合同会社の役員報酬と給与の違いとは?損をしない報酬額の決め方

合同会社の役員報酬と給与の違いとは?損をしない報酬額の決め方

記事更新日: 2023/09/18

執筆: 編集部

合同会社を設立したものの役員報酬にいくら支払えばいいのか、報酬額を決めるときに何に気をつければいいのかわからなければ、事業をスムーズにスタートさせられません。

報酬額を決める基準のようなものがあれば、それを参考にすることもできるでしょうけれど、会社によって事業規模が違えば、売上も異なります。

そこで、その悩みを解決すべく、本記事では役員報酬の基本である給与との違いから、報酬額を決めるときの注意点、そして会社が損をしないための役員報酬の決め方について解説します。

給与と役員報酬の違いとは

給与とは

給与とは、雇用先の会社から従業員が毎月受け取る全てのお金のことを指します。そのため、給与は『従業員給与』とも呼ばれます。給与と混同されがちなものに、給料があります。


給与には基本給をはじめ、残業代・交通費なども含まれます。現物支給といって、お金ではなく物品で支給されるものがあれば、それも給与として扱われます。

たとえば、会社名義で契約している携帯電話、移動時に必要となるICカードなどもこれに含まれます。

一方、給料は給与のなかでも基本給だけを指すものです。

役員報酬とは

役員報酬とは、その名の通り役員が受け取る報酬です。しかし、給与とはいいません。これは、会社と役員の関係性に由来しているからです。

役員は会社の経営業務に対して、自身のマネジメント能力を注ぎます。役員に支払われるお金は、経営に必要な能力に対する対価であって、従業員の労働への対価とは意味合いが異なります。

つまり、役員の給与は『報酬』という形で支払われることになっているのです。

給与と役員報酬の違い

従業員給与は従業員に支払われるもの、役員報酬は役員に支払われるものといった違いのほかに、支払う金額や時期についてのルールが異なります。

まず、従業員の給与をいくらにするのか、いつ増やしたり減らしたりするのかまで、会社で自由に設定できます。ところが、役員報酬はいつでも自由に決めることができません

また、役員報酬には残業代や、さまざまな手当てを報酬に上乗せすることもできません。従業員の給与からは毎月雇用保険料が差し引かれますが、役員は差し引かれません。これは、役員が会社の従業員という立場ではないからです。

さらに役員報酬には、変更できる時期や決定に際しての手順にも決まりがあります。

この他にも、従業員給与と役員報酬には違いがあります。

所得税法上どちらも『給与所得』に分類され、会計上『損金』として扱われます。従業員給与は全ての金額を損金にできますが、役員報酬は毎月一定額の場合のみ損金として扱っていいことになっています。

逆に、売上げが好調だから今月は役員報酬アップしようとしても、損金として税務署から認めてもらえません。

損をしない役員報酬の決め方

役員報酬を決める時期

役員報酬は、会社設立日から3ヶ月以内に決めなければなりません。

報酬額を変更するときも、事業の新年度開始日から3ヶ月以内に決定します。

たとえば、会社設立日が4月1日であれば、6月末日までの間に役員報酬を決めなくてはならないのです。

役員報酬を決める手順


役員報酬の決定や金額変更する場合には、必ず社員総会で決議することになっています。

社員総会とは、株式会社でいうところの株主総会にあたります。社員総会を開いたら、必ず議事録を取っておきましょう。

株式会社とは異なって合同会社は、議事録の作成・保管の義務はありません。

しかし、税務調査が入ったときに議事録がなければ、役員報酬を取り決めた公的な証拠が残らないことになります。そうなると、役員報酬の損金算入が認められないこともあるのです。

