自社での活躍を期待して採用した正社員の早期離職は、採用や教育コストの無駄となり、自社の損失に繋がります。
早期離職は、自社が能動的に行えば防ぐことのできる問題です。
この記事では、早期離職の原因である【離職する社員の気持ち】を知り、効果的に対策して活躍し続ける社員のつくりかたや裏技をご紹介します。
このページの目次
厚生労働省が公表する離職状況のとりまとめによると、入社後3年以内の離職率を算出しています。
また、「石の上にも3年」ということわざは日本人の精神にかなり浸透していて、3年という数字は一つの物差しになっているようです。
このことから、一般的に入社後3年以内を早期離職と定義されています。
厚労省の2020年10月に公表された調査「新規学卒者就職率と3年以内離職率」によると、大卒・高卒別にみた早期離職率はともに30%台という結果になりました。
下の図の青い線が離職率を表す数字です。
https://www.mhlw.go.jp/content/11652000/000689487.pdf
また、2015年と少し古いデータになってしまいますが、「中小企業・小規模事業者の人材確保と育成に関する調査」(野村総研)では、中途採用されてから3年以内に離職した人の割合は約30%となっています。
下の図のオレンジ色のグラフが離職率を示しています。
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H27/PDF/chusho/07Hakusyo_part2-2_web.pdf
データを見ればわかるとおり、新卒・中途採用ともに、早期離職する人材は3人に1人という結果になっています。
業務内容のミスマッチとは、本人がやりたかった業務と実際に任された業務のズレを指します。
入社前に抱いていたイメージとの乖離が激しいほど、モチベーションは下がってしまい、早期離職を招きます。
「給料は高いけど休日が少なく有給も取りづらい」職場と、「給料はそれなりだけど休日が充実していて有給も取りやすい」職場のどちらを選択するかは人それぞれです。
働き方の価値観が労働条件に合わないと、早期離職に繋がります。
ちなみに近年は、「収入」よりも「休日(プライベート)の充実」を重視する傾向にあるようです。
2007年にリクルートが行った転職理由調査によると、第1位に「上司の仕事の仕方が気に入らない」、第3位に「同僚、先輩、後輩とうまくいかなかった」となりました。
また、一時期大変話題になった退職代行サービスを利用する人は「上司の顔も見たくない」という理由で第三者を通じた退職をします。
2018年のenジャパンの調査によると、転職経験者の50%以上が「職場の人間関係が転職を考えるきっかけになった」と答えています。
人間関係にストレスを感じて離職する人は非常に多いことがわかります。
若年層は終身雇用制度に頼らず、自分自身のキャリアアップを重視する傾向にあります。
中途採用においても、自身のスキルアップを目指して転職したにもかかわらず、やりがいや成長を感じられないと判断すれば早期離職に繋がります。
早期離職が与える周囲へのインパクトは強く、「自社に何か問題があったのでは?」という不安に陥ります。
離職した人材が優秀であればあるほど現場の士気が下がり、離職の連鎖になることも。
採用はタダではありません。
求人サイトや紙面への掲載費用、面接にかかる人件費など、1名採用するにもコストがかかっています。
早期離職されてしまえば、これらの費用は無駄となり、欠員補充のため再度同じようなコストがかかってしまいます。
採用費を捻出できず既存の社員の業務量を増やした結果、既存社員も職場に不満を感じて離職する最悪なケースも想定されます。
即戦力として採用しなかった人材の場合、研修費等の人件費や人材教育費がかかってきます。
戦力になる前に離職してしまうと、それまでの人件費が全て無駄となってしまいます。
逆に、中途採用で雇用した人材に会社の事業を理解させるため、実際に担当する業務とは乖離した研修を行ったがために早期離職を招いた例もあるので注意しましょう。
社員が高いモチベーションを保てるような個別教育を計画しましょう。
ただ、一人一人の意向に沿ったプログラムを練ることはコストに見合わないこともあるので、「eラーニング」などの外部サービスを活用したいところです。
資格取得や課題の達成は自分自身の成長を感じやすく、本人の自信に繋がります。
そして、そのスキルを自社で活用できる場があるかぎり、意欲的に働き続けてくれるでしょう。
入社3年以内に起こりえるライフイベントとして介護や育児等があります。
プライベートの変化は仕事にも大きく影響を与えます。
テレワークや短時間勤務を承認し、個人に最適な労働環境を与えることで離職は大いに防げます。
新入社員に対し、先輩社員が指導者になる「メンター制度」を導入すれば、新人は安心して業務に当たることができます。
定期的に面談を実施している会社もありますが、社員が相談したいのは面談時だけではありません。
特に入社したての社員にとって、常に相談できる社内の人間がいることは大変心強いものです。
「メンター制度」では業務教育を充実させる効果があるほか、社内コミュニケーションの活性も強化できます。
先輩社員との交流を通して、会社全体のコミュニケーションの取り方を学べるので、研修終了後も他の社員と円滑なコミュニケーションを図れます。
社員ごとに異なるキャリアアップイメージを把握し、それに伴う課題や将来像をすり合わせていきましょう。
本人にやる気があるにもかかわらず、希望する仕事ができなかったからという理由で離職されては勿体ないですから、本人の目指す役職・職務につくまでのキャリアパスと課題を明確にし、目標に向かって頑張る社員を作りましょう。
できるだけ多くの応募が欲しいからといって、求人募集に脚色を加えることはやめましょう。
求人募集に事実と異なることを書けば、入社後のミスマッチが起こって早期離職は避けられません。
「残業は同業他社に比べて多めだけど、基本給が高く役職手当や資格手当も充実している」など短所を織り交ぜつつ、応募者にとって魅力的な自社の長所を伝えましょう。
社員に自社の魅力はどこか聞くことも、自社の魅力の把握に繋がります。
求人募集を出すにあたり、どんな人材が自社に必要か考えましょう。
即戦力採用を意識するあまり、自社の理念やカルチャーに共感できない人材を採用してしまえば早期離職に繋がります。
また、採用後の現場に配属されてからのミスマッチを防ぐためにも、採用部門と配属部署の責任者で採用したい人物像のすり合わせを行うことも重要です。
早期離職対策として採用時にすると効果的な裏技をご紹介します。
リファレンスチェックとは、中途採用の場で行われる身元紹介のことです。
役職つきの採用面接にリファレンスチェックは大いに役立つ技です。
履歴書や職務経歴書に書かれた内容が事実であるか確認する前職調査に加え、リファレンスチェックでは前職での勤怠や実績、人望を伺うことができます。
リファレンス先として有効なのは、前職で勤務していた際の直属の上司、先輩またはクライアント企業の役職者です。
等身大の応募者を知ることができるので、過度な期待をせずに応募者を評価できますし、入社後のミスマッチによる早期離職も防げます。
実施方法は、応募者自身にリファレンス先を提示してもらうか、自社で探すこともあります。
注意点として、リファレンスチェックは応募者の拒否権もあるので絶対に遂行できるものではないということが挙げられます。
また本人の同意なしにリファレンスチェックを行った場合、個人情報保護法違反となります。
リファレンスチェックのデメリットとしては、採用までの工数が増えるので採用担当者の業務負担が増えるという点や、浅い知識で行ったがために個人情報保護法に違反してしまうこともあります。
忙しくて調査ができないという企業に対してオンラインで簡単にリファレンスチェックができるサービスもあります。
サービスによってはSNSやWEBの風評被害調査も請け負っているものもあり、自社に必要な調査を適宜選択できます。
社員が会社をやめたくなる気持ちを理解し、それに対して自社が積極的な対策を施せば早期離職は未然に防げます。
採用後のケアはもちろん、求人募集を掲出する時から応募者と自社のミスマッチを防止するよう注意しましょう。
画像出典元:O-DAN