役員報酬を決める際に必ず目にするであろうキーワード「定期同額」。
役員報酬を毎月同じ金額に固定するという意味なのですが、この定期同額にはどのような意味があるのか、また報酬を定期同額とする場合にはどのような手順が必要となるのでしょうか。
今回は、役員報酬の種類から定期同額の意味、変更手順、そして役員報酬金額の決め方のポイントまでを解説していきます。
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まず、「定期同額」という言葉の意味を端的に説明すると「役員報酬を毎月同じ金額に定めること」をいいます。
なぜ役員報酬を定期的に同じ金額に定めるのかというと、そうしておかないと税制上で不利になる決まりになっているからです。
ここでは一言で「役員報酬」といってしまっていますが、実際には役員報酬は支払い方などにより細かく種類分けがされています。定期同額とすべき役員報酬はどのような報酬なのか、しっかり理解していただくために、まずは役員報酬の種類について解説していきます。
役員報酬は、報酬を「金銭」で支払うか「株式」で支払うかで大別され、前者を「金銭報酬」、後者を「株式報酬」とそれぞれ呼びます。
今回のテーマである「定期同額」はこれらのうち金銭報酬に関連するものです。多くの会社は金銭報酬で役員報酬を支払うので、今回は株式報酬に関する説明は割愛します。
金銭報酬については更に以下のような細かな分類が存在します。
あらかじめ定められた金額を受け取る報酬を「固定報酬」と分類します。
例えば毎月同じ金額で支払う「定期同額給与」や「事前確定届出給与」などが該当します。
退職慰労金という報酬も固定報酬に含まれますが、現在では多くの企業で退職慰労金は廃止されています。
会社の業績を反映して支給の有無や金額が決まる報酬を「業績連動報酬」と分類します。
いわゆるインセンティブ報酬のひとつで、以前は「利益連動給与」といわれていましたが、平成29年度の税制改正により報酬を決定する指標の選択肢が拡大されたことで「業績連動報酬」と名称変更されています。
役員報酬すべてを業績連動としていることはあまりなく、基本報酬などの固定報酬と併用して全体の役員報酬を決定していることが多いです。
会社の株価に連動して報酬金額を決定するのが「株価連動型報酬」です。
平成31年現在大きな話題となっている日産では、カルロス・ゴーン元会長が株価連動型報酬を導入したとされており、「株価連動型報酬分の約40億円分を有価証券報告書に記載していなかったのではないか」という点が焦点の一つとなっています。
ここまでご説明してきたとおり、役員報酬には様々な種類がありますが、これらの中で「定期同額とすべき」と言われているのは、固定報酬のうちの「定期同額給与」のことを指します。
続いて、役員報酬を定期同額とする(=「定期同額給与」を採用する)ことの意味について説明していきましょう。
まず1つ目の重要なポイントとして、役員報酬として定期同額給与を採用すると、その金額分を会計上の「損金」に算入できるという点が挙げられます。
法人の法人税や法人住民税、法人事業税などの税額を決める要素である「所得」は、簡単にいうと「利益-損金」で算出されます。
所得が大きくなればなるほど納めるべき税額も大きくなっていきます。逆に、損金の金額が大きくなれば税額は小さくなりますから、定期同額給与を損金に算入することは、納税額の観点から大きな意味があるのです。
もう1つ、利益が大きかったからといって役員報酬額を急に上げてもその分は「損金」に算入できない、という点も重要なポイントです。
先述したとおり、納税金額は「利益」と「損金」とで決定します。例えば、ある事業年度で想定以上の利益を上げた場合、経営者としては「自分に対する報酬額を大きくすることで利益を小さくして納税額を小さくする」という発想に至るでしょう。
しかし、急に役員報酬額を上げても、その差額分を損金に算入することは税制上認められていません。それどころか、増えた分には経営者自身の所得税が余計にかかってしまいます。
そのため、期のはじめに定期同額給与の金額を決定する際には慎重に検討しなければいけませんし、もし会社の運営がうまく行き今後も利益が大きくなることが見込めるようであれば、定期同額給与の金額も再検討する必要があるといえます。
特に初めて起業するような起業家の場合には、いきなり業績連動報酬や株価連動型報酬を導入することは考えにくいです。ですが、「業績連動報酬も条件次第で「損金」に算入できる」ということを一応覚えておくと良いでしょう。
業績連動報酬を損金に算入できる条件としては、「算定方法要件」「支給時期要件」「損金経理要件」の3つがあります。
それぞれで細かな条件設定がなされており、更に平成31年度の税制改正により条件が変更となる予定です。業績連動報酬を導入しかつ損金算入を検討するのであれば、税理士などに相談することをおすすめします。
会社設立の際に役員報酬を決定する場合には、あらかじめ定款作成時に記載しておくか、会社設立直後に臨時で株主総会を開催し、そこで役員報酬に関する決議を行うことが一般的です。
株主総会の場合は会社設立日から3か月以内(会社設立が4月1日ならば6月30日まで)に役員報酬は決めておく必要がある点に注意しましょう。
会社法第361条第1項にあるとおり、役員報酬を会社運営の途中で変更する場合には、「株主総会の決議」によって行います。この際、以下の3点に注意してください。
役員報酬の変更方法については、以下の記事で詳しく解説しています。
役員報酬を定期同額とするべき理由と定期同額とする際の手順についてはご理解いただけたかと思います。しかし、肝心なのは役員報酬をいくらに設定すべきかという点でしょう。
役員報酬の適正な金額は、会社の規模や利益の大きさなどで変わってきます。
基本的には税理士に相談することをオススメしますが、自分で金額を決めたいという場合には
といった視点から検討してください。
また、他の起業家に話を聞いたり、他の企業の役員報酬を参考にしてみるのも良いでしょう。こちらは国税庁が発表した役員給与の平均額です。
(参考:国税庁「第7表 企業規模別及び給与階級別の給与所得者数・給与額」『民間給与実態統計調査結果』)
役員報酬の決め方は以下の記事で詳しく解説しているので、こちらもぜひ参考にしてください。
役員報酬の種類から定期同額の意味、変更手順、そして役員報酬金額の決め方のポイントまでを解説しました。
役員報酬を定期同額とすることで、法人の会計上の「損金」として計上することができ、法人の納める法人税等を削減することができます。
しかし、定期同額による損金算入は、例えば事業年度の途中で報酬金額を上げてもその分は損金算入できないなど、様々な制約があります。さらに役員報酬を変更する際には株主総会での決議も必要となるので、容易な話ではありません。
これから起業するという場合は、会社の利益見込みを考慮しながら無理のない範囲でしっかりと定期同額とすることを検討しましょう。もしこれから定期同額とすることを検討している経営者の方は、事業年度開始日に留意して変更してください。
なお先ほどもお伝えしたように、役員報酬の決定にあたっては税理士のアドバイスをもらうのが望ましいです。
今後、役員報酬に限らずさまざまな場面で専門家に相談したい場合がでてくるので、創業初期にすぐ相談できる税理士を見つけておくことは非常に重要です。
税理士の探し方・選び方については以下の記事で詳しく解説しているので、こちらもぜひ参考にしてみてください。
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