特許取得は、自分が生み出したアイデアや発明がもたらす利益を守るための重要な手段です。
特許は先に出願した者に権利が与えられるので、すぐに特許を出願して取得することを検討したいところです。
ですが特許取得はハードルが高い手続きなので、慌てて取り組んでも特許を認めてもらうのは難しいです。
今回起業LOGでは特許取得について詳しい専門家に取材し、ここでしか見られないアドバイスを多数掲載しています!
特許取得の手続きや注意点・おさえておきたいポイントまでわかりやすく解説していきますので、最後までご覧ください。
この記事に登場する専門家
弁理士
靍田 輝政
大手金属系素材メーカーにおいて7年間、開発、量産設計、量産移管、品質管理までの一連の製品開発業務に従事。
2018年、弁理士試験に合格し、法的知識と技術背景を組み合わせる能力を持つ専門家として特許事務所への道を選択。
2023年、知財の全体戦略や個々の出願戦術から関わりたいという思いから、発明を醸成する段階から関わるためにスタートアップへの専門的知財支援を目指し、One ip弁理士法人に参画。 詳しくはこちら(専門家紹介へ)
このページの目次
「特許」とは、個人や企業が生み出したアイデアや発明を保護する制度のことです。
発明者は、特許を取得し国に認可してもらうことで、そのアイデアや発明を独占的に扱う「特許権(独占権)」という権利を得ます。
特許権が発生すると、下記のメリットがあります。
例えば、医薬品業界は特許が非常に重要な業界のひとつとして挙げられます。医薬品を新たに作るには研究費用など巨額のコストがかかるためです。
その分、新たな医薬品を開発した暁には、医薬品の化学構造や製造方法など様々な面から特許を取得し、その医薬品が生み出す利益を独占することができるのです。
ちなみに、近年は特許が切れたものと同じ有効成分の「ジェネリック医薬品」が開発・販売されていますが、ジェネリック医薬品が安いのは、先述の研究費用などのコストがかかっていないためです。
また、特許には、マーケティングツールの役割を果たすというメリットもあります。
特に「特許を開発した」というフレーズは、生まれたばかりのベンチャー企業や小規模の企業などにとっては、企業そのものへの評価向上につながるでしょう。
靍田氏
特許を取得することで、他社にはない独自の価値を示すことができ、市場における自社の差別化・競争力の向上が図れます。また、特許の取得により、自社のプロダクトや技術力のアピールができたり、投資家や取引先などのパートナーからの信頼の向上に繋がったりします。このように、特許がもたらすメリットは多岐にわたり、特許は、企業価値の向上などに寄与する重要な経営資源といえます。
特許取得の流れは大まかに分けて以下のとおりとなっています。
1.特許を取得したい発明に似た先行技術がないか調査
2. 特許の出願書類の作成・提出
3. 特許の審査
4. 登録料の納付
それぞれ、詳しく解説していきましょう。
まず最初に、自分が特許を取得したい発明に先行する技術(先に公開されている技術)が存在するかを調査しましょう(先行技術調査や新規性調査などと呼ばれています)。
特許は先に特許庁に出願を出した者に権利を付与する「先願主義」なので、もし先に同じ発明が出願されていたら、自分が後から出願しても特許は認められません。
また、特許が認められるためには、
などの要件を満たす必要があり、既に知られていて新規性がない技術を発明として出願しても特許は認められません。
そのため、調査で先行技術を把握したうえで、どのような内容で出願するのかを検討するようにしましょう。
▶特許を調べるには、独立行政法人 工業所有権情報・研修館が公開しているウェブサイト「特許情報プラットフォーム」で検索してみてください。
靍田氏
出願前の先行技術調査は大切ではありますが、先行技術調査に時間と費用を割くよりも、早々に出願して審査にかけてしまった方が総合的にコストを抑えられるケースもあります。特許事務所の中には出願を前提とした調査であれば安価な費用で対応してくれる事務所もありますので、特許事務所に出願の代理を依頼される場合には、出願にかかる費用だけでなく、出願前の調査にかかる費用も加味して、代理人事務所を選定してみましょう。
