アベノミクスの一環として鳴り物入りで成立した「産業競争力強化法」ですが、中小企業の経営者にとっては「わが社にどんな関係があるのか」分りにくいところがあります。
これから起業しようとしている人にとっても、話が大きすぎてもう一つピンと来ないかもしれません。
しかし、産業競争力強化法には、中小企業のM&Aや起業を支援する施策がいろいろ盛り込まれています。
この記事では、産業競争力強化法が制定された背景や目的を分かりやすく解説しています。
また、多岐にわたる法律の内容もコンパクトに整理して解説しているので、ぜひ参考にしてください。
このページの目次
2014年に産業競争力強化法が施行された背景には、バブル崩壊(1991年)からリーマンショック(2008年)まで続く長い経済停滞期があります。
バブル崩壊後の長い経済停滞期は、世界的に見ると先進国の経済成長率の鈍化と新興国の追い上げという大きな流れの中にありました。
日本のGDP(国内総生産)は1994年には世界の17.8%を占めてアメリカに次ぐ第2位でしたが、2012年には8.2%にまで下がり、中国に追い越されて第3位になりました。
この18年間に世界経済における日本のプレゼンス(存在感)は2分の1以下になったのです。
産業界は、バブル時代の「金余り」から過剰投資へ走ったことを反省して、ひたすらガードを固める経営に徹するようになりました。
それによって生じたのが「失われた20年」と呼ばれる日本の長い低成長時代です。
委縮した産業界に活を入れるために構想されたのが第二次安倍内閣(2012~2014年)のいわゆるアベノミクスです。
アベノミクスとは「大胆な金融政策」「機動的な財政政策」「投資を喚起する成長戦略」という「三本の矢」で日本経済の再興を計ろうという経済政策で、その第三の矢を実行するために策定されたのが産業競争力強化法です。
平成25年12月4日に「産業競争力強化法」が成立しました。本法律は、アベノミクスの第三の矢である「日本再興戦略」(平成25年6月14日閣議決定)に盛り込まれた施策を確実に実行し、日本経済を再生し、産業競争力を強化することを目的としています
引用元:経済産業省ホームページ
産業競争力強化法は2014年から2018年までの4年間を「集中実施期間」と定めて、さまざまな施策、措置を定めました。
産業競争力強化法の狙いは、次の3つの「過」を是正して産業を活性化することにあります。
投資を怖れて縮こまり、さまざまな規制で身動きが取れなくなり、世界に目をやる余裕がなく目の前の競争にアクセクしているーこんな状況を何とか打開しようというのがこの法律です。
では、この3つの「過」を是正するために産業競争力強化法では何を定めているのでしょうか?
設備投資を税制面などで支援するための次のような措置が定められました。
・生産性向上設備投資促進税制
∟指定期間内に生産性向上設備を導入した場合、特別償却又は税額控除を認める。(平成29年に終了)
・中小企業投資促進税制
∟機械装置などを取得・製作をした場合に、取得価額の30%の特別償却または7%の税額控除が選択できる。(税額控除は、個人事業主、資本金3,000万円以下法人が対象)
・リース手法を活用した先端設備などの投資促進
∟企業に有利な条件を提供するリース業者の損失を補てんするなど。
規制のために新しい事業を自粛している企業を支援するために次のような措置が講じられました。
・グレーゾーン解消制度
∟規制の運用についてあらかじめ行政に照会できる。
・企業実証特例制度
∟法律は変えないが、企業単位で規制をゆるめる特例を認める。
ベンチャー企業を育成するためにM&A(資金移動・事業再編)を支援する制度を設けました。
・資金調達を支援
∟企業に資金を提供するベンチャーファンドに中小企業基盤整備機構の債務保証を与える。
・登録免許税の軽減
∟親会社から経営支援を受けて生産性の向上を図るベンチャー計画を税制面で優遇する。
・損失準備金の積み立て、損金算入を認める
∟事業の切出し、統合(M&A)を行う企業を支援する。
地域における創業を促進する市区町村の取り組みを国がサポートする制度が設けられました。
・信用保証の特例
∟市区町村が金融機関、NPO法人などと連携して支援する事業に、信用保証を与える。
・登録免許税の軽減
∟上記の事業を税制面で優遇する。
・専門家の派遣
∟上記の事業に税理士、弁護士などの専門家を派遣する。
ここまでお読みになって「やっぱり話が大きすぎてよく分らない」と感じた方も多いと思います。実は筆者自身もよく分らないところだらけです。
この法律を作った経済官僚のエリートたちの国を憂える気持ちはよく伝わってくるのですが、「集中実施期間」の4年間にこの仕組みを利用した企業がどれくらいあって、どの程度の成果を上げたのかはよく分りません。
ただ、施行から2018年までの4年間に日本経済が格別に元気を取り戻したとは言えないので、エリート官僚の皆さんは「笛吹けど踊らずか」と落胆しているのかもしれません。
しかし、落ち込んでいるわけにはいかない、ということで作られたのが2018年5月に成立した「改正産業競争力強化法」です。
2014年に施行された産業競争力強化法は、4年間の「集中実施期間」を終えて、2018年(平成30年)に一部が改正になりました。どんな点が改正されたのでしょうか?
経済産業省は、改正の背景と趣旨を次ように説明しています。
IoT、ビッグデータ、AI等の新たな情報技術の社会実装が世界規模で加速している。これを進めつつ、産業の新陳代謝を活性化し、更なる生産性向上を図っていくことが、 我が国産業の競争力強化の鍵となる。
これらを実現するためには、新たな情報技術を活用したビジネスを実施するための規制面での対応、企業間のデータの共有・連携のための環境整備、ベンチャー投資や事業再編 の促進、中小企業の生産性向上の後押しが必要となる。
引用元:経済産業省「法律概要」
※マーカーによる強調は筆者
産業の競争力強化のためには、急速に進むDX(デジタルトランスフォーメーション)に日本の企業が乗り遅れないことが肝要で、この改正法がそれを支援するというのです。
改正産業競争力強化法では、2014年から2017年の集中実施期間の成果や問題点を踏まえて、次のような点が改正されました。
事業競争力強化法はもともと「従来の企業の枠にこだわって国内の過当競争に明け暮れる」という状況を是正するのが主要目的の1つでした。
改正法では、この目的を達成するためにM&Aを後押しする制度をさらに拡充しています。具体的には、産業の活性化に貢献すると認定されたM&Aには次のような優遇措置が設けられました。
これよって、余裕資金がなく、株式の公開買い付けができない非上場企業でもM&Aを行ないやすくなりました。
2014年に成立した産業競争力強化法は、4年間の集中実施期間を経て2018年に改正されました。
改正産業競争力強化法では創業や中小企業のM&Aを支援する施策がさらに拡充されています。
これまであまり身近に感じられなかった法律かもしれませんが、事業再編や創業を検討している人は、市区町村の産業課の窓口などで「法律活用の道」がないか相談してみてはいかがでしょうか。
画像出典元:pixabay
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