商標とは、端的に言うと商品やサービスを他のものから区別するトレードマークです。
商標と言えばロゴマークが思い浮かぶかと思いますが、実は「音」や「色彩」なども商標として登録することができます。では、マークや音や色を商標として登録することにはどのような意味やメリットがあるのでしょうか?
この記事では、商標の意味や商標登録をする目的、商標制度や商標を取得するまでの流れなどについて解説します。
この記事に登場する専門家
弁理士
靍田 輝政
大手金属系素材メーカーにおいて7年間、開発、量産設計、量産移管、品質管理までの一連の製品開発業務に従事。
2018年、弁理士試験に合格し、法的知識と技術背景を組み合わせる能力を持つ専門家として特許事務所への道を選択。
2023年、知財の全体戦略や個々の出願戦術から関わりたいという思いから、発明を醸成する段階から関わるためにスタートアップへの専門的知財支援を目指し、One ip弁理士法人に参画。 詳しくはこちら(専門家紹介へ)
このページの目次
まず、商標とは何かを端的に説明すると、商品やサービスに付ける目印あるいはトレードマークのようなもの、とイメージしてもらえれば良いでしょう。
例えば、「コーラ」という言葉からあなたがイメージする商品はいくつあるでしょうか?赤い背景に白い筆記体が特徴のあの商品でしょうか?それともスカイブルーの背景に赤・白・青で構成された丸いマークが浮かぶあの商品でしょうか?
もしかしたら他の商品かもしれませんが、先に挙げた2つのコーラは、ただのコーラではなく特徴ある商品として誰もが認知しているでしょう。
そして、これら2つのコーラを思い浮かべたときに頭をよぎったマークは、アメリカが誇る2つの世界的なメジャー商品を他のコーラから区別する「目印」あるいは「トレードマーク」となっています。これこそが「商標」です。
実際に、コカ・コーラ及びペプシコーラともにアメリカ企業の商品ですが、きっちり日本でも商標登録がなされています。コカ・コーラは1919年8月28日、ペプシコーラは1955年9月7日に、それぞれ最初のロゴマークが登録されています。
商標は、「もの言わぬセールスマン」とも言われ、商品・サービスを他社のものと区別する単なる目印としての役割だけでなく、商品・サービスの中身や品質を需要者にイメージさせたり、購買意欲を起こさせたりするような役割を持つ場合もあります。
靍田氏
商標の機能は、始めからその効果を発揮するというよりは、商標を使い続けて、認知度や信用を積み重ねることで、増大していきます。そして、このような機能が備わった商標は、自社の商品・サービスの顔として、他社との差別化や競争性を示す重要な経営資源となるのです。
商標を登録することの最大の目的は「事業者の利益を守る」ことです。
先に挙げたコーラの事例を考えてみましょう。
コーラという種類の炭酸飲料はコカ・コーラとペプシコーラ以外にも数多存在します。もしそれらのコーラが勝手にコカ・コーラやペプシコーラの商標を貼って売りに出されたとしたら、おそらく多くの人がコカ・コーラやペプシコーラと誤って認識して買ってしまうでしょう。すると、ザ コカ・コーラ カンパニーやペプシコが得られるはずであった利益が奪われてしまう形となります。
唯一無二の製品を作り出した会社が、それが生み出す利益を正当に受け取るために(=偽の商品を生み出さないために)、商標制度が存在するのです。
商標として登録できるのは事業で継続して使用されるものです。
商標は「マーク」と「使用する商品・サービス」のセットで登録する必要があり、登録後に使い続けることが求められます。
個人的に使用しているもので事業に使用していないものは商標としては登録できません。
J-PlatPat(特許情報プラットフォーム)では、登録された商標を検索することができます。主に商標の登録を申請する際に、似ている社名や商品名、ロゴのデザインなどがないか、チェックするために利用します。
有名なキャラクターについても商標登録がなされています。これは、企業の利益を守る上で必要な知的財産保護の手段となります。
世界的に人気のある株式会社サンリオのキャラクター「ハローキティ」も商標登録されています。
なお、『週刊少年ジャンプ』(集英社)に連載中の、シリーズ累計発行部数4,000万部を突破した吾峠呼世晴(ごとうげ こよはる)さんによる漫画『鬼滅の刃』のロゴマークも2019年12月20日に商標登録されています。