同じような発明が公知になっていないことを確認したら、いよいよ特許取得のための出願手続きに入ります。
書類を提出する方法の場合、以下の書類を準備します。
・特許願
・明細書
・特許請求の範囲
・要約書
・図面
「特許願」には14,000円分の「特許印紙」を貼る必要があります。
特許印紙は郵便局や特許庁で購入できますが、郵便局は場所によって置いていないことがあるので、事前に問い合わせるようにしましょう。
郵送で提出する場合には、これらの書類を特許庁宛に郵送すればOKです。
この際、封筒に「出願関係書類在中」と朱書きで記しておくと、取り違いを防げます。
特許庁に持参する場合に気をつけたいのは、特許庁はセキュリティ対策の一環として入館の手続きが厳重になっている点です。
本人確認ができる身分証が必要になるので、あらかじめ特許庁のウェブサイトで入館方法を確認しておきましょう。
インターネットによる電子出願は、まず電子証明書を購入し、さらにインターネット出願ソフトを入手・インストールして環境を整えます。
それができたら同ソフトを使用し、「出願人利用登録」をした上で出願書類を作成。
作成した出願書類を同ソフトを使用して特許庁に送信することで出願完了となります。
なお、特許出願の際には出願手数料を支払う必要があります。
書類提出による出願の場合は、14,000円分の「特許印紙」を特許願(願書)に貼り付けて納付する方法が一般的ですが、特許庁専用の振込用紙を使用して入金する方法などもあります。
電子出願の場合は、口座振替やクレジットカードによる決済も可能です。
また、書類提出による出願の場合のみ、「電子化手数料」として2,400円+(800円×提出書類の枚数)を、出願後に送付されてくる払込用紙を用いて支払う必要があります。
特許として認めてもらうためには、特許庁による審査を受けなければなりません。
▶「商標登録」の場合
→出願したら自動的に審査の手続きに入ってくれる
▶「特許」の場合
→出願とは別に審査を請求する手続き(出願審査請求)が必要
さらに出願審査請求の際には、138,000円+(4,000円×請求項の数)の手数料を特許庁に支払います。
靍田氏
審査請求の期限は、原則「出願日」から3年以内で、この期間内であれば、いつ審査請求してもよいです。キャッシュの都合がつくタイミングで審査請求をしてもよいですし、実用化の方針が決まってから審査請求をするでもよいです。出願時点で実用化が決まっているのであれば、出願と同時に、早期審査制度やスーパー早期審査制度を利用して審査請求することもできます。通常の審査待ち時間は平均10か月であるのに対して、早期審査の場合は平均3か月、スーパー早期の場合は1か月以内となるので、早く権利を確定させたい場合には積極的にこのような制度を利用してみましょう。
※早期審査やスーパー早期審査の対象要件については以下特許庁のURLを参照ください。
早期審査:https://www.jpo.go.jp/system/patent/shinsa/soki/v3souki.html
スーパー早期審査:https://www.jpo.go.jp/system/patent/shinsa/soki/super_souki.html
出願審査請求が行われたら、特許庁の審査官による審査が開始されます。
すると、多くの場合で特許庁より「特許が認められない」旨の通知(拒絶理由通知)がきます。
拒絶理由通知に対して意見書や補正書を提出することで反論を行い、なんとか特許を認めてもらうようにするのです。
靍田氏
「拒絶」と聞くとネガティブな印象を持たれる方もいらっしゃると思いますが、拒絶理由通知書は必ずしも「悪い通知」というわけではありません。拒絶理由通知をもらわないように権利範囲を狭く設定するよりも、拒絶理由通知の審査官の見解を踏まえて必要最小限の補正をした方が、権利範囲を広くできる可能性があるためです。拒絶理由通知を受けとったからといってネガティブになる必要なく、拒絶理由通知の内容をよく精査して冷静に対応することが求められます。
審査が無事終了し特許査定が通知されれば、あとは登録料を納付すればOKです。
