組織の生産性低下を招くセクショナリズムとは?原因と解決策まで解説

組織の生産性低下を招くセクショナリズムとは?原因と解決策まで解説

記事更新日: 2020/06/02

執筆: 編集部

組織の生産率低下を招く、セクショナリズムという言葉を聞いたことはありますか?

組織の中に存在している部門(セクション)ごとが協力をしあうのではなく、他の部門に無関心になったり排他的になったりする状態のことを、セクショナリズムと呼びます。

この状態が発生すると大切な情報が共有されなくなり、部門間の支え合いがなくなっていきます。そして仕事が円滑に進まなくなり、心理的にも在籍する社員の居心地を悪くします。長期的には組織の成長も阻害してしまうのが、セクショナリズムです。

組織に悪影響を及ぼすセクショナリズムですが、それが起きている原因を探り、適切な対処をすることで、組織はより良い方向に生まれ変わることが可能です。

こちらの記事ではビジネスにおけるセクショナリズムについての解説と、その解決方法をご紹介します。

ビジネスにおけるセクショナリズムとは

画像出典:Pixabay

セクショナリズム(英語表記:Sectionalism)とは、ある組織の中の一部が、母体の組織に対して忠実であるがために、所属する組織の他の部門に対して無関心になったり排他的になる状態のことです。

英語でSectionalismというと、多くは国家単位の現象を指します。例えば近年ではイギリス連合王国から、スコットランドが離脱しようとしています。スコットランドには強い結束力があるため、残りの地域に対して排他的になっているという、セクショナリズムの現象でもあります。

ではビジネスにおけるセクショナリズムは、どのような現象が起きるのでしょうか。

セクショナリズムは複雑な問題ですが、大きく分けて2つの傾向に分類することができます。

無関心型セクショナリズム

これは「自分たちが所属する部門のことだけ考えていればよい」という考え方です。自らの部門で起きることに対しては責任を持つものの、他部門から支援を求められた場合にあえて手を貸さない状態です。

例えば常に残業が多い部門があるとします。所属社員も疲弊していて改善の必要があることは、経営側でなくとも少し目を向ければ分かるはずです。

しかし「自分たちは定時で帰宅できているからいい」と考えてしまうと、無関心型のセクショナリズムが広がっていきます。

排他型セクショナリズム

これは、自分たちが所属する部門に悪影響を与える他部門を排除しようとする考え方です。

例えば他部門で何か問題が起きた場合、それを解決する手助けをするのではなく、「あの部門はこちらに迷惑を及ぼす迷惑な存在だ」と考えるようになります。

そして迷惑をかける存在を排除するために、攻撃的な態度を取るようになります。

これは極端な例になりますが、問題が起きた部門を組織から無くしてしまうように経営者に働きかけることもあります。

排他型セクショナリズムの解決例

ここでは、精密機器を製作するメーカーでセクショナリズムが起きている例と、その解決方法を考えてみます。

設定

・社員数250名【本社、工場2カ所、営業所3カ所】

・精密機器を製作・販売するメーカー

・2年前から「不良品ゼロ」を方針に掲げている

 

2年間で起きた社内の変化

・「不良品ゼロ」は当初、社内で好意的に受け入れられた

・経営側は、部門ごとで発生したミスを数字により厳しく管理

・社員は残業が増え、部門間で責任を押し付け合ったりミスを隠すようになった

・「不良品ゼロ」は達成の見込みが立っていない

 

セクショナリズムが発生した原因

この企業は、社員数の多さと、本社以外の生産拠点と営業所が複数あるため、コミュニケーションが取りづらくなり、お互いの仕事が見えづらくなっています。

それから「不良品ゼロ」という厳しい目標も、セクショナリズムを生み出す要因になります。大量生産の過程で不具合や不良品が一定数発生することは想定すべきです。

解決策

大切なことは、不良品が発見されたときに迅速で的確な対応をすることであり、ミスを隠したり責任を押し付け合う風潮は企業全体の利益になりません。

始めに、経営側は「不良品ゼロ」の方針を取りやめました。

これにより社員の心理的な閉塞感が緩和されました。

しかし、「不良品」を減らすことは精密機械メーカーとしてゆずれないポイントです。

企業としてそれを達成するために、「製品の不具合を報告するのではなく、業務全体の改善が上手くいった事案を社内報で共有し、実行する」ことにしました。

他部署でも活かせる成功事例を写真付きの社内報で共有し、技術情報とともに他部門の雰囲気も同時に伝えました。

社内全体で仕事内容を共有することで個々の仕事に責任感が増し、不良品の発生率は下がりました。

セクショナリズムが生み出す弊害

画像出典:Unsplash

セクショナリズムが起きている組織は、それによるさまざまな弊害に直面します。組織の編成により発生する弊害はさまざまですが、こちらで挙げるポイントは組織の規模に関わらず起きる可能性があるものです。

