株式譲渡と事業譲渡で大きく違う!経営者が把握すべき注意ポイント

株式譲渡と事業譲渡で大きく違う!経営者が把握すべき注意ポイント

記事更新日: 2018/08/13

執筆: 宮嵜涼志

企業を売却したいとき、株式譲渡と事業譲渡のどっちを選んだ方がいいのか!?どちらを選ぶかによって、経営者の手元に残るものが大きく変わります。 違いを踏まえて、経営者が判断の基準とすべき重要なポイントをまとめました。

株式譲渡とは?

株式譲渡とは、売却企業の株主(オーナー)が保有株式を買い手に譲渡することで、会社の経営権を買い手に譲り渡すものです。買い手は対価として現金を支払い、株主が受け取ります。中小企業のM&Aでもっともよくみられます。

事業譲渡とは?

事業譲渡とは、会社の事業を第三者に譲渡(売却)することです。売却の対象となるものを、事業に必要なヒト・モノ(商品・工場)・権利(取引先)などから定めることができます。買い手は対価として現金を支払い、会社が受け取ります。中小企業のM&Aにおいて、株式譲渡に次いで利用されます。

株式譲渡と事業譲渡の違い

株式譲渡と事業譲渡の違いは、譲渡範囲の違いと対価を受け取るのが株主か会社かです。

株式譲渡は、会社の株式を譲渡することなので、その会社に属する全ての事業や資産が買い手のものになります。それに対して事業譲渡では、特定の事業を切り出して譲渡します。もともと保有する株式は動かないので、譲渡した事業以外はそのまま残ります。

株式譲渡のメリット・デメリット

経営者

どっちがより良い選択なのだろう?

株式譲渡のメリット

  • 株主(オーナー)主導で行うことができる
  • 株主は直接現金を手に入れることができる
  • 消費税の課税対象にならない
  • 個人の場合、譲渡益に対する税率が低い(20%)
  • 手続きが比較的簡素

株式譲渡のデメリット

  • 株主が分散している場合取りまとめが難しい
  • 簿外債務などが精査で発見されると、不成立になりやすい
  • 営業権の計上や償却ができない

 

事業譲渡のメリット・デメリット

事業譲渡のメリット

  • 承継する資産や負債や契約を限定できる
  • 法的・税務リスクの遮断
  • 営業権の償却が可能
  • 株主総会の特別決議が必要で、上場企業ではかなりのコストがかかるが、中小企業ではそれほど大きな負担にはならない

事業譲渡のデメリット

  • 手続きが煩雑
  • 仕入先や顧客、賃貸借契約を含めた契約の承継が困難な場合がある
  • 債権・債務の移転が必要
  • 許認可等を引き継げない
  • 従業員の承継にも同意が必要
  • 譲渡益に法人税が課税される
  • 消費税の課税対象になる

経営者の判断ポイント

譲渡するのが会社全体か、一部の事業か

株式譲渡では会社の経営権を譲渡するため、一部の事業のみ譲渡することはできません。例えば、赤字の事業は清算し、黒字の事業のみを譲渡したいといった場合は事業譲渡、あるいは会社分割を検討しましょう。

会社全体を譲渡したい場合には、株式譲渡か事業譲渡かを検討することになります。

お金が手元に入るか

株式譲渡では、現金が株主(オーナー)の手元に入ります。一方で事業譲渡だと、現金は会社に支払われます。次の事業資金などにして活用すると良いでしょう。経営者にとっては、手元にキャッシュが入ってくる株式譲渡の方が好ましいといえます。

税金

株式譲渡と事業譲渡では、取引の体系・譲渡益を受け取る主体が異なるため、支払う税金が異なってきます。節税の観点では、一般的に株式譲渡が有利です。

株式譲渡の場合、譲渡益は消費税の課税対象にならず、譲渡益に対して20%の税金(所得税15%・住民税5%)が課せられることとなります。それに対して事業譲渡では、譲渡益は消費税の課税対象になり、かつ法人税が課税されます。法人税の税率は場合によって異なりますが、40%を目安に考えればよいでしょう。

契約の移転、許認可の再取得で問題はなさそうか

株式譲渡と異なり、事業譲渡では仕入先や顧客との契約や債権・債務の移転が必要になります。移転には当事者間の同意が必要なため、あらかじめ移転に問題がなさそうかを確認しておく必要があります。

また事業譲渡では許認可を再取得する必要があります。もし取得にコストがかかる許認可をもった企業の売却である場合は、許認可をそのまま承継できる株式譲渡が望ましいです。

雇用関係の移転で問題はなさそうか

事業譲渡では、雇用関係を移転にあたって、個別に従業員の同意を得なくてはなりません。中核となる人材の同意が得られなかった場合、買い手側の企業にとっては大きな誤算となり、もめる原因ともなりえます。売却する側もケアしておくべき問題です。

それに対して、株式譲渡の場合、新たに従業員の同意を得ることなく雇用関係を引き継ぐことができます。

株主の取りまとめが可能か

株主譲渡では株主の取りまとめが必要になります。株主が分散している場合、この取りまとめが特に困難になります。事業譲渡の場合は、3分の2以上の賛同が得られれば行うことができます。

簿外債務の状態

簿外債務とは、貸借対照表には計上されていない債務のことです。交渉の最終局面での破談やM&A完了後に双方が揉める原因となります。

たいていの簿外債務はM&Aアドバイザーにより、買い手に提示する書類上では解消されますが、解消が困難なときには株式譲渡を断念する場合があります。そのような場合には、簿外債務を除外して譲渡できる事業譲渡が採用されることになります。

 

 

全体的には、株式譲渡の方が売り手にとって有利

 

買い手側にとってのメリット・デメリット

M&Aをどの手法(スキーム)で行うかは、自由に決められるわけではありません。当然、買い手側の同意抜きには決められません。買い手側と交渉する上で、買い手側の立場を理解してあげることで、優位に立って交渉を進めやすくなります。

買い手側にとって、株式譲渡のメリットは手続きが簡単であることです。一方で最大の懸念は簿外債務などの予期せぬリスクです。株式譲渡で進めたい場合は、しっかりと情報をオープンにしてできるだけ相手の懸念を取り除いてあげると効果的です。

またM&A完了後にまた予期せぬリスクが顕在化した場合、その損害を補償する契約を結ぶという選択肢もあります。ただし、これはリスクを買い手側が請け負うことになるので、リスクがどれほどあるのか、本当にそこまでする必要があるのかを非常に慎重に検討する必要があります。

一方で、買い手側にとっての事業譲渡のメリットは、欲しい事業を選択でき、予期せぬリスクも限りなく少ないことです。デメリットは手続きが多いこと。特に雇用の引き継ぎなどは失敗すると大きな損失になってしまうため、かなり神経を使います。

また「のれん」についても株式譲渡と事業譲渡で扱いが違います。
通常、買収側企業は該当企業の公正な価値(純資産額)よりも高い買収金額で、企業を買います。この差額が「のれん」です。

のれんは買収後数年にわたって償却する必要がありますが、その償却費を損金処理できるのは事業譲渡の場合だけです(買い手側が日本会計基準を採用している場合)。よって買い手側にとって、事業譲渡の方が税法上有利です。

 

まとめ

基本的に、売却側のメリットが多いのは株式譲渡です。株式譲渡は、会社をそのまま譲るので、手続きが比較的簡素であり、契約や許認可、雇用契約の承継もスムーズです。しかし、株主が分散していてその取りまとめが難しい場合や簿外債務の解消が困難な場合は、事業譲渡が採用されるというのが実態です。


画像出典元:Pexels

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