登録料は、後述するとおり20年間の有効期限のうち1~3年目の分の特許料を納付する、という形になっています。
登録料の納付から1~2週間すると特許が登録され(「設定登録」という)、このタイミングから特許権が発生します。
特許権の有効期限は20年間となっています。
この間、特許登録時に支払う1~3年目の分も含めて以下の特許料を支払う必要があります。
これらの特許料を支払わないと、特許権は消滅してしまいます。
靍田氏
中小企業やスタートアップ等については、特許料等の減免措置が受けられる場合があります。詳細については、特許庁のHPで調べてみましょう。
https://www.jpo.go.jp/system/process/tesuryo/genmen/genmensochi.html
商標であればオンライン商標登録サービスを利用して自分で出願する人もいますが、特許についてはほとんどの人が弁理士(特許事務所)に依頼をして出願しているのが実情です。
自分で特許出願をするメリットは、「特許事務所に支払う手数料を削減できる」という点です。
ですが、特許出願を自分で行うことはリスクの高い行為といえます。
特許公報を読むと実感できるかと思いますが、特許の出願書類は非常にテクニカルで、権利範囲の書き方や権利の取り方にもテクニックが求められます。
知識がかけた状態で自分で出願しても、非常に狭い権利しか取れなかったり、事業において全く価値のない特許になってしまう恐れも。
それならば、時間をかけて自分で出願するよりも、その時間を本来の業務に充てた方が有効な時間の使い方といえるでしょう。
特許は出願書類の「質(クオリティ)」が重要となりますので、有効な特許を取得するためには、信頼できる弁理士(特許事務所)に依頼するのがおすすめです。
特許の出願から登録まで、特許庁へ払う費用と特許事務所へ払う費用を合わせて、およそ60万~100万ほどの費用がかかると言われています。
これだけの費用をかけるので、「自社のビジネスにおいて、本当にその特許を取る意義があるのか」をよく見極める必要があります。
どのような内容で特許を取得するのか、弁理士などの専門家とよく相談してみましょう。
靍田氏
初めて特許出願をする場合には、創業期やスタートアップの性質・金銭的事情等を解ったうえで、「戦略レベルの提案」をしてくれる弁理士や専門家を見つけることが重要です。探すつてがない場合は、投資家に紹介してもらったり、特許庁のスタートアップ支援プログラム(知財アクセラレーションプログラム等)を頼ったりしてみましょう。
特許では「先願主義」が採用されており、同じ発明については、最も早く出願した者に権利が付与されます。
つまり「早い者勝ち」です。
そのため、できる限り早く出願するという意識が大切です。
出願のタイミングとしては、実用化(実現性)の道筋が立った段階、すなわち、プロトタイプ(試作)が完成した段階を一つの目安とします。
出願が遅れたとしても、少なくともリリースよりも前に出願しましょう。リリースで自ら公開した情報により発明の新規性が喪失し、特許を取得できない状況に陥る可能性があるためです。
靍田氏
新規性が喪失した場合の救済制度(新規性喪失の例外規定)が設けられていますが、この制度ですべてのケースを救済できるわけではありません。特に、海外でも特許を取得したい場合には、国によって救済に要件が異なり、HP等で自ら発明を公開した場合は救済されない国も多いので要注意です。救済制度に頼らず、リリースの前に出願を済ませるようにしてください。
特許の効力にも強弱があり、一つの特許で得られる効力はさほど強いものとはいえず、異議申立や無効審判権利により特許がつぶされてしまう可能性もあります。
自社のコア技術やその周辺技術において、5個、10個と複数の特許を取得していた場合には、そのすべての特許を潰すには多大な労力と費用が必要になります。
そのため競合他社に「争うメリットがない」と思わせることができ、自社技術を保護する効果が高まります。
また、複数の特許を取得しておけば、権利の隙間をぬって模倣することも困難となり、参入障壁・抑止力の向上が期待できます。
