バックグラウンドチェックとは、採用選考を行う際に応募者の背景を正しく把握するために行う調査です。一般的には調査会社に依頼して、学歴、経歴、前職での勤務状況などを調べます。
問題社員を雇うリスクを減らせるのがメリットですが、調査するタイミングや内容を間違えるとトラブルが起こる恐れがあります。調査方法に加えて注意点も知っておきましょう。
今回は、バックグラウンドチェックの基礎知識・リファレンスチェックとの違い・調査方法・内定を取り消した事例について解説します。
バックグラウンドチェックの費用相場や、費用を節約する方法も紹介するので役立ててくださいね。
このページの目次
バックグラウンドチェックとは、応募者が提出した書類に書かれている内容の真偽を確かめたり、問題がある人物ではないか調査することです。
従業員を採用する時には経歴等を本人が申告しますが、その内容が正しいとは限りません。正しい情報を手に入れるために行うのがバックグラウンドチェックです。
自己申告した内容を証明できる書類を提出してもらったり、前に勤めていた会社に問い合わせれば真実が分かります。
それに、自社に不利益をもたらす人物を採用しないためには、応募者の背景を知る必要があります。
例えば、反社会的勢力との関係は、バックググラウンドチェックをしないと確認できません。
アメリカではほとんどの企業がバックグラウンドチェックを取り入れています。
その理由は、労働者を雇う際に前職の調査を怠って事故が起きたり損害が生じた場合に、企業が責任を問われることがあるからです。
日本との違いは、アメリカのほうが公開されている情報量が多いことです。住所履歴、通名、犯罪歴などが一般公開されているので、たくさんの情報を集めることができます。
日本ではアメリカと同じレベルのバックグラウンドチェックはできませんが、信用に値する人物かどうかを判断するために役立ちます。
また、英語圏の国々ではバックグラウンドチェックの定義が日本と少し違います。
従業員を採用する時の背景調査だけでなく、訴訟を行う際の身元確認、M&Aを行う時の相手企業の情報収集をすることもバックグランドチェックと呼ばれています。
次は、バックグラウンドチェックの主な調査内容について説明します。
卒業証明書の提出を依頼したり学校に直接確認して、提出書類に書かれた学歴が間違っていないか確かめます。学歴詐称となるのは、これらの情報に偽りがあった場合です。
職歴の確認方法は、在籍していた部署や役職、在籍期間、実際の業務内容、勤務態度、退職理由、雇用形態などを前の勤務先に問い合わせること。
不利になる情報を隠していたり、嘘をついていた場合は職歴詐称となります。
調査会社に依頼すれば、応募者が反社会的勢力と関係を持っていないか調べることが可能です。
自己破産歴の調べ方は、ネット版官報で検索すること。利用料金がかかりますが、一般の人でも閲覧できます。
もしくは、自己破産した人を検索できる図書館を利用すれば、調査費用は無料です。
民事訴訟歴の確認は調査会社に依頼する方法が一般的です。情報が一般公開されていないので、プロに依頼しないと調べるのが難しいです。
近年では、SNS等のインターネット上での投稿もチェックする企業が増えました。発言内容を見れば人柄が確認できるからです。また、氏名検索をすれば、逮捕歴が発覚する可能性があります。
バックグラウンドチェックをする目的は大きく分けて3つ。それぞれ詳しく見ていきましょう。
バックグラウンドチェックをする目的は、応募者に関する正しい情報を得るためです。提出書類や面接だけでは真偽を確かめられないので、不適切な人物を雇用してしまうリスクがあります。
現在は1人当たりの転職回数が増えたことに加えて雇用形態が多様化しているので、応募者の経歴が複雑になる傾向があります。そのため、記入漏れや記入間違いが起きやすいです。
また、自己申告していない”重要な事実”があるかもしれません。例えば、自己破産歴がある人は一定期間就けない仕事があります。(自己破産の申し立てから3~6ヶ月後に復権すれば職業制限はない)
など、他人の資産や金銭を扱う仕事は制限がかかりやすい
自己破産の申し立てをしてから1ヶ月しか経っていない応募者を税理士として採用したら、復権するまで業務が行えません。
「自己破産歴は法的に認められた行為なので履歴書の賞罰欄に書く必要はない」とされているので、把握するのが難しい項目です。
様々な方法で情報を集めるバックグラウンドチェックを行えば、応募者の背景を正確に把握できるでしょう。
バックグラウンドチェックの目的は、虚偽の報告をする人物を見つけること。嘘をつく人を採用するのは避けたいところ。
バックグラウンドチェックをすることで、応募者の倫理観が分かります。
採用活動は、自社が求める人材像にマッチした応募者を見つけることが大切です。
例えば、チームで協力して行う業務がメインの場合は、コミュニケーション能力や協調性がある人物が最適です。
