「価格戦略」「差別化戦略」「集中戦略」があります。
価格戦略は、ライバル企業に価格面で優位に立つ戦略で、コストリーダーシップ戦略とも呼ばれます。
価格で優位を築いた企業といえば100円ショップのダイソーや牛丼の吉野家などが思い浮かびますが、これらに共通しているのは次のような点です。
価格戦略で成功するには、資金力・規模のメリットが必要なので中小企業の戦略には不向きだといえます。
競争戦略でもっとも重視され、中小企業でも成功する可能性があるのが差別化戦略で、付加価値戦略とも呼ばれます。
山洋電気が2010年に発売したパン焼き器「GOPAN」は「ご飯でパンが作れる」という差別化で発売2ヶ月で10万台を売るヒット商品になりました。
米の消費拡大という社会の要請に合致していたことも、消費者がこの製品に付加価値を見出した理由の1つでした。
差別化戦略は、目新しいだけではなく、その差別化にストーリー性がある、希少価値がある、模倣が難しいなどの特徴によって長続きする優位性を築くことができます。
集中戦略とは、ターゲットを狭い顧客層や販売地域に限定して、そこに集中して経営資源を投入する戦略です。
集中戦略には、選定したセグメント(部分)で価格の優位性を目指すコスト集中型と、商品の独自性で優位を目指す差別化集中型があります。
例えば、スズキは軽自動車に資源を集中して、この分野で圧倒的なシェアを獲得して競争優位性を築きました。
経営戦略の種類には、企業を階層的にとらえた全体戦略、事業戦略、機能戦略があります。
上位の戦略を具体化するのが下位戦略の役割ですが、それぞれの戦略を有効なものにするには、上からの情報、下からの情報が滞りなく還流していることが求められます。
企業が本来競争的な存在であることに着目した経営戦略の種類が、価格戦略、差別化戦略、集中戦略です。
企業の規模や特性によってどの競争戦略に重点を置くかが決まりますが、差別化戦略(付加価値戦略)のない価格戦略は戦略の名前に値しない安売り競争になってしまいます。
画像出典元:PIXABAY
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