ニュースやM&Aで取り上げられる「偶発債務」という耳慣れないワード。どのような意味なのか知っていますか?
簿記や会計学を学習した経験があれば、なんとなく答えられる方もおられるかもしれませんが、通常は偶発債務について知らない方が圧倒的に多いのが現状です。
今回は偶発債務の意味から、どのような場合が偶発債務として扱われるのかを徹底的に解説していきます!
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偶発債務とは何かを簡単に説明すると「企業の決算日の時点に、債務の発生する可能性が不確実であるが存在し、将来その事象が発生する、もしくは発生しないことにより、その不確実性が最終的に解消されるもの」のことをいいます。
もう少し分かりやすく説明します。
要は、現時点では将来債務が発生するかどうかははっきりしないが、将来債務が発生するかもしれない可能性が決算日時点で認められる状況であることを示しています。
まだよく分からない方がほとんどだと思いますので、偶発債務の実際の例をみていきましょう。
それでは、偶発債務にはどのようなものがあるのでしょうか。具体的な例としては、債務保証、係争中の損害賠償債務、手形割引・裏書譲渡、デリバティブなどがあります。
例えばA社がB社の債務の保証を行った場合で、B社の経営状況が悪化してしまい、債務を返済できない場合にA社がB社に代わって債務の返済を行うといった場合が、これにあたります。
これはたしかに、将来発生するかもしれない債務、つまり偶発債務ですよね。
訴えているケースではなく、訴えられているケースで損害賠償責任を負うことが確定した場合は、その金額を損失として計上する必要があります。
現時点で訴訟の結果がどうでるかは予測不可能ですので、結果が出るまでは偶発債務ということになります。
手形割引・裏書譲渡を行うと、手元に受取手形は残りません。
手形の金額を支払うのは通常支払人となりますが、その手形を渡した側の責任が、手形を渡した時に発生します。渡した手形が不渡りになった場合、手形を渡した人が手形の金額を支払う義務を負う必要があるので、時価で評価し偶発債務として注記する必要があります。
デリバティブは日本語で、金融派生商品と訳されます。具体的には、株式、債券、金利、外国為替などの金融商品から派生したものとなります。
例えば、為替リスクを回避するために為替予約をしている場合は、相場の変動で顕著化していない損益が発生するので、時価評価を行うことが原則となっています。
上場企業であれば、バランスシートに計上していますが、中小企業になるときちんと計上されていない恐れがあります。計上されていない場合は、偶発債務となりますのでデリバティブ取引かどうかを取引ごとに確認する必要があります。
偶発債務は、将来一定の条件が成立した時に発生するので、決算日時点では負債額を予測することが難しく、バランスシート(貸借対照表)に計上はしません。
バランスシートは、企業の財政状態を株主、債権者、利害関係者に正しく表示するためのものであり、不確定である時点では、偶発債務の内容と金額を財務諸表に注記することで情報提供を行います。
偶発債務の発生の可能性が高まった場合には、バランスシートに引当金として計上し、債務と確定した時点で初めて、負債として計上されることになります。
引当金として計上する場合の条件は下記のように設定されています。
1. 将来の特定の費用又は損失であること
2. 発生が当期以前の事象に起因していること
3. 発生の可能性が高いこと
4. その金額を合理的に見積ることが可能であること
以上4つの条件を満たす場合、当期の負担に当たる金額を当期の費用又は損失として引当金に繰り入れ、当該引当金の残高を貸借対照表の負債の部又は資産の部に記載します。
そして、
製品保証引当金、売上割戻引当金、返品調整引当金、賞与引当金、工事補償引当金、退職給与引当金、修繕引当金、特別修繕引当金、債務保証損失引当金、損害補償損失引当金、貸倒引当金等がこれに該当する。
発生の可能性の低い偶発事象に係る費用又は損失については、引当金を計上することができない。
(企業会計原則 注解 18)
と、偶発債務は引当金として計上できないことが記されています。
偶発債務を引当金として計上しない理由は、引当金の条件の「1. 発生可能性が高く」「4. 合理的な金額を見積ることが可能であること」という引当金の条件に合致しないからです。
逆に発生可能性が高まり、金額の見積もりが可能になった段階で、引当金として計上されるということです。
M&A(企業の合併・買収)を行う時には、対象の企業価値の査定や資産について把握する必要があります。
対象の企業の価値やリスクを調査することをデューデリジェンス(Due Diligence)といいます。
偶発債務は、デューデリジェンスにおいて非常に難しいテーマとして扱われています。偶発債務である時点では、その発生可能性や債務と確定した時の債務額を予測することは非常に難しく、M&Aを行う買い手側が積極的に調査をしていかなければならないからです。
実際の調査も、取締役会議の閲覧、関係者への質問、関連資料の閲覧などを行い、偶発債務の評価が一番の課題となります。
バランスシートの貸方(左側)に計上されているのは資産でプラスの価値、借方上部(右側)に計上されているのが負債でマイナスの価値になります。企業価値は、この資産と負債の差額となりますので、負債が多いほど企業価値は小さくなるということになります。
偶発債務はバランスシートに計上されていませんので、企業価値を試算する上で必要となります。偶発債務を認識し、それを含めM&Aの交渉をするのか、あるいは将来発生した場合に債務者を前もって確定させておくということがM&Aでは重要なこととなります。
また、地道に調査していても発見されないものもあり、その場合リスク管理が必要であることも認識しておく必要があります。
M&Aの事業譲渡という方法であれば、売却する事業と残す事業を選択することができるので、偶発債務を引き継ぐという事態はほとんどありませんが、株式譲渡、会社分割、合併などの方法では、偶発債務を引き継いでしまう可能性が非常に高くなるので注意が必要となります。
偶発債務は潜在的な債務で、債務と確定しその額が大きい場合には、会社が将来存続していく上で影響を受けることになる可能性があります。そういう意味で、偶発債務は注意が必要な要素のひとつであると言えます。
偶発債務とよく間違われるものとして、「簿外債務」というものが挙げられます。以下の記事で解説していますので、こちらもぜひ参考にしてください。
画像出典元:Burst
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