近頃、多くの企業で注目されている「カルチャーフィット」についてはご存知ですか?
離職率で悩む企業や、採用候補者と価値観のミスマッチを避けられる有効な方法として取り入れている企業が増加しています。
今回はカルチャーフィットについて詳しく解説しながら、自社に取り入れる際に必要な4つの視点やカルチャーフィットを見極めるための質問例も具体的に紹介します。
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カルチャーフィットとは、ビジネス用語の一つで「企業文化に対する適応性」を指す単語です。
企業ごとに文化や社風、属している社員の構成は異なり、入社後うまく溶け込める環境かどうかによって、新入社員の定着率が変わります。
また企業の文化(カルチャー)と採用者の価値観が似ていれば、仕事へのスタンスや日々の業務の優先度の選択が容易となり、社員の生産性の向上も期待できます。
カルチャーフィットが注目されるようになった背景の一つに「離職率の増加」が挙げられるでしょう。
企業としては採用した人材に早期離職されてしまうと損失は大きく、社員を定着させる有効な方法としてカルチャーフィットが注目され始めました。
早期離職の原因として、リクナビNEXTが調査した「退職理由の本音ランキング」では、以下のようなランキングとなっています。
画像出典元:リクナビNEXT|転職理由と退職理由の本音ランキングBest10
この調査では、1位「上司・経営者の仕事の仕方が気に入らなかった(23%)」、3位「同僚・先輩・後輩とうまくいかなかった(13%)」、7位「社風が合わなかった(6%)」など、企業文化とのミスマッチで辞めてしまう社員が多いことがわかります。
こうしたミスマッチによる早期離職を防止する観点から、多くの企業でカルチャーフィットを重視した採用活動が取り入れられています。
カルチャーフィットとは企業文化との適合性を示しますが、対義語として「スキルフィット」も存在します。
スキルフィットとは、採用後に配属するポジションで採用候補者の経験や能力が活かせるかを客観的に把握する指標です。
具体的な例として、「法人営業経験3年以上」、「宅地建物取引士資格所持」、「特定のソフトを使用して業務を行った経験が1年以上ある」など求人要件に記載されていることが多いです。
中途採用の場合は即戦力を期待して、カルチャーフィットよりもスキルフィットを重要視することが一般的ですが、自社にうまく馴染めなければ高いスキルを持った人材もすぐ離職してしまいます。
自社にとって必要な人材を得るためには、カルチャーフィットとスキルフィットどちらかに偏ることなく、バランスの取れた人材像を決めておくといいでしょう。
カルチャーフィットを取り入れる上で得られるメリットは、次の3つです。
一つずつ確認していきましょう。
カルチャーフィットの大きなメリットは「離職率の低下」です。
社内の雰囲気や企業方針と社員の価値観がマッチしていれば、企業への所属感や目標達成へのモチベーションを高く保てます。
また採用されたばかりであってもカルチャーフィットしていれば、仕事の方向性やチームへの馴染みやすさから早期離職を防止できるでしょう。
早期離職の原因に多い、「入社してからの思った社風と違った・周囲と馴染めなかった」を改善するためにカルチャーフィットは大変有効です。
自社の行動原理が理解できる社員が増加することで、社員同士のコミュニケーションも活発化が期待できます。
社員同士、無理なくお互いの意思を理解し合えるため、ストレスも感じにくくなるでしょう。
新入社員、中途社員も馴染みやすい環境であれば、チームの一員として貢献心も生まれるかもしれません。
またある程度社員のスキルが高くなってくると、自社の価値観・行動指針を元に自ら積極的に行動してくれるようになります。
チーム内での意思決定が迅速に行われれば、より高いチームワークが発揮できるようになるでしょう。
カルチャーフィットのメリットの3つ目は、「生産性の向上」が期待できる点です。
企業のあり方や、周囲の業務への取り組み方が理解でれば、社員1人ひとりのパフォーマンスも発揮しやすくなります。
さらに成果を得やすい環境は、社員のモチベーションも高く保てるため企業の生産性が大幅に上昇するでしょう。
仕事へのやりがいを感じ、周囲とも円滑なコミュニケーションが取れる環境は、より働きやすい職場環境にも繋がります。
多くのメリットがあるカルチャーフィットにも、もちろんデメリットも存在します。
特に過度にカルチャーフィットを意識して採用活動を行ってしまうと、思っていた組織づくりができなくなることも。
採用基準としてカルチャーフィットを取り入れる際は、以下のデメリットも考慮して導入しましょう。
カルチャーフィットは、一定の基準を設けて自社のカルチャーに適合しやすい人材を採用する方法です。
過度にカルチャーフィットを意識した採用基準は、同じような価値観やスキルを持った人材に偏ってしまい、組織としての多様性が失われてしまうかもしれません。
価値観が似ていると、業務はしやすいかもしれませんが、新しいアイデアは生まれにくくなりがちに。
より自社の生産性を高めるためには、斬新なアイデアや考えを取り入れることも重要です。
新しい風を吹き入れるためにも、カルチャーフィットだけにこだわらずに、採用候補者の個性にも注目してみてください。
