上場できない理由。審査に落ちる原因と解決策【決定版】

上場できない理由。審査に落ちる原因と解決策【決定版】

記事更新日: 2022/06/13

執筆: 太田繙

「上場を目指しているのに、どうしてうちの会社は上場できないんだろう……」と悩んではいませんか?

株式上場にはさまざまな条件があるため、適切な対応を行う必要があります。

そこで今回は、上場できない理由や中小企業が上場するための方法について詳しく説明します。

なかには、あえて上場していない有名企業もありますので、あわせて紹介します。

株式上場とは?

株式上場とは、企業の株式を証券取引所で売買できるようにすることです。

上場すればさまざまな人に株式を購入してもらえるため、企業の資金調達力が増加します。知名度が上がることによって企業の信頼度が上がり、優秀な人材の確保にもつながります。

株式上場をするには、証券取引所が決めたいくつかの条件をクリアしなければなりません。

株式上場の2つの条件

株式上場をするためには、「形式要件」と「実質審査基準」の2種類をパスする必要があります。

  • 形式要件:株主数や利益額などで上場企業にふさわしいか判断するための条件
  • 実質審査基準:企業の質が上場するにふさわしいか判断するための条件(数値では測らない)

 

1. 形式要件

株式上場への条件は、証券取引所や市場によって異なります。

以下は、東京証券取引所における一部の形式要件をまとめたものです。

  プライム市場 スタンダード市場 グロース市場
株主数 800人以上 400人以上 150人以上
流通株式数 2万単位以上 2,000単位以上 1,000単位以上
流通株式時価総額 100億円以上 10億円以上 5億円以上
流通株式比率 35%以上 25%以上 25%以上

出典元:日本取引所グループ

2. 実質審査基準

東京証券取引所の実質審査では、次の基準から上場できるかが判断されます。

  • 企業内容の開示を適切に行えるか
  • 企業経営は健全か

 

上場できない理由は何?

こちらでは、「どうして上場審査に通らないんだろう?」という疑問に答えるべく、上場できない理由と上場できない会社や経営者の特徴を解説します。

上場できない理由10箇条

上場できない理由としては、主に内部管理体制に関する問題が多いです。

以下では、具体的に問題となり得る10のポイントを挙げてみました。

1. 事業内容が公序良俗や法律に反している

2. 反社会勢力と関係がある

3. サービス残業や未払い賃金など従業員への環境が適切ではない

4. 会計処理に不正がある

5. 会社法に沿った業務が行なわれていない

6. 社内の職務権限が適切ではない

7. 予算と実績の差異がある

8. 内部審査や監査役監査が不十分

9. 子会社が赤字であるにもかかわらず対策がされていない

10. 役員個人と不明瞭な取引を行っている


また、上場審査では企業のコンプライアンス面も注視されています。

例えば、長時間労働やパワハラ・セクハラ、低賃金など、ブラック企業の代名詞ともいえることが起きている場合は、上場できないでしょう。

上場できない会社・経営者5つの特徴

上場審査に落ちる会社は、形式要件をクリアしていながら、実質審査をパスできないことが多いです。

以下に、上場できない会社や経営者の特徴をまとめました。

1. 上場に対する熱意が先行しすぎている

2. やらなければならないことが先延ばしになっている

3. 利益をあげる明確な方法を持っていない

4. ワンマン経営

5. 上場するための覚悟がない


上場するには熱意ばかりでなく、会社の運営方針や内部管理など、さまざまな体制を整えたうえで臨まなければなりません

具体的なスケジュールを立てず、やらなければならないことが先延ばしになっていると、いつまでも上場できないでしょう。

上場の最大条件は、増収増益基調であるからこそ、黒字が続くための明確な経営方針は必要不可欠です。

日々移り変わる市場を視野に入れず、「今まで業績が好調だから」という気持ちだけでは上場は難しいといえます。

加えて、陥りがちなのがワンマン経営です。

経営者1人で会社経営をするには限度があります。

結果的に、上場のために大切な内部管理やコンプライアンス面がおろそかになってはいませんか。

このように、上場するには細かい部分まで徹底してこだわり、時には今までの体制を変える覚悟が必要です。

上場できない会社や経営者は、今一度上場への準備がしっかりできているのか振り返ってみましょう。

中小企業が上場するにはどうしたらいいの?

では、具体的に上場するにはどんな対策をすればいいのでしょうか?

ここでは「中小企業が上場するメリットとデメリット」「上場審査で評価されるポイント」「上場しやすい市場」を紹介します。

中小企業が上場する4つのメリット

中小企業が上場するメリットは以下の4つです。

1. 資金調達力が向上する

2. 管理体制が充実する

3. 知名度が上がる

4. 優秀な人材が確保できる


中小企業が上場すれば、不特定多数の人が証券取引所にて自社の株を買ってくれるので、資金調達力が向上します。

企業の信頼も上がるため、金融機関からの資産調達も行いやすくなるのです。

上場するべく内部管理体制を整えることで、従業員の働きやすさも向上し、事業拡大への道も開けるでしょう。

上場企業になれば、マスコミで取り上げられることも増え、知名度アップにもつながります。

結果として、新規プロジェクトが進めやすくなり、優秀な人材も集まりやすくなるなどのメリットも見込めるでしょう。

中小企業が上場する3つのデメリット

上場後「こんなはずではなかった」と後悔する前に、デメリットも事前に押さえておきましょう。

中小企業が上場するデメリットは次の3つです。

1. 上場にコストがかかる

2. 買収のリスクがある

3. 株主への適切な対応が求められる


上場時には「上場審査料」や「新規上場料」などが必要で、上場後には「年間上場料」や「株券の発行」などの費用もかかります。

上場すれば誰でも自社の株を購入できるので、競合他社に買い占められて経営権を握られてしまうリスクも考えておかなければなりません。

競合他社に限らず、投資家などの株主も経営や株価などに意見する権限があります。

いかに株主と適切なコミュニケーションがとれるかも、上場する際には大切なポイントでしょう。

上場審査で最も評価される4つのポイント

上場するために、どんなところが重要視されるのかを押さえておくと対策を立てやすいですよね。

特に指摘されやすい点として、以下の4つが挙げられます。

1. 事業計画

2. 労務管理

3. 財務

4. 子会社との関係性


会社の将来性をアピールするための事業計画は、合理的な内容であることはもちろん、客観的なデータを用いた整合性のある内容である必要があります。

利益を出すための経営方針だけではなく、「未払い賃金はないか」「労働時間は適切か」といった労務管理も注目されやすいです。

財務面としては、不明瞭な取引が行なわれないように対策を行っておきます。

子会社を利用した不正行為にも注意しましょう。

中小企業が上場しやすい市場

上場をするためには、審査に合格しやすい市場を選ぶこともひとつです。

中小企業が上場しやすい市場としては「TOKYO PRO Market」が挙げられるでしょう。

TOKYO PRO Marketとは、東京証券取引所が運営する市場です。

東京証券取引所は、誰でも株を買うことのできる一般市場として「プライム市場」「スタンダード市場」「グロース市場」を開設しています。

一方、プロの投資家のみが取引できるTOKYO PRO Marketは、形式基準がないため、一般市場よりも上場条件が軽減されているのです。

ほかにも準備期間が短いなどの理由から、上場コストを抑えることもできます。

TOKYO PRO Marketで上場するために意識すべき点は、以下の5つです。

1. 市場の評価を害さないか

2. 公正かつ忠実に経営しているか

3. コーポレート・ガバナンス及び内部管理体制が適切か

4. 企業内容やリスク情報等の適切な開示

5. 反社会的勢力と関係がないか


TOKYO PRO Marketで上場すれば企業がさまざまな人の目に触れるので、資金調達や信頼度向上など、一般市場と同様のメリットがあります。

さらに資金調達力などを向上したい場合は、TOKYO PRO Marketで上場した後、スタンダード市場やグロース市場を狙う戦略も考えられるでしょう。

実は上場していない有名企業5選

最後に、あえて上場をしていない有名企業を5つ紹介します。

非上場企業の道を選んだ理由も解説するので、これから上場を目指すか、非上場企業のまま運営するのかを判断する材料にしてみてください。

1. サントリー

日本の洋酒やビールなどを扱う「サントリーホールディングス株式会社」。

誰もが知る大企業ですが、上場していない会社として有名です。

非上場の理由としては、企業理念を追い求める経営方針が崩れてしまうリスクを考えています。

上場して株主が経営に口を挟めるようになってしまうと、サントリー特有の「やってみなはれ」精神や独自の社風が消える恐れがあるからです。

2. 竹中工務店

日本屈指の建設会社である「竹中工務店」。

東京タワーや東京ミッドタウンなど、名だたる建設に関わっている大企業です。

竹中工務店が非上場企業の道を選んだのは、長期的視点を重視しているからでしょう。

上場企業はどうしても株価や株主の動向を意識せざるを得ません。

しかし、非上場企業であれば短期的な損益にこだわらず、ブランディングや技術投資へ没頭することができるのです。

3. ジャパネット

通販業として広く知られる「株式会社ジャパネットホールディングス」。

こちらの会社はテレビ通販をしているからこそ、知名度があり大きな初期費用も必要ないため、非上場を選んでいます。

株主への配慮よりも消費者・取引先・社員に力を注ぎたいと考えていることも理由の1つです。

独自の経営方針を貫くために、あえて上場をしていないといえるでしょう。

4. アイリスオーヤマ

家具などの生活用品を販売する「アイリスオーヤマ株式会社」。

2021年12月期に脅威の売上高8,100億円を発表し、話題となりました。

そんなアイリスオーヤマ株式会社が上場しない理由は、創業理念を引き継ぎ、株式非公開の同族経営を貫きたいという意思があるからです。

上場のメリットである資金調達力の向上も必要ないと考えているため、非上場を選んでいます。

5. ヤンマー

エンジンなどの開発や販売を行う「ヤンマーホールディングス株式会社」。

テクノロジー分野で最先端を走り続けている大企業です。

こちらの会社が非上場企業なのは、今のままでも資金調達が十分できているとの見解からでしょう。

上場していないからこそ、長期的視点で設備や研究開発への投資ができるとも考えています。

まとめ

今回は、上場を目指しているけれどもなかなか上場できない理由や、中小企業が上場するためのポイントについて紹介しました。

上場できない理由としては、主に内部統制やコンプライアンス面が多く問題になります。

中小企業が上場を目指すなら、体制を整えながら「TOKYO PRO Market」を狙うのも策です。

一方、上場のデメリットを考えてあえて上場をしない大企業も多く存在します。

この機会に、勢いだけで上場を考えていないか、本当に上場を選択すべきなのかも見直してみると、自社に適した道すじが見えてきそうです。

画像出典元:pixabay

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