業績悪化などの理由で経済的苦境へ陥った場合、企業はリストラや経費削減など様々な手段を用いて資金繰りの改善を図ります。
それでも経済的苦境から脱却できない場合は、民事再生などの裁判手続きが必要となる場合もあります。
そこで今回は、民事再生とはどういう法律で、どのような目的で活用されるのか。
また、活用した場合のメリット・デメリット、さらには費用や手続きの流れなどについても詳しく解説していきます。
このページの目次
会社が経営不振などの理由により、事業継続が難しくなってしまった。
このように、会社経営が危機的状況に陥り、会社存続が危ういといった場合、会社を継続させる手段として用いられるのが民事再生法という法律です。
民事再生法の目的は、民事再生法の第一条に
経済的に窮地にある債務者について、その債権者の多数の同意を得、かつ裁判所の認可を受けた再生計画を定めることにより、当該債務者の事業の再生を図ることを目的とする。
引用:民事再生法 第一条
このように記されています。
つまり、民事再生法というのは、債務者と債権者との間で再生計画を策定しながら適切に債務を調整し、債務者の事業もしくは経済生活の再生を図るといった目的で行われる裁判手続きです。
なお、会社の経営が危機的状況に陥った場合、会社が取るべき手段としては、この民事再生のほか、破産手続き、会社更生が代表的であり、それぞれ状況や目的に応じて選びます。
民事再生に似た手続きに個人再生といわれる手続きがありますが、個人再生も基本的には民事再生と同じ、債務整理手続きのひとつです。
民事再生は比較的多くの関係者が手続きに関与することを想定しているため手続きも非常に複雑で、裁判所や弁護士に支払う費用も高額となる場合が多いです。
一方、個人再生の場合は、手続きの対象があくまで個人のみとなってため、一般の人でも利用しやすいよう民事再生と比べて手続きも簡易化されています。
個人再生の手続きは、住宅や車など高価な財産を保有したまま借金を大幅に減額し、減額された残債を原則3年間の分割で返済していくことを目的としています。
そのため、自己破産のように住宅など高額な財産を失うことがなく、職業に対する一定の制限を与えられてしまうこともありません。
なお、個人再生を利用するには条件が定められており、すべての人が利用できるというわけではありません。まず、個人再生には2種類の手続き「小規模個人再生」「給与所得者等再生」があります。
そのなかで、いずれも共通している条件があり、「住宅ローンを除いた債務総額が5,000万円以下であること」「継続して収入を得る見込みがあること」この2点です。
ちなみに、個人再生の手続きを行うと信用情報機関に事故情報として登録されます。
信用情報機関に個人再生を行った情報が登録されると、一定期間(通常7~10年間)は、借入れなどが難しくなります。
この個人再生は、通常の民事再生に比べて手続も簡略化されていますが、手続きには専門的な知識が要求され、誰でも簡単に行えるものではありません。
そのため、個人再生の申立てを行う際は、弁護士など専門家に相談することを強く薦めます。
民事再生と破産手続き、どちらも会社の経営が危機に面した際に取られる手段ですが、双方の違いとしては、その「目的」にあります。
前述のとおり、民事再生はあくまで「会社を継続させること」が目的となりますが、一方の破綻手続きの場合は「会社を消滅させること」、いわゆる倒産が目的となります。
破産手続きの場合、すべての業務を停止したうえで裁判所が破産管財人を選任し、破産管財人の監督のもと会社の財産すべてが売却処分され、債権者に配当されます。
会社が破産手続きを行う場合、個人の自己破産とは違って一部の財産を残すということができないため、基本的に会社の財産は一切無くなると考えて良いでしょう。
会社の財産がすべて無くなるということは消滅を意味しますので、会社は事実上の倒産ということになります。
民事再生手続き | 会社を存続させることが目的 |
破産手続き | 会社を消滅させることが目的 |
このように、民事再生と破産手続きの違いは「目的」に大きな違いがあるというわけです。
会社の資金繰りが悪化し、経済的に行き詰まってしまった場合、その負債を調整しながら事業の再建を図る。こうした手続きが民事再生ですのでデメリットを感じやすいです。
しかし、民事再生にメリットがないわけではありません。
この章では、民事再生のメリットとデメリットを解説していきますので、手続きを検討する際はメリットとデメリットをしっかり考慮したうえで進めるようにしましょう。
民事再生には、おおむね下記の3つのメリットがあげられます。
