「労務管理」と「勤怠管理」。日常的に使っていても、具体的な違いや業務範囲を説明できる方は少ないのではないでしょうか。
業務効率化やDX推進が叫ばれる現代において、適切なシステムやツールの導入は企業の成長に欠かせません。
しかし、労務管理と勤怠管理が曖昧なままでは、業務改善を効果的に進めることは難しいです。
この記事では、労務管理と勤怠管理の違いや両者の密接な関係性をわかりやすく解説します。
さらに、それぞれの業務をシステム化することで得られる具体的なメリットや、自社に合ったシステム選びのポイントについても詳しくご紹介。
日々の業務負担を減らし、法令遵守や従業員満足度の向上につなげたい方は、ぜひ参考にしてください。
このページの目次
労務管理と勤怠管理の主な違いは、業務の「範囲」と「目的」にあります。
勤怠管理は、労務管理という枠組みの中の「労働時間の管理」に特化した業務です。
一方で、労務管理は勤怠データも活用しながら、給与計算や社会保険手続きなど、従業員の労働環境全体を支える役割を担います。
労務管理 | 勤怠管理 | |
範囲 | 従業員の労働に関わる あらゆる業務 |
従業員の労働時間 の管理に特化 |
目的 | 企業と従業員の健全な 関係維持、組織運営 |
正しい給与計算、 労働基準法遵守 |
では、それぞれの定義と具体的な業務内容を見ていきましょう。
労務管理とは、企業が従業員を雇用するうえで発生するあらゆる業務を管理する業務です。
従業員が安心して能力を発揮できる環境を整え、企業と従業員の関係を健全に保ちます。
労務管理は多岐にわたりますが、具体的には以下の内容が含まれます。
法定三帳簿の作成・管理 | 労働者名簿、賃金台帳、出勤簿の作成と適切な管理 |
勤怠管理 | 従業員の出退勤時刻、労働時間、残業、休暇などの把握と記録 |
給与計算 | 基本給、各種手当、残業代、税金、社会保険料などの計算と支給 |
年末調整の計算と法定調書作成 | 従業員の年末調整、法定調書(源泉徴収票など)の作成と提出 |
雇用契約書・労働条件通知書作成と管理 | 従業員との雇用契約の締結、労働条件の明示と管理 |
労働保険・社会保険の手続き (法定福利厚生) |
健康保険、厚生年金、雇用保険、労災保険に関する加入・脱退・変更手続き |
退職の手続き | 退職届の受理、退職日までの給与計算、社会保険・雇用保険の資格喪失手続き、離職票の作成など |
安全衛生管理 | 従業員の健康診断実施、ストレスチェック、職場環境の安全確保、ハラスメント対策など |
働きやすい職場環境の形成 | 福利厚生制度の企画・運用、人事評価制度の管理、従業員相談窓口の設置など |
勤怠管理とは、従業員の労働時間や出退勤状況を正確に記録・把握・管理する業務です。
勤怠管理には、以下のような内容が含まれます。
出退勤・勤務状況の記録 | 従業員の出勤日、欠勤日、休日出勤日の把握と記録 |
労働時間の把握 | 始業・終業時間、実労働時間、休憩時間の正確な記録と集計 |
時間外労働の管理 | 時間外労働時間、深夜労働時間、休日労働時間の計算と管理 |
休暇の管理 | 有給取得日数や残日数の把握、その他の休暇(特別休暇、代休など)の管理 |
勤怠状況の確認・承認 | 従業員からの勤怠申請(残業、休暇など)の確認、承認、修正 |
労務管理と勤怠管理は、それぞれ異なる業務ですが、実際には切り離すことのできない密接な関係にあります。
また、業務全体を効率化するには、この関係性を理解することがとても重要です。
労務管理を適切に機能させるには、まず勤怠管理の仕組みを整えることが重要です。
従業員の出勤・退勤時間や残業時間などのデータが正しくなければ、給与にミスが出たり、法令違反につながるおそれもあります。
つまり、勤怠管理の精度が労務管理全体の質を左右すると言っても過言ではありません。