特許は点で取るのではなく、面でとって特許の網を張る、つまり特許網を構築することが重要です。
靍田氏
投資家などから融資を募る際、共同開発・事業提携などの交渉の際、ライセンス交渉の際、などにおいても、特許網の構築が極めて重要となります。1個、数個程度しか特許を持っていなければ、そもそも交渉のテーブルにはつけません。競合優位性やビジネス機会の創出のためには、特許網の構築が欠かせない要素となるでしょう。
複数の特許を取るといっても、場当たり的に出願していてはいたずらに費用がかさむだけで、有効な特許網を築くことは難しいです。
限られた予算の中で特許による競争優位性を獲得するためには、自社の強みとリンクさせて特許網を構築する必要があります。
そのためには、出願前の先行技術調査よりも網羅的な特許調査が欠かせません。
特許調査により、自社の技術領域における出願動向・競合他社の動向を把握したうえで、自社の強みとする領域・差別化できる領域を選択していく、この作業が有効な特許網を築くカギとなります。
靍田氏
上記のとおり、ビジネスにおいて特許を有効に活用するためには、ただ出願を積み重ねるだけでは不十分といえるでしょう。特許で企業価値を高めていきたい、という思いがあるのであれば、単に出願書類を書いてくれる存在として弁理士(特許事務所)と付き合うのではなく、戦略レベルで相談・提案をしてくれる弁理士と繋がりましょう。
靍田氏
紛争が発生した後の事後対応の備えというより、紛争を発生させないための事前の備えが何より重要です。紛争が発生してしまえば、対応するための時間と費用がかかり、勝敗の如何にかかわらず、自社ビジネスに多大な影響を及ぼすことが想定されます。そのため、紛争を避ける、紛争の発生リスクを抑えるための努力が必要です。
事前の備えをするためには、競合他社の特許情報・動向を把握する必要があり、前述の出願前の調査とは別に、自社事業の技術領域および競合他社を対象とした特許調査を行うことが大切です。
特許調査で抵触リスクのある他社特許権が見つかった場合には、他社特許権を回避するための代替技術の検討をしたり、他社特許権を潰す(無効化する)ための資料を準備したりします。
事前/事後の両方に共通する備えとしては、相手に対抗し得る弾数(特許の数)を持っておくことが重要です。
自社事業について複数の特許を持っておけば、他人の特許を踏むリスクを軽減できます。
また、仮に紛争が生じたとしても、複数の特許を持っておけば、クロスライセンス等で和解の道筋を立てられる可能性があります。
紛争を避けるためにも特許網の構築が重要であり、その特許網が高い参入障壁となって紛争を未然に防ぐことに繋がります。
▼ここでは、いざという時に役に立つ編集部おすすめのサービスをご紹介します。
画像出典元:「ATEリスク補償」公式HP
ATEリスク補償は、金銭などを請求する債権者側となる法人・個人事業主が、初期費用ゼロで弁護士に依頼するための費用立替・補償サービス。
トラブルの解決を弁護士に依頼する際に必要な着手金や実費などを立て替えてくれるので、気軽に弁護士に依頼できる(※弁護士の選定・依頼は自己対応)という利点があります。
特許権取得後にトラブルが発生した場合、紛争発生後からでも弁護士費用の補償をしてくれるので安心です。
ATEリスク補償のリスク補償料は、立替・補償額に応じて決まります。
請求額が75万円以上、立替・補償希望額が20万円以上の事案が対象になっている点は注意しましょう。
今回は、特許出願の概要と流れについて解説してきました。
比較的簡単に取り組める商標登録とは違い、かなりの労力とノウハウ、金銭的コストがかかる特許出願は、かなりハードルの高い手続きとなっています。
特許出願に関するノウハウがあり体制も整っていればよいですが、そうでない場合は特許出願の専門家である弁理士や特許事務所などに代行を依頼するのを検討すべきでしょう。
特に、速やかにかつ確実に特許出願の手続きを行いたいという場合は、専門家の活用を積極的に検討してみてください。
画像出典元:StockSnap、Pixabay、Pexels、O-DAN
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