中小企業にも2020年から残業時間の上限規制が適用されて、経営者はもちろん社員もその対応を迫られています。
しかし、規制ができたから残業を禁止するというだけでは、持ち帰りのサービス残業が増えるだけという逆効果に終わる危険もあります。
この記事では、残業規制ができた背景やその意味、実効性のある残業時間削減の対策について分りやすく解説しています。
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そもそも残業するのは悪いことなのでしょうか?今なぜ残業削減が叫ばれているのでしょうか?
2018年に成立した「働き方改革関連法」で、時間外労働に上限規制が設けられました。この規制は、大企業では2019年4月から、中小企業では2020年4月から施行されています。
それによって、残業は原則として月45時間、年360時間までに規制され、特別な事情があっても月100時間、年720時間を超えると事業主に罰則が適用されるようになりました。
1ヶ月45時間を超える残業が当りまえの会社はざらにあったので、この規制は経営者にも従業員にも大きな課題を突きつけることになりました。
日本では、公務員の週休2日制が導入されたのが1992年(平成4年)でした。バブルが崩壊した翌年のことです。
「東洋の奇跡」といわれた1950年から70年の高度成長期はもちろん、70年代の2度のオイルショックから立ち直った80年代のバブル景気でも、会社員は「企業戦士」と呼ばれ、家庭をかえりみずに会社のために働くのがエリートサラリーマンでした。
企業戦士にとって残業は当りまえとはいえ「働きすぎ」は当時から社会問題でした。
しかし、バブルが崩壊して長い低成長時代に入った平成の終わりに、なぜ残業問題がクローズアップされたのでしょうか?
残業問題がクローズアップされた背景には、長引く不況の中で「残業はさせるが残業代は支払わない」というサービス残業が横行したことがあります。
一部の労働者にしわ寄せされた過重労働による過労死や自殺、うつ病の発症などが多発したことも社会問題になりました。
また、政府が「働き方改革」で残業削減に力を入れているのは、アベノミクスの「経済再生プラン」の柱である「生産性の向上・国際競争力の強化」を実現するためには「残業に頼る働き方を改革しなければいけない」という認識があるからです。
社員にとって労働は美徳であるだけでなく、残業は「お得」でもありました。
「今月は60時間も残業した」というのは、必ずしも「しんどかった」という会社への不満ではなく、バッチリ稼いだという満足の声でした。
ある程度の残業代を収入に見込んでいた会社員は少なくありません。この度の残業規制によって、そういう働き方、生活設計も見直しを迫られることになります。
意図的にサービス残業をさせるブラック企業は論外としても、労使ともに残業を減らそうと考えてもなかなか減らすことができないのはなぜなのでしょうか?
毎日のように残業をしていると、終業時間が1日のゴールではなく単なる通過点に思えてきます。ラストスパートをかけるわけでもなく、だらだらと残業に入っていくのです。
「早く家に帰っても仕方がない」という独身者もいるし、「早く帰りたくない」という妻子持ちもいます。
仕事中心の生活といえば聞こえは良いのですが、仕事しかすることがないのかもしれません。
そういうメリハリのない働き方が自然と「だらだら残業」を生んでいる面があることは否定できません。
課長や部長自身がだらだら残業組なら、部下も当然それに見習うことになります。
上司より先に帰りにくいという空気も生まれます。
また、上司に定時意識があったとしても、仕事の与え方や割振りのマネジメントが下手ならおのずと残業が増えてしまいます。
サービス残業は論外と言いましたが、労働基準法の抜け道を利用する悪質な経営者の手口にも触れておく必要があるでしょう。
その手口とは、次のようなものです。
外回りの営業職では、実労働時間を会社が把握できないので、直行直帰の場合でも8時間労働したとみなします。
残業時間を1時間プラスして9時間をみなし労働時間として、1時間分の残業代を支払うのがいわゆる「みなし残業制」です。
これを悪用してサボる社員もいますが、9時間では到底終わらない得意先リストを渡してみなし労働時間を9時間とすると、サービス残業を強いることになります。
経営者の一員と見なされる権限を持ち、それにふさわしい待遇を受けている「管理監督者」には残業代は支払われません。