会社を消滅させることなく、引き続き事業を継続していくことができる。これは民事再生の大きなメリットであると言えるでしょう。
また、事業を継続させつつ、抱えている借金など債務も減らすことができ、さらには弁済猶予(原則最大10年)も受けることができるため、ある程度余裕を持ちながら弁済計画が立てられます。
民事再生では経営権を手放す必要がないため、たとえ民事再生手続きを行ったとしても、現経営者がそのまま経営権を維持して事業を行っていくことが可能です。
ちなみに、民事再生と同じ再建型である会社更生の場合は、原則として経営陣全員の交替が求められるため、申立てをすると経営に携わることができなくなります。
民事再生の申立てを行うと、金融機関が口座預金に対して債務と相殺することができなくなります。
つまり、民事再生の申立て通知後に口座へ入金された現金に関しては、預金として手元に残しておくことができるということです。
そのため、資金をそのまま再建の資金繰りに活用するができるという点では、非常に大きなメリットであると言えるでしょう。
次に民事再生におけるデメリットです。民事再生のデメリットとしては、おおむね下記のとおりです。
会社の再建を目的とした手続きであるとはいえ、民事再生は法的倒産処理であることに変わりはありません。
そのため、倒産したなどの噂が公になることは避けられないと考えるべきです。
また、そうしたネガティブな噂というのは、社会的信用を著しく下げる要因となる可能性が非常に高いということを、しっかり理解しておく必要があります。
民事再生の申立てを行い、再生計画によって債務の免除を受けた場合、免除された分は贈与されたとみなされるため、責務免除益課税が発生する場合があります。
税額は免除された金額によって異なりますが、大幅に免除してもらうケースが多く、税額も多額になると考えられます。
そのため、責務免除益課税に関しての事前対策が必要で、責務免除益課税によって再生計画に支障をきたす可能性が高いので注意してください。
民事再生の申立てを行ったとしても、担保権は別除権として扱われるため担保権の行使を防ぐことはできません。
そのため、再生手続外で担保権実行が行われる可能性があり、万が一権利行使されてしまうと、今後の事業継続に必要な資産も失ってしまうことになります。
したがって、担保権の行使を阻止するためには、債務者と担保権者との間で別途弁済協定を締結することが必要となります。
さて、民事再生は経済的に困窮する事業者の経営に対し、債務の整理を行いながら経営を立て直すことを目的とした再建型の裁判手続きである。ということがお分かりいただけたかと思います。
では、実際に民事再生の手続きを行う場合、どのように進めていけば良いのでしょうか。
この章では、民事再生手続きに関する基本的な流れを紹介していきます。
まず、会社の本店所在地を管轄する裁判所へ民事再生の申立てを行うことから始まりますが、申立てを行うには「事業所・営業所・財産」いずれも日本国内であることが必須ですので注意してください。
また、現状の財産を維持するため、債権者による財産の差し押さえや仮処分ができなくなる「保全処分」の申立ても同時に行うようにしてください。
なお、民事再生は事業継続させながら専門的な手続きを数多くこなしていかなければならないため、申立てには倒産手続きや事業再生など法的再建手続に精通した弁護士を申立代理人として依頼するのが一般的です。
民事再生の申立てを行うと、1名から数名の監督委員(弁護士)が裁判所によって選ばれ、再生債務者はその監督委員に従わなければなりません。
また、民事再生を進めていく過程において管理処分権を持ちますが、管理処分権はすべて監督委員の管理の下、行わなければなりません。
民事再生の手続きの開始が決定される時期としては、基本的に申立てを行ってからおよそ2週間です。
通常、民事再生における債権者向け説明会において、債権者より特に反対がでなければ1週間以内で手続きは開始されます。
ただしその逆もあり、債権者から強く反対されることによって手続きの停止や申立て自体却下されてしまうケースもあります。
万が一、債権者から民事再生の手続きが却下されてしまった場合は破産手続きを行わなければならなくなるため、債権者に対する説明会は非常に重要です。
民事再生の手続きが開始されたら、次に行うべきことは債権届出、財産評定、財産状況の報告です。
まず、手続きに参加する債権者の債権を明確にするため債権届出を行います。さらに、会社の資産と負債の金額を明らかにするため、財産評定と財産状況の報告を行います。
なお、ここで行う手続きに関しては、一般的に申立代理人の補助人である公認会計士が行いますので、専門家の指示に従って進めます。
