突然ですが、「ティール組織」という言葉を聞いたことはありますか?
「ティール組織」とは、日本では2018年頃から注目され始めている「新しい組織形態」のことを言います。
今回は、初めて聞いた方にもわかりやすいように、ティール組織が注目される背景や特徴、さらには従来型の組織形態との違いまで詳しく解説していきます。
このページの目次
まず最初に、「ティール組織」が注目されることとなった背景を整理しておきます。
「ティール組織」という言葉は、2014年にフレデリック・ラルーが著書『Reinventing Organizations』の中で提唱した考え方です。日本でも2018年に発刊されており、発売以来ビジネスマンの間でも大きな話題や反響を呼ぶことになりました。
そもそも「組織」というのは、複数の人々が協働する「場」であり、教育システムや医療ネットワーク、ビジネスでのサプライチェーン等に代表されるように、組織活動を通じて様々な進歩を遂げてきました。
言い換えるならば、みんなで協力することによって、一人では成し得ない偉業を達成してきたと言うことです。
しかし、この本では従来の組織形態のままではいけないと警鐘を鳴らします。
その理由としては、
①組織に属する人々のエゴや合理的主義によって、従業員が情熱や才能、モチベーションを失っていること
②経済性を追及した代償として、地球上の天然資源やエコシステムを犠牲にしていること、等
が挙げられます。
このような背景を前提として、フレデリック・ラルーは「人間のパラダイム(価値観や考え方)」を進化させることで、新しい組織のあり方「ティール組織」を提唱したのです。
これが「ティール組織」が注目されることとなったそもそもの始まりです。
以上を踏まえた上で、ティール組織の意味について見ていきましょう。
ティール組織とはどんな組織のことを意味するのでしょうか?
結論から言えば、「リーダーや管理職がいなくても、組織内のメンバーが目的や使命に向かって自立的に進んでいける組織」のことを言います。
僕らがよく知る一般的な組織では、当たり前のようにリーダー(CEO)が存在しており、各部署ごとに与えられた業務・役割を効率的にこなしていきますよね。
それに対して、ティール組織のもとではリーダー的存在がいない上に、すべての組織メンバーが平等で同等の権限を持っているので、一般的な組織形態ともだいぶ違うことがわかるかと思います。
ティール組織を考える上で大切なこととして、「人間のパラダイム」と「組織形態」の関係性があります。パラダイムというのは、その時代に根付いている考え方や価値観のような概念のことです。
なぜパラダイムと組織形態が大事なのかというと、その時代の人間が持つパラダイムを紐解くことで、「組織のあり方」がわかるようになるからです。
具体的なパラダイムと組織形態はこの後紹介していきますが、例えば戦乱の世を想定してみましょう。このような時代では、「自分の命を守るために、武力行使で他者を抑圧する」「自分に力がないならば、実力者の言う事を聞く」といったようなパラダイムが支配していたはずです。
こういったパラダイムのもとで作られる組織としては、1人または少数の長と、多数の歩兵や奴隷のような、恐怖によって人々を支配するトップダウン型の組織です。
(このようなパラダイムに基づく組織形態を「レッド組織(衝動型組織)」と言います。)
戦乱の世は大げさにしても、内戦が起こっている国で「従業員の働き方を重視した経営をしよう」「合理的な経営を目指そう」と声をあげても相手にされないはずです。
このように、その時代のベースとなっているパラダイムを基礎として、人が協働出来る場としての組織が作られることになるため、「パラダイム」と「組織形態」には密接な関係があると言うことです。
続いて、パラダイムと組織形態の関係について詳しく見ていきます。
パラダイムの進化に伴って、組織のあり方も徐々に変化していくことになります。
具体的には以下図のように「レッド組織」「アンバー組織」「オレンジ組織」「グリーン組織」「ティール組織」といった、5段階で組織形態が変化していきます。
誤解されがちなので予めお伝えしておくと、最終段階にある「ティール組織」が全ての組織形態の中で最も優れていることを意味するわけではありません。
パラダイムごとに適した組織形態があり、状況に応じて適した組織形態があることを理解しておくことが重要です。なぜなら、現代社会においてはすべての企業が(例えば)「オレンジ組織」にあるわけではなく、組織のリーダーが持っているパラダイムに応じて組織が作られているからです。
また、パラダイムシフトや価値観の変容は、「現在直面している課題を、今持っている世界観で解決出来ない」といった時に生まれると言われています。
それでは、各組織形態ごとの特徴を紹介していきます。
レッド組織は、今から約1万年ほど前から存在する組織形態です。
時代背景としては、人々はエゴ(自我)を完全に意識するようになったことから、「恐れ」を感じるようになったと言われています。
このため、力を持つ実力者は恐怖で人々を支配するようになったのがこの時代の特徴です。
