一人で事業をするならば、合同会社の一人社長という選択肢があるのをご存じでしょうか。
フリーランスや個人事業主、株式会社と比較し、一人で合同会社を設立するメリットや一人社長の会社運営のポイント、合同会社の設立手順を見ていきましょう。
人によっては合同会社を設立して一人社長としてやっていくほうが、節税になるかもしれませんよ。
このページの目次
最近よく聞く「合同会社」とはどんなものなのか、一人で作ることができるのか、基本情報から見ていきます。
合同会社とは、新会社法において新しくできた会社形態です。
新会社法では、株式会社、合同会社、合名会社、合資会社の4つの会社形態が定義されています。
その中で、一人でも作れる会社は、株式会社、合同会社、合名会社の3つです。合資会社は二人以上からとされています。
株式会社は、ご存じの通り「株式」という方法で巨大な資本を集めることができる会社形態です。
最初の株式会社は、1602年に作られたオランダの「東インド会社」です。貴族からお金を集めて、屈強な船乗りたちが命がけで海に出て、モノを獲得してきたことに始まります。
時代は進み、モノを中心とした社会から、技術やノウハウを資本とする考え方が出てきました。そこで生まれたのが合同会社です。
合同会社は、アメリカで1977年に始まったLLCという会社形態に端を発します。Limited Liability Company(LLC)は、日本語で有限責任会社という意味です。出資者が出資した金額の範囲内で責任を負うことになります。
日本では2006年に合同会社(日本版LLC)ができ、会社形態が「株式会社・合同会社・合資会社・合名会社」の4つとなりました。お気づきでしょうか。今まであった「有限会社」がなくなりましたね。
誰もが名前を聞いたことがある、「西友」「アマゾンジャパン」「DMM.com」も実は合同会社です。
FaceBook創始者のザッカーバーグが、妻子に会社を残すために選択した会社形態もそうです。時代の先駆者たちが合同会社を選択しているということが分かりますね。
ここ30年でアメリカにおけるLLC数は毎年右肩あがりです。ヒトを重要視した会社形態はこれからどんどん広まり、その数はまだまだ増加するでしょう。
日本での合同会社の設立数も、この10年で10倍になっています。日本においてもその設立数を伸ばしており、これから先も合同会社を選択する会社は多くなるでしょう。
日本において一人でも作れる会社は、株式会社、合同会社、合名会社の3つです。上で説明した合同会社以外の2形態について見ていきましょう。
合同会社と同じように思われがちですが、その責任範囲において大きな違いがあります。合同会社では、責任の範囲は出資額内と有限ですが、合名会社では責任の範囲は無制限です。
会社というよりも個人事業主に近い形態で、あまり使われていない形態です。これから先も新規登録者はほとんど出ないでしょう。
知らない人も多いかもしれませんが、代表取締役一人で設立することが可能です。これは、出資者(株主)が代表取締役となることも可能だからです。
株式を上場することができます。株主を募り、大きな資本を集めることが可能で、銀行からの融資も難なく得ることができます。
新会社法に合同会社が加わったことにより、以前よりも会社を設立しやすくなっています。
一人で合同会社を設立するメリットを確認しておきましょう。
株式会社においては、経営の主体は代表取締役であっても、最高意思決定機関は株主総会です。
重要なことは株主総会を通さず決定することはできないというわけです。株主を蔑ろにすると、出資してもらえなくなるかもしれませんので注意が必要です。
一方、合同会社においては、出資者は社員であり、最高意思決定機関は社員総会となります。
一人で合同会社を設立して一人で経営するのであれば、出資者は自分であり、最高意思決定機関も自分ということです。そのため、総会を通す必要もなく、機動力があるというわけです。
株式会社の場合、出資者である株主に出資額に応じた額が還元されます。
合同会社は、自由に分配できることになっています。
出資額に応じて分配するのであれば、その旨を定款に記載しておくと、後々争いが生まれません。
しかし、一人で合同会社を設立するのであれば、出資者は自分一人ですから分配についてなにも心配しなくていいですね。
自分にとって、合同会社を設立するほうがいいのか、それとも株式会社を設立するほうがいいのか、迷いどころですね。比較しながら確認していきましょう。
上で説明したように、株式会社の出資者は株主であり、基本的に経営の代表は代表取締役です。
しかし、合同会社の出資者は社員であり、経営の代表も社員となります。新会社法では、株式会社の定義も少し変更されています。
株式会社と合同会社の違いを表で確認しておきましょう。
株主会社 | 合同会社 | |
日本での英文表記 |
Company Limited |
Limited Liability Company |
所有と経営 | 分離 | 一致 |
代表者 | 代表取締役 | 代表社員 |
出資者 | 株主 | 社員 |
働く人 | 社員 | 職員等 |
資本金最低額 | 1円から | 1円から |
役員任期 | 2年から最大10年(条件有) | 社員に任期はありません |
株式会社と合同会社の違いは、かかる費用にも現れます。
初期費用とランニングコストにわけて比べてみましょう。
