従業員を雇用している企業が、毎月の給与支払いと合わせて知っておかなければならないのが「社会保険」に関する知識です。
従業員にとっては給与から天引きされ、企業側は従業員から預かった社会保険料を納付する義務があります。
社会保険料がいくらになるかを理解する事は、両者にとって非常に重要です。
そこで今回は、社会保険料の基本的な意味から社会保険の種類、計算方法や注意点などを網羅的に解説していきたいと思います。
社会保険の基本から復習したいという企業担当者の方も参考にしてみてください。
このページの目次
社会保険は、国が定めたセーフティネットのことです。
国が国民の生活を保障するために実施している公的な制度と言えます。
普段の生活でケガや病気になってしまい、収入を得られない状態になったり、社会復帰出来ない人が増えてしまうと、国は納税額の減少から財源を確保できなくなり、国民を守る事が出来なくなります。
社会保険がないと、国民にとっても支援や保障がないという状況に陥ってしまいます。
いつ・どこで・誰がどのような状況にあうかわからないため、みんなで助け合う「公助」の考え方をベースに作られたのが社会保険という制度です。
社会保険の支払額は「社会保険料」という形で、従業員の給与から天引きます。
従業員から徴収した社会保険料は事業者が会社へ納付します。
社会保険の種類 | 概要 | 会社と従業員の負担割合 |
健康保険 | 病気・ケガ・出産・死亡などに対する保険制度 | 折半 |
厚生年金保険 | 老後の生活保障や死亡などに対する保険制度 | 折半 |
介護保険 | 要介護・要支援認定など介護サービスを受けられる保険制度 | 折半 |
雇用保険 | 失業時の保障や再就職支援に対する保険制度 | 業種によって負担割合変動 |
労災保険 | 業務中に発生した労働者の病気やケガに対する保険制度 | 会社が全額負担 |
健康保険とは、病気やケガ、出産や死亡などの事態に備えるための公的な医療保険制度のことです。
病気やケガで想定外の医療費が発生したり、毎月の収入が途絶えてしまう可能性があります。
そういった事態に備えるため日頃から加入者が保険料を支払い、必要な時に必要な人が財源から給付を受けられる仕組みです。
健康保険料の負担割合は被保険者(従業員)と事業者(会社)で折半となります。
厚生年金保険とは、会社員や公務員が加入し、会社退職後の老後の生活や死亡などの事態に備えるための公的な保険制度のことです。
健康保険料と同じく、負担割合は被保険者(従業員)と事業者(会社)で折半です。
介護保険とは、介護が必要と認定された場合に必要な介護サービスを受けれるようにするための公的な保険制度のことを言います。
サラリーマンなどの会社員の場合、40歳以上になると被保険者として加入義務が生じ、保険料の負担が発生するようになります。
介護保険も先ほどの健康保険と同じく被保険者(従業員)と事業主(会社)で半分ずつ負担する折半で負担します。
実際に保険料を計算する場合には「標準月額」が記載されている保険料の表を用いていくことになりますが、健康保険と介護保険の合計額で記載されています。
この点については、後ほどの事例で詳しく紹介していきます。
雇用保険とは、労働者が失業した場合に給付を受ける「失業保険」や、再就職を目的とした支援を行うための公的な保険制度のことです。
雇用保険料を被保険者(従業員)側と事業者(会社)側の折半ではなく「業種の区分」によって負担率が変わります。
労災保険とは、労働者が業務中または通勤中に事故などにあった場合に備えるための公的な保険制度のことを言います。
労災保険の対象者は雇用形態関係なく、正社員だけでなく、アルバイトやパートなどの非正規雇用者も対象です。
労災保険の保険料は、事業者側が全額負担です。
報酬月額とは、基本給のほか、役付手当、通勤手当、残業手当など各種手当の1ケ月総支給額を言います。
臨時の支払いや3カ月を超える期間ごとに受ける賞与等は、報酬月額には含みません。
報酬月額は保険料額表で1等級から32等級までの32等級に分かれています。
報酬月額が該当する等級の金額のことを、標準報酬月額といいます。
社会保険料の基本的な算定方法は「標準報酬月額×保険料率」に基づいて計算されます。
賞与にかかる社会保険料の算出には「標準賞与額」を用います。
基準となる報酬には、具体的に以下の内容が含まれます。
全国健康保険協会(通称、協会けんぽ)の記載を引用してみます。
標準報酬の対象となる報酬は、基本給のほか、役付手当、勤務地手当、家族手当、通勤手当、住宅手当、残業手当等、労働の対償として事業所から現金又は現物で支給されるものを指します。なお、年4回以上の支給される賞与についても標準報酬月額の対象となる報酬に含まれます。
(協会けんぽページより引用)
対して、標準賞与額というのは、税引き前の賞与総額から千円未満を切り捨てた金額を意味します。