労務管理と勤怠管理の違いがはっきりしないまま業務を進めると、思いもよらない落とし穴にはまる可能性があります。
ここでは、直面するかもしれない3つのリスクについて解説します。
コンプライアンスを徹底するためには、勤怠管理と労務管理の正しい運用が重要です。
この2つが適切に管理されていない場合、法令違反につながるおそれがあります。
特に、残業代や休日手当などが正しく計算できないことが原因で、賃金の未払いが発生するリスクが高まります。
また、働き方改革関連法の施行以降、従業員の勤怠記録や労働時間を把握する重要性が増しており、管理の不備は大きな問題に発展しかねません。
万が一、勤怠管理のずさんな運用が原因で労務問題が発生し、マスコミの報道などで問題が明るみに出た場合、企業の社会的信用が低下するおそれがあります。
勤怠管理と労務管理の役割が曖昧なまま運用を続けると、作業の重複や情報の分散が起こりやすくなります。
また、複数の管理者がデータを扱うと、「情報の更新が遅れる」「誤ったデータで業務が進んでしまう」といった事態も起こりかねません。
結果として、削減したいはずの人件費やシステム運用コストがかさみ、管理の手間ばかりが増えてしまいます。
勤怠管理と労務管理の業務範囲が曖昧なままシステムを導入すると、「機能が足りない」「部門間の連携がうまくいかない」「想定外の費用がかかる」といったトラブルが起こる可能性があります。
たとえば、勤怠管理だけが目的ならシンプルな打刻や集計の機能があれば良いですが、給与計算や社会保険手続きなども含めてカバーしたい場合は、より多機能な労務管理システムが必要です。
ここからは、労務管理と勤怠管理をシステム化することで得られる主なメリットについて、4つの観点から解説します。
労務や勤怠の担当者は、月末月初になると膨大な作業に追われがちです。
また、手作業ではミスや残業が発生しやすく、担当者の負担も大きくなります。
しかし、システムを導入すれば、以下のような作業の自動化が可能です
自動化によって担当者の作業時間は大幅に削減され、ヒューマンエラーも防止できます。
さらに、空いた時間をより戦略的なコア業務に充てることが可能です。
労働基準法をはじめとする関連法規は頻繁に改正され、企業が守るべきルールは複雑化しています。
しかし、システム導入によって以下のようなサポートが得られます。
バラバラな情報が見える化され、データに基づいた戦略的な人事施策の立案も可能になります。
システム化のメリットは、管理者側だけのものではありません。
企業で働く従業員にとっても、以下のようなメリットがあります。
手続きの簡素化や情報の透明性は、従業員のストレスを減らし、企業への信頼感を高めます。
その結果、従業員の満足度が向上し、離職率の低下にもつながります。
システムは、働き方改革を実現するための基盤として、今後ますます重要になっていきます。
企業の健全な運営には、労務管理と勤怠管理の正しい運用が欠かせません。
そして、その効率的な実現には、システムの活用が欠かせない時代になっています。
しかし、「どちらのシステムを導入すべきか」「違いがよくわからない」と迷う方も多いのではないでしょうか。
ここでは、労務管理システムと勤怠管理システムの違いと役割を整理し、自社の課題や導入目的に応じたシステムの選び方について解説します。
まずは、労務管理システムと勤怠管理システムがそれぞれどのような役割を担い、どのような業務を効率化するのか、その基本的な機能を見ていきましょう。
労務管理システムは、従業員の雇用に関する幅広い業務を一元的に管理・効率化できるシステムです。
給与計算、社会保険・労働保険の手続き、年末調整、福利厚生の管理など、人事・総務部門の多岐にわたる定型業務を自動化できます。
最近では人事評価や人材育成をサポートする機能を備えたシステムもあります。
勤怠管理システムは、従業員の出退勤時刻、労働時間、残業時間、休暇取得状況などを効率的に記録・把握・管理することに特化したシステムです。