適切な情報交換がなされなくなる

セクショナリズムは他部門との関わりを持たなくなるので、情報交換が適切に行われなくなります。本来なら共有すべき情報を、自分たちの所属する部門の利益を優先するあまりに隠したりします。

それは短期的には大きな影響はありませんが、長期に及ぶと企業全体の一体感や結束力が失われます。同じ組織に所属しているはずなのに、他部門の人を信用できなくなっていきます。

社員の居心地が悪くなる

セクショナリズムは、その中に身を置く社員の居心地を悪くします。

セクショナリズムの特徴として、他部門との関わりが減る一方で、所属する部門の結束力は強まる傾向があります。

すると自分たちの所属する部門の利益を優先するように、同調圧力が発生します。そういった圧力の中では「部門の方針から外れたことをすると、不利益をこうむるかもしれない」といった、不安な気持ちが社員に生まれることもあるでしょう。

こうして居心地が悪くなった職場環境に嫌気がさすと、企業に必要とする能力を持っている社員でも退職をしてしまうでしょう。

企業全体の評価が下がる

セクショナリズムが顕著になってくると、顧客もそれに気付きはじめます。

極端な例ではありますが、例えば顧客が問い合わせの電話をかけたときに「こちらの部門のことではないので対応できません。」と言われたり、部門間の連携が悪いばかりにたらいまわしにされてしまうと、顧客には不親切な企業だと思われてしまいます。

そうなると顧客満足度が低下して、企業全体の評価が下がっていく可能性があります。

生産性が下がる

部門間が適切に関わり合い、お互いに高め合っている企業は、より良いものを生み出す可能性があります。どのタイプの組織であっても、部門間で助け合うことで業務の効率が上がり、生産性が向上します。

一方でセクショナリズムが強く起きている企業は、部門間で協力しないため生産性が下がります。するといくら経営側が成長目標を掲げても、達成できる可能性が下がってしまいます。

セクショナリズムが起きる原因とは?

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セクショナリズムが起きる原因は、その企業が持つ背景によりさまざまです。

ここでは一例を紹介します。

部門の異動が少ない

最近は「部門内のスペシャリストを育てる」という方針の下で、他部門への異動を少なくする企業が増えています。それは社員個人や部門の専門性を高める上では非常に有効ですが、セクショナリズムを生み出す原因にもなります。

他の様子を知らないままキャリアを積んでいくと、他部門で起きる問題を想像しにくくなります。本来ならば協力し合えば早期解決ができるはずの問題も、他部門が行う業務に関心が無ければ「面倒なことには関わり合いたくない」という気持ちが強くなってしまいます。

成果主義的な人事評価

企業は社員に成果を求めます。例えば営業職が得る直接的な利益だけでなく、事務職にも「ミスを減らす」という社内貢献を求めます。他の専門性がある部門にも、それぞれの指針で成果を求めるでしょう。

これは企業が健全な経営をする上で必要なことですが、成果主義が強まりすぎると保守的になってしまう場合があります。

例えば「自分たちの所属する部門だけが成果を上げれば、社内での評価が上がる」と考え、他部門に利益のある情報を回さなくなります。

そういう環境に身を置くと、各自が身を守るためにセクショナリズムが生まれてしまいます。

 

社内コミュニケーションの不足

大企業に限らず、社員間のコミュニケーションが不足すると「知らない人」が企業内に増えていきます。社員同士は本来なら同じ組織に所属する仲間であるはずです。

しかし顔を合わせる機会の不足や、他部門の業務内容を知らないまま働くと、自らの所属する部門以外の人のことに興味がなくなっていきます。そして結果的に仲間意識が薄れてしまいます。

そのような中で仕事をすると、部門間での助け合いが自然に生まれる可能性は下がります。成果主義が頭をよぎり、「知らない人」に手を貸すことで自分の成果が思ったように出せなくなる可能性を考えてしまうからです。

セクショナリズムを解決する方法は?

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上記で述べたように、セクショナリズムは組織に悪影響を及ぼすものです。企業が長く発展していくためにも、セクショナリズムを未然に防いだり、解決していくことは非常に重要です。

セクショナリズムを解決するにはどのような方法が有効でしょうか?

