近年、電子契約を導入または検討する自治体が増えてきています。
そこにはれっきとした理由があるのをご存知でしょうか。
もちろん大きなメリットがあるからに他なりませんが、導入にあたっては注意すべき点もあります。
本記事では、そんな自治体の電子契約について、導入が進む理由やメリット、注意点、さらに導入事例とおすすめの電子契約システムについて解説します。
このページの目次
まず電子契約の導入が自治体で進んでいる理由について解説しましょう。
具体的には、以下の4点が考えられます。
電子契約が自治体で進むのは、デジタル技術を活用し、自治体が担う業務の簡略化と効率化を目指す「スマート自治体」が、国をあげて推進されているからといえます。
スマート自治体が目指す姿は、具体的に以下の通りです。
参考:スマート自治体研究会(※)報告書 ~「Society 5.0時代の地方」を実現するスマート自治体への転換~ 概要
この一環として電子契約が実現すれば、スマート自治化が大幅に進むのは火を見るよりも明らかです。
2021年1月に地方自治法の同施行規則が改正されたことも、自治体による電子契約導入を大きく後押ししました。
改正前は、認定認証事業者などが発行する電子証明書の取得と、書類の非改ざん性となりすましを防止できるセキュリティの担保が必須でした。
つまり「当事者署名」が義務付けられていたのです。
当事者署名とは、認証能力が高いものの、契約を交わす当事者が同じシステムを使って電子証明書を取得・署名しなければならず、手間とコストがかかるため、二の足を踏む自治体が少なくありませんでした。
ところが改正後は、「事業者(立会人)署名型」が許可されました。
これはクラウド型署名といって、電子契約システムが立会人となることが認められ、電子証明書の取得義務が解除されたのです。
これによって、電子契約のプロセスが大幅に簡略化されたため、電子契約に踏み切る自治体が急増したというわけです。
契約書は種類によって、電子化できるものとできないものがあります。
しかし、とくに以下のように自治体にとって頻度が高い契約形態が電子契約できるようになったことも、導入事例を増やす決定的な理由になっています。
総務省の統計によると平成7年には3,234あった市町村数が、平成26年には1,718(北方領土を除く)にまで激減しています。
その主な理由は財政難と人口減少による吸収・合併です。
しかも「日本の地域別将来推計人口推計」では、2040年までに、さらに896の自治体が消滅する可能性があると推計されています。
この現状を踏まえ、多くの自治体が抱える財政の危機的状況を改善するためには、電子契約導入をはじめとするDXの推進による大幅なコスト削減が求められているのです。
続いて、自治体が電子契約を導入するメリットについてさらに掘り下げていきましょう。
具体的には、以下の3点になります。
電子契約では、多くの契約内容がデフォルト化されているので、契約書の作成や加筆・修正時間が紙に比べて大幅に短縮できます。
また、従来は契約内容の承認に、複数の機関や部署に書類を回す必要があり、そのすべてで署名、押印を経なければなりませんでした。
その点、脱ハンコやオンラインを活用した契約内容の承認作業の短縮化によって、契約プロセスを著しく効率化できるようになります。
自治体における契約書類の数量は膨大です。
それぞれに保管義務期間が定められているため、紙の契約書の場合は、大規模な保管スペースも確保しなければなりません。
特定の契約書類を探すのにも、大変な時間と労力を要する場合があります。
しかし電子契約になれば、電子データで管理できるので保管スペースも必要なくなるでしょう。
デバイス上で検索や閲覧もできるので、いちいち探す手間が省け業務効率化も実現します。
電子契約になれば、印紙が必要なくなりますし、書類の郵送も不要です。
よって電子契約を導入すると、印紙代、郵送費、印刷代、保管スペース代といったコストを大幅に削減できます。
実際に自治体が電子契約を導入する場合に、どのような点に注意すべきかについて解説しましょう。
電子契約を導入すると、それまでとはワークフローが大きく変化します。
よって、以下のような作業を適切に行う必要があるでしょう。
とくに電子契約システムは、機能や予算、規模感など諸条件に見合ったものを選択する必要があります。
またシステムの操作自体は、さほど難解ではありませんが、一部から導入への反対意見があるかもしれません。
その対策も、あらかじめ講じておく必要があるでしょう。
電子契約は取引先の理解がなければ成立しません。
そのためには、メリットだけではなくデメリットも正直に伝えて、リスクへの対処法についてもきちんと説明しましょう。
取引先も人材教育や予算の確保、さらに導入までには一定の期間を要するはずですので、相手のペースを尊重して導入にまでこぎつけることが大切です。
現行法では、電子契約できない契約があるので注意が必要です。
具体的には以下のようなものがあります。
上記の契約は、公証人を立会人とする公正証書の作成が義務化されているため、デジタルではなく紙の契約書でなければなりません。
◾️電子契約に関する注意点やメリットなど詳しくはこちらの記事をご覧ください。
ここからは、実際に電子契約を導入した自治体の事例を具体的に紹介しましょう。
それぞれに明らかな成果が出ているので、ぜひ参考にしてください。
もともとスマート自治体への転換に積極的だった志布志市は、2022年10月から庁内の一部で電子契約を導入。
翌年7月には、庁内全体で本格導入を果たし、約半年強の間に対象案件の約9割の契約を電子契約に切り替えることに成功しました。
導入直後は戸惑いの声も聞こえましたが、一件一件丁寧な説明を繰り返すことで確実に理解が進んだようです。
そして、来庁せずに契約がすむ利便性が、多くの事業者に大変喜ばれる結果となりました。
紙の契約の場合、印紙代や郵送代を含め1件あたり200〜数千円、ことによっては1万円超というケースもあったため、大幅なコストカットに成功しました。
参考元:「スマート自治体」を目指す志布志市、電子契約「クラウドサイン」で電子化率9割を達成 クラウドサインの適法性と丁寧な導入支援を評価
業務のデジタル化に大変積極的だった茨城県は、全都道府県の中でもっとも早くに立会人型電子契約の導入に成功しました。
2020年10月に事業者(立会人)署名型が可能となる法改正を、内閣府の規制改革推進室に要望。
翌1月に法改正が実施されると、同年5月末、いの一番に電子契約の導入を果たしました。
最初は、職員にもかなりの戸惑いがあったようですが、まず全体の2割に強い理解を促して、そこから自然に広がるという流れを目指し、見事に奏功します。
導入後2022年3月末までに、電子契約で対応する旨の公告を行った約1,700件のうち約1,200件を電子契約にできました。
印紙税と郵送代、事業者の交通費などのコストカットに加えて、事業者が間違った印紙を貼付していないかの確認作業が省けたことで業務負担も激減したようです。
参考元:都道府県で初めて立会人型電子契約サービスを導入した茨城県庁。スピーディーなデジタル化の成功要因は?
奈良県生駒市は、2022年2月、関西圏においてごく早期の電子契約を導入。
それ以前は、書面での契約が極めて非効率なうえ、長い者だと10年間の保管義務があるため、そのスペースの確保にも大変な負担がありました。
まず10の事業者との実証実験を始めたところ、削減できたコストは概算で以下のようになりました。
また、作業短縮時間は、
と、70~92%の削減効果があることが判明しています。
参考元:市で締結する全ての契約の電子化を目指す。手厚いサポートでスムーズな導入を実現。
愛知県豊田市では、2023年4月から電子契約を導入しました。
まず、工事請負契約に限定してサービスをスタートします。
同年4月1日〜8月4日までで88件の契約締結があり、うち80%にあたる約70件が電子契約でした。
混乱を避けるために、あえて2段階でのスタートという方法をとり、工事請負契約以外の契約は同年9月1日から順次導入している状況です。
成果としては、以下のようなものがみられます。
参考元:事業者への粘り強い説明の成果もあり入札契約(工事請負契約)のおよそ8割を電子化
神奈川県茅ヶ崎市は、2022年4月から電子契約を本格導入しました。
以後、工事請負契約・委託契約、賃貸借契約、製造請負契約などで積極的に電子契約を進めています。
導入から2023年8月までで、契約検査課の執行分だけで316件中284件と約9割が電子契約という普及ぶりを見せています。
すでに全庁では約1,000件の電子契約が締結されており、役所内の人件費が約230万円、印紙税が約275万円カットできました。
参考元:市民の安心安全に貢献する非対面・非来庁型行政サービスを実現
◾️電子契約の導入前に読んでおきたい記事はこちら!
ここからは、参考までに自治体におすすめの電子契約システムを4つ紹介します。
それぞれに特徴があるので、用途に合わせて適切なサービスを選択してください。
初期費用 | 月額費用 | 送信料 | ユーザ数 | 無料プラン・トライアル有無 | |
クラウドサイン(Corporate) | 要問合せ | 30,800円 (税込) |
220円/件 (税込) |
無制限 | フリープラン有 |
電子印鑑 GMOサイン |
オプションによる | 9,680円 (税込) |
立会人型110円/件(税込) 当事者型330円/件(税込) |
無制限 | フリープラン有 |
DocuSign(企業向け BusinessPro) | 要問合せ | 1ユーザーあたり7,200円(税表記なし) | 要問合せ | 最大50名まで追加可能(それ以上は別途問い合わせ) | 無料トライアル有 |
Shachihata Cloud(ENTERPRISE) | 要問合せ | 1ユーザーあたり550円(税込) | 無料 | 無制限 | 無料トライアル有 |
電子契約締結から契約書管理まで一貫したクラウド型のサービスで、自治体でも多数の導入実績があります。
料金プランは、「Light」「Corporate」「Business」「Enterprise」の4つから選べます。
上記表内の「Corporate」は一般企業向け標準プランで、自治体向けは個別で相談する形となっています。
月額費用と送信料が群を抜いて安いのが特徴で、自治体での導入例も多いです。
動画コンテンツ配信とセミナーを随時開催しており、メールやチャットでの問い合わせ、勉強会による導入支援も丁寧に行っているので安心でしょう。
自治体向けの料金プランも用意されています。
世界180ヶ国以上、100万社以上の企業で導入実績がある世界トップレベルの電子契約システムです。
ただし、公式サイトやマニュアルがすべて英語であることと、サポートが日本企業に比べて手薄な点は要注意です。
印鑑でお馴染みのシャチハタ株式会社の電子契約サービスです。
導入件数は95万件で、継続率97%を誇ります。
有料ですが、優先メールサポート、サポート掲示板対応、オンライン通話対応と3種類のサポートを手厚く行っています。
自治体にとって、DXは喫緊の課題です。
中でも電子契約は最優先課題の一つといえるでしょう。
コスト削減や業務効率化、ペーパーレス化、何より事業者の来庁回数も激減させることができるので、導入後のメリットは計り知れません。
記事内でご紹介したものをはじめ、自治体での導入実績がある優れた電子契約システムが数多くリリースされています。
それぞれの特徴を比較し、最適なものを見つけたら早速導入に向けた準備を始めてみてはいかがでしょうか。
画像出典元:Pixabay
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