株式会社 | 合同会社 | |
登録免許税 | 15万 | 6万 |
定款のための費用 | 5万前後 | 不要 |
※定款印紙代(4万円)は電子定款にすることで費用をかけずに済むため記載していません
大きな差が出るのはこの2つの費用です。株式会社設立時は最低20万円はかかりますが、合同会社の場合は6万円ですみます。
そのほか、会社と個人の実印にかかる費用が1万円から数万円(購入する実印による)、設立時の書類等作成を代行するのであれば、その費用がかかります。
少なくとも14万円の差が出るわけですから、初期費用を押さえたいのであれば合同会社が有利ですね。
株式会社 | 合同会社 | |
官報掲載費 | 毎年約6万 | 不要 |
役員変更時の定款書き換え | 約6万 | 不要 |
株式会社は決算公告(決算を公にすること)が義務付けられているため、その費用として官報掲載費がかかります。これは地味に痛いですね。
さらに、役員交代時期に、定款の書き換えの費用が必要となります。ランニングコストの面でも、合同会社はパフォーマンスが良いことがわかります。
これは、表にするまでもなく、日本では株式会社のほうが認知度が高いです。
社会的信用度も認知度に比例して株式会社のほうが有利です。信用度・認知度を重視するのであれば日本では株式会社を選択するべきでしょう。
しかし、「もうすでに十分認知されている」、「認知される必要がない」、または「機動力や自由度が高いことを重視する」のならば、合同会社を選択するべきです。
つまり
・資本を集めて大きな会社にしたい! |
・「株式会社」「代表取締役」という言葉にあこがれる! |
・銀行の融資などに有利な信用度が欲しい! |
という人は、株式会社を。
・中規模以下、小さな会社を作りたい! |
・社員個人の技術重視!スピード感をもって経営したい! |
・認知度?それはあまり重視していない! |
という人は、合同会社を選択すると、自分の考えに合った会社を作ることができるでしょう。
一人で合同会社を設立し、一人社長として運営していくのであれば、メリットを享受できるので保険に加入し、節税につとめましょう。
また、すべて一人で背負おうとせず、困ったことは専門家に相談することをおすすめします。
個人適用の税率と法人適用の税率、どちらがお得か考えましょう。
超過累進課税が適用される個人の所得税ではなく、法人税が適応されます。
これによって、課税所得金額が800万円以下の場合は15.0%、800万円以上の場合は23.9%で計算されます。
個人の所得税が330万円~694万9千円の場合は税率20%ですから、ここが分かれ目となりますね。課税対象金額が330万円を超えているならば、会社設立を考えていいでしょう。
株式会社に慣れている人は、まず名称に違和感を覚えるでしょう。
「代表取締役」というのは法律上使用できませんから、合同会社の代表者は代表社員となります。
「代表社員はなんだかな・・・」と思う人は「CEO(最高経営責任者)」や「COO(最高執行責任者)」という肩書にしてもいいでしょう。
この2つであれば、海外でもよくLLCの代表に使われる肩書ですから、海外と取引がある場合も安心です。
労働者を助けるための保険制度ですので加入しましょう。日本では、4つの保険制度をまとめて「社会保険」と呼んでいます。
健康保険 | 必要な医療給付や手当金の支給を行う保険制度 |
厚生年金保険 | 条件に該当する理由で働けなくなった時に困窮を防ぐ保険制度 |
労災保険 | 業務が原因のけがや病気の際、国が事業主に代わって給付を行う制度 |
雇用保険 | 失業給付等を行う保険制度 |
(厚生労働省「人を雇うときのルール」参照)
このうち、合同会社に適用されるのは「健康保険」と「厚生年金保険」の2つです。
合同会社では、従業員という考えがありませんので、「労災保険」と「雇用保険」は適用外です。
役員報酬がかなり低いというのは、保険料を下回る額以下の場合です。申請しても、社会保険への加入を断られることになります。その場合、国民健康保険と国民年金に加入します。
法人化して保険に加入すると、保険料の支払いが会社と折半になります。半額は会社が払い、その保険料は法定福利費に計上します。
ちなみに、従業員がいませんので「福利厚生費」は適用されませんのでご注意ください。
役員報酬は給与ではありませんので、経費として計上できます。
しかし、役員報酬があまりに高すぎると、法人税を安くすることはできても、所得税と社会保険料が高くなります。
それゆえ所得に応じて算出される所得税と社会保険料、そして法人税のバランスがとれた金額を役員報酬として取り決める必要があります。
景気低迷状態の昨今、会社の売上も伸び悩むかもしれません。法人化して売上がどのくらい見込めるか分からない状態であるならば、リスクヘッジとして役員報酬は低額に押さえておくことをおすすめします。
役員報酬の決め方や、所得税とのバランスのとり方、配偶者を従業員として扱う場合に役員とするかどうかなど、決めなけらばならないことが多くあります。
自身で税理士の資格を保持していたり、勉強したことがあるのでしたら別ですが、これを一つ一つ丁寧にミスなくこなせる人はあまりいないでしょう。
忙しくて疎かになるようであれば、潔く税理士に相談したほうがいいでしょう。ここ10年で合同会社設立に強い税理士事務所も増えてきましたので、価格も安くなっています。