先に挙げたコーラの例では商標を「目印」あるいは「トレードマーク」のようなものという説明をしましたが、商標はロゴマークだけではなく様々なかたちで登録することができます。
商標法第2条を見ると、商標とは「人の知覚によつて認識することができるもののうち、文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音その他政令で定めるもの」とされています。
平成26年5月に行われた商標法改正により、それまで対象であった文字、図形、記号、そして立体的形状に加えて、新たに「色彩又はこれらの結合、音」も商標として登録できるようになりました。
とはいえ、「色彩は又これらの~・・・」といわれてもピンとこないでしょう。これらは、わかりやすい言葉で言い換えると「動き」「音」「ホログラム」「位置」「色彩」などと捉えることができます。
具体的にどのようなものが新しい商標として認められているのか、いくつか具体的な例を見ていきましょう。
「動き」の商標としてイメージしやすいものとして、日本での登録商標ではないのですが「ランボルギーニの扉の開き方」があります。
他にも「猿の惑星」や「スターウォーズ」でおなじみ20世紀フォックスの映画本編が始まる前のロゴマークの一連の動きも、アメリカで「動き」の商標として登録されているとのこと。
平成27年4月、新しく登録できるようになった「音」の商標として、実際に以下のようなものが商標登録されました。
中でも最もわかりやすいのは、「大幸薬品(株)の音商標」です。これは、ラッパのマークの正露丸のCMなどで使われるBGMのことです。テレビCMなどであのBGMを聞けば、CM画像を見なくとも、誰もが「正露丸」という胃腸薬の商品を思い浮かべることができます。
このように、画像や文字を見なくとも音を聞くだけでどのような商品・サービスを指すのかが判別できれば、その音は商標として認められるのです。ちなみに「正露丸」のロゴマークは今から60年前の1959年に大幸薬品(株)により商標登録されています。
新たな商標の中でも「色」は比較的イメージしやすいものです。「色」の商標として実際に日本で登録されているのは、以下のような商標です。
いかがでしょう。いずれも、この色の組み合わせを見れば、特定の商品や看板が頭に浮かぶものばかりだと思います。
しかし、「色」の商標は特定しやすい文字や図形、音などとは異なり審査が難しいのか、なかなか認められないようです。
トンボ鉛筆の消しゴムとセブンイレブンの看板は「色」の商標として初めて認められた事例ですが、これらが認められたのは平成29年のこと。平成27年の受付開始より2年間ずっと「色」の商標の認可事例が出てこなかったのです。
ちなみに、日本の商標登録は「先願主義」といい、早く出願したもの勝ちというルールになっています。
もし同じタイミングで同じような商標出願がなされた場合は「くじ引き」によって優先権が決定します(商標法第8条)。
文字や図形であれば同時に同じようなものが出願されることはあまりないですが、「色」はそうはいきません。そのため「赤系の色」の商標登録を大企業6社が争っている、というエピソードも存在します。
商標というものは勝手に「このマークはうちの商標だから使うな!」と宣言すれば良い、というものではありません。自分が作り出した商標は、日本では「特許庁」に出願し商標登録を行うことで、法的な効力を発揮することができます。
この商標登録により商標権を認め、商標権によって各商標を保護することで事業者の利益が守られる制度を「商標制度」といいます。
「商標権」とは、商標登録するときに指定した商品やサービスについて商標を独占的に使用できる権利です。
商標の権利(=商標権)が有効となるのは、特許庁により商標登録が認められたときです。
そのため、商標を継続して事業に使用していても権利は発生しません。必ず商標登録し、商標権を取得する必要があります。
商標権を取得していない商標を使用していた場合、他社が似たような商標を利用し始めても文句を言うことはできませんし、逆に商標権侵害で損害賠償を請求される可能性もあります。
会社やサービスを認知してもらう商標を守ることは、会社の利益を守ることと同じなのです。
商標権を取得するのは、早い者勝ちです。出願の早いものが優先されますので、商標登録は早めに行いましょう。商標権は登録日より10年存続し、申請すれば何度でも更新が可能です。
商品名などに「Rマーク(R)」や「TMマーク(TM)」が付いているのを見たことがある人も多いのではないでしょうか?