そして、トップが集団をまとめるために武力や暴力を行使し、恐怖でメンバーを繋ぎとめていた組織が「レッド(衝動型)組織」です。
レッド組織は「オオカミの群れ」と比喩され、短期的な志向で混乱には強いものの、環境変化には弱い組織とも言われています。
現代社会では無法・違法地帯を除いては存在しない組織ですが、マフィアやギャング、刑務所などが代表的な例となります。
アンバー組織はピラミッド型の階層で、トップダウン方式による統制が厳格になされている組織です。
先ほどのレッド組織のメンバーが「自己中心的」であったのに対し、アンバー組織は「自己民族中心的」とも言われます。
これは、人々が自分だけでなく「他者」を意識するようになったためです。
日本人なら馴染みがある話ですが、秩序や安定を図るために他者の目を気にし始め、その結果として階層的な組織が生まれたと言われています。
そのため、アンバー組織では「社会への帰属意識」が重視され、秩序や組織のルールを乱す者や逸脱する者には厳しい目が向けられます。
アンバー組織は「軍隊」とも比喩され、厳格なルールに基づいた安定を追及し、未来は過去の繰り返しととらえています。代表例としては、軍隊の他にも多くの行政機関、カトリック教会などが挙げられます。
オレンジ組織は成果主義型の目標達成による成長を目指す組織形態のことです。
自分のことは自分で決めるといった価値観が存在していますが、「成功か失敗か」に重きが置かれているのが特徴的です。
そのため、オレンジ組織では目標達成のために「合理的」「効率的」な戦略が取られ、競争に勝つことを重視しているとも言えます。
イノベーションやグローバル企業が生まれるキッカケともなりましたが、同時に地球上の天然資源の枯渇やエコシステムの破壊、組織メンバーを「機械的」にとらえることによる過重労働などの様々な問題が生じています。
まさに今多くの一般企業は、このオレンジ組織に該当するとも言えます。
グリーン組織はボトムアップ型により組織メンバーの主体性を高めた組織形態です。
先ほどのオレンジ組織がメンバーを「機械」としてとらえていたのに対し、グリーン組織ではメンバーを「家族」ととらえる点が特徴と言えます。
そのため、グリーン組織では仕事の成果よりも人間関係や文化を重視する傾向が強く、また分権化と権限移譲を大幅に図っている点もオレンジ組織とは異なると言えます。
グリーン組織では組織メンバーのモチベーションは高まりやすいですが、その反面トップの意思決定に膨大な時間や労力を要してしまうデメリットも存在します。
代表例としては、組織文化を重視している一部の大手海外企業やNPO法人などが挙げられます。
ティール組織はリーダーや管理職がいなくても、組織内のメンバーが目的や使命に向かって自立的に進んでいける組織のことを言います。
「リーダーや管理職がいないのに組織が回るの?」と思われる方も多いでしょうが、その疑問こそがまだパラダイムシフトがまだ起こっておらず、ティール組織に移行するためには時間を要することを意味しています。
(進化型と言われる理由もここにあるかと思います。)
ティール組織の構成メンバーは、全員が組織の目標や使命感を意識していることに加え、大志を抱いているが野心的ではないといった特徴を持っています。
そのために、意思決定も周囲の反応や評判といった「外的な基準」に左右されることなく、組織目標との一致度や誠実さといった「内的な基準」に基づいて判断出来るので、グリーン組織のように意思決定に時間を要することもありません。
このように、ティール組織のメンバーは「ありのままの自分」と「組織での自分」を重ねることが出来るため、組織を一つの「生命体」として比喩されます。
ここからは、ティール組織と従来型組織の相違点を中心に見ていきます。
従来型組織としては、ティール組織以前の組織と考えてもらえれば問題ありませんが、現在の一般企業が属している「オレンジ組織」と比較してもらえるとわかりやすいと思います。
まず、1つ目の相違点は「意思決定者」の違いです。
従来型の組織であれば、トップ(現在ならCEOや上位役職者)が意思決定をしますが、ティール組織では組織メンバーが意思決定をします。
オレンジ組織での考え方が根付いている現状では、なかなか理解しがたい点と思われがちですが、組織メンバーが組織の目標や使命感を理解しているからこそ成し遂げられる境地と言えそうです。
2つ目の相違点は「意思決定の基準」の違いです。
従来型の組織であれば、「正しいかどうか」「利益になるかどうか」といった基準に加えて、周囲の反応や評判といった外的な基準に基づいて意思決定する傾向が強いです。
対して、ティール組織においては、こういった外的な基準はすべて排除され、「組織の使命感や目標と照らしてどうか」「誠実さや自分らしさと照らしてどうか」といった内的な基準に基づいて意思決定する点が大きな違いと言えます。
3つ目の相違点は「組織メンバーの目的」の違いです。
組織メンバーが持っているパラダイムの違いと表現してもいいかもしれません。
3つの相違点の中ではおそらくこれが最も大きな違いでもあり、この違いがあるからこそ、ティール組織のような次世代型の組織が生まれるとも言えます。
オレンジ組織を想定した場合、組織メンバーの目的は何でしょうか?
