契約書を作成する際は、条文の末尾に「後文(こうぶん)」を記載します。
後文があると、その契約の目的が明確になると同時に、契約関係の整合性と信頼性が担保されるので、将来的なトラブルが回避しやすくなります。
ただし、後文は、電子契約と書面契約で文言が異なるため注意が必要です。
本記事では、契約書の後文についての概要と、電子契約と書面契約における後文の相違点を解説し、それぞれの例文を紹介します。
このページの目次
「後文(こうぶん)」とは、契約書の末尾に記される以下のような文章を指します。
本契約の成立を証するため、本契約書を2通作成し、甲乙各自記名押印の上、各1通を保有する。
〇年〇月〇日
甲 住所 氏名
乙 住所 氏名
後文の表記に法的なルールは存在しませんが、契約書の作成目的や作成通数、契約締結日などを記載するのが一般的です。
構成要素の詳細については、次章で解説します。
後文を記載することで、契約関係の整合性を確保し、信頼性を高めることができます。
契約を締結したからといって、想定通りにビジネスが進むとは限りません。
不測の事態で意見が対立し、責任の所在が争われるケースも考えられます。
その場合に後文があると、契約当事者が合意に達した事実を証明できるため、トラブルの回避につながります。
契約書の後文は、以下の5つの要素で構成されます。
後文の冒頭にある「本契約の成立を証するため」の部分です。
契約内容について契約当事者が納得のうえ合意した事実を明確にし、将来的なトラブルを回避するために作成したことを明示しているのです。
契約当事者の数だけ作るのが一般的ですが、中にはコスト削減のため、1人が原本を保有し、他はコピーのみという例もあります。
この場合は、どの当事者が、原本とコピーをそれぞれ保有するかを明記する必要があります。
作成者とは契約当事者のことです。
これを明記することにより、当事者に契約の意志があることを証明できます。
また、作成通数に応じて誰が保有するかも明らかにします。
書面契約書の場合は「記名押印」か「署名捺印」になります。
当事者が法人なら「記名押印」、個人なら「署名捺印」の方式がよく用いられます。
後文の最後に、契約を結んだ日付を記載します。
契約書が作成された日を記載するケースもあります。
西暦・和暦は、契約書内で表記が統一できていれば、どちらを記載しても構いません。
電子契約に書面契約の後文をそのまま使用することはできません。
電子契約に適さない文言や表現は、修正する必要があります。
電子契約書の場合は、書面契約書のように作成通数の記載は不要です。
電子契約はデータとして存在し、クラウドや電子署名システムを通じて当事者が管理・保管するためです。
冒頭の例でいうと「本契約書を2通作成し」という表現ではなく、「本契約の電磁的記録を作成し」とします。
「記名押印」や「署名捺印」という表現も電子契約には適しません。
電子契約では、書面契約書の記名や押印の代わりに、電子文書の作成者を証明し、改ざんの有無を確認できる電子署名を利用するためです。
したがって、「電子署名を施し」や「電子署名を措置し」という表現が望ましいです。
電子契約では電子署名をした際に、日付および時刻が秒単位でタイムスタンプとして記録されます。
その情報は当事者間で共有され、客観的に証明できるため、契約締結日は記載しなくてもよいという考え方があるのです。
ただし、タイムスタンプは電子署名を行った時間を示すものであって、両者が合意に至った契約締結日とは異なる場合があります。
こうしたケースでは、日付を記載した方がより信頼性が高まるとの見方もあります。
この点は、当事者間で協議して決定するのが望ましいでしょう。
ここからは、電子契約における後文の例文をパターン別に紹介します。
電子契約書は、電子契約サービスを利用して締結するのが一般的です。
その際は、当事者間で同じ電子契約サービスを利用していると、よりスムーズに契約を締結できます。
この場合における後文の例文は以下の通りです。
本契約の成立を証するため、本契約の電磁的記録を作成し、甲と乙が合意の後、電子署名を施し、各自その電磁的記録を保管する。
本契約において、本電磁的記録を原本とし、本電磁的記録を印刷したものは写しとする。
〇年〇月〇日
甲の住所・法人名・氏名・メールアドレス
乙の住所・法人名・氏名・メールアドレス
なお後文に、利用する電子契約サービス名を記載しておくとより丁寧です。
次に、当事者間で別々の電子契約サービスを利用する場合の例文を紹介します。
このケースでは、双方が利用する電子契約サービスの名称を明記することが大切です。
本契約の成立を証するため、本契約の電磁的記録を作成し、甲と乙が合意の後、『甲の電子契約サービス名』および『乙の電子契約サービス名』上にて電子署名を施し、各自その電磁的記録を保管する。
本契約において、本電磁的記録を原本とし、本電磁的記録を印刷したものは写しとする。
〇年〇月〇日
甲の住所・法人名・氏名・メールアドレス
乙の住所・法人名・氏名・メールアドレス
一方が電子契約を希望しても、他方が書面契約を望むケースがあります。
その際は、以下のように後文を作成します。
本契約の成立を証するため、本契約を書面および電磁的記録として作成し、甲と乙が合意の後記名押印および電子署名を施し、 甲は書面を、 乙は電磁的記録をそれぞれ保管する。
〇年〇月〇日
甲の住所・法人名・氏名
乙の住所・法人名・氏名・メールアドレス
紙から電子契約へ移行する際は、いくつかの準備が必要です。
電子契約をスムーズに遂行できるように、あらかじめ社内で体制を整えておきましょう。
電子契約へ移行する際は、取引先ごとに理解を得ておく必要があります。
会社によっては、書面契約にこだわるケースがあるため、以下のポイントを伝えて電子契約のメリットを理解してもらいましょう。
電子契約は、書面契約と業務フローがまったく異なるため変更が必要です。
まず、必要な予算を確保して電子契約サービスを選定します。
次に、運用ルールを作成・マニュアル化し、電子署名管理規程を整備して電子署名の定義や適用範囲、管理責任者などを明確に定めます。
さらに、運用ルールを社内の関係者に周知・共有し、移行計画を立てた上で、担当者への研修も実施します。
前述のとおり、電子契約と書面契約では、後文の文言が異なります。
契約書を締結する機会が多い場合は、ひな形を電子契約式に変更しておくと便利です。
法人税法施行規則59条により、契約書は7年間の保管義務があります。
情報漏洩を回避するためにセキュリティが担保できるサーバーで保管するようにしましょう。
電子契約は、利便性が高く、コスト削減にも寄与するため導入する企業が増えています。
ただし、電子契約と従来の書面契約では後文の文言が異なるため注意が必要です。
導入にあたっては取引先の理解を得たり、後文のひな形を変更したり、自社にあった電子契約サービスを選定したりといった準備が欠かせません。
電子契約への移行を検討している方は、ぜひこの記事を参考にしてみてください。
画像出典元:photoAC、Pixabay
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