バックグラウンドチェックを実施すれば、応募者が持つ能力や適性を見極めることができます。
バックグラウンドチェックは採用失敗のリスクを減らせるのが最大のメリット。情報量を増やすことで不適切な社員を採用してしまうミスを回避できます。
主なメリットとして
などが挙げられます。それぞれ詳しくみていきましょう。
バックグラウンドチェックのメリットは問題社員を雇うリスクを減らせること。
応募者の真実の姿に気付けないと、入社してから数々の問題が勃発する危険があります。
問題があると分かっても、正式に雇用契約を結んだ後だと簡単には解雇できません。
内定を出す前なら不採用通知をだすだけで済みますが、内定が決定した後だと取り消せるのは正当な理由がある場合だけです。
もし問題社員が正式に入社してしまったら、解雇したり退職を促すことはさらに困難です。
内定を出す前にバックグラウンドチェックを行えば、問題社員を雇ってしまうリスクを減らせます。
トラブルメーカーや法律違反をする人物を雇うと、自社の評判を落とす事件が起こる恐れがあります。
ハラスメントや人間関係トラブルの原因になる偏った価値観や性格は、簡単には変わりません。
金銭感覚やモラルに関しても同様で、前職で何らかの問題があった場合は同じトラブルが起こる危険が高いです。
不祥事を起こす可能性がある人物かどうかを見極めるためには、バックグラウンドチェックが役立ちます。
厳しく調査してから採用する人を決めれば、自社が不利益を被る危険を減らせるでしょう。
問題がある社員を雇うと、同じ職場で働く社員や関わりを持つ顧客にまで被害が広がります。パワハラをする人物を採用したら、同じ部署の社員が退職に追い込まれるかもしれません。
勤務態度が悪い人物を雇った場合は、顧客にも不快な思いをさせます。バックグラウンドチェックは、社員や顧客への被害を減らせるのもメリットだと言えるでしょう。
バックグラウンドチェックのメリットは、採用後のミスマッチを減らせること。
応募者と自社の相性を確認してから内定を出せるので、入社後に「自分とは合わない会社だから退職したい」と社員に思われる可能性を減らせます。
その結果、離職率の低下につながるのもメリットです。
バックグラウンドチェックのデメリットは、応募者を信用していない企業だと思われること。履歴書や面接での発言を疑われてると感じたら、いい気はしないはずです。
マイナスイメージを与えないよう、同意書へのサインをお願いする際は十分に配慮しなくてはいけません。
バックグラウンドチェックは、法律に抵触する恐れがあるのがデメリットです。関わってくるのは、個人情報保護法、職業安定法、労働契約法など。
本人の承諾なしでバックグラウンドチェックを行うと個人情報保護法違反になり、職業安定法では「その業務の目的の達成に必要な範囲内で求職者等の個人情報を収集すること(同意があればその限りではない)」と定められています。
仮にバックグラウンドチェックでネガティブな情報が見つかっても、内定を出した後は労働契約法を守る必要があるので強引に内定を取り消すと訴えられるかもしれません。合法的に行うためには、専門的な知識が必要です。
バックグラウンドチェックは調査するために時間や手間、費用がかかります。
調査する人物の数が多いほどこれらの負担が増すので、選考過程のどのタイミングで実施するかを事前によく考えておきましょう。
人数をある程度まで絞ってから調査会社に依頼するケースが一般的です。
リファレンスチェックとは、応募者の前の職場の人に勤務態度などを直接聞くこと。同じ部署だった上司や同僚からも情報を集めて、採用可否の判断材料にします。
バックグラウンドチェックとリファレンスチェックの違いは、調査範囲の広さ、実施目的、調査する人です。
リファレンスチェックはバックグラウンドチェックの一部です。
学歴や破産歴など数多くの情報を集めるのがバックグラウンドチェックで、その中の1つが前の職場での働き具合を確認するリファレンスチェックです。
バックグラウンドチェックは「採用してはいけない人を見つけるため」に行うニュアンスがあるのに対し、リファレンスチェックは「自社との相性を確認するため」に行うことが多いです。
そのため、ネガティブな要素が隠れていないかを重点的に調べるのがバックグラウンドチェックの特徴。
書類や面接では分からない人柄やコミュニケーション能力を確認するのがリファレンスチェックの特徴です。
バックグラウンドチェックは、採用担当者が実施するのではなく専門の調査会社に依頼するケースが大半です。
リファレンスチェックは、候補者が推薦した人(前の会社の上司や同僚など)に採用担当者がコンタクトを取って行う方法が一般的です。
次は、バックグラウンドチェックの実際の調査方法について説明します。
バックグラウンドチェックは応募者の同意を得ないと行えません。個人情報を扱うので、違法行為にならないよう必ず書面で手続きを行いましょう。