役員報酬を決めるタイミングは、会社設立後3ヶ月以内でよいことになっていますが、設立後はできるだけ早く報酬額を決めましょう。

これは、役員報酬や従業員給与にかかる所得税を支払うタイミングにも影響してくるからです。

所得税は、役員報酬や従業員給与を支払った翌月10日までに税務署へ納めなければならないという原則があります。ですが、毎月その手続きをするのはとても負担になります。

これを回避する方法として「源泉所得税の納期の特例に関する承認書」を税務署に届け出れば、半年分を一度に納められる特例が適用されます。

会社設立して間もない頃に、わざわざこの届け出をするためだけに税務署に赴くのは、それすらも負担になるでしょう。

早めに役員報酬を決めてしまえば、会社設立に伴う届け出と併せて申請することができます。

役員報酬を決定したら、その金額を税務署に届け出る必要はありません。だからこそ、議事録はとても大切なものなのです。

ちなみに合同会社の場合は、この議事録のことを「同意書または決定書」と呼びます。

所得税・社会保険料から仮算出する

役員報酬を決める際には、いくらの報酬額にどれくらいの所得税や社会保険料がかかるのかを見積もっておくと金額を決めやすいでしょう。

なぜなら、所得税は累進課税といって、報酬額が増えるほどに税率も上がっていくからです。

社会保険料も、所得に応じて算出されますから、報酬額が大きくなるほどに保険料も高くなってしまいます。

役員報酬を高く設定すれば、経費が大きくなりますので法人税を安くすることができます。

しかし、役員報酬が高くなれば、所得税と社会保険料が高くなって、会社が支払うべき税金が増えてしまいます。

これら3つの税率のなかでバランスの良い金額を役員報酬に設定するのがベストです。とはいえ、多忙な起業家がそれを探るのは、なかなかに骨が折れる作業になるでしょう。

その点、税理士は税金や節税のプロです。税理士に自社の損益バランスの良いところを探ってもらい、ベストな役員報酬額を提示してもらうのが負担も少なく、スムーズな決定に結びつくはずです。

 

金額は必要最低限に抑える

金額を決めるには、税率とのバランスも大切ですが、そもそもの売上げがどれくらい見込めるのかも大事な視点です。

最初から多めに役員報酬を設定してしまうと、思っていたよりも売り上げが伸びずに赤字になる可能性もあります。報酬も大切ですが、事業がそれで頓挫してしまうようでは意味がありません。

まずは、役員が生活できるであろう最低限の金額に留め、その後業績が良くなれば、次の事業年度で報酬額を変更して対応するのがベストな判断でしょう。

そうすれば、売上げが伸び悩んでいるなかで、無理して高い報酬を払うようなリスクを負わずに済むはずです。これも一つのリスク管理なのではないでしょうか。

役員報酬を決めるときの注意点

 

 

役員報酬は事業年度ごとにしか変更できない

『役員報酬を決める時期』でも触れましたが、役員報酬は事業年度ごとに変更することができます。しかし、年度途中での変更はできません。

たとえば、業績が良いからと年度途中で、次月から報酬をアップして支払うといったことはできないのです。これは、法人税として納める金額を意図的に下げることを避けるのが狙いでもあります。

このルールがなければ、事業の状況に合わせて報酬額を変動させ、法人税を下げて申告することができてしまうからです。ですから役員報酬に関しては、事業の新年度のタイミングでしか金額が変更できないように定められているのです。

 

役員への賞与は基本的に経費として扱えない

従業員の賞与と役員の賞与とでは、扱い方が異なります。従業員の賞与は、全て損金扱いとなります。

ところが役員の賞与は、基本的に損金として扱われません。これも、法人税を意図的に下げられないようにする目的があってのことです。ですから、役員に賞与を支払う場合は、予めその旨を税務署に届けておく必要があります。

事前に届け出る内容には、支払い時期・支払う金額などが細かな規定があります。賞与を支払う時期が届け出た時期を過ぎてしまうと、経費として認められなくなりますから、こちらも注意がしなければなりません。

みなし役員の最終判断は税理士に任せる

役員は、会社法の役員登記と必ずしもイコールで考えません。というのも、会社法上の『役員』は、登記に記された役員を指しますが、法人税法上の役員は登記された役員の範囲に留まらないからです。こうした役員のことを『みなし役員』といいます。

法人税法上における役員の範囲とは、次の範囲を示しています。

・実質的に経営に携わっていると認められる人物
・同族会社の従業員のうち、一定の要件を全て満たす人物

実質的に経営に携わっているとは、つまり主要な取引案件や金融機関などの決裁権を持っていたり、採用人事に関わる権利を持っているということです。

登記上『役員』に名を連ねていなくても、実際にこうした業務に従事している人物が、単なる従業員とみることはできません。

みなし役員と判断されると、登記に記載されている・記載されていないにかかわらず、登記されている他の役員同様に役員報酬の定めが適用されます。

特に、同族会社の場合は注意が必要です。代表社員の配偶者を従業員として雇用したとしても、みなし役員として判断されることがあります。

この判断を起業家がすることは難しいため、最終的な判断は税理士に任せましょう

まとめ

 

合同会社で役員にあたる業務執行社員に報酬を支払う場合、会社法や法人税法などさまざまな観点から考えて、金額を決定するのがベストです。起業家として最も注意すべきことは、「役員報酬は毎月、一定額でしか支給できない」ということを覚えておくことです。頑張ってくれる仲間にできるだけ高い報酬を与えたいと考える気持ちはわかりますが、それで収益に影響が出てしまうようでは、元も子もありません。

特に税法は煩雑で、素人にはわかりづらいことも多々あります。会社設立をしたら、早い段階で相談できる税理士を見つけておくと安心です。

税理士の探し方・選び方については以下の記事で詳しく解説しているので、こちらもぜひ参考にしてみてください。

 

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画像出典元:PEXELS、O-DAN

 

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