従業員に健康になってもらうことで労働生産性などを上げ、企業全体としての業績向上や株価向上につなげるという「健康経営」が話題となっています。
今回は「健康経営」とは何か、また健康経営が日本で広まってきた経緯と、健康経営が企業にもたらすリターンについて解説していきます。
このページの目次
「健康経営」とは、従業員の健康管理や健康増進を企業の経営課題として捉えて、それらを実践あるいは改善を図ることにより、企業としての生産性を向上させる経営手法を意味します。
ひらたく言うと、従業員に健康になってもらうことで労働生産性などを上げ、企業全体としての業績向上や株価向上につなげようという取り組みのことです。
このような傾向はかなり最近みられるようになってきた動きです。
もちろん、1972年に制定された労働安全衛生法による健康診断の実施など、企業としても従業員の健康管理に必要最低限の範囲で関与してきましたが、あくまで健康管理は個人の責任として捉える考え方が当たり前だったのです。
しかし近年、企業を取り巻く社会的環境が大きく変化してきたことより、企業が従業員の健康を管理あるいは増進「せざるを得ない」状況へと変わってきました。
そのため、従来の必要最低限の取り組みにプラスアルファする形で、従業員の健康管理・健康増進のための様々な取り組みを始める企業が出てきたのです。
「健康経営」の概念が初めて用いられたのは1992年、アメリカの心理学者ロバート・H. ローゼンが著した書籍「The Healthy Company」においてでした。
当時のアメリカには公的な医療保険制度が整っていなかった(2014年より「患者保護並びに医療費負担適正化法」、通称「オバマケア」がスタート)ために、従業員の医療費負担が企業にとっての経営上の大きな課題となっていました。
そこで登場したのが「健康経営」です。従業員の健康管理に企業がお金をかけることで間接的に業績の向上を図るという「健康経営」の考え方は、実証研究でもその効果が裏付けされており、一説には「1」の投資に対して「3」のリターンがあるともされています。
アメリカで生まれた「健康経営」の概念は2000年代終盤から日本でも広まっていきます。
日本の場合はアメリカとは違い国民皆保険の仕組みが整っている一方で、長引くデフレによる企業の人的コストの削減により、「ワンオペ」という言葉に代表されるように、従業員一人一人にかかる負荷が大きくなり過ぎている状況にあります。
労働環境の悪化は従業員個人の問題に留まりません。
労働環境に起因する自殺や労働災害は企業にとっても経営上の大きなリスクです。
さらに、従業員人口がますます縮小していき、企業は従業員から選ばれる側になりつつある中で、労働環境の改善及びその手段としての「健康経営」は企業にとっての優先課題となっています。
また、日本はアメリカと違い国民皆保険の仕組みが整ってはいますが、少子高齢化による医療費負担の増加が顕著であるために、企業だけではなく国の財布にもダメージを与えています。
その点においては「健康経営」が生まれたアメリカよりも、日本は国として本腰を入れて「健康経営」に取り組まなければいけない状況にあるといえるでしょう。
「健康経営」は効果が目に見えづらいとされていますが、実際には「健康経営」への投資は3倍のリターンをもたらすとされています。
企業が享受できるリターンとしては具体的に以下のような効果が挙げられます。
・生産性の向上
・モチベーションの向上
・リクルート効果
・イメージアップ
最も重要な効果は、従業員の生産性向上でしょう。
従業員の健康状態が改善することで欠勤率が低下し、仕事に対する集中力も向上することで、従業員個人の生産性は向上します。
さらに、健康状態の改善により仕事に対するコミットメントが深くなることで、従業員自身のモチベーションも向上していき、それも企業にプラスの効果をもたらします。
「健康経営」への投資は企業のイメージアップにも効果がある点も重要です。
特に、先述のとおり従業員人口の縮小により「選ばれる側」に立ち回りつつある企業にとっては、従業員の健康に積極的に配慮する姿勢はリクルート効果に作用する必要不可欠なアピール材料といえるでしょう。
なお、日本では経済産業省が「健康経営」に係る各種顕彰制度として、平成26年度から「健康経営銘柄」の選定を行っており、さらに平成28年度には「健康経営優良法人認定制度」も創設しています。
これらの選定あるいは認定を受けることも対外的には大きなアピールになるといえます。
「健康経営」として企業が行うことができる取り組みとしては、以下のようなものが挙げられます。
・ノー残業デーや休暇制度の創設などによる労働時間の改善
・スポーツサークルの創設やスポーツイベントの開催などによる運動機会の提供
・専門家による健康相談や健康に関するセミナーの開催などによる健康意識の改善
「健康経営」のための取り組みに際して重要なことは、まずは自社の従業員の健康に対する意識や健康状態などを把握して問題点をあぶり出すことです。
そして、それらを解決することをターゲットとして具体的な取り組みを模索するとともに、実際に問題点が解決されたかどうかを判別するための目標指標を設定することも重要です。
また、これらの取り組みはワークライフバランス是正という観点から、「働き方改革」のための取り組みとも合致してきます。いずれにしろ従業員の視点に立った取り組みが大切だといえるでしょう。
食生活の面から従業員の健康をサポートすることも忘れてはなりません。
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「健康経営」は多くの企業が取り組むべき経営戦略といえますが、特に「健康経営」に取り組むべき企業の特徴として、以下のような事項が挙げられます。
経営者が従業員それぞれの健康診断の結果を知ることはできません。
しかし、ストレスチェックの集計結果や欠勤率・長期休業者数などの数字を見れば、従業員全体の健康状態をある程度把握することは可能ですから、まずはそれらの数字をしっかり分析することが重要でしょう。
そこから先の従業員個々の健康状態については、ヒアリングをしたり日常的にパフォーマンスを観察したりなどの細かな対応が必要となります。
「健康経営」は多くの企業にとって解決に取り組むべき経営課題であり、かつ業績向上の効果をもたらす経営戦略でもあります。
ただし、ただ取り組めば良いというものではありません。まずは従業員の健康状態を把握し解決すべき課題を見つけることから始まり、目標を設定した上で具体的な取り組みを実行に移すという流れが重要です。
なにより大事なことは「自分の会社はきっと大丈夫」などの先入観を持たないことです。
今後、労働人口が縮小していく中で「健康経営」はアピールポイントではなく必須要素となっていきますから、今のうちからしっかりと取り組んでいくようにしましょう。
画像出典元:pixabay、pexels、O-DAN
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