職業能力評価基準とは、厚生労働省がインターネットで公開している公的基準です。
人事評価、人材育成、 キャリコンなど幅広い分野で活用されています。
各業界の標準的な項目が網羅されていますが、事前に自社仕様にカスタマイズすることが大切です。
当記事では、職業能力評価基準の導入手順からカスタマイズ方法まで解説します。
提供されているツール、職業能力評価シートやモデル評価シート、レベル区分についても紹介するので、ぜひ参考にしてくださいね。
このページの目次
職業能力評価基準とは、厚生労働省が作成した公的な評価基準です。
働く人が保有すべき「知識」「技術・技能」「成果につながる職務行動例」が業種や職種、職務ごとに整理されています。
人材の能力開発、キャリア育成、客観的な評価による組織づくりなど、さまざまな活用シーンを想定して2002年に公表されました。
職業能力評価基準が作成された目的の1つは、人材の流動化への対策です。
職業能力評価基準をつかって個々人の職務能力を第三者にわかりやすく伝えられれば、転職がスムーズに行えるだけでなく、適材適所で各々の実力を発揮できます。
56業種275職務の職業評価基準がすでに作成されていて、インターネット上で公開されているため誰でも利用可能です。
職業能力評価基準は、「職務遂行のための基準」と「レベル区分」の2つの軸に沿って設定された構成です。
職務遂行のための基準は、「職種」→「職務」→「能力ユニット」→「能力細目」という順番で細かく分類されています。
画像出典元:職業能力評価基準導入 マニュアル
仕事内容が似ている職務をまとめたもの。
例:「営業・マーケティング・広告」「人事・人材開発・労務管理」「生産管理」など
1人の従業員が行う活動を集めたもの。
例:「営業」「人事・人材開発」「生産管理プランニング」など
効果的・効率的に作業を行うための一般的な能力(共通能力ユニット)と、各職務特有の能力(選択能力ユニット)を活動単位で集めたもの。
例:「営業基礎」「人事企画」「生産システム」など
能力ユニットをさらに細かく分けた作業単位での能力要素のこと。
例:「担当業務に関する作業方法・作業手順の検討」「企画・計画」「実務の推進」など
能力細目ごとに「職務遂行のための基準」が設けられていて、行動例と同じ行動がとれれば「能力細目にあげた職務を確実に遂行できている」と評価する仕組みです。
例:営業基礎業務の推進に必要な営業知識やセールストーク、対人能力に関する基本的事項を理解している。
能力ユニットの作業を行うために必要な知識のこと。
例:営業技術(コミュニケーション能力、顧客訪問のステップなど)
もう1つの評価軸が、レベル1〜4までのレベル区分です。
レベルが上がるほど求められるスキルが高度になります。
画像出典元:職業能力評価基準導入 マニュアル
「職務遂行のための基準」と「レベル区分」は以下の図のような関係で、多層的にいろいろな面から個々人の能力を可視化できます。
画像出典元:職業能力評価基準導入 マニュアル
職業能力評価基準と連携している代表的なツールとして、「キャリアマップ」「職業能力評価シート」「モデル評価シート」「モデルカリキュラム」の4種類を紹介します。
それぞれに特性があるので、自社に合ったものを選びましょう。
「キャリアマップ」の特徴は、各職種ごとのキャリアの道筋、習熟にかかる年数、必要な経験や実績、資格・検定などが一覧表示されていること。
ひと目でおおよその流れがわかるため、目標を立てやすく、モチベーション維持にも役立ちます。
画像出典元:キャリアマップについて
「職業能力評価シート」は、職業能力評価基準で定められた「職務遂行のための基準」を簡略化したものです。
画像出典元:厚生労働省HP職業能力評価シートについて
自己評価と上司評価を記入でき、「その人がどのレベルにいるのか」「なにをすれば次のレベルに上がれるのか」がわかります。
「モデル評価シート」は、ジョブ・カード制度の普及・促進のためにつくられました。
画像出展元:厚生労働省HPモデル評価シート・モデルカリキュラム 一覧表
ジョブ・カード制度を利用して職業能力形成プログラムを実施する際に必要な評価シートとして役立ちます。
ジョブ・カード制度とは、キャリアアップや多様な人材の円滑な就職を促進するためにつくられた制度。
キャリア・プランニングや職業能力証明として活用できます。
厚生労働大臣の認定を受けた実習併用職業訓練は人材開発支援助成金の支給対象です。
「モデルカリキュラム」は、職業能力形成プログラムの雇用型訓練を行う企業のために作成されたものです。
画像出典元:厚生労働省HPモデル評価シート・モデルカリキュラム 一覧表
モデルカリキュラムは訓練実施計画を立てる際に活用でき、具体的な訓練内容やスキル習得時間の目安がわかります。
