会社設立時には、自分(社長)をはじめとする役員の報酬を決めることが必要です。
役員報酬を決めるにあたっては法律上のルールがあり、そのルールに従わない場合にはペナルティーが課されることもあるので注意が必要です。
本記事では、役員報酬の決め方や気をつけるべきポイントについて解説します。
このページの目次
役員報酬を決定する流れや期間などは明確にルール化されています。基本的なルールはそれほど難しくないので押さえておきましょう。
役員報酬は、会社設立後3ヶ月以内に決定しなければならないというルールがあります。売上の見通しが立たない創業期ですから役員報酬を決めることは難しいことかもしれません。
しかし、報酬の金額によって毎月の社会保険料や所得税・地方税などの税金が大きく変わるため、慎重に検討しましょう。
役員報酬は、毎月定額が支払われることが必要です。また、額面の金額と手取り金額が同一であることも定期同額の条件となります。
後述しますが、このルールをよく知らずに多額の税金がかかる場合があるので注意しましょう。
役員報酬を変更したい場合、会社設立時もしくは事業年度から3ヶ月以内であれば一度だけ変更することができます。
役員にも賞与を支給することは可能です。
ただし、賞与を支給する場合は会社設立後2か月以内、翌事業年度以降は事業年度開始または株主総会決議・取締役会決議から4ヶ月以内、役員賞与を決議した株主総会から1ヶ月以内に税務署に届出を行います。
役員報酬を支払うには、原則として株主総会の決議が必要です。ただし、実務上は株主総会で決めるのは役員報酬の総額のみで、個々の役員の報酬は取締役会または代表取締役で決めるよう一任されるケースがほとんどです。
株主総会や取締役会を開くときは、税務調査などできちんと説明できるよう、必ず議事録を作成・保存しておきましょう。
役員報酬は経費として計上することができますから、うまく設定することで節税効果を得ることもできます。しかし、経営者個人の税金についても考慮する必要があります。
役員報酬を高くすると、法人としての利益が減り法人税が下がります。しかし、社会保険料は上がることに注意しましょう。
個人の所得には累進課税制度が適用されるため、役員報酬が高くなるとその分所得税や住民税も上がります。
ここでは、役員報酬等を計上する前の法人利益が1,000万円の場合、役員報酬を400万円・600万円・800万円・1,000万円とすると税金等がどう変わるかを簡単にシュミレーションしてみましょう。
役員報酬額ごとの支出シミュレーション
(参考:さくら会計事務所「役員報酬の適正額」)
役員報酬額に連動して法人・個人の支出に差が生じることが読み取れます。
上記のシュミレーションによれば、法人の支出を抑えたければ800万円に、個人の支出を抑えたければ400万円に役員報酬額を設定すると良いとわかります。
しかし、法人と個人の両方のバランスを考えれば、役員報酬を600万円にすれば良いとも考えられます。
役員報酬は、法人と個人のどちらにお金を残したいかを考慮に入れた上で決めると良いでしょう。
自身の企業と似た業種の先輩起業家に相談するのも良い選択です。こちらは国税庁が発表した役員給与の平均額です。
役員給与の平均額
(参考:国税庁「第7表 企業規模別及び給与階級別の給与所得者数・給与額」『民間給与実態統計調査結果』)
創業期のスタートアップの場合、資本金は1,000万円未満とすることが多いことを踏まえて参考にしましょう。
実際、売上げの乏しい創業期には年収250〜400万円程度で、資金調達後のアーリー期では600万前後、IPO前後になると1,200万円まで上がることが多いようです。
モチベーション維持のためにも、余剰利益が出るようになったら適切に増額するのが普通です。
役員報酬を決める際に失敗しやすい注意点をご紹介いたします。
1年間の売上を予測し、家賃や従業員の給与、光熱水道費などの固定費や仕入金額、粗利を算出した上で、役員報酬として計上できる金額を計算します。
もし、当初の予想に反して利益が多く出てしまうことになれば、法人税を多く納めなければならなくなり、資金繰りが圧迫される可能性もあるので注意しましょう。
逆に役員報酬を高く設定しすぎ、役員報酬を支払えない場合は、会社が個人に対して借金をするということになります。払えなかった分は、支払い余力ができた時点で個人に支払われることとなります。