多様な打刻方法に対応し、データを自動で収集・集計してくれるため、給与計算や労働時間管理の基盤として多くの企業で導入されています。
労務管理システムと勤怠管理システムは、以下のようにカバーする範囲と得意分野が異なります。
労務管理システム | 勤怠管理システム | |
主な目的 | 人事・総務業務全般の効率化、組織運営の最適化、戦略人事の推進 | 正しい給与計算の基礎固め、労働時間に関する法遵守、過重労働防止 |
主な機能 | 入退社管理、各種申請、帳票作成、法改正対応など | 出退勤記録、自動集計、有休管理、残業アラートなど |
得意なこと | 従業員情報の一元管理、法令改正対応、人事データ活用 | 正確な労働時間把握、多様な勤務形態(フレックス、テレワークなど)対応、法令に則った打刻管理 |
このように、勤怠管理システムは労働時間の正確な把握に特化しているのに対し、労務管理システムは従業員の雇用に関するあらゆる情報管理と手続きを広くカバーします。
多くの労務管理システムは勤怠管理機能も一部持っていますが、より複雑な勤務形態や打刻ルールに対応するには、勤怠管理に特化したシステムの方が優れている場合があります。
どちらのタイプを導入すべきかは、自社が抱える課題やシステム導入の目的によって異なります。
勤怠管理に関する課題が明確な企業や、小規模からシステム化を始めたい企業には、勤怠管理システムの導入が適しています。
たとえば、次のような悩みがある場合は、日々の勤怠管理そのものがボトルネックになっている可能性があります。
このようなケースでは、まず勤怠管理の仕組みを見直すことが重要です。
また、勤怠管理システムは、労務管理システムよりも導入コストを抑えやすいため、スモールスタートでデジタル化を進めたい中小企業やスタートアップにも適しています。
さらに、サービス残業や長時間労働といった労務リスクを早急に解消したい企業も、まずは勤怠管理業務をシステム化し、労務体制の土台を整えましょう。
人事・総務業務全体を効率化したい企業や、企業の成長に合わせて人事体制を強化したい企業には、労務管理システムの導入が適しています。
特に、以下のようなニーズがある場合は、総合的な労務管理システムの導入が効果的です。
このように、労務管理システムは、ルーティン業務を効率化するだけでなく、人事情報を戦略的に活用することで、企業の経営目標達成にも役立つツールです。
労務管理システムと勤怠管理システムは、それぞれ異なる役割を持っています。
しかし、理想的なのは、2つのシステムを連携させて活用することです。
たとえば、勤怠管理システムで記録された出退勤データを、そのまま労務管理システムや給与計算ソフトに自動連携させれば、給与計算や社会保険の手続きがスムーズになります。
手作業による入力や転記が不要になるため、業務の効率が大幅に向上するだけでなく、ミスのリスクも最小限に抑えられます。
また、システム間の連携によってデータの一貫性が保たれ、人事・労務部門全体の生産性を大きく高めることができるのです。
労務管理と勤怠管理は、密接に関わりながらも異なる役割を担う重要な業務です。
両者の違いを理解しないまま業務を進めてしまうと、法令違反のリスクや業務効率の低下、システム導入の失敗を招く恐れがあります。
まずは自社の具体的な課題がどちらの領域にあるのかを見極め、本当に必要な機能を持つシステムを選びましょう。
勤怠管理に明確な課題がある場合は、シンプルな勤怠管理システムから導入を検討し、人事・総務業務全体の最適化を目指す企業は、総合的な労務管理システムを選択するのが効果的です。
業務課題の解決や組織の成長に向けて、ぜひこの機会に自社の管理体制を見直してみましょう。
画像出典元:Burst、O-dan
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