会社設立を目指す起業家や、起業したばかりの会社代表者が頭を悩ませる問題の一つが「役員報酬」の金額設定でしょう。
それは役員報酬と会社の利益(経常利益)にかかる税金は税率が異なるので、役員報酬をいくらにすれば節税効果があるのかが分かりづらいためです。
そこで今回は、役員報酬と経常利益にかかる税金について解説するとともに、節税効果に関するシミュレーション結果をご紹介します。
このページの目次
役員報酬の節税について考える際には、まずは役員報酬と経常利益それぞれにかかる税金について種類や仕組みなどを理解する必要があります。
役員報酬は、税法上は会社員等が受け取る「給与所得」と同じ扱いをします。したがって、役員報酬には「所得税」や「住民税」がかかることになります。
所得税とは、給料や報酬などの懐に入ってくるお金から、収入を得るために必要となった必要経費を差し引いた所得にかかる税金です。所得を得ている人すべてが納税する義務があります。
所得税の計算方法は以下のようになっています。
収入ー必要経費ー各種控除=課税所得金額
課税所得金額×所得税率ー課税控除額=所得税額
所得税率及び課税控除額は下表の通りに定められています。
例えば、必要経費と各種控除を引いた後の「課税される所得」が700万円だった場合には、所得税額は以下のように算出されます。
700万円×0.23-63.6万円=97.4万円
住民税は地方税の一種です。行政が各種サービスを行うための資金源という位置づけですから、会社員でも会社役員でも住民みんなが平等に負担する税金です。
住民税の計算方法は以下のようになっています。
このように住民税は都道府県民税と市区町村民税とに分かれています。
均等割の部分は都道府県、市区町村それぞれで「金額」が設定されており、所得金額等に左右されずに全住民が納める必要があります。
例えば東京都の場合は都道府県1,500円、市区町村3,500円となっています。
所得割の部分の金額は、
(所得金額ー所得控除額)×税率ー税額控除額
算出されます。
所得控除の種類は様々なものがあり、また税率も都道府県や市区町村ごとに異なります。
例えば東京都の場合は都道府県民税の部分が4%、市区町村民税の部分が6%とそれぞれ設定されており、合計で10%となっています。
上記の説明を踏まえて、東京都における役員報酬にかかる税率に関してまとめると、以下の表のとおりになります。
例えば4,000万円超の課税所得を得ている場合には、所得税率45%と住民税率10%合わせて55%もの税率がかかってしまうのです。
役員報酬について節税を考える際には、役員個人にかかる税率と、経常利益にかかる税率とを比較して、どちらの税率がより低いのかを比べる必要があります。
次に、法人が納めなければならない経常利益にかかる税金について解説していきましょう。
経常利益にかかる税金を、「法人実効税率」といいます。
法人実効税率とは、経常利益に対してかかる法人税、地方法人税、法人住民税、そして法人事業税の税率を合算したものです。
日本では、以前から諸外国と比較して法人実効税率が高いという批判があり、2018年から徐々に法人実効税率を引き下げる政策がとられています。
また、法人事業税率は会社の規模や利益の金額によって変わってきます。おおまかにまとめたものがこちらの表です。
ご覧のとおり、基本的には資本金が1億円を超えるような大きな企業は、資本金1億円以下の企業と比較して法人実効税率が高い傾向にあります。
しかし、資本金が1億円以下の企業であっても、利益が800万円を超えてしまうと、資本金が1億円を超える企業よりも法人実効税率が高くなってしまう点に注意が必要です。
役員報酬と経常利益それぞれかかる税率について、おおまかな概要はご理解いただけたかと思います。
ここで、役員報酬等を計上する前の経常利益が1,000万円の場合、役員報酬を400万円・600万円・800万円・1,000万円とすると税金等がどう変わるかを簡単にシミュレーションしてみましょう。
(参考:さくら会計事務所「役員報酬の適正額」)
役員報酬を決定する前の経常利益が1,000万円の場合、法人の支出を抑えたければ800万円に、個人の支出を抑えたければ400万円に役員報酬額を設定すると良いとわかります。
もちろん、これはあくまで一例であり、法人によって会計の内容は異なりますし、また役員についても家族構成などにより個人としての収支状況は変わってくるので、実際に役員報酬を決定する際にはそういった状況をよく踏まえて決定するべきです。
もし自分だけで決めるのに不安や心配がある場合には、税理士などの専門家に相談すると良いでしょう。
役員報酬+経常利益が1,000万円の場合、2,000万円の場合、3,000万円の場合との3パターンでシミュレーションをすると、
2,000万円の場合と3,000万円の場合とでは役員報酬をゼロ円とするのが、個人の手取りと会社に残る金額が最も大きくなるという結果となっています。
もちろん、これらはあくまでシミュレーションなので、実際には扶養家族の人数などにより状況は変わってきます。
また、手元に残る金額を最も大きくするためだけに役員報酬をゼロ円とすることにはデメリットがあることも承知しておくべきでしょう。
役員報酬をゼロ円とすると。健康保険や厚生年金といった社会保険料を支払うことができなくなることに注意が必要です。
これは「社会保険料を支払わなくて済む」ということではなく、「社会保険に加入する権利を失う」と捉えるべきです。
この場合、個人事業主などと同様に国民健康保険(国保)及び国民年金に加入し支払う義務が生じます。
健康保険と国保、厚生年金と国民年金、それぞれどちらに加入した方がメリットが大きいかは一概にはいえませんが、基本的には健康保険と厚生年金に加入する(=きちんと役員報酬をもらうことで社会保険料を支払う)方が良いと言われることが多いです。
ですから、役員報酬をゼロ円とすることで社会保険に加入しなくなることは、一般的にはデメリットであると言って良いでしょう。
もう一つ注意すべきこととして、役員報酬がゼロ円だと法人の決算として見栄えが悪い、という点が挙げられます。
法人の決算は税務署や金融機関などに見られるものであり、もし役員報酬がゼロ円と設定されている場合には、「なぜ役員報酬がゼロ円なのか?」という疑問を持たれてしまいます。
役員報酬をゼロ円とすることには、役員が休職中などの場合を除き基本的には節税目的であると捉えられてしまいますから、あまりいい目では見られません。
今回は、節税を目的とした役員報酬の金額設定について解説してきました。
法人の決算の健全性という観点からいうのであれば、「利益の3割」を基準に役員報酬を設定するのが良いでしょう。
1,000万円の経常利益を上げる見込みがある場合には、役員報酬は300万円といった具合です。
何より、せっかく法人を設立して代表者となったのに、自分の報酬がゼロ円というのは気持ちが良いものではありません。
目先の利益のみに捉われるのではなく、自分のモチベーションを保つという意味でも、役員報酬はきちんと設定することをお勧めします。
役員報酬の決定にあたっては税理士のアドバイスをもらうのが望ましいです。
今後、役員報酬に限らずさまざまな場面で専門家に相談したい場合がでてくるので、創業初期にすぐ相談できる税理士を見つけておくことは非常に重要です。
税理士の探し方・選び方については以下の記事で詳しく解説しているので、こちらもぜひ参考にしてみてください。
なお、役員報酬の決め方にはルールがあります。節税のためにコロコロと役員報酬を変えることはできません。
役員報酬の決め方にはついては以下の記事で詳しく解説しているので、こちらもぜひ参考にしてください。
画像出典元:写真AC