このふたつのマークを、取得した商標に付ける必要はあるのでしょうか?
実際には「Rマーク」と「TMマーク」は日本の商標登録表示ではないため、必ずしも付ける必要はありませんが、マークやネーミングが自社の商標であることを広く知らせる、アピールするために有効といえます。
「Rマーク」は、「Registered Trademark」のことで「登録商標」を意味し、外国の商標制度で用いられているものです。
「TMマーク(TM)」は、「Trademark」のことで「商標」を意味し、まだ出願されていない商標や、出願中の商標に付けられることが多くなっています。
日本の商標登録表示は「商標登録第〇〇〇〇号」というもので、特許庁のウェブサイトによると、この表記で登録商標を表示することが推奨されています。
ちなみに、「(C)」のマークもよく見かけますが、こちらは「Copyright」のことで「著作権」を意味します。
靍田氏
日本の商標法では「登録番号表示」が推奨(努力義務)となっていますが、Rマークが分かりやすくて便利ということもあって、日本においてもRマークは事実上利用されています。ただし、Rマークを、登録を受けていない商標や出願中の商標に付けると、虚偽表示として刑事罰の対象となる恐れがあるので注意しましょう。
ここでは商標を取得するまでの流れを見ていきましょう。
出典:特許庁ウェブサイト
商標を取得するためには、特許庁に申請書類を出願(提出)します。出願の前には、似たような商標がないかチェックしましょう。
商標の使用を開始した後で、同一又は類似の他社登録商標が存在することがわかった場合、商標を切り替えるなどの対応に多大な時間と費用を労するためです。
出願すると審査が行われ、審査が通ると「登録査定」が送付されます。登録料を納付すると登録が完了となり、同時に商標権が発生します。
出願から審査結果の通知までは約1年かかります。
もっと早く権利を取得したい場合は「早期審査制度」を利用することもできます。
靍田氏
商標は、登録できたから安心ではなく、登録後の管理が極めて重要です。
例えば、登録された商標であっても、使用していなければ登録が取り消される可能性があり、登録商標の継続的な使用が求められます。また、商標の価値は、使用によって商標に信用が蓄積されることにあり、他人による商標権侵害を放任していると、商標のブランド価値の失墜に繋がります。ブランド価値が損なわれると回復が容易ではないことから、他人が勝手に登録商標を使用していないか監視する必要があるのです。
商標登録をするメリットは以下の3つです。
1.法的効力で利益を守ることができる
2.商標権を売却して利益を得ることができる
3.ライセンス契約で使用料を得ることができる
それぞれを詳しく見ていきましょう。
商標を登録することの最大のメリットは、先述のとおり自らが生み出した商品やサービスを他のものと区別することで、それが生み出す利益を法的効力をもって守ることができる点にあります。
オリジナルの商品やサービスを他社にマネされてしまった場合、もちろん抗議をすることができますが、抗議の根拠がなければそれをストップすることはできません。そこで商標権を持っていれば、他社がマネをしてきた際に法的な手段に訴えるための強い武器になるとともに、他社がマネをしてこないための強い盾にもなるのです。
加えて、商標権は売ることができる権利である、という点も大きなメリットです。
商標権売却の事例で有名なのは「東京ガールズコレクション」です。
「東京ガールズコレクション」の商標は当初、イベント発案者が所有していましたが、2008年にはイベント運営会社に売却されます。その後、紆余曲折を経て2015年6月には「秘密結社鷹の爪(これも商標登録されています)」で有名な映像コンテンツ制作会社である株式会社ディー・エル・イーにおよそ8億円もの金額で売却されています。