社員の意識改革

セクショナリズムの解決は、まず経営者が社員の意識改革をするところから着手します。

まずは経営者が持つ理想のイメージを社員と共有し、それに向かって改善を行うのだということを適切に伝えましょう。

大きな行動を起こす前に全体でイメージを共有することで、経営者が働きかけをしたときに、社員にその意図が伝わりやすくなります。

イメージを共有した後は、実際に社員の意識を変える手助けをするアクションを起こしましょう。社員の意識を変えるために有効な手段は、業務を行う上で部門をまたいだ人材交流、社内に利用しやすい休憩施設を作る、社内のサークル活動を紹介する、などが挙げられます。

ここで気を付けるべき点は、どの世代の社員にもコミュニケーションを取ることを強要しないことです。

「これに参加しないと評価が下がるかもしれない」と不安になりながらしぶしぶ参加するようでは、セクショナリズムの延長になってしまいます。

通常業務に支障をきたさないように配慮し、就業時間内に自然にコミュニケーションが増える方法を模索しましょう。

組織体系の見直し

思い切った手段が取れる場合は、組織体系の見直しや人事異動も効果的です。部門を改組したり人員を入れ替えることで、自然と社員に交流が生まれます。

もし組織体系の見直しが難しい場合は、研修という形を取って他部門に一定期間、籍を置いてみることも良いでしょう。長期間が難しい場合は、1日を他部門で過ごすだけでも感じられることはたくさんあります。

また、部署間の交流を活発にするための手段として、ジョブローテーション導入という選択肢もあります。

ジョブローテーションによって定期的に社員に職務・職場の変更を行うことが、セクショナリズムの解消に寄与するのです。

 

オフィス環境の見直し

就業時間の大半を過ごす場所であるオフィス環境は、コミュニケーションに密接に関わっています。

例えば業務上で必要な会話がしやすいように机の配置を変えたり、多くの部門が気軽に利用できる休憩室を設けるなどの交流の場を設けることで、自然にコミュニケーションが生まれます。

人事評価方法の見直し

セクショナリズムに陥る背景には、自分たちの評価を上げて、組織の中での立場を守りたいという心理があります。

企業が成長していく上で競い合い高め合うことは大切ですが、それだけを評価するのではなく、社員全体が助け合って会社全体の利益を考えられる視野の広さを持てるように変えていきましょう。

上記の内容を実現するために効果的な方法は、人事評価の方法を見直して社員に周知することです。例えばマーケティングの手段としてKPIを導入していたり、製造業でOEEを導入している場合は、その運用方法を見直すことも必要です。

短期間のゴールを定め、そこに向かっていくOKRを併用するなどして、さまざまな観点から組織の成長を確認していきましょう。

しかし評価方法を見直して、社員に正しく認知させることは容易なことではありません。

まずは部門長や役職に就いている社員を対象に研修をするなどして、時間をかけて意識改革をしていきましょう。

セクショナリズムの事例

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セクショナリズムの解決に取り組んだ企業の例として、アメリカのマイクロソフト社が挙げられます。

マイクロソフト社は企業内官僚制と部門間の派閥争いがとても強い企業としても有名でした。それの弊害が現われている例として、2010年に発売したスマートフォン用のOSが、2012年に刷新された際、旧OSユーザーがアップデートできずに取り残されるという問題が起きています。

そのマイクロソフト社が、2013年に大幅な組織改編を行いました。

この改革で例外なくすべての部門を組み替え、将来を見据えて市場を占めるであろう分野を強化しました。

マイクロソフト社の歴史の中で初めての大改革を行うことになった背景として、2010年にアップル社に業績を抜かれたことが挙げられます。この当時、アップル社はiPhoneの売上で業績が飛躍的に伸びていました。

マイクロソフト社のCEOは「われわれは事業部の寄せ集めではなく、ひとつの会社として動くべきだ」と社内に向けて発信したとされます。

2013年に行った組織改編は功を奏し、2019年にはアップル社、アマゾン社に次ぐ、米国企業の中で第3位の位置を確立しました。

まとめ

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セクショナリズムを解決するために一番重要なことは、「セクショナリズムが起きていることに気付くこと」です。一般的に、所属する組織を客観的に評価することはとても難しいものです。そこで違和感を持った時点でまずは現状を正確に把握し、解決の糸口を探し出してください。

そこから企業の風土や歴史を損なわずに、皆で取り組める方法を探すことが大切です。

セクショナリズムの解決は長期戦です。焦る気持ちを抑えて、その後に感じられる組織全体の成長を想像しながら、ゆっくりと変化を起こしていきましょう。

画像出典元:○○、○○

 

 

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