実際に社会保険料を求める場合には、都道府県ごとに公表されている保険料額表を用いて算出します。
令和2年9月以降の東京都を例とした保険料額表は以下のようなイメージになります。
上記は一部抜粋したものになりますが、赤枠部分の報酬月額に応じて、それより右側の健康保険や厚生年金の額を算出することになります。
表内にある「介護保険第2号被保険者」というのは、先ほども紹介した介護保険の加入対象者を意味します。
40歳未満の場合は「該当しない」を参照し、40歳以上65歳未満の場合は「該当する」の欄を参照することとなります。
雇用保険と労災保険については、労働者と事業者の負担関係が事業によって異なることから、別の料率表を確認して計算することとなります。
少し細かい話になりますが、社会保険料の計算結果に端数が生じることがあります。
端数の処理方法は、労働者側と事業者で以下のようになります。
ここからは、実際に事例をもとに社会保険料の計算方法を確認していきます。
まず、健康保険・厚生年金を保険料額表で確認していきます。
20代は介護保険加入の対象ではないため「介護保険第2号被保険者に該当しない」欄を参照する点に気を付けましょう。
健康保険料は総額29,610円で、従業員負担額はその半分の14,805円となっています。
厚生年金は、総額54,900円で、従業員負担額はその半分の27,450円となっています。
雇用保険は、リンク先に記載されている「令和2年度の雇⽤保険料率」表を確認していきます。
画像出典元:令和2年度の雇⽤保険料率について
飲食店は一般の事業に該当するため、雇用保険料率は0.9%(うち、労働者負担は0.3%)と確認出来ます。
300,000円に対して料率を乗じればいいので、総額の雇用保険料は2,700円となります。
うち、労働者負担分は900円、事業者負担分は1,800円となります。
労災保険についても、労災保険率表を確認していきます。
画像出典元:労災保険率表
労災保険は事業別に負担率が分類されているので、しっかりと確認するようにしましょう。
今回は飲食店を例にしているので、表から3/1000、つまり0.3%と確認することが出来ます。
300,000円に対して料率を乗じればいいので、総額の労災保険料は900円となります。
労災保険は、全額事業者側の負担となるので、労働者側の負担はなし(給与から天引きなし)です。
以上をまとめた結果が以下となります。
同様に次の事例を見ていきましょう。
今度は年齢が異なるだけですが、40代のため「介護保険」の加入対象となっている点に注意してください。
同じように、保険料額表を確認していきます。
健康保険料は総額34,980円で、従業員負担額はその半分の17,490円となっています。
厚生年金は、総額54,900円で、従業員負担額はその半分の27,450円となっています。
健康保険料には、介護保険分が上乗せされているため、先ほどに比べて金額が上昇しています。
介護保険料率は1.79%となるため、300,000円に乗じた5,370円だけ上昇している点を確認してみてください。
雇用保険と労災保険は事例1と同様なので省略します。
以上をまとめた結果が以下となります。
事例1では月額報酬の約14%が、事例2では約15%が社会保険料を占めることとなるため、会社にとっても従業員にとっても大きな割合を占めていると言えますね。
最初は表の見方に戸惑うかもしれませんが、さほど難しくはないので、是非ご自身でも確認するようにしてみてください。
最後に社会保険に関する注意点を2つ紹介しておきます。
1つ目は、社会保険に加入しない場合の罰則についてです。
これまで紹介してきた社会保険には「加入条件」があるので、条件を満たしている場合は社会保険に加入しなければなりません。
加入義務があるにもかかわらず、社会保険に加入していない場合には、過去2年に遡って未払いの社会保険料を納付する必要があります。
また、懲役刑や罰金なども課されることもあるので、従業員を雇用している企業は加入条件をしっかりと確認するようにしましょう。
2つ目は、雇用形態で社会保険料の計算方法は変わらないという点です。
社会保険料の計算方法については先ほど紹介してきましたが、社会保険への加入対象者であれば、正社員でも非正規雇用者でも同じ計算方法が適用されることになります。
非正規雇用だから社会保険料が安くなるわけではなく、基本的には標準報酬月額に従って決まるという計算構造は理解しておきましょう。
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画像出典元:Shutterstock、O-DAN
この記事を書いた人
TAK
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