3か月以内とはいうものの、会社設立の届出のときに役員報酬の届出も併せて済ませれば、税務署に行く回数を減らすことができます。
何度も足を運ぶのは時間も手間もかかるため、一度に済ませることをおすすめします。
そして、役員報酬は事業年度内では変更できません。変更するときは、事業年度が開始されてから3か月以内に届出なければなりませんので、ご注意ください。
それでは、合同会社を設立するためにすべきステップを順番に確認していきましょう。
登記書類内の合同会社設立登記申請書に記載する内容を最初に決定します。商号・事業目的・本店所在地・資本金・社員構成・事業年度など、とても重要な項目となります。
商号 |
会社名の前か後に「合同会社」を入れる |
事業目的 |
決定すると、それ以外の事業はやってはならない |
本店所在地 | 定款と登記にも記載するので必要 |
資本金 |
1円から設立できる |
社員構成 |
誰が代表社員なのかを決める |
事業年度 |
決算をいつにするかを決める |
会社設立には、社長個人の実印のほかに、会社の実印も必要です。基本事項決定後、準備を進めていきましょう。
もし、社長個人の実印もないのでしたら、作成してください。ステップ3の定款作成の際に、その印鑑証明書が必要になります。
実印作成 |
商号が決まったら、税務署に登録する実印を登記申請日までに作成 |
許認可確認 |
業種によっては許認可を受けなければならないものがあるため要確認 |
会社の憲法とも言われる定款(ていかん)を作成します。紙でも作成できますが、提出時に印紙代4万円がかかります。
その印紙代を節約するために、電子定款での定款作成をおすすめします。電子定款には会社の基本事項を作り方に則って記載していきます。
電子定款作成のために必要なものは以下の3つです。
①法務省オンライン申請システムが作動するOSのパソコン(例:XP不可)
(法務省の登記・供託オンラインシステム 参照)
②PDF文書に電子署名ができるソフト(プラグインソフトも必要)
(変換ソフトの動作が確認されているのはこちらを参照)
③電子証明書(役所等で取得可能 有料)
上記の準備をして電子定款を作成する流れが一般的です。しかし、パソコンに明るい、IT世代の当方(30代前半)も頭を抱える内容です。
株式会社とは違い公証役場での定款認証という手間と費用がかからないだけ簡単だとは言われますが、電子定款作成は大仕事です。
ここは、会社設立支援サービスを利用するのも一つの手です。安いものでは3千円程度から、だいたい1万円前後で電子定款が作成できるようになっています。
上記のパソコンも、ソフトも、電子証明書もこちらで準備する必要がなくなるため、本来の業務に専念できるでしょう。
残高に残っている金額ではなく、資本金として振り込んだ金額が資本金と見なされます。
定款が認証された日以降に、資本金を振り込んだら通帳をコピーします。表紙、1ページ目(銀行名等)、資本金振込該当明細ページが必要となります。
そして払込があったことを称する書面(以下払込証明書)を作成します。所定の用紙があるわけではなく自分で作成します。
払込証明書を一番上にして、通帳表紙のコピー、1ページ目のコピー、該当明細ページコピーを順番に綴じ込みます。冊子にしたら、見開きの各ページに、左右のページを跨ぐように会社の実印を押します。
法律に則った形式で登記書類を作成します。「登記書類」は、基本的に下の表にある書類を上から順番に綴じ込んだ書類一式を指します。
作成例は法務局「合同会社設立登記申請書」を参照してください。押印の位置など、事細かに書いてあります。
1. 表紙 | 「登記申請書」と記載 |
2. 合同会社設立登記申請書 | ステップ1の基本事項等を記載 |
3. 収入印紙貼付台紙 | 登録免許税6万円分の収入印紙を貼り付ける |
4. 代表社員の印鑑登録証明書 | 登記申請日までに取得 |
5. 払込証明書1部 | ステップ4で作成 |
※そのほか「本店所在地決定書」「代表社員就任承諾書」を、定款に記載されていない場合など、必要に応じて綴じ込みます
記載内容や押印箇所に間違いがあると受け付けてもらえませんので要注意です。綴じ込む際に不安があったら、所轄法務局でチェックしてもらいましょう。
できあがった書類を所轄法務局に届け出て、受理されれば、めでたく会社設立となります。提出する書類は以下の通りです。
受理後に完了連絡等はありませんので、提出した申請日が会社の設立日となります。設立日に拘りがあるようでしたら、不備なく提出できるようにしましょう。
申請が完了したら、ここからが会社のスタートです。気を緩めず、各方面に提出する設立後の書類作成に取り掛かりましょう。
こうして合同会社設立までの道のりを考えると、多くの書類を作成しなければならないことが分かりますね。
ある程度利益を出せるようになってきて、会社の設立を考える場合、ご自身の業務でもお忙しいことでしょう。
定款作成や登記書類作成を代行される場合は、設立の基本事項決定から電子定款、そして払込証明書や登記申請書類作成まで面倒を見てくれるようなサービスを利用するほうがいいかもしれませんね。
画像出典元:Pixabay
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