役員のために支払うお金であれば何でも経費に入れられる、というわけではありません。役員報酬で経費計上できるものは次の3つに限定されています。
しかし、たとえば業績が好調だからといって、期中に役員報酬を増額した場合は、増額した金額は経費として計上できません。
また、事前確定給与(賞与)を税務署の事前届出どおりに支給しなかった場合は、原則として増額・減額に関わらず全額経費計上できないことになっています。
ただし、実務上は期中の課税所得に影響を受けなければその事業年度に関しては損益不算入の処理をしなくても良いとされています。
たとえば、3月が決算月となる法人が6月の株主総会で12月・6月にそれぞれ200万円を事前確定届出給与として支給することを決定した場合を考えてみましょう。
今年の12月は200万円を支給したが、翌年6月は資金繰りが苦しくて100万円しか支給できなかった場合、本来であれば300万円が損益不算入となります。しかし、今年度に限ってみれば予定通り支給できているため、翌年度の確定申告で100万円分を損益不算入とすれば良いとされています。
「使用人兼務役員」の扱いにも注意が必要です。
使用人兼務役員とは、たとえば「取締役部長」のように、「取締役」という肩書がついていながら従業員と同じように営業活動や事務処理をこなすような立場のことを指します。
使用人兼務役員として認められるには、会社に役員として勤務すると同時に他の従業員と同じように仕事をしていることが条件となります。
代表取締役や副社長が使用人兼務役員となることは認められていません。
また、報酬を支払う際にも、
といったルールが決められています。
このルールが守られていなければ、税務署から脱税していると疑われ、税務調査の対象となる可能性がありますので、くれぐれも注意しましょう。
原則として、会社設立後3ヶ月を過ぎてから役員報酬を変更することは認められていません。
なぜなら、年度途中で役員報酬が変更できてしまうと、利益が多く出たときには役員報酬を多く支払うなどの利益操作が行われる可能性があるからです。
もし、役員報酬を低く設定しすぎて生活に支障が出たことを理由に年度途中で役員報酬を増額した場合は、増額した分の金額は損金算入ができなくなります。
逆に、財務状態を安定させるために会社に多く資金を残そうとして年度途中で役員報酬を減額した場合は、それまで支払われていた金額と減額した金額の差額分が損金算入できず、経費として計上できなくなります。
最初の5ヶ月は役員報酬を月額50万円支払っていたが、6ヶ月目以降12ヶ月目まで月額80万円に増額した場合
→30万円(差額)× 7ヶ月分 = 210万円を経費として計上できない
最初の5ヶ月は役員報酬を月額50万円支払っていたが、6ヶ月目以降12ヶ月目まで月額30万円に減額した場合
→20万円(差額)× 5ヶ月分 = 100万円を経費として計上できない
しかし、以下のような場合には、例外的に年度の途中で役員報酬を増額したり減額したりすることが認められています。
職責変更により役員が昇格した場合は、設立後3ヶ月を経過した後も役員報酬の増額が認められます。
ただし、増額によって全体の役員報酬の金額が、株主総会で決議された役員報酬の金額もしくは上限額を上回る場合には、新たな株主総会決議が必要です。
役員報酬を減額できる代表的なケースとしては、以下の4つがあげられます。これらのケースでは新たな株主総会の決議は不要です。
期の途中での役員報酬変更の方法については、以下の記事でより詳しく解説しているので、ぜひ参考にしてください。
役員報酬を決める際には、「自分がいくらほしいのか」ということだけでなく、法人税や社会保険料とのバランスも考慮することが大切です。
これから起業して会社を設立する場合には、適切に役員報酬を決めることは非常に難しいと思いますので、税理士などの専門家に相談しながら決めると良いでしょう。
当然ながら、役員報酬以外にも会社設立時に決めておくべきことはいくつもあります。
会社設立の全体の流れは以下の記事で解説していますので、是非参考にしてください。
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