役員報酬には様々な種類がありますが、その中でも「事前確定届出給与」は比較的ポピュラーな種類のものであり、従業者における「ボーナス」のようなものとして捉えられています。
しかし、法人成りした事業主にとって役員報酬は、ただ単に「報酬」としての意味合いだけではなく、法人の税金を節約する財務上の戦略手段でもありますから、事前確定届出給与を設定するに当たっては、メリットやデメリットなど様々な点で検討しておく必要があるものです。
今回は、事前確定届出給与について様々な視点から説明していくとともに、そのメリットやデメリットについても解説していきます。
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事前確定届出給与とは、役員に支給される「役員報酬」の種類のひとつであり、その名のとおり「事前」に「支給時期」と「支給金額」がそれぞれ決められた上で支払われる報酬のことをいいます。
似たような性質の役員報酬として「定期同額給与」があります。こちらも「事前」に「支給金額」が決められるものですが、「定期」とついているとおり、支給時期については基本的には毎月支給されるものです。
一方で、事前確定届出給与は支給時期についても、例えば「○月○日」といった具合に、明確に決められるものという特徴があります。
なぜこのような形の役員報酬があるかというと、その使い方は大きく分けて「役員へのボーナス」と「非常勤役員への報酬」との2つがあります。
まず、「役員へのボーナス」という使い方について。会社では、従業員へのボーナスについては「原則として労働者の勤務成績に応じて支給されるもの」という大義名分こそあるものの、実際には「基本給の○か月分」と決まった金額が支給されていることが多いのが実情でしょう。
ところが、役員は「労働者」ではありませんから、従業員と同じボーナスを支給されることはありません。とはいえ、それだと役員のモチベーションに影響が及ぶ可能性がありますから、ボーナスと同じように年に数回、定期同額給与とは別の報酬を支払おう、という考え方が成立するのです。
もう一つの「非常勤役員への報酬」ですが、こちらは非常勤監査役や会計参与のように、年間を通じて執務するわけではない役員への報酬、という使われ方だと考えてもらえればよいでしょう。
そもそも事前確定届出給与が損金算入されるようになったのは、税金の負担を小さくするために事業年度中の途中で役員報酬が増額されることを防ぐためです。
元々、役員報酬は事業年度中に金額を変更しても損金算入が認められていました。しかし、これにより利益調節を行い税金の負担を小さくする事業者が多くいることが問題視されていました。
そこで平成19年の税制改正により、「定期同額給与」「事前確定届出給与」「利益連動給与」について損金算入を認める代わりに、それ以外の形での損金算入、例えば先述のような事業年度中での金額変更分の損金算入が認められないことになったのです。
事前確定届出給与は、「事前」に「支給時期」と「支給金額」を決めた上で税務署に届け出るルールとなっています。
この「事前」「支給時期」「支給金額」という3つのキーワードをベースに、事前確定届出給与の決まりについて解説していきましょう。
役員報酬の金額や支給方法については、株主総会の決議によって決定されます。その後、事前確定届出給与については税務署に届け出る必要が生じるのですが、これは「株主総会での決議の日から1か月以内」もしくは「決算から4か月以内」のどちらか早いほうの日が期限となっています。
事前確定届出給与の支給日は、「○月○日」といったように具体的な日付を指定しなければいけません。これより支給が早くなっても遅れても、いずれも事前確定届出給与と見なされず損金算入ができなくなるので注意してください。
なお支給の回数については、1事業年度あたり3回までであれば社会保険の計算上「賞与」として扱うことができます。ですが、基本的には一般の会社におけるボーナスと同様に年2回以下とするのが自然といえるでしょう。
支給金額についても、支給日と同様に「○円」といったように具体的な金額を指定する必要があります。さらに、実際の支給金額がこれより1円でも大きく(小さく)なってしまうと、やはり損金算入ができないので注意しましょう。
事前確定届出給与については、株主総会で決定した内容を「事前確定届出給与に関する届出書」という指定様式に記入し、さらに株主総会の議事録を添付して、所轄の税務署に提出する必要があります。
事前確定届出給与に関する届出書の所定様式は、国税庁のホームページよりダウンロードができるので、これを利用すると良いでしょう。
事前確定届出給与のメリットとして、実は「利益調整」に使うことができるという点が挙げられます。
これまで説明してきたことと矛盾を感じるかと思いますが、事前確定届出給与については事前の届出内容どおりに支給しなくとも特に罰則はなく、ただ支給しなかった分の損金算入が目論見どおりできなくなるだけです。
これは裏を返せば、もし事前の予測どおりに利益が上げられなかった場合であっても、無理に事前確定届出給与を支給する必要はない、ということになります。
つまり、最初から定期同額給与として役員報酬の金額を確定させるのではなく、事前確定届出給与を設定しておくことで「金額変更の余地=利益調整の余地」を残しておくことができる、というわけです。
事前確定届出給与のデメリットとしては、事前届出や支払いがやや煩雑であり手間がかかるという点が挙げられるでしょう。
特に支払いに際して、先述のとおり事前に届出をしたとおりの期日と金額で支払いをしなければ損金算入が認められない点は、注意が必要といえます。せっかく届出をしたのに目論見どおりに損金算入できないとなると、収支計画も崩れてしまうかもしれません。
今回は、事前確定届出給与について、同じく役員報酬である定期同額給与との違いなどの視点から説明するとともに、利益調整の余地があるため法人の税金節約に有効であるといった話も解説してきました。
しかし、やはり「役員にとってのボーナス」であるという捉え方が、実状に最も合っているかも知れません。
手続きがやや煩雑であるというデメリットこそあるものの、役員のモチベーションを確保するには最適な手段とも言えますから、上手に活用することを検討してみると良いでしょう。
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