カスタマーサービスは、企業と顧客をつなぐ重要な架け橋として、ビジネスの成功に大きな影響を与える部門です。
しかし、具体的にどのような仕事なのか、他の仕事との違いは何か、疑問に思う方も多いのではないでしょうか。
この記事では、カスタマーサービスの仕事内容や、求められるスキル、AI活用法まで、幅広い観点から解説します。
この業界への就職を目指している方や、より良いサービスを提供したいと考えている企業担当者に向けて、役立つ情報をお届けします。
このページの目次
カスタマーサービスとは、顧客からの問い合わせや要望に対応する活動、またはそれを専門に行う部門のことを指します。
製品やサービスの購入前から購入後まで一貫してサポートし、顧客が抱える問題を適切に解決する役割を担います。
カスタマーサービスの業務は、広範にわたります。
主な業務内容は、製品やサービスに関する問い合わせ対応、返品・交換の手続き、クレーム処理、アフターサポートなどです。
昨今では、デジタル技術を活用したサービス提供も増えたため、SNSでの顧客対応やチャットボットの管理・運用など、従来よりも業務が拡大しています。
また、顧客のフィードバックを収集し、製品やサービスの改善策を関係部門に提案することも、カスタマーサービスの仕事です。
顧客と企業を結ぶ役割を果たすカスタマーサービスは、その質が顧客の満足度や企業のブランドイメージに大きく影響します。
良質なサービスを提供し、顧客からの信頼を得ることができれば、口コミやレビューによる販促効果も期待できます。
カスタマーサービスと類似している仕事に、カスタマーサポートやコールセンターがあります。
一見すると、どの仕事も同じように見えますが、それぞれに違った特徴や役割があります。
カスタマーサポートは、主に製品やサービスの技術面に特化した支援を行います。
例えば、製品の設定支援や使用方法の説明、トラブルシューティングなど、専門知識を必要とする業務が中心です。
一方、カスタマーサービスは、顧客との関係構築からクレーム対応など、技術的な支援を超えた広範囲な業務を担当します。
コールセンターは、電話を通じて顧客対応を行う専門部署です。
問い合わせ対応やクレーム処理といった基本業務はカスタマーサービスと共通していますが、電話対応を専門としており、通話業務を効率化するためのシステムや手順が整備されています。
これに対してカスタマーサービスは、電話対応に限らず、メール、チャット、SNSなど、多様なチャネルを活用して包括的な顧客サービスを提供します。
カスタマーサービスにおいて、顧客と良好な関係を築くためには、さまざまなスキルが求められます。
ここでは、重要な6つのスキルについて詳しく解説します。
顧客視点で物事を考える力は、カスタマーサービスの礎となるスキルです。
顧客がどのような状況で、何を求めているのかを理解し、その視点に立って行動することで、適切な対応が可能になります。
例えば、製品の使い方がわからない顧客には、相手の理解度に合わせて分かりやすく言い換えることが求められます。
また、製品の不具合に困っている顧客には、焦りや不安に共感しながら対応することが大切です。
このように、顧客視点を持つことは、単なる問題解決にとどまらず、顧客満足度を向上させ、企業の信頼やブランド価値を高める基盤となります。
カスタマーサービスの現場では、顧客の声に耳を傾けることが大切です。
声のトーンや話す速度、間の取り方などにも注意を払うことで、言葉の裏に隠れた本当の意図を汲み取れます。
また、適切な相槌や確認の言葉を使うことで、顧客に「しっかり話を聞いてもらえている」という安心感を与えられます。
特にクレーム対応においては、傾聴力が極めて重要です。
まずは顧客に寄り添う姿勢を示し、話を途中で遮らず、最後まで丁寧に聞くことが信頼関係を築く第一歩となります。
カスタマーサービスでは、電話対応をしながら問い合わせ内容を社内システムに入力するなど、複数の業務を同時に進行しなければならない場面が多々あります。
仕事全体をバランス良く進めるには、優先順位を見極める能力を含むマルチタスク能力が必須です。
このスキルを活用すれば、顧客を必要以上に待たせることがなくなるため、結果として顧客満足度の向上につながります。
カスタマーサービスに日々寄せられる問い合わせの内容には、製品やサービスの改善につながるヒントがあります。
多くの顧客から同様の相談が届く場合は、製品の使いにくさや説明不足など、見えない課題が隠れていると考えられます。
その課題にいち早く気付き、関係部門へ提言することで、企業の成長を促すことができます。
スタッフに自社の製品やサービスに関する深い知識がないと、顧客からの問い合わせに素早く的確に答えることはできません。