社長であるCEOであれば、「企業価値や株主価値の最大化」や「従業員満足度の向上」、「製品サービスの品質向上」などが考えられます。
従業員として働く人であれば、「組織内での昇進・活躍」や「スキル・経験値の向上」、もっと本音で言えば「生活していけるだけの給料をもらう場」と考えている人もいるでしょう。
オレンジ組織(ティール組織以外)の場合、このように組織メンバーの目標はバラバラであることが一般的です。「自分の会社はメンバー一丸となって目標に向かって頑張っている」という企業も多いでしょうが、表面上はそうであっても、心から組織の目標に共感し組織のために動ける人はごくわずかでしょう。
この点、ティール組織のメンバーは「自分の目標」と「組織の目標」が一致している点が大きな特徴と言えます。完全に一致とまではいかなくても、「組織での自分」の行動や努力が、「ありのままの自分」の目標に繋がっている状態になっています。
このように、「組織での自分」と「ありのままの自分」を自然に一致させることがティール組織を目指す出発点とも言えそうです。
オレンジ組織では、普段の自分に「仕事用の仮面」を被せることで、「組織での自分」になっている人がほとんどなので、ここにヒントがあるように思えます。
ティール組織について、背景や特徴・従来型の組織との違いを紹介してきたので、ティール組織がもたらすメリットについても紹介しておきたいと思います。
「ティール組織がどんな組織か」が何となくでもイメージが湧いた方であれば、色々なメリットがありそうだなと容易に想像出来るかと思います。
結論から言えば、「現在のオレンジ組織が抱えている問題点を解消出来る可能性が高まる」というのがティール組織がもたらす大きなメリットでしょう。
特に、「低いモチベーションで働いている人」や、「生きがいや情熱を見失っている人」の人生を変えることに繋がる点が、もっとも顕著な影響になるはずです。
なぜなら、先ほども紹介したように、ティール組織では「組織での自分」と「ありのままの自分」がほぼ同じであり、目指している目標も一致しているからです。これによって、自分らしく組織にいながらも、より充実した人生を送ることが可能になります。
現在では、ティール組織への移行が現実味を帯びないと感じる方も多いでしょうが、その分得られるメリットも多いと言えますね。
最後に、ティール組織を実現するための「3つ」の方法を紹介していきます。
これは、著者フレデリック・ラルーがティール組織の事例研究を通じて明らかになったティール型組織の3つの「共通項」でもあります。
全体としてティール型と呼べる組織であれば十分であり、3つすべての要素が必要というわけではない(一部が欠落していても問題ない)と著者は主張しています。
まず一つ目の共通項は、自主経営(セルフ・マネジメント)です。
これは先ほどから触れているように、組織メンバーが特別な指示や統制を受けずとも、自主的に意思決定を行い、経営をしていることを意味します。
オレンジ組織とは異なり、十分な分権化や権限移譲が各メンバーにされていて、しっかり機能しているとも言えます。
続いて二つ目の共通項は、全体性(ホールネス)です。
これは簡単に言ってしまえば、組織がメンバーの個性を重視し、メンバー自身も安心して「自分らしさ」を発揮出来る場所として認識していることを意味します。
ティール組織以前の組織形態では、「組織の自分」と「ありのままの自分」に相違があること、組織で働く際には「仮面」のようなものを被って組織での自分を演じている傾向が強いです。
組織の中で、ありのままの自分を表現することは非常に難しいですが、それを乗り越えることでティール組織に近付くとも考えられますね。
最後三つ目の共通項は「存在目的」です。
これは、組織が存在する理由や使命感を常に確認・認識し続けることが大切という意味です。
ティール組織以前の組織形態では、予め与えられた組織目標を達成することだけに注力し、その目標自体も「年に一度」や「必要に迫られた時」に限って見直すことが一般的です。
(加えて、十分に組織メンバーに伝達・共有されていないこともよく見受けられます。)
この点、ティール組織では組織メンバー全員が組織の存在意義や使命感・目標を考え続け、より柔軟に変化し続けることで成長していくことを目指します。
「そもそもなぜこの組織は存在するのか?」「自分の情熱や時間・労力をこの組織につぎ込むだけの価値があるのか?」といった視点を持つことがポイントになりそうですね。
いかがだったでしょうか?
今回は、新しい組織の形「ティール組織」について紹介してきました。
今の働き方が当たり前になっている私たちにとっては、ティール組織の意義や考え方が今一つわからないのも無理はないかと思います。
ティール組織となるための絶対的な方法はありませんが、企業は時間をかけて「組織としてのあり方」や「使命感」、さらに「組織メンバーとの対話」を見直してみてください。
また、組織の一員として働く人も、時間をかけて「人生の目標」や「自分らしさ」を改めて考えてみてください。
これから先、より良い人生を送るためにも重要な「問い」になるはずです。
画像出典元:Shutterstock
この記事を書いた人
TAK
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