もちろん、東京ガールズコレクションの件は初めから売却を目的としていたわけではないでしょうが、商標自体のバリューが上がればそれを取引することで大きな利益を得られる可能性があるというのは、間違いなく商標登録のメリットといえるのでしょう。
商標を登録するときに「通常使用権」を設定すれば、登録した商標を他社に使用させることができるようになります。
この登録商標を他社に使用させる契約を「ライセンス契約」と呼びます。
「ライセンス契約」を行うことで、第三者に商標の使用を許し、その対価として使用料を受け取ることができます。
最近、「ライセンス契約」で利益を得る企業が増えてきています。商品の販売数に応じてロイヤリティが支払われるという契約が一般的で、爆発的なヒットとなれば多額の収益が得られることもあります。
靍田氏
商標登録出願をしていなかったことで、他人に商標登録が取られてしまい、逆に訴えられたり、商標の権利を高額で売るという交渉を持ち込まれたりする実例が存在します。商標登録出願にかかる費用よりもリブランディング等のトラブル対応にかかる費用のほうがよっぽど高くつきます。創業時などであっても商標登録出願の予算を確保し、事業で使用する商標を登録しておくようにしましょう。
「商標権の侵害」とは、他人の登録商標や登録商標と類似した商標を、指定商品・指定役務やそれと類似する商品・サービスに対して使用することです。
他にも商標権の侵害とみなされる行為があり、商標法の第37条で明記されています。
商標権を侵害した場合には、商標法に違反したとみなされ、下記のようなリスクを負う可能性があります。
・逮捕(10年以下の懲役)
・罰金(1,000万円以下の罰金。法人の場合は3億円以下)
・賠償請求
会社のロゴマークなどは登録商標に類似したものがないかチェックしてから制作・使用することをおすすめします。
自らの事業を認知してもらう商標を権利で守ることは、事業を拡大していく上でとても大事です。起業や会社設立を考えている人にこそ、技術やデザインを守る知的財産保護の知識が必要となります。
社名や商品名、技術やデザインが他社のものと類似していないか、それをチェックすることは不可欠です。
特許庁のウェブサイトでは、スタートアップの成長をサポートしていくためのコンテンツが用意されています。知財戦略の基礎知識などを学び、あとになって後悔しない事業運営を行っていきましょう。
万が一、他社(商標権者)から商標権侵害の警告を受けた場合には、まず、その警告の妥当性を確認します。
具体的には、以下のような点を検討しましょう。
他社から警告を受けた場合であっても、侵害に該当しなかったり、反論が可能であったりするケースもあります。
ただし、商標が似ているかどうかの判断(類否判断)や、商標的使用に該当するかなどの判断には、専門的な知識が必要です。
警告を受けた場合には、早急に弁理士や弁護士などの専門家に相談して、初期対応することが重要です。
また、自社が他社の商標権を侵害していた場合には、警告を受けた商標の使用を早急に停止し、別のマークやネーミングに切り替えるなどの対応が必要となります。
商標の使用を継続すると、損害賠償額が増え、自社の損失も拡大する可能性があるため、注意が必要です。
商標はロゴマークや文字だけではなく、音や色彩といったものも登録することができる商標ですが、その最大のメリットは、商標を登録することで、自分が開発した商品やサービスが生み出す利益を法的効力をもって守ることができる、ということです。
もちろん、商標権を売ったり貸し出したりすることもメリットではありますが、まずは自分が得られるはずの利益をきちんと守ることが、安定的な事業運営を図るための重要なファクターの一つといえます。
商標権の登録申請はおよそ10万円のコストがかかりますが、それによって守れる利益はそれ以上ですから、必要に応じて必ず商標登録をしておきましょう。
画像出典元:pixabay、PEXELS、写真AC
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