会社設立と個人事業主、メリットが大きいのは?設立の判断ポイントを解説

会社設立と個人事業主、メリットが大きいのは?設立の判断ポイントを解説

記事更新日: 2023/09/03

執筆: 浜田みか

個人で興した事業が軌道に乗り始めると、そろそろ法人化すべきだろうかといった悩みが出てきます。個人事業主が会社を設立することは、事業の発展にもなりますが、メリットばかりではありません。

会社を設立するのと、個人事業主として続けるのがどちらの方がメリットが大きいのか、会社設立の判断ポイントを解説します。

会社設立における 7つのメリット

個人事業主で仕事を続けるのと、法人に成って(これを「法人成り」といいます)仕事をしていくのとでは、違ったメリットがあります。

ここでは、会社設立の利点を7つの項目に分けてご紹介していきます。

1. 対外的な信頼度が高くなる

個人で事業を続けるのと、法人で事業を続けるのとでは、対外的な信頼度は格段に異なります

実績を積んでいても、個人というだけで社会的な信頼を低くみられることがあります。法人になれば、それだけでも社会的な信頼がぐっと高くなります。

2. 経費で処理できる範囲が広がる

個人事業主と法人成りした企業では、経費で処理できる範囲が異なります

たとえば、自宅を事務所としている個人事業主と法人企業では、次のように経費の扱い方が異なります。

上表の項目は、あくまでも経費で計上されるものの一部です。しかし、これだけを見ても法人の方が、経費で計上できる範囲が広いことがわかります。

経費で処理できる範囲が増えるということは、税金面でも有利になることを意味します。

3. 年間所得800万円超えで節税面で有利に

法人の実効税率は、法人税など諸々の税負担を合わせて30%弱であり、利益が増えてもあまり変化しません。

一方で個人に対する所得税は、累進課税制度がとられており、所得が増えれば増えるほど税率が上がります。所得税は最大で45%にもなり、さらにそれに住民税10%が追加されることとなります。

下の表は課税所得と、それに対する税率をまとめたものです。

※ 税の一部は控除されることには留意する必要があります。

よって、この個人としての税負担が、法人に対する税率30%弱を超えるタイミングが法人成りのタイミングといえるわけです。

このタイミングは、一般的に個人事業の利益が800万円を超えたあたりだといわれています。

ただし、所得控除や事業以外の所得の有無などの条件によって変わってくるので、厳密にはかるには税理士などの専門家に相談する必要があります。

4. 資金調達の選択肢が広がる

一般的に、個人よりも法人のほうが融資を受けやすく、融資金額も多くなります。

また株式会社であれば、株式を利用した資金調達を行うことも可能になります。

5. 取引範囲が広がる

企業によっては、信用の観点から個人とは取引をしないところもあります。

特に大手企業ともなると、秘匿性の高い仕事や多額のコストがかかる仕事が多いため、いくら契約書を交わしていても社会的な信用が低いことから、企業間でしか取引をしないと決めているところもあるほどです。

大きな案件であれば、個人としてはぜひとも受注したいところですが、社会的信用を求められると、個人事業主の立場ではどうにもできません。

大企業との提携したり、取引を考えるのであれば、法人と成っておいたほうがいいでしょう。

6. 決算日が自由に決められる

決算月は、個人事業主の場合、自分で決めることができません。これは、税法で12月31日を決算日とすることが定められているからです。

一方で、法人では決算日を自由に設定することが可能です。

繁忙期とずらした時期に決算日を設定する、節税対策ができるように売上の上がる月に少しあとを決算月にするなど、自由に設定することでさまざまなメリットを得ることが出来ます。

会社設立後の決算日の決め方のコツを以下の記事で紹介しているので、こちらもぜひ参考にしてください。

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7. 相続における制限が緩和される

個人事業主が不幸にも亡くなってしまった場合、相続される資産には相続税がかかります。これは、個人事業主が事業で得た資産が個人の持ち物という認識だからです。

一方、法人で社長が亡くなり、会社を別の人物が引き継いだとしても、会社名義の資産に対しては相続税がかかりません

会社設立における 5つのデメリット

会社を設立することは、メリットばかりではないのが実情です。

個人事業ではなかった制限が付加されたり、さまざまな負担が発生するというデメリットがあります。

1. ランニングコストがかかる

個人事業で起業する際、事業主の住所がある地区を管轄している税務署に開業届を提出するだけで済みます。この届け出には、一切費用がかかりませんので、必要になるのは運転資金に使える預貯金だけです。

ところが、法人の場合は、会社設立時に諸費用がかかります。株式会社なら20万円、合同会社なら6万円程度かかります。

さらには、毎年法人にかかる法人住民税(7万円)が発生し、これは利益額に関係なく支払う義務があります

2. 社会保険の加入義務を負う

個人で事業をおこなっている間は、事業主を含め常時勤務する従業員が5人未満の場合は、社会保険への加入義務はありません。もちろん、あなた一人だけで事業をおこなっているのであれば、加入義務は発生しません。