製品の仕様だけではなく、使用時の注意点やトラブルの対処方法まで、幅広く知っておく必要があります。
また、製品情報は常に変化しているため、新商品の発売や既存製品の仕様変更など、日々知識をアップデートしなくてはなりません。
顧客とのコミュニケーションは、カスタマーサービスの根源となる部分です。
スタッフに要求されるスキルは、明確で分かりやすい説明、状況に応じた適切な言葉遣い、そして相手の立場や感情に合わせた柔軟な対応能力です。
例えば、高齢の顧客にはゆっくりと丁寧に説明したり、急いでいる顧客にはポイントを抑えて説明したりするなど、状況に合わせる必要があります。
また、難しい要望やクレームには、感情をコントロールしつつ、冷静に対応しなくてはなりません。
優れたコミュニケーション能力は、顧客との良好な関係を築き、難問を解決する土台となります。
カスタマーサービスにおけるKPI(重要業績評価指標)は、サービス向上のために設定した目標がどれだけ達成しているかを評価する指標です。
適切なKPIを設定・測定することで現状を理解し、より良いサービスを提供できるようになります。
以下では、カスタマーサービスでよく用いられるKPIの設定例をご紹介します。
顧客がサービスに対して、どれだけ満足しているかを測る指標です。
カスタマーサービスを利用した顧客に評価アンケートを行い、「非常に満足」から「非常に不満」などの5段階、もしくは10段階の選択肢から評価を受けます。
回答数を集計し、その中から「満足」「非常に満足」の評価の割合を計算することで、指標を算出します。
顧客満足度は、以下の式で求めます。
顧客満足度=「満足」の回答合計÷アンケートの全回答合計×100
平均応答時間は、問い合わせを受け付けてから、返答するまでの平均時間であり、いわば、顧客の待ち時間の指標です。
平均応答時間が短いほど、待ち時間が短いと評価できます。
平均応答時間は、以下の式で求められます。
平均応答時間= 応答までにかかった総時間 ÷ 問い合わせ総件数
課題解決率は、顧客から寄せられた問い合わせに対して、最終的に解決できた割合のことです。
100%を下回る場合は、未解決の問い合わせがあるということです。
目標を100%に設定し、全て解決するように努めなくてはなりません。
課題解決率は、以下の式で求められます。
課題解決率=解決できた問い合わせ総数÷問い合わせ総数×100
カスタマーサービスの品質を高めるためには、さまざまな観点からの改善が必要です。
この章では、サービス向上につながる要素について、詳しく見ていきます。
カスタマーサービスは企業の顔とも言える部門です。
顧客が初回に受ける印象は、その後の関係性を大きく左右します。
第一印象が良好であれば、好意的に受け止めてもらえるため、コミュニケーションがスムーズに進みます。
電話で対応する際には、柔らかい言葉遣いを心がけ、表情や声のトーンにも注意しましょう。
メールやチャットの場合は、丁寧な文章で速やかに応答することがポイントです。
素早い対応が求められるカスタマーサービスにとって、顧客を長らく待たせる対応は、致命的と言えます。
問い合わせやクレームに対して、スピード感ある対応を行い、顧客の不満を最小限に抑えましょう。
状況に応じて、スタッフの対応を補助・強化するためのツール導入も検討しましょう。
スピード感ある対応も重要ですが、それ以上に大切なのは、対応の正確性です。
誤った情報の提供は顧客からの信頼を損なうばかりではなく、クレームに発展する可能性があります。
研修やトレーニングを実施してスタッフの知識を強化すると共に、情報に不確かな部分がある場合は、必ず確認してから答えるように徹底しましょう。
FAQやナレッジベースなど、正確な情報を共有できるプラットフォームを整えると、より確実です。
マニュアル通りの対応で解決できない問題は、臨機応変に判断を下さなくてはなりません。
想定外の要望やクレームに対処するためにも、柔軟な対応力を養うことが肝心です。
ロールプレイングやケーススタディを学び、困難な状況にも対応できるスキルを身につけましょう。
実際に起きたケースを題材に、どのような対応が最適だったかを議論し合うと、実践的な対応力が磨けます。
スタッフが顧客を大切にする気持ちを持たなければ、質の高いサービスは提供できません。
マニュアル的な対応では、顧客一人ひとりの気持ちに寄り添うことは困難です。
顧客の声を真剣に受け止め、期待以上のサービスが提供できるように行動で示しましょう。
カスタマーサービスへの問い合わせの中には、他部門の協力がなければ解決できない問題が多くあります。
定期的な情報共有会議の開催や、共同プロジェクトの実施などで、他部門との連携の強化を図りましょう。