それを悪用して、名ばかりの「店長」や「部長」にしてサービス残業をさせるケースがあります。
管理職も社員もだらだら残業を容認していると、いつまでたっても仕事の効率化が進まず、生産性が上がらないことになります。
残業をするとたくさん仕事をした気になる、という勘違いも減りません。
生活と仕事を調和させ、それによって生活にも仕事にも良い影響をおよぼす(相乗効果が生まれる)のが、理想的なワークライフバランスです。
核家族家庭で、産後の妻に育児を任せきりにして残業ばかりしていると、妻が産後うつになって家庭生活に重大な影響をおよぼすかもしれません。
少子化社会、高齢化社会、男女均等社会では、仕事が特定の世代や性に偏らないワークシェアも必要です。
人口減少によって国内マーケットが徐々に縮小することが運命づけられている現在、残業に頼るような非効率的な働き方では、生活の質は向上せず、経済の国際的な競争力が高まることも望めないのです。
サービス残業や過重労働があると世間に批判されると企業の評価が下がり、顧客が離れて、経営が立ち行かなくなることもあります。
優秀な社員をリクルートするのも難しくなります。
残業を減らすには、残業する癖をなくす工夫と、仕事を効率化する工夫の両面作戦が必要です。そのためには次のような取組みが有効です。
ノー残業デーとは、例えば毎週水曜日は残業禁止・定時退社と無条件に決めてしまうことです。
それによって、残業の癖をなくし、残業しなくてもすむ計画的な仕事の進め方をする習慣をつけるのが狙いです。
仕事が定時に片付かなかったから残業するという「だらだら残業」を認めず、上司に決められた書式で残業を申請する方法です。
例えば「午後3時までに、簡単な理由を添えて申請が必要」となれば、面倒だから定時で片づけてしまおうという気にもなり、業務の効率化に貢献することが期待できます。
また、その記録があれば、どの部署でどんな残業が多いかも分り、業務効率化を考える参考になります。
残業削減で実績を上げた管理職を評価する人事制度があれば、管理職のマネジメント意識が変わり、業務を効率化できる可能性があります。
特定の人しかできない仕事があると、その人に業務が集中して残業につながります。
職場で必要とする技術・能力を教育する、資格・免許の取得を支援するなどでマルチな能力を持つ社員を増やすことが、残業の削減につながります。
残業は禁止するが仕事の量は変わらないとなると、持ち帰り残業(=サービス残業)が増えることになります。
残業削減は、残業しなくてすむ仕事の仕組みづくりと並行して行なうことが重要です。
各企業がどのような方策で残業時間の短縮に取り組んでいるかを、厚生労働省の時間外労働削減の好事例からご紹介します。
各自が今の業務上の課題を抽出して「何を変えたらもっと仕事が早く進められるか」を考えて目標を設定します。
目標の進捗状況については、1か月に1回レポートを作成し、上司に提出。半年後に結果を確認するだけでなく、月1回の進捗報告によって実効性を確保しています。
特定の従業員に業務が集中することで残業が発生しないようにするため、担当業務をローテーションして、各従業員が様々な業務に携われるように訓練しています。
業務ローテーションを行った結果、現状の自分の担当業務以外でも業務のサポートができるようになり、業務量の平均化につながっています。
業務ローテーションによって従業員間のコミュニケーションが活発になり、チームワークが良くなったことが業務効率化につながっています。
パート・アルバイトから、業務改善のための提案を受け付けています。
改善提案を受けた場合には、まず提案のあった店舗で実践し、有効であると確認できたら本部に報告する仕組みになっています。
最終的に会社全体で採用されて、業務マニュアルに組入れられる場合もあります。
パート・アルバイトによる改善提案は、業務が効率化されて残業削減につながるだけでなく、その改善提案が採用されることでパート・アルバイトのモチベーションが向上する効果もあります。
残業時間を削減するには、経営者も管理職も労働者も「なぜ減らすのか」という意味をよく理解して、協力して改善に当たらなければなりません。
形だけ残業時間を減らしても業務効率化には寄与せず、サービス残業を増やしただけという結果に終わる危険性があります。
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