その際には、バックグラウンドチェックを行う目的や調査方法についても説明する必要があります。
バックグラウンドチェックの実施は調査会社に依頼しますが、どこまで調査するかはケースごとに様々です。
例えば、顧客の資産を扱う金融機関や重要なポジションを募集している場合だと、一般的な人よりも厳しく調査する必要があります。予算との兼ね合いを考えて、必要な調査項目を決めましょう。
また、調査内容は、法律に抵触しない範囲に納めることも大切です。
職業紹介事業者等は、その業務の目的の範囲内で求職者等の個人情報(以下単に「個人情報」という。)を収集することとし、次に掲げる個人情報を収集してはならないこと。ただし、特別な職業上の必要性が存在することその他業務の目的の達成に必要不可欠であって、収集目的を示して本人から収集する場合はこの限りでないこと。
トラブルを予防するために、調査内容の選定には細心の注意を払いましょう。
バックグラウンドチェックの費用相場は、一般的な職種やポジションで3~5万円です。管理職などより詳細に調べる場合には5~10万円かかることが多いです。
料金の設定方法は調査会社によって異なります。1項目ごとに料金がかかる仕組み、1人当たりいくらと決まっている、など色々な料金体系があります。
費用を節約したいなら、依頼する項目を選べる調査会社を選び、リファレンスチェックや学歴調査などは自社で行いましょう。
最低限の項目だけを依頼すればコストを削減できます。
調査にかかる期間は、数日~1種間前後が一般的です。調査会社からのレポートが届いたら、採用担当者間で情報共有して、採用するか不採用にするか決めます。
なお、応募者にバックグラウンドチェックの結果を公開する必要はありません。
バックグラウンドチェックは本人の同意が必須なので、応募者から拒否されたら実施できません。まずは、拒否する理由を本人に聞いてみましょう。
納得できる理由があれば良いのですが、そうでない場合は何か隠し事をしている可能性が高いです。
リスクを回避したいなら、バックグラウンドチェックを拒否する人を採用しないほうが良いでしょう。
ここからは、虚偽が発覚した場合と内定を取り消した事例について解説します。
内定を出した後は正当な理由がない限り取り消しはできません。でも、何らかの虚偽があった場合は、内定取り消しが可能です。
注意点は、虚偽の程度によっては取り消しが認められず、トラブルに発展する恐れがあること。
内定通知書を送ったら労働契約を結んだとみなされます。内定取り消しは法的には解雇と同じ扱いになるので簡単には行えません。
そのため、バックグラウンドチェックは、内定を出す前の最終選考までには終わらせることが望ましいです。
内定を取り消したい場合は、法律の専門家に相談することをおすすめします。
応募者が前に勤めていた企業に聞き込みを行ったところ、在籍していた事実は肯定するものの退職理由については曖昧な返事しか得られませんでした。
そこで、イエスかノーかの質問をする聞き方に変えたら、受講料の横領により実際には解雇されたことが判明。加えて、役職も詐称していたことが分かりました。
参考:バックグラウンドチェックで発覚!応募者の詐称・ネガティブ最新事例
応募者の氏名でネット検索をしたら、本名のSNSアカウントを発見。内容を細かくチェックすると申告されていない職歴があることが分かりました。
さらにネット調査を進めたところ、申告した氏名とは別の名前のアカウントがあり、申告した氏名は偽名だったことが判明。本当の名前で再度調査をして情報を集めたら、暴行罪で逮捕された過去がありました。
参考:【調査事例】「バックグラウンドチェック」で判明した驚きの真実 – KCC 企業調査センター
虚偽ではありませんが、SNSを調べたら、面接を行った人事部長を「キモいオヤジだった」と書かれていたことが分かり、内定を取り消した事例もあります。
参考:Facebookで「キモいオヤジだった」と書き込んで内定取消になったことに関する議論
また、SNSへの投稿内容が炎上した内定取り消し事件も有名です。立教大学の学生がレイプを容認するような投稿をして世間の反感を買い、人物を特定されて実名を公開されました。
その結果、内定が決まっていた大手百貨店から内定を取り消される騒動に発展しました。
バックグラウンドチェックのメリットは、問題社員を採用してしまうリスクを減らせること。自社にとって脅威となる人物を雇用する失敗は避けたいところです。それに、他の社員や顧客を守るためにも役立ちます。
しかし、違法行為にならないよう、必ず応募者の同意を得た上で行わなくてはいけません。調査内容に関しても十分に注意してください。
大事なポイントは、バックグラウンドチェックを行うタイミングです。内定を出す前に実施してトラブルを予防しましょう。
画像出典元:O-DAN