他部門と密に連携し、最適な解決策を導き出すことが、問題の早期解決につながります。
カスタマーサービスの現場では、さまざまな課題が見受けられます。
ここでは、カスタマーサービスでありがちな課題と、その解決方法について解説します。
カスタマーサービスの知識は座学で得られますが、対応スキルは実際の現場で業務をこなすことで身に付きます。
そのため、経験の浅いスタッフと経験豊富なベテランスタッフとでは、スキルに差が生じ、サービス全体の品質が一定しにくくなります。
また、顧客満足度の高い優秀な担当者に業務が集中してしまい、チーム全体の生産性が下がるケースも見られます。
まずはFAQや対応手順を詳細に記述したマニュアルを作成し、基本的な対応を標準化することが重要です。
その上で、OJTや研修を通じて個々のスキルアップを図り、ベストプラクティスの共有でチーム全体のレベルを高めていくのが効果的です。
さらに、フィードバックを実施し、個別にサポートを行うことで、スキルの均一化が図れます。
カスタマーサービスは、使用方法の説明、返品対応、クレーム処理など、非常に広い範囲の業務をカバーしています。
取り扱う製品やサービスの数が増えると、それに伴い問い合わせの種類も増加し、スタッフの対応はさらに複雑になります。
業務を分野ごとに分け、スタッフを割り振ることで、業務範囲の広さと対応の複雑さを軽減できます。
例えば、製品別や問い合わせ内容別にチームを編成すれば、スタッフは特定の分野にだけ集中して対応が行えます。
さらに、ナレッジマネジメントツールを導入し、必要な情報が即座に入手できる環境を整えれば、複雑な案件にもスムーズに対応できるようになるでしょう。
問い合わせの内容によっては、解決策を探るのに時間がかかる場合があります。
対応が遅れると、顧客は不満を感じ、競合他社へ流れてしまう可能性があります。
問い合わせ受付から回答までの各段階で、無駄な作業や待ち時間を削減することが必要です。
CRMやヘルプデスクツールを導入すれば、顧客の情報や対応履歴に即座にアクセスできるため、回答までの時間が短くなります。
加えて、ワークフローシステムを活用すれば、問い合わせの内容に応じて関連部門へ自動的に情報が共有されます。
適切なツールの導入は、情報伝達にかかる時間の削減につながります。
急速に進化するAI技術は、さまざまな分野での活用が進んでいます。
カスタマーサービスの現場でも徐々に導入されており、人手だけでは限界があったサービスの提供が可能になってきました。
この章では、カスタマーサービスでの活用方法を紹介します。
AIチャットボットを導入することで、24時間いつでも問い合わせに応じることが可能です。
従来、営業時間内のみしか対応できなかったサポートも、チャットボットが代わりに対応してくれるため、顧客は時間や曜日を気にせず、いつでも問い合わせることができます。
必要な時にすぐ情報を入手できるため、顧客は問い合わせに対するストレスを感じにくくなるでしょう。
電話対応に特化したサービスとして、AI電話自動応答が普及しています。
音声ガイダンスと異なり、受電から対応までを、人間に近いなめらかな音声を用いて完遂します。
AI電話自動応答は、顧客の話し言葉を解析しながら音声で対応し、複雑な問い合わせは、スタッフに引き継ぎます。
簡単な問い合わせは、AIが全て回答してくれるため、スタッフは難しい案件に集中できます。
AIは、スタッフ自身の業務を手助けしてくれるアシスタントにもなります。
例えば、問題解決のために必要な情報を、過去の解決事例や顧客対応履歴などを素早く分析し、解決策をパソコンの画面に表示します。
スタッフ自ら情報を探し出すよりも、はるかに早く見つかるため、スタッフの業務負担が軽減されます。
カスタマーサービスのデータは、売上予測の精度を高めるために利用できます。
過去の売上データにカスタマーサービスに蓄積された顧客の問い合わせ内容や購入履歴などのデータを掛け合わせると、より正確な売上予測が立てられます。
確実性の高い売上予測により、資金面や事業運営の堅実なプランニングが行えるため、経営の安定につながるでしょう。
カスタマーサービスは、顧客満足度を高め、企業イメージを向上させるための大きな役割を担っています。
常に顧客視点を忘れず、誠実に対応する姿勢を持続すれば、おのずと顧客との信頼関係は深まります。
将来的には、AI技術の進化と共に、カスタマーサービスのあり方は変化するかもしれません。
しかし、どれほどサービスの形が変わろうとも、顧客第一という基本はカスタマーサービスの中心としてあり続けるでしょう。
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