職業能力評価基準を導入すると、自社の評価基準を効率的に決められるのが最大のメリットです。
なにもない状態から作成した場合に比べると、時間も手間も節約でき、必要な評価項目が抜けてしまうミスも予防できるでしょう。
ほかにも利点があるので、詳しく説明します。
基準を定めれば、客観的な事実をもとに公正な人事評価ができます。
個人的な好みや価値観で人事評価を行うと従業員の不満につながりますが、評価軸が明確になっていれば間違った判断を防げるはずです。
人事制度を整えたり見直したい場合は、職業能力評価基準が役立つでしょう。
職業能力評価基準で従業員の現在の能力を可視化すると、必要な研修や指導がわかります。
闇雲に手探り状態で人材育成をした場合に比べると、格段に成功率が上がるでしょう。
従業員本人がキャリアプランを立てやすいのもメリットで、自発的に資格を取得したり経験を積めば自社の宝となる人材獲得につながります。
また、ジョブ・カード制度を利用する際は、評価シートの作成などいろいろな準備がありますが、モデル評価シートやモデルカリキュラムを使うと大変便利です。
新しい人材を採用する時は、自社に不足しているスキルや経験がある人を選ばないといけません。
そのためには、職業能力評価基準などを用いた「従業員1人1人の能力を把握する事前準備」が必要です。
前もって従業員の能力を見える化することで、採用基準が明確になり、採用ミスを予防できます。
次は職業能力評価基準の導入ステップを紹介します。
職業能力評価基準と連携しているツールはいろいろな種類があるので、自社の目的に合ったものを選ぶことが大切です。
導入前に、「人事評価のため」「人材育成のため」「採用活動のため」などの目的を明確にしましょう。
評価基準を決める際には、現場従業員の意見も取り入れないといけません。
実際に利用する人が使いにくさを感じる仕上がりだと、狙った効果がでないからです。
試作品をつくって従業員にテストしてもらい、感想を聞きましょう。
評価される側のヒアリングを行うことで、より公正な基準が作成でき、正当な評価を受けられる仕組みをつくれば、従業員の満足度が上がり働きやすさの向上につながります。
定期的に従業員の声を聞くと、スキルアップするために必要な項目が見つかりやすいのもメリットです。
職業能力評価基準は、標準的な企業で求められる項目が設定されているため、自社に必要ない項目もあります。
不必要な項目は削除して、自社独自の評価基準をくわえれば完成です。
カスタマイズの仕方については、次の章で詳しく説明します。
職業能力評価基準を自社に最適化するためには、3つのポイントがあります。
1つ目のポイントは、職務やユニットの範囲や分類数の調整です。
職業能力評価基準にAとBという職務があり、自社ではAとBを1人の担当者が行っている場合は、AとBを統合させましょう。
自社にAの職務があって、Bの職務がない場合は、Bを削除すればOKです。
Aの中でさらに細かく職務が分かれている場合は、A-1、A-2と分割しましょう。
2つ目のポイントは、レベル区分(スタッフ、スペシャリスト、マネージャーなど)の調整です。
企業によって役職や役割に差があるので、自社の業務実態に応じて「レベル設定」や「呼び名」を変えましょう。
たとえば、レベル1とレベル2を同じ人が担当している場合は、レベル2の該当部分をレベル1に付け加えると最適化できます。
職業評価基準には「マネージャー」と記されていても、自社では「部長」を用いてるなら「部長」に変更したほうが使いやすいです。
3つ目のポイントは、現場の意見を取り入れてみんなが使いやすい仕様にブラッシュアップすること。
人によって受け取る印象が変わる表現方法だと、評価結果にばらつきがでるので改善が必要です。
評価基準を読んだ人がイメージしやすいよう、できるだけ「具体的な表現」で「従業員がよくつかう言葉」に置き換えましょう。
【改善前】
取引先のキーパーソンとの間に人的ネットワークを構築できている
【改善後】
取引先の部門長に会議への参加をお願いして、新たな人脈づくりの場を提供できている
項目が多くて時間がかかりすぎる場合も、途中で集中力が途切れないよう量を調整したほうが正しく評価できます。
職業能力評価基準は、厚生労働省が作成した公の基準なので安心して利用できます。
人事評価の見直しや人材育成への対策など、いろいろな場面で役立つのも魅力です。
大切なポイントは、自社に最適化させてから利用すること。
紹介した3つのポイントに注視してカスタマイズしましょう。
画像出典元:O-DAN
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