しかし、法人になると、会社は経営者の所有物ではなくなり、経営者自身も会社の構成員という考えになります。よって、社会保険への加入義務が生じます

社会保険料は、会社と従業員で折半することになりますから、保険料が月額6万円かかるとすれば従業員が3万円、会社側が3万円を負担することになります。

なお、社長一人の会社の社会保険加入義務については以下の記事で、より詳しく解説しています。

3. 交際費に上限が発生する

個人で事業を営んでいるうちは、接待や打ち合わせにかかる費用は交際費として計上でき、その金額に上限はありません。

法人になると、中小企業の場合であれば年800万円が上限となります。月額にすればおよそ66.7万円です。

よほどのことがなければ、ここまで達することはないかと思われますが、従業員数が多くなると可能性としては考えられますので、デメリットの一つとして挙げられるでしょう。

4. 事務作業の負担が増加する

個人事業のうちであれば、会計処理も使用する科目(会計項目)自体がさほど多くないため、それほど大きな手間がかかることはありません。

経理以外の面でも、書類を作成するとしても、契約書や見積り、請求書といったものが大半です。これらはフォーマットがあれば、わりと簡単に作成できてしまえます。

ところが、法人になると会計処理も細かくなり、税務書類も増えます。さらに、社会保険などの加入手続きや給料明細の作成、定款の改定があればその作成にかかる作業など細かな事務作業が増えます。

法人になると、税理士や社会保険労務士と顧問契約を結ぶ企業があるのは、こうした手間を省くためでもあります。

5. 事業廃止にかかる費用の負担が発生する

事業廃止の手続きは、個人事業主であれば、廃業から1ヶ月以内に税務署へ廃業届を提出するだけです。この場合、廃業の届け出提出にかかる費用は、一切かかりません。

一方で法人の場合は、解散と清算結了などの手続きを法務局でおこなわなければなりません。この場合、次のそれぞれの費用が必要です。

  • 官報公告:33,000円
  • 解散登記:30,000円
  • 清算人の選任登記:9,000円
  • 清算結了の登記:2,000円

個人事業主に比べて法人は、廃業をするにしても書類一枚では済まないことや、廃業にもコストがかかる点がデメリットといえます。

会社設立の判断ポイント

次は法人化するにあたり、何を基準に会社設立の判断をすればいいのかについて、解説していきます。

1. 年間所得が600万円を超えたとき

法人になると、納める税率が変わることは、すでにご紹介した通りです。

それを踏まえ、年間の所得が平均して600万円を超えるようになってきたら、法人化に踏み切りましょう

法人のほうが税制面で有利になるのは、年間所得が800万円を超えるあたりからと紹介しましたが、経費算入できる範囲が増えるなど、その他のメリットなども含めて考えて少し早めに会社を設立するのがおすすめです。

法人化のタイミングを逃すのは、機会損失です。また法人化は事業成長のモチベーションにつながるものでもあります。

早め早めに、法人の手続きを始めましょう。

2. 消費税が課税開始されるタイミング

個人事業主・法人にかかわらず、所得税の課税には、2年前の売上が影響してきます。

2年前の売上が1,000万円を超えると、消費税の納税義務が発生します。

例えば、個人で仕事を始めた1年目の売上が300万、2年目が700万、3年目が1000万であれば、5年目から消費税の納税義務が課せられます。

ここで、5年目に法人成りをすれば、個人と法人は別とみなされるので、一度その売上がリセットされます。

新たに会社としての2年前の売上実績ができる会社設立3年目まで、消費税の納税を遅らせることができるのです。

そのため、2年前の売上が1,000万円を超えている方は、法人成りをするタイミングが来ているということができます。

ただし、資本金1,000万円以上で会社を設立した場合、売上にかかわらず納税義務が生じるので、資本金の設定には注意が必要です。

3. 今後事業を拡大していく予定か

今後事業を拡大させていく予定なのであれば、会社を設立することをおすすめします。

事業の規模が大きくなればなるほど、税制面や資金調達面において、個人事業主より法人のほうが有利になってくるからです。

また、事業を拡大させていく覚悟をもつという意味で、会社を設立してしまうという考え方もあります。

個人事業主から会社設立するなら合同会社

会社設立をすることを決めた場合、次にぶつかる問題は、どの会社形態で会社設立するかです。

現在設立可能な会社形態は4種類ありますが、法人成りでおすすめの形態は合同会社です。

合同会社は株式会社の次に人気のある会社形態です。

株式会社には、株式の取引によって柔軟に資金調達を行えるというメリットがありますが、一方で会社運営にかかるコストは合同会社より高いです。

設立費用だけでも、合同会社は最低6万円で可能なのに対して、株式会社は少なくとも20万円はかかります。

外部から資金調達をして今後事業を大きくしていきたいという方以外は、合同会社にするのが合理的な判断だといえます。

なお、以下の記事では、合同会社と株式会社のメリット・デメリットを比較しています。法人成りを決めた方はぜひ参考にしてください。

 

会社設立には代行サービスもおすすめ

株式会社・合同会社問わず会社設立には様々な手続きが必要です。

「登記」もそのうちの1つですが、手続きを自分で行なうとなると書類作成から役場・法務局への提出など時間も労力も必要になってきます

とくに創業前・創業直後の忙しい時期に時間をとられることは大きなムダにも繋がります。

そこでおすすめなのが、会社設立freeeをはじめとした登記代行サービスです。

会社設立freeeのオプションサービスである「登記お任せプラン」を利用すれば、相場の約1/3の手数料で手続きを一任できます。

貴重なリソースである時間を浪費しないためにもこういったサービスは積極的に使っていきましょう!

まとめ

個人で事業を続けていくことは、自分の裁量のみで動ける自由さがあります。その反面、事業が好調で業績が伸びてくるようになると、事業を拡大したい、もっと大きな仕事をやりたいといった欲求が出てくるはずです。

それは、言い換えれば野心であり、目標をもつということです。事業成長を支える、起業家にとって重要な素養でもあります。

個人で事業をしていることが、規模拡大のブレーキになっているのであれば、会社設立のメリットは自分が事業に専念できるようになることかもしれません。


合同会社の設立を決めた方は、以下の記事を参考に、早速手続きを進めていきましょう。

画像出典元:ペイレスイメージズ, pexels

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