会社員などの従業員であれば、自分の給与所得にかかる税金については計算から納付までを会社が代わりにやってくれるので、あまり意識していない方が多いと思います。
ですが自分で会社を設立し、自らが取締役などの役員となる場合には、自分の役員報酬にかかる税金を自分で計算して納税する必要が生じます。
そこで今回は、役員報酬にかかる税金や社会保険料の種類と計算方法、納付方法までを徹底解説していきます。
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役員報酬は、税法上は会社員等が受け取る「給与所得」と同じ扱いをします。
したがって、役員報酬には「所得税」や「住民税」がかかることになり、通常であれば毎月「源泉徴収」されてから役員の手元に渡ります。
さらにいうと、「健康保険」と「厚生年金」についても源泉徴収が行われる点も、給与所得と同じです。
会社員であればこれらの計算は会社がやってくれていましたが、特に起業したばかりの起業家は、自分の役員報酬にかかる各種源泉徴収を計算する必要が生じます。
まず、健康保険と厚生年金保健の保険料(控除)は、役員報酬の金額により決まります。
健康保険については毎年、各都道府県ごとに保険料が設定されているため、自分で役員報酬にかかる保険料控除を計算する場合には毎年確認する必要があります。
健康保険と厚生年金の保険料額表は合わせて全国健康保険協会のウェブサイトより閲覧できます。
例えば平成31年3月から、東京都の30歳の起業家が、自分の役員報酬を定期同額給与として毎月40万円で設定する場合。
保険料額表の「報酬月額」で「395,000円~425,000円」の欄を見ると、負担すべき保険料金額(=控除の金額)が分かります。
保険料額表「介護保険第2号被保険者」とは、ひらたくいうと40歳以上64歳以下の方を指します。
役員報酬の場合は健康保険料(全国健康保険協会管掌健康保険料)、厚生年金保険料ともに会社と役員とで折半して負担することになるので(一人社長の場合には両方自分で支払う感覚にはなりますが)、「折半額」の列を見ます。
すると、健康保険料は20,295円、厚生年金保険料は37,515円であると分かります。
次に、1で保険料を控除した後の役員報酬にかかる源泉徴収税の確認です。
源泉徴収税税額表は、国税庁のウェブサイトより閲覧できます。こちらも税額は毎年変更となるので、きちんとその事業年度の税額表を確認するようにしましょう。
先ほどと同じ、東京都の30歳の起業家が、自分の役員報酬を定期同額給与として毎月40万円で設定する場合。
1の段階で健康保険料20,295円、厚生年金保険料37,515円の合計57,810円が控除され、控除後の役員報酬の額は342,190円となりました。
源泉徴収税額表の「その月の社会保険料等控除後の給与等の金額」で「341,000円~344,000円」の欄を見ると、負担すべき源泉徴収税額が11,850円であると分かります。
なお、表をご覧いただくと分かるとおり、源泉徴収税額は扶養親族等の人数により変わります。
最後に、役員報酬には住民税もかかります。住民税の支払い方法は、年4回に分けて自分で支払う「普通徴収」と、住民税の金額を12で割って役員報酬から天引きする「特別徴収」とがあります。
しかし、役員報酬の場合は地方税法第321条第4項により特別徴収が義務付けられており、さらに平成29年度からはこの特別徴収の義務が徹底されているので注意が必要です。
住民税については会社ではなく市区町村が計算を行い、毎年5月に「特別徴収税額通知書」が送付されてきます。
これには6月から翌年5月までの特別徴収税額が記載されているので、6月以降からその金額を役員報酬から天引きしていく必要があります。
ここまでで確認した源泉徴収・各種控除をおさらいすると、以下のとおりとなりました。
さて、会社員であればこれら源泉徴収された税金等は会社が代わって納めてくれますが、起業家の場合は自分で源泉徴収し、かつ自分でそれらを納める必要がある場合が多いでしょう。
ここからは、源泉徴収を行った税金等の納付手続きについて解説していきます。
まず、健康保険料及び厚生年金保険料(社会保険料)の納付期限は、役員報酬を支払った月の翌月末とされています。
報酬を支払った月の翌月の20日ころに「保険料納入告知書」が届くので、これを金融機関に持っていき支払います。
また、社会保険料の納付には口座振替も利用できます。
その場合は日本年金機構より「健康保険厚生年金保険 保険料口座振替納付(変更)申出書」を入手し、金融機関に提出する必要があります。
源泉徴収税(所得税)及び特別徴収税(住民税)の納付期限は、役員報酬を支払った月の翌月10日とされています。
源泉徴収税については「所得税徴収高計算書」という納付のための書類を作成し納付します。
特別徴収税については市区町村より送付される納付書を用いて納付します。
しかし、特に起業したばかりの起業家にとっては、源泉徴収税や特別徴収税を毎月納付しに行くのはとても手間がかかる作業でしょう。
そこで、納付手続きを年2回に減らしてくれる「納期の特例」という措置が用意されています。
給与の支給人員が常時10人未満である場合にはこの特例措置を利用できるので、あらかじめ申請の手続きを行なっておくことをオススメします。
源泉所得税の納期の特例とは、毎月10日に行う源泉徴収税の納付手続きを、年2回(7月と1月)に減らしてくれる特定措置のことです。
「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を作成し、管轄の税務署に提出することで手続きが完了、申請書に問題がなければ提出した月の翌月末日に承認があったものとされ、申請の翌々月の納付分からこの特例が適用されます。
特別徴収税の納期の特例とは、毎月10日に行う特別徴収税の納付手続きを、年2回(6月と12月)に減らしてくれる特定措置のことです。
「特別徴収税額の納期の特例に関する申請書」を作成し、市区町村の役所に提出する必要があります。源泉徴収税とは異なり自治体ごとに特例を認める条件などが異なるので、会社の所在する役所のウェブサイトなどで確認しましょう。
今回は、役員報酬にかかる税金や社会保険料の種類と計算方法、納付方法までを解説してきました。
会社員などの従業員であればあまり意識する必要がないことでも、自らが会社を運営する立場に立ったならば、しっかりと理解をした上で適法に対処する必要が生じます。
役員報酬については税金や社会保険料だけではなく、そもそも役員報酬をどのような金額やスパンと設定するのか、あるいは役員報酬を変更する場合にはどうするのかなど、その実務はとても複雑で難易度が高いものです。
ですから税理士の先生の力を借りるのも非常に有効になります。ですが、完全に税理士の先生にまかせっきりにするのではなく、自分でも役員報酬の仕組みについて理解を深めておくことをオススメします。
今後、役員報酬に限らずさまざまな場面で専門家に相談したい場合がでてくるので、創業初期にすぐ相談できる税理士を見つけておくことは非常に重要です。
税理士の探し方・選び方については以下の記事で詳しく解説しているので、こちらもぜひ参考にしてみてください。
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