債権者から債権届出がなされたら、民事再生を行う会社(債務者)は認否を行います。
債務者は債権者から伝えられた債権の内容に対して正しいかを確認しながら認否書を作成し、債権者へ提出します。
この時、債権の内容が違っていた場合は話し合って調整し、もし話し合いで調整できない場合は簡易的な裁判で債権内容を決定します。
実際に資産と負債の金額が確定したら、次に再生計画案を作成します。
再生計画案とはその名のとおり、民事再生によって減額された借金に対して、今後どのように返済していくかを記載する書面です。
民事再生を申立てた会社は、債権届出期間の満了後、裁判所が定める期間内に再生計画案を裁判所に提出します。
提出された再生計画案に対して一定の期間中内に異議なく可決されれば、裁判所によって再生計画が認可され、記載されている内容のとおり効力が発生します。
以上が民事再生における基本的な手続きの流れです。なお、再生計画認可までの期間としては、民事再生手続きの申立てからおおむね半年以内とされています。
民事再生の手続きには当然費用がかかります。
なお、民事再生の費用は、おもに裁判所に支払うための「予納金」、手続きをスムーズに進めてもらうための「弁護士費用」この2点です。
民事再生の申立てをする際、申立人は裁判所が定める一定の金額を支払う必要があり、裁判所に支払う費用のことを「予納金」といいます。
予納金は、監督委員や公認会計士の費用や報酬、公告や送達などに充てられる費用で、予納金額は下記のように負債総額に応じて基準額が設けられています。
なお、下記の予納金額は東京地方裁判所の場合です。予納金額の基準に関しては裁判所によって異なります。
負債総額 | 予納金額 |
5,000万円未満 | 200万円 |
5,000万円~1億円未満 | 300万円 |
1億円~5億円未満 | 400万円 |
5億円〜10億円未満 | 500万円 |
10億円〜50億円未満 | 600万円 |
50億円〜100億円未満 | 700万円 |
100億円〜250億円未満 | 900万円 |
250億円〜500億円未満 | 1,000万円 |
500億円〜1,000億円未満 | 1,200万円 |
1,000億円以上 | 1,300万円 |
このように、予納金は負債総額に応じて金額が変わります。また、子会社など関連会社がある場合は、1社につき50万円(規模によって増減あり)が上乗せされます。
なお、予納金は一括納付が基本とされていますが、申立て時に6割、残りの4割は開始決定後から2ヶ月以内に分納することも認められます。
そのほか、収入印紙代(10,000円)、切手代(3,880円)がかかります。
前述のとおり、民事再生の申立てを行う場合、申立代理人いわゆる弁護士に依頼して行うのが一般的です。
そのため、裁判所に納める予納金のほか、弁護士に支払う顧問料や着手金、成功報酬なども考慮しておく必要があります。
なお、弁護士費用に関しては弁護士ごとに基準が異なるほか、会社の事業状況や債権者数、資産内容、関連施設等々、内容や会社の現状などによって金額に開きがあるので一概には言えませんが、一般的なケースでいうと800万円~1,200万円程度が弁護士費用として必要です。
民事再生を行う場合は、裁判所に支払う費用、そして弁護士に支払う費用、それぞれ合わせて数百万円から数千万円程度はかかると考えておくべきでしょう。
民事再生は、経営難に陥った企業に対して債権者の同意を得て債務を大幅に減額しつつ、会社の再建を目的とした手続きで、経営権を維持したまま再建を目指すことができる。こうしたメリットが民事再生にはあります。
しかし、会社再建を行ううえでの綿密な計画を練ることが不可欠となるほか、それぞれの債権者から理解を得る必要もあります。
そのため、民事再生は決して簡単なものではなく、むしろハードルが高いものであると考えるべきです。
また、民事再生の手続きは非常に複雑なうえ、法律を含む専門的な知識が多く求められます。
手続きを行う際は弁護士をはじめ、公認会計士、税理士など専門家へ相談することが望ましいと考えます。
いずれにせよ、民事再生には多くの時間や労力、そして大きなプレッシャーをかかえながら段階的に進めていかなければならない。ということをしっかり念頭に入れておくべきです。
そのため、民事再生のメリットだけを見るのではなくデメリットもしっかりと理解し、そして、会社再建のために適切な対応を取るよう心掛けてください。
画像出典元:PhotoAC
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