カスタマーサクセスとは、顧客の成功体験を支援する営業活動です。
本記事では、カスタマーサクセスの成功事例やメリット、立ち上げ手順もわかりやすく解説します。
カスタマーサクセスは「やめとけ」と言われる理由も紹介していますので、カスタマーサクセスの導入や転職を検討している方は必読です。
このページの目次
カスタマーサクセス(Customer-Success)とは直訳すると、「顧客の成功」という意味で、顧客が事業で成果を出せるように、顧客に働きかける自社活動です。
自社活動ですから、奉仕的に顧客事業の成果ばかりを追うのではなく、顧客の事業の成功と自社の収益を両立させるための取り組みともいえます。
まず、カスタマーサクセスが多くの企業で注目を集めている背景には、以下の3つが考えられます。
「カスタマーサクセス」は、2000年代初頭のアメリカで生まれた言葉です。
日本に上陸したのは2010年代後半頃で、日本国内で普及し始めてから10年も経っていません。
近年よく聞かれるようになった背景の一つには、国内で急拡大しつつあるサブスクリプションモデルが影響しています。
サブスクリプションとは、サービスを利用している期間中に費用が発生するビジネスモデルのこと。
最も身近なものでは、音楽配信や動画配信、電子書籍や電子コミックの定額サービスなどがあります。
これまでのビジネスモデルは、売り切り型が主流でしたが、サブスクリプションモデルが国内サービスにも広がりはじめ、売り切り型だけでは顧客との継続的な関係を結ぶのが難しくなってきました。
しかし、サブスクリプションモデルを取り入れてもノウハウが不足していると、クレームの増加や顧客離れにつながるリスクもあります。
そこで、必要とされたのが「カスタマーサクセス」です。
企業が顧客との継続的な関係を構築していくためのサポート役として、「自社の成功」に寄り添ってくれるサービスが求められるようになりました。
デジタル技術の発展によって、顧客のweb閲覧履歴や購買履歴などのデータを収集できるようになり、企業は顧客ニーズの把握が容易になりました。
そして、競争が激しい市場で差別化を図るためには、デジタルツールを効果的に活用し、きめ細やかなサービスやサポートの提供が求められる時代になったのです。
カスタマーサクセスでは、顧客に関するさまざまなデータを活用し、顧客満足度の向上や継続利用の促進をサポートすることで、売り上げの増加や競合他社との差別化が実現できます。
顧客ニーズの細分化が進んだことも、カスタマーサクセスが注目される理由のひとつです。
近年では、SNSや口コミサイトを活用して他ユーザーの評価を確認し、価格比較サイトで最安値を探すなど、消費行動は能動的でパーソナライズ化が進んでいます。
同様の動きはBtoBでも広まっており、企業が新しい製品やサービスを導入する際には、徹底的に情報を調べて比較検討するのが当たり前になりました。
そして、従来のように画一的な商品やサービスを提供するだけでは、多様な顧客ニーズに応えることが困難になっています。
今の時代に求められるのは、顧客ごとに異なるニーズや課題に応じてパーソナライズされた製品・サービスの提供です。
顧客のニーズを深く理解し、継続的な関係を築くカスタマーサクセスは、顧客満足度の向上や事業成長に欠かせない存在となっています。
一般的に、カスタマーサクセスは「能動的」、カスタマーサポートは「受動的」であると言われます。
カスタマーサクセスは、顧客の持つリソースを使い、ゴール(成果)に向けて必要なアクションプランを練り、ガイドしていくのが役割です。
一方のカスタマーサポートは、顧客の要望や意向を受けて、それを叶えたり、問題を解決したりするためにアクションを取り、ガイドしていくのが役割です。
カスタマーサクセスは、カスタマーサポートのように顧客からの要望を待ってから動くのではなく、自社から働きかけていけるので、顧客との長期的な関係構築が望めます。
違いを一覧にすると、次のようになります。
カスタマーサクセス | カスタマーサポート | |
目的 | 顧客の成功体験 | 顧客の不満解決、クレーム解決 |
姿勢 | 能動的 | 受動的 |
期間 | 中長期的 | 短期~ |
指標 | 売上(収益)、顧客の生涯価値、継続率、使用頻度など | 対応件数(回数)、満足度、NPS |
責任の範囲 | 関連部署連携 | 部署内完結 |
ゴール | 顧客の成功、顧客の事業成長 | 問題の収束 |
対象組織 | スタートアップ企業、成長企業、SaaS企業など | 全ての企業 |
カスタマーサクセスの導入には、主に次のような3つのメリットがあります。
カスタマーサクセスは、顧客へ能動的に働きかけ、最適なアドバイスや必要な情報を提供し、顧客を成功体験へと導きます。
また、プロアクティブな行動により、顧客の不満や離脱を防ぐことも可能です。
カスタマーサクセスを導入し、常に顧客視点で良質な体験を提供できれば、企業との信頼関係が強化され、自ずと顧客満足度の向上へとつながります。
カスタマーサクセスを導入し、顧客との信頼関係が築かれていけば、口コミやSNSを通じた新規顧客の獲得や解約率の低下による収益の安定化が見込めます。
また、既存顧客に対してプレミアムプランへの変更やオプションの追加を提案し、収益を上げることも可能です。
競争が激しい市場では、優れた製品やサービスを提供するだけでは差別化が難しく、いかに質の高いサポートを提供するかが重要です。
カスタマーサクセスを導入し、顧客一人ひとりに寄り添ったサポートを提供できれば、顧客満足度やロイヤルティが向上し、結果として競合他社との差別化が可能になります。
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カスタマーサクセスは多くのメリットがある一方で、一部では「やめとけ」と言われることもあります。
カスタマーサクセスの導入には、専任チームの編成やツール導入、業務プロセスの構築など、立ち上げに時間がかかる場合があるからです。
さらに、時間やコストをかけても、顧客の成功を叶えるためのアプローチ方法が間違っていると、解約率の低減やLTVの向上につながらず、期待通りの成果を得られないことも理由の一つと考えられます。
また、カスタマーサクセスは、成果を出すプレッシャーや顧客との関係構築の難しさから、転職は「やめとけ」と言われることもある職種です。
カスタマーサクセスへの転職は、向き不向きはありますが、顧客の成功に直接貢献できるやりがいもあります。
以下で、カスタマーサクセスの具体的な仕事内容や導入の手順も紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
カスタマーサクセスの業務は、「オンボーディング」「アダプション」「エクスパンション」といった3つのフェーズに分類でき、フェーズごとに業務内容が異なります。
ここでは、カスタマーサクセスの具体的な仕事内容を3つのフェーズに分けて解説します。
オンボーディングは、顧客が製品やサービスを導入して使い始める初期段階で、顧客が早期に製品やサービスの価値を実感できるように、基本的な機能や操作方法の習得をサポートします。
さらに、顧客が製品やサービスの利用に慣れたら、より実践的で戦略的な機能の活用方法を提案し、顧客との長期的な関係構築を目指します。
顧客の熱量が高いうちにオンボーディングを完了させ、解約率を減少させることが重要です。
このフェーズの目的は、顧客が自社の製品やサービスを効果的に活用し、満足度を高めることです。
具体的には、顧客の利用状況を定期的にモニタリングして、顧客のビジネスに合わせた活用方法の提案や、顧客に役立つ最新情報の提供を行います。
また、利用が少ない顧客には、担当者によるヒアリングや活用方法を紹介するコンテンツを提供し、定着率を高めます。
エクスパンションでは、顧客との信頼関係を基盤に新たな提案やサポートを行い、顧客の成功をさらに後押しします。
具体的には、契約の更新や顧客の利用単価を上げるためのアップセル・クロスセルがこのフェーズに含まれます。
「アップセル」は上位の高価な商品やサービスに移行してもらう営業活動のこと、「クロスセル」は関連する商品やサービスをさらに購入してもらう営業活動のことを指します。
これらの提案は、顧客との信頼関係を築き、ニーズを深く理解したうえで行い、顧客の課題解決や成功を促進する提案であることが重要です。
カスタマーサクセスを効果的に運用するには、明確なKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)を設定し、進捗を測定することが欠かせません。
ここでは、カスタマーサクセスで重視すべき代表的な6つのKPIについて解説します。
解約率(チャーンレート)は、一定期間内に契約を解約した顧客の割合を示す指標です。
解約率の低減は、顧客との継続的な関係構築や売上の安定に直結します。
解約率を把握し、原因を分析して改善策を講じることが、カスタマーサクセスの最も重要なミッションとなります。
オンボーディング完了率は、新規顧客が製品やサービスを使い始め、顧客が自走できる状態にあるパーセンテージを指します。
オンボーディングが完了しない顧客は解約リスクが高くなるため、しっかりモニタリングすることが重要です。
LTV(Lifetime Value:顧客生涯価値)は、顧客が契約期間を通じて企業にもたらす収益を示します。
顧客1人あたりの収益を最大化するための指標であり、収益性を評価するうえで欠かせません。
NRR(Net Revenue Retention:売上継続率)は、既存顧客からの収益が前年比や前月比でどれだけ維持・拡大されているかを測る指標です。
顧客との関係性を図り、ビジネスの展開を予測する指標として、特にサブスクリプション型のビジネスにおいては重要視されています。
アップセル率は既存顧客が上位プランに乗り換えた割合、クロスセル率は関連商品やサービスも追加で契約した割合を指します。
アップセルとクロスセルは、LTVの最大化に有効な施策の一つでもあり、顧客との関係性の深さや売上拡大の可能性を評価できます。
NPS(Net Promoter Score:顧客推奨度)は、顧客に製品やサービスを親しい人にどのくらいすすめたいかを0〜10の11段階で評価してもらう指標です。
NPSが高いほど製品やサービスへの満足度が高く、顧客ロイヤルティが強いことを示します。
カスタマーサクセスを効果的に導入・運用するためには、明確な目標と戦略を持って組織全体で取り組むことが重要です。
ここでは、カスタマーサクセス組織を立ち上げる際の基本を5ステップで解説します。
まず、カスタマーサクセスを導入し、どのような成果を得たいのかを明確にし、それに基づいた戦略を策定します。
目標とする成果によって注力すべき業務や優先度は異なるため、事前の検討が重要です。
また、戦略の策定には、顧客が自社製品をどのように体験するのかを可視化するために、カスタマージャーニーマップを作成しましょう。
顧客ニーズや課題が浮き彫りになり、的確な戦略を練ることが可能です。
次に、自社の製品やサービスにとって重要な「顧客セグメント」を明確にします。
顧客セグメントとは、顧客を細分化し、属性ごとに分類したグループのことです。
たとえば、BtoBでは、企業の規模や業界、地域などに基づいて顧客セグメントを作成し、優先的にアプローチすべき顧客層を絞り込みます。
顧客セグメントを明確化したら、次のステップは、セグメントに応じたチームを構築しましょう。
セグメント化した顧客層に応じてアプローチ方法を変える「タッチモデル」を活用すると、効率的なチームの構築が可能です。
以下に、タッチモデルごとのチーム構成ポイントを解説します。
LTVが高い大企業などを対象とする場合は、専任の担当者を配置し、きめ細やかなサポートを行う必要があります。
顧客は「自社チームの一員のように行動してくれる」パートナーシップを期待しているため、経験豊富で高度な対応が可能な人材が必要です。
中小規模の顧客が多い場合は、デジタルツールを活用して効率的にサポートする体制を整えましょう。
同業他社の成功事例や最新の業界トレンドを共有するなど、業界知識を提供できる体制を整えると効果的です。
また、複数の顧客を同時に管理する能力が求められます。
多数の顧客を対象とする場合は、FAQやチャットボット、データ分析ツールなどを駆使して対応します。
この領域を担当するCSM(カスタマーサクセスマネージャー)は、サービスへの深い理解に加え、優先順位の設定やタスク管理能力が必要です。
カスタマーサクセスでは、業務プロセスを標準化し、顧客が誰に問い合わせても同じレベルのサービスを受けられるように、チーム全体でプロセスを共有する必要があります。
また、カスタマーサクセスでは、顧客の行動データなどに基づく分析が不可欠なため、細かい情報を一元管理できるCRM(顧客関係管理システム)やSFA(営業支援システム)を活用し、効果的にアプローチしましょう。
最後に、カスタマーサクセスの成果を最大化するためには、KPIの定期的なモニタリングが重要です。
解約率やLTVなどの指標を基に成果を評価し、必要に応じてプロセスを見直しましょう。
また、顧客からのフィードバックを積極的に収集し、改善に反映させることで、顧客満足度の向上が期待できます。
効果的な評価・改善には、それぞれのメンバーの業務を言語化した「プレイブック」の活用がおすすめです。
カスタマーサクセスがどのように企業で取り入れられているのかを見てみましょう。
ここでは、異なる業種の事例を3つピックアップしています。
これからカスタマーサクセスを実施する担当者の方や導入を検討している経営者は、ぜひ参考にしてください。
音楽配信サービス「Apple Music」は、サブスクリプションモデルのサービスで、定額利用料の支払いで一定の曲数が聴けるようになっています。
こうした配信サービスでは、継続的な利用をしてもらうことが収益維持につながるため、いかにして継続的な利用を促すかが問われます。
Apple Musicでは、ユーザーが自ら好きな楽曲を見つけるのをただ待つだけではなく、リコメンド機能を付加させています。
リコメンドとは、顧客の視聴履歴などの情報を蓄積して、そこから趣味趣向に合ったものを選び、おすすめする機能です。
こうした機能によりApple Musicでは、従来の受動的なスタイルから能動的なスタイルでユーザーとの接触機会を増やしたり、ユーザーの満足度向上や継続利用の促進を図っています。
「Oisix(オイシックス)」は、定期的に新鮮な食材を指定の場所へ届けてくれる食材宅配サービスです。
Oisixでは、食材の選別を提案という形でユーザーに通知します。
不要な食材を除いたり、数量を調節して注文できるようになっているのです。
必要な食材を宅配で受け取れることによって、満足度が高くなるという好循環が生まれます。
Adobe社は、画像加工・編集ソフト「Photoshop」やデザイン加工・編集ソフト「Illustrator」、PDFファイル閲覧ソフト「Acrobat Reader」の開発・販売元です。
これらのソフトウェアは、価格が高く、新しいバージョンが出てもコストを抑えるために買い替える人は少なく、旧バージョンを長く使い続ける人も少なくありません。
そこで目を付けたのが、サブスクリプションモデルの導入です。
PCにインストールして使う従来型からクラウド型へと仕様を変えて、「Creative Cloud」というソフトウェアを提供することにしました。
月定額制にすることでユーザーはコスト負担が抑えられるうえ、いつでも最新バージョンが使えるというメリットがあります。
これにより、Adobe社はターゲットユーザーであるクリエイターのカスタマーサクセスを成功させたのです。
カスタマーサクセスで自社の成長を促していきたい場合、どのようにすれば成功するのでしょうか。
そのポイントを、「成功のキーマンとなる適任者はどんな人材なのか」「どういった流れで進めればいいのか」「ロードマップの作り方」の3つに焦点を当てて解説していきます。
カスタマーサクセスで必要なスキルは、企業規模や成熟度合いによっても異なります。
自社にカスタマーサクセスを取り入れるのであれば、第一に顧客のビジネスモデルに対しての理解があり、成果を出すことに自発的かつ能動的に動ける人が最低条件です。
ビジネスへの理解が浅いと、的確にニーズを掴む力が弱くなり、どうしてもコミュニケーションコストが高くなってしまいます。
常に「相手が成功するためにはどうすればいいか?」を多角的な視座で考え、なおかつ全体を俯瞰して分析できる人が適任です。
このほかにも、問題や課題を発見する鋭い観察眼や洞察力、アクションプランの企画・設計力も必要になります。
さらに、カスタマーサクセスは多くの部署との連携が必要になるため、それぞれの立場や状況を見極めつつ計画を推し進められる調整力も求められます。
カスタマーサクセスには、定型的なフローがあるわけではありません。
顧客企業の内情や業界によってもアプローチが異なるため、フォーカスポイントは、顧客とのコミュニケーションから見つけていくのが基本になります。
顧客が抱える問題点の本質に気づいていないというケースもあるからです。
カスタマーサクセスでは、潜在的な問題点を掘り起こし、トラブルを未然に防ぐのも業務の一つです。
アクションプランを立てるときは、さまざまな角度から「顧客の成功」を考えていきましょう。
ここでいうロードマップとは、フローチャートのようなものではなく、各視点や項目を定義していくことを意味しています。
たとえば、カスタマーサクセスのサービスを提供する側と、顧客側が「何をもって成功とするか」のゴールを共通し、取り組みを進める必要があります。
具体的なアクションにしても、どのステージでどんなことをするのかを可視化し、共有しておく必要があります。
これらを踏まえ、ロードマップに必要な要素は次の通りです。
・具体的なゴール設定
・具体的なアクション内容
・実行担当者の明示
・使用するツールやコンテンツの共有
・支援の手段や担当者の共有
必要に応じて、ツールやコンテンツの利用マニュアルを用意しましょう。
実行者が常に対応できるとは限らないため、提供側の実行者をサポートする担当者や、サポートの手段も共有しておくと互いの意思疎通が図りやすくなります。
カスタマーサクセスは、BtoBの場合は顧客の成功体験づくりを支援するサービスとなり、BtoCの場合では消費者との良好な関係を継続的に築くための支援サービスになります。
今回は、主にBtoBで解説しましたが、BtoCであれば顧客満足を満たすように働きかけていくことが重要です。
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