カルチャーフィットしていない人材を不採用にする場合は、採用候補者の価値観の見極めが重要です。
しかし自社のカルチャーがしっかりと確立出来ていない場合、採用担当者の「この人は自社とマッチしていない気がする」「この人なら自社でやっていけるだろう」と感覚で判断してしまう傾向があります。その結果、優秀な人材を見逃してしまう可能性も。
採用基準の一つとしてカルチャーフィットを取り入れる場合は、必ず自社のカルチャーを明確にして、採用担当者に落とし込みしておきましょう。
また採用担当者が採用判断に迷う場合は、採用面接時に配属予定先の社員を同席させるのもおすすめです。
採用候補者としても、実際に配属された場合の雰囲気や業務について理解が深まるので、よりミスマッチを防げるでしょう。
採用基準にカルチャーフィットを取り入れる際は、自社のカルチャーをしっかりと確立させることが重要です。
ここでは自社のカルチャーフィットを確立させるために、行うべき2つのポイントをご紹介します。
採用担当者や管理職の感覚ではなく、自社としてもカルチャーを可視化できるようにしてみましょう。
特に社員が多い企業であればあるほど、多様性に富んでいるため誰でもわかるように定量的な評価が必要です。
代表的なカルチャーを測定する方法として、ホフステードの6次元モデルがあります。ホフステードの6次元モデルは、以下の6つの指標に対して、偏りを測定していきます。
権力の格差 | 組織において、権力の格差をどれだけ受け入れられるか |
個人主義or集団主義 | 個人活動を好むか、集団活動を好むか |
男性性o女性性 |
男性性(達成、報酬、競争)をどの程度優先するか 女性性(協力、育成、他人への配慮・気配り)をどの程度優先するか |
不確実性の回避 | 不確実な未来の出来事などリスクに対して、どの程度回避するか |
長期志向 or 短期志向 | 先を見据えて投資するのか、今すぐ結果を求めるのか |
抑制的 or 充足的 | 個人の欲求を社会にコントロールされている(抑制的)と感じるか、自分でコントロールしている(充足的)と感じるか |
ホフステードの6次元モデルは、比較的グローバルな企業でカルチャーフィットの指標として重宝されています。
他にもGLOBE指数など、さまざまなアプローチ方法でカルチャーを可視化できます。
ホフステードの6次元モデルは、手広く事業展開している企業に適したアプローチ方法ですが、中小企業のカルチャーフィットにはあまり適していません。
中小企業でカルチャーを確立するには、次の4つの軸を参考にしてみてください。
組織のビジョン・ミッション・コアバリュー | 自社の経営理念や行動規範に基づいた価値観 |
創業者の考え方・価値観 | 顧客主義や競争主義など、創業者の価値観 |
組織内の人員構成・属性 | 社員の年齢層・男女比・新卒中途の割合・学歴など人員構成 |
組織の事業内容 | 効率・正確さが求められる製造業や、アイデアや起業性が求められるIT事業など、事業内容にあった価値観 |
事業内容や価値観をピックアップするだけでも、自社のカルチャーを明確化させられます。
これからカルチャーフィットを意識した採用活動を行う場合は、ぜひ4つの軸を基にまとめてみてください。
自社のカルチャーが確立できたら、選考時にカルチャーフィットする人材を見極めるための方法を確認してみましょう。
採用活動にカルチャーフィットを取り入れるのであれば、ぜひ面接時に自社のカルチャーに対する考えを質問してみるといいでしょう。
質問する際は、応募者が自社のカルチャーへ感じていることや、どのような点がマッチすると感じたのかなど具体的に聞き取るのがおすすめです。
例えば
「自社のカルチャーはどのようなものかご存知ですか?→どうやって調べましたか?」
「就職先を検討する際に重要視しているポイントはなんですか?→そのポイントが重要だと感じる理由はなんですか?」
など深堀りしていけば、応募者の大まかな価値観を感じられます。
一度会っただけでは応募者と自社のカルチャーがマッチしているか判断できないため、複数回の面接を行うことをおすすめします。
また応募者の価値観を深く理解するために、面接では一般的な質問も踏まえながら、経験や価値観が確認できる質問を設定するといいでしょう。
おすすめの質問方法は「STAR型」です。
STAR型とは
と徐々に掘り下げていく方法で、カルチャーフィットと同時にスキルフィットも見極められます。
採用面接を行い、ある程度カルチャーフィットしている採用候補者が絞れてきた段階で、配属予定先の管理職や社員と交流する機会を設けることをおすすめします。
実際に社員と交流してもらうことで、入社後の雰囲気や価値観を採用候補者にも理解してもらいやすくなります。
企業としても自社の雰囲気に馴染もうとする姿勢が感じられるので、より詳しく候補者の適正を確認しやすくなるでしょう。
カルチャーフィットは、早期離職を防止する対策として非常に有効な採用方針です。しかし偏ってしまうと多様性が失われてしまうため、バランスを意識して導入しなければなりません。
また自社のカルチャーにどういった強みがあるのか、組織カルチャーと採用基準が合っているのか常にアップデートしていくことが必要です。
自社にとって必要な人材像をしっかりと確立させ、カルチャーフィットしやすい人